きさらぎ駅

電車内の怪異

六

自分がよくわからない───────。





だけど一つわかるのは、あの男性がもう死んでいる死者だと言うこと。




影は消えゆく命。
死者でも古い魂、それはあぁなる。


男性は逃げられない。



生を求めても、此処にそれはない。



あなたにそれはない。



だからどんなに求めても電車に乗れるどころか駅内にも入れないだろう。
だから彼は、外側の電車の窓を叩くことしかできない。




私には聞こえる。
微かに…。




影は口々に言ってるじゃないか。





『お前は死んでる』と──。





どうして気付かなかったのだろう。


いつの間にか男性に移っていた視線。


それを匠に戻したら、匠と視線が絡まって直ぐに小さく心臓が跳ねた。



───────わかる。


怖いんだ。







………………………………私の事が。






匠の瞳が言っている、お前が怖いと。






「………どうしてわかる？」


「わからないよ！！」





わからない。
何がわからないのかもわからない。


だけど確かなことは、匠をこの駅で降ろしてはいけないこと。





それと……男性はもうすぐ然るべき対処をされる。




影の言うことも、男性は理解してない。




「わからないけど、わかるの！！
降りたりしないで、あの人は……死んでるから」

「…………………っ？！」





感情的になったってしょうがないのに。
怖いし、恐いし、訳わかんない事なのに私は此処を知ってるし。


それでも降りようとする匠を征するのが精一杯だった。


この後、ギクシャクしようが嫌われようが、この人を降ろしてはいけないとそう強く思ったのだ。





「……後で話してくれる？」

「うん。話すから」





言っといて思った。


何も自身でわからないのに、私は一体何を話すというのだろうと。


ただわかること。


私は此処を知っていて、”向こう”も私を呼んでる。








私は呼ばれてる。


この不思議な世界に。


世に言う異次元とやらに。


私は……………………ここを知ってる。