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電車に乗って
ニ
しおりを挟む「沙耶、飲まないの?」
ん?っと顔を覗き込んでくる匠に、ハッとした。
やばい。
意識とばしてた。
なんか色々考えすぎたと、へにょりと笑って誤魔化した。
瞬時に口を付けてゴクゴクと喉を潤す。
それを苦笑いで見つめる匠と視線が絡まる。
「なぁ、着いたら何処かで時間潰そうと思うんだけど、駅の中で平気か?」
「……う~ん、会社の人に会わなきゃ問題ないかな」
休んだのに匠と一緒にいるのはおかしいから。
変装でもしてくれば良かったとトンチンカンな事を思う。
かなり発展してる駅だけあって、会社の人間の多くは駅を利用する。
会わないにこしたことはないのだ。
詳しく話すのは面倒だし、こんな変な現状を話したところで頭のおかしなやつだと思われるのが関の山。
サングラスでもかけたいところだけど、生憎携帯と財布しか持ってきてないし。
ポケットにはコンビニで購入したキシリトールガム。
………バック持ってくれば良かった。
今更後悔した。
「会わないように…ねぇ。カラオケで時間潰すか」
「うんうん、カラオケとかいいかも!」
漫喫でもカラオケでもこの際嬉しい。
どちらも大好きだ。
少しこんな張り詰めた雰囲気も変えたいし、気分を変えるにはもってこいだ。
会社近くの駅を降りて直ぐ目の前に位置するデカいビル。
カラオケはそのビルの三階に入っていて、香織とよく行く定番の店の一つだった。
賑やかなそこは香織の事がなければ確実に楽しんでいただろう。
なにせ匠とこの店に来るのは初めてだ。
こんな事がなければデートだと胸を張って言えた。
再び気分が沈みだした頃、匠の携帯が音を立てた。
慣れた手付きで携帯を操作して、スッと視線を向けてくる。
「………はすみさんがわかりやすいように携帯のアドレスを張り付けといたんだけど、悪戯だね。これ」
困ったように笑いながら、匠は携帯を差出してくる。
書き込んだのは2ちゃん…。
はすみさんが内容を書き込んだのはかなり前の話。
見る確率は本当に少ない。
「……本当だ。ばればれ」
私が我が儘を言わなければ匠は携帯アドレスを野蛮な場所に晒さなくても良かったはずだ。
「なんて顔してるの?」
クスクスと笑って、ポンポンと頭を撫でてくる。
「……何考えてるか当ててあげようか?」
「……っどうせ当てるんだからいい!!」
あわてて拒否った。
「沙耶」
「な…何……?!」
動揺する私を面白そうに見据えて、ゆっくり言う。
「アドレスは変えられるから沙耶は気にしないで?」
ほら。
こうして匠は私のことを何でも当ててくる。
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