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君が倒れた時
一
しおりを挟む……変な時間に起きて月夜を眺めていたせいでまだ少し眠気が残る俺は思う。
テレビつまらねぇな……と。
毎日毎日、俺に何見せてんだよ。
やれ誰かが誰かを殺したとか、やれ政治家がどうのこうの。
朝から癒されたいなどと昔なら思わなかった事を思って、これはきっと平和な証だと微かに微笑んだ。
片割れが珈琲を入れてくれ、それをぼんやり視界の片隅にとらえながら俺はテレビを見据えていた。
「ジン、そんなに仏頂面でテレビ見るなら消したら?」
言いながらリモコンに手をかけて消される。
便利になったよな、外に出ずに情報を手に入れられる社会になろうとは……。
「リアを起こしてきて」
いつも早起きなリアが寝坊するのは珍しい。
席を立って言われた通りリビングを出て廊下に出た。
広い屋敷と庭を作ったのはリアが生前広い皇宮で暮らしていたからだ。帝国は滅び、今は存在しないとはいえかつての皇女をその辺のアパートやマンションの一室で暮らせとは言えない。
金ならたんまりあるし、この時代は使い所がたくさんあって何よりだ。
リアの為に用意された家。
リアの為に存在する家具達。
「リア、起きてるか?入るぞ?」
ノックをしても返事はなかった。
「リア?起きてるか?」
問うが返事は無い。
「………………開けるぞ」
カチャっとノブを回し扉を開けた途端、ドクンっと心臓が音をたてた。
ベッド脇に倒れている黒髪のウェーブが見えて、息をするのも忘れて手が震えた。
「リア!!!!!!!」
何があった?
「………………っおい!目を開けろ、リア!!」
震える声。
抱き寄せてその熱を確認するが、ヒヤッとしたリアの肌の冷たさを感じて更に心臓が跳ねた。
「リア、リア……おい、何があった?!」
ぺちぺちと頬を叩いてみても彼女は目を開けない。
……はっ、嘘だろ?
ガクガクと震える手でリアの手を握り締め、涙で視界が滲み始めた頃、片割れであるロアンが走ってやってきた。
「……っとりあえずベッドに寝かせて!!!」
言われるがまま、俺は片割れのロアンに従った。
フワッと軽いリア。
気をつけなければ見逃してしまう程の浅い呼吸を繰り返し、意識のないリアに為す術がなくて胸がギリギリと軋む音がした。
「ジン!!!!!しっかりしろ」
ロアンの声も震えているのがわかる。
当たり前だ……
リアの死は……俺達の絶望。
「僕は本家の医師を呼んでくる、リアを頼む」
ガシッと胸倉を捕まれ、ロアンと目が合った。
「……………………あぁ……」
ロアンの真っ赤な揺れる瞳。
涙で滲んだそれに拳を握りしめた。
想いは同じだ。
落ち着け……取り乱すな自分に言い聞かせ、ゆっくり息を吐いた……………………。
俺を掴む手を振り解き、ゆっくり口を開く。
「もう大丈夫だ……医師を頼む」
「…………すぐ戻る」
ロアンの姿がゆっくり目の前から消えてゆく。
霧のようにさぁっと居なくなり静かな部屋にリアの呼吸音が僅かに聞こえた。
生きてる……生きてくれてる。
それが唯一の救いだった。
リアの髪を撫でながら眉を寄せる。
……何が起こったんだ?
荒らされた痕跡は無い。
そもそも俺達を差し置いて屋敷に入るのは不可能だ。
外部からの攻撃じゃない。
かと言ってこの屋敷にはリアと俺達双子しかいない。
それに……
撫でながらソッと髪に口付けを落とす。
リアのこの症状には見覚えがある。
遥か昔、リアと出会った時もこんな感じだった。
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