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電車内の怪異
五
しおりを挟む酷いとか冷酷とか…何とでも言ってくれ。
危険なこんな状況で、映画のヒロインのように直ぐに助けに行けるほど人はできてないんだから。
助けたいのは香織。
巻き込みたくないのは匠。
手のひらの大切な者を護るのに精一杯なんだから…………。
知らない男性を助けるなんて余裕……
私にはない。
車両を移って直ぐに、異変は目の当たりにできた。
「助けてくれ!!!助けてくれ、頼む!!!!」
男は此方に気付いて声を張り上げてくる。
その周りには黒い幾つもの影。
影がゆらゆらと幾つも存在し男を取り囲みぼそぼそと話してる。
手を伸ばせば男の腕は掴める。
だが男は出入り口方向にいるわけでなく、窓の方にいるのだ。
助けるなら腕を引っ張り上げるしかない。
悲願に近い表情を浮かべる男性の元に駆け寄る匠。
窓を開けようとするがガチッと鈍い音を立てただけで、窓は開かなかった。
「助けてくれ!!助けてくれ!!」
バンバンと窓を叩く男性。
焦る匠は辺りをキョロキョロ見渡した。
だが窓を叩き割れるほどの何かなど存在せず、意を決して扉から出ようとする匠を沙耶は急いで遮った。
扉を背に匠を見据える。
「沙耶、どけ!今なら助けられる」
「降りちゃ駄目!アナウンスも流れたでしょ?」
きつい言い方をしてるってわかってる。
「降りたら戻れない」
ビクッと匠の拳が動いた。
「降りないで………」
涙ぐみ始めた私を見据える匠。
車両内は静まりかえるけれど外は未だに男性と、そして影のぼそぼそとした声が耳に聞こえてくる。
だけど視線はまっすぐ匠に向けたまま、私はもう一度口を開いた。
「此処はやめて。降りたら乗れない!!!
此処は─────」
ハッとして口をつぐんだ。
私なんて言おうとした?
「此処は?何だよ」
「此処は…三途の川……」
「…………………」
「死者の街……だよ…」
何で私は知ってるのだろう。
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