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序章
十四
しおりを挟むトンネルがたいして長くなかったことに感謝したい。
……だがこの状況は如何なものか。
目の前のこの人は線路上で何をしてるのだろう。
「………こんばんは」
呑気にへらりと笑いながら挨拶してくるこの人が、こんな暗闇で何をしていたのかなんて私にはどうでも良かった。
まともな人だ。
そんな事を思ってしまった。
常識的だと……。
自分も線路上に立っているわけだから相手に不信感を抱くことはない。
この状況を不思議にも思わずに、私は泣きながらその人に泣きついた。
『トンネルを絶対にくぐっちゃ駄目だ。気をつけて…』
そんなダイアからのメールがあるにも関わらず……。
目を通さなかった自分を悔やみたいところだが、私はそのメールを見ることはなかった。
ピルルルルル─────
『もしもし香織!?あんた大丈夫?やっぱりきさらぎ駅が見つからなくて』
「うん、大丈夫…かな。きさらぎ駅で散々な目にあったから線路に逃げて走ってトンネル抜けたんだよ~!そうしたら親切な人がいてさ送ってくれるって言うから今送って貰ってるところ」
『……………は?!!』
素っ頓狂な声を上げる沙耶。
『はっ?ちょっと待ってよ、その人そんな場所で何してたの?!』
「知らないよ?でも良い人だよ、良かった~」
『嫌、それ大丈夫なの?』
「大丈夫って?」
チラリと車を運転してくれてる人物を見れば、相手はニコリと微笑んでくれる。
悪い人には見えないけどなぁ。
暗がりであの時は見えなかったけど若い男性。
歳は恐らく近いと思う…。
優しげな雰囲気で、おおらかさが伝わってくる。
『怪しいでしょ!!』
直ぐに降りて駅で待ちなさいと言う沙耶の言葉を、私は無視して大丈夫だと言い切った。
『はぁ───』
返ってきたのはため息。
『もう!!わかったよ、それよりそこの地名くらい教えてよね』
「地名?えっと────」
視線を彼の方に泳がせれば、彼はニコリと笑って一言。
「”やみ”だよ」
「へ?」
彼は相変わらずニコニコとしてる。
「此処はやみって言うんだ」
「やみ?」
呟いた私の声を拾ってか、沙耶の声が返ってきた。
『………やみ?』
それは問い。
だがそれに答えられることもなく、私は携帯を耳に押し当てたまま言葉を発することができなかった。
やみって………?
地名にしてはやはり聞いたことがない。
彼越しに外を見るが、外は深い暗闇。
「………………………」
押し黙る私を、やはり彼はニコニコと運転している合間に見据えてくる。
『香織大丈夫、香織!!?』
沙耶の言葉は痛いくらい聞こえているけど、私は言葉を発せられなかった。
じっとりと嫌な汗が頬を伝うのがわかった。
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