きさらぎ駅

電車に乗って

四

「……電話してみて？もしかしたら通じるかも」


「っ、うん！！」




すぐさま携帯を操作して通話を試みる。





プルルルル────
プルルルル───…………





『…………………』





コールが止まり、流れる沈黙。


それに心臓が跳ねた。


匠に目で合図を送る。
香織が電話に出たと。




「香織！！香織、今どこ？無事？！！」




取り乱す私から、匠が携帯を取り上げた。
匠は冷静に携帯を耳あてる。





「香織ちゃん？俺、匠だけど────えっ？ごめん、なんて？」


『ザザッ……ザザザザッ…』





携帯からのノイズが大音量になって部屋にこだました。


耳にあてておけるような音量じゃない、ましてやそこまで大きな音はどんな設定をしても不可能だ。


反射的に耳から携帯を離した匠は、直ぐに通話を切ろうとした。




が、切れない。


焦っているせいで思いの外上手く操作できないでいたのかもしれない。


押しても押しても通話は切れない。
それどころか音量は更に増していく。


大音量のノイズに混じって部屋のスピーカーが音を立てる。


耳をつんざくような不快な音……。




「きゃあぁぁ！！」




驚いて悲鳴をあげれば、険しい顔をして匠が私を抱き寄せてくれた。


携帯からのノイズは未だ続いている。


頭がおかしくなりそう……。





流石に匠も携帯を放り投げてしまっている。




「……沙耶、平気？外に出るぞ」


「………………っ…」




上手く返事ができなくて、無言で何度も何度も頷いた。


匠に支えられながら部屋を出ようとし、扉の戸に手をかけた匠。


普段、すんなりと開く扉は開かなかった。


ガチャガチャと何度も上下させて扉を開けようとする匠。


狭い部屋に響き渡るノイズの音。
不快なメロディー……。








『─────おいで』


ゾクリと背筋が凍った。