勃たなくなったアルファと魔力相性が良いらしいが、その方が僕には都合がいい【オメガバース】

さか【傘路さか】

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 皿が並んだ食卓は文句なしに美味しく、レナードが途中から追加で作り足し始めるくらいお腹いっぱい食べた。いちど沈んでしまった空気は元通りで、料理に関して博識な人間へ直接ものを問えるのも、好奇心が満たされる。

 二人で食器を洗い終えると、珍しく膨らんだ腹をさすりながら大きな背もたれのあるソファに沈み込む。

「そうだ。帰るなら送っていくよ」

 拭き終えた調理器具を片付けているレナードが、そう声を掛けた。僕は返事に迷い、素直に口に出す。

「明日、も一緒に過ごせたら嬉しいか……?」

 萎んでいく声に反して、答えははっきりとしていた。

「勿論。どれだけ時間があっても足りないよ」

 用具が仕舞われる金属音がして、彼はぱたん、と扉を閉じた。凭れている生地の感触は、ただ、ふかふかとしている。

「じゃあ、明日までいる」

「本当!?」

 予想外の答えだったようで、彼の声は跳ねていた。風呂を沸かしてくれると言い、部屋を出て行くと包みを持って戻ってくる。

 とある店名が入った包みは、柔らかく僕の膝上に置かれた。

「着替え」

「……これ、新品だろ」

「オメガは、違う匂いが付いていたら嫌かなと思って」

 気遣いとはいえ買い物までするレナードに目を丸くしながら、包みを開ける。落ち着いた色味の寝間着が折り畳まれて入っていた。

 あとこれも、と別の紙袋を渡されると、そちらには一泊に必要な生活用品が入っている。

「忙しいかと思って、こっちで勝手に揃えたよ。泊まる機会が増えたら、ちゃんとしたものを買いに行こう」

「ありがとう。でも……」

 何故こんなに親切に、と問う前に気づいた。問いの答えは、既に貰っている。

「いや。気に入った、大事に使わせてもらう」

 レナードを手招きすると、彼は何も疑わずに近寄ってくる。腕を出すように伝え、その上に貰った寝間着を置いた。

「…………うん? 選んだときに展示品を触ったけど、いい生地だよね」

「ああ」

 不思議そうに返ってきた品を受け取り、抱きかかえる。ほんの少しだけ、彼のにおいがした。

 風呂が沸いたからと入浴を勧められ、交互に風呂に入った。水気を拭き取った髪を魔術で乾かしていると、面白そうにこちらを見つめてくる。短い彼の髪にも魔術で風を吹かせると、心地よさそうに目を閉じていた。

 一頻り騒いで普段より早い眠気にうとうとしていると、レナードが寝室に案内すると言う。開けられた部屋は基本的には落ち着いた配色ながら、大きな寝台の横には細々とした鮮やかな置物が並べられ、分かりやすい趣味は家主の持ち物に見えた。

 彼は換気のために開いていた窓を閉めると、僕の顔を覗き込む。

「匂いはあらかた消したと思うんだけど、ふだん俺が使っている部屋だから、残っていたらごめんね」

「ああ。気を遣ってくれてありがとう」

 だが、レナードがずっと僕が彼の匂いを避けたいと思っているかのように、気遣っているのが気になった。

 部屋を出て行こうとする服の裾を引いて、こちらを見る目と視線を合わせる。

「大したことではないが、僕はレナードの匂いが嫌いだと言っただろうか?」

「まだ知り合ったばかりだから、アルファの匂いは避けたいかと思ったんだけど……」

 くい、と裾を一度だけ引いて、離した。

「別に気にしない。だから、次からは気を遣わずに普通に私物を貸してくれ」

「分かった。じゃあ、俺は居間にいるから、困ったことがあったら声を掛けてね」

 部屋を出て行く背を見送って、寝台に倒れ込む。シーツも替えられていたのか、彼の匂いは僅かにしか残っていない。

 いちばん強く匂いのする毛布を引き寄せて、鼻先に当てた。

「嫌な匂いじゃない……のに」

 毛布に包まると、温かさも相俟って眠気がどっと襲ってくる。照明を消して、遠くで彼が動いている音を微睡みの中で聞いていた。

 発情期のオメガは、アルファの私物を身の回りに集めることがあるという。守られている安心感から行われるその行為を、昨日までの僕は文面でしか知らなかった。

 息を吸うと、アルファの匂いがする。

「……隣で寝たら、もっと…………」

 毛布を握り締めて寝る理由が分からないまま、僕は穏やかに眠りに落ちた。翌朝、あまりにも起きてこず、心配した家主に起こされたのは言うまでもない。




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