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背筋が寒くなり歩こうとしない俺に痺れを切らしたのか、しゃがみ込んだ上で身体ごと抱え上げられる。
「……ちょっと待て! もう少し話を……!」
「悪い。頭が働かない」
出来ているじゃないか、と暴れて男の背を叩くのだが、オルキスはしれっと声を無視した挙げ句、俺を寝台に放り投げる。
衝撃が過ぎた後で身を起こそうとするが、その時には太腿の上に大きな身体がのし掛かっていた。口を開こうと息を吸って、フェロモンの所為で脳が揺さぶられる。
先程よりも格段に濃いそれは、目の前の男が意図して操っているのだろうと容易に予想できた。
「はぁ……。疲れてるんだから、あんま動かさないで」
「おい。フェロモン、使った、な……」
むずむずと半身が痺れ、刺激を求めた身体が疼く。
「当然……、でしょ」
男は俺の服に手を掛けると、釦を千切らんばかりに雑に剥ぎ取ろうとする。彼の意識が服に向かっている間に、俺は光を放つ魔術を指先で綴ってこっそりと発動した。
オルキスは光には気づいたようだったが、それが何の効果も齎さないことに気づいたらしく、釦の外れた服を開く。高い鼻筋がそっと首筋に埋まった。
「あぁ……! やはり、いい匂いだ」
「ひっ……」
べろり、とオルキスの舌が首筋を舐めた。すり、と鼻先を擦り付けては、首筋にキスを落として自身のにおいを擦り付けていく。
大きな掌が腹に触れ、皮膚を伝って胸へと向かった。
「おい。ほんと、やめ……んう」
「やめてよ大声。しんど……」
声を上げていると、男の唇に塞がれた。喋り掛けていた口は開いており、易々と舌の侵入を許す。
「ん……ふ、ぁく……んっ、う…………」
ぬるりと忍び込んだ厚い舌が、唇の裏を舐める。歯を伝い、舌を絡め取られた。呼吸で精一杯の俺を翻弄するように、ぴちゃぴちゃと舐めては唇を重ねる。
指先は胸元を撫で、尖りを摘まみ上げた。捏ねては押し潰す動きを批難するように声を上げようとも、覆った唇に押し殺される。
「や、あふ、……ッぁ」
混ざった唾液すら飲み込まれ、唇が離れた隙にはくはくと呼吸をする。胸を離れた手は腹を伝って、下の服に手を掛けた。
「待て……!」
オルキスも犬ではない。力いっぱい服が引き下ろされ、下着ごと剥ぎ取られた。足の先に絡んだ服を好都合とばかりに放置し、脚を持ち上げる。
秘部を晒すような格好になった俺が脚をばたつかせるも、上手いこと男に丸め込まれる。男は俺の股の間をじっくりと眺め、その唇は弧を描いた。
ぽすん、とおもむろに俺の脚を解放したオルキスに、きょとんと寝台に手を突いたまま惚ける。諦めてくれたのだろうか、と彼を見つめたまま動かない俺を尻目に、オルキスは寝台を降りると、近くに放り投げられていた鞄らしき山に手を突っ込む。
はっと我に返った俺が寝台を降りようとすると、早足で戻ってきた脚にまた太腿を踏まれる。
「……抱かせてくれる、……筈だよね?」
「承諾した覚えはないが」
ふ、とオルキスは笑って、手に持った瓶の蓋をシーツの上に落とした。瓶の中身で掌を濡らすと、素早い動作で脚を左右に開く。
閉じようと脚を動かすが、隙があったのか身体を割り入れられてしまった。伸びた指先が、尻の表面を撫でる。
「ひっ…………!」
ぬるりとした指が表面を撫でただけで怖気が走った。逃れようと脚を動かす獲物を押さえ込み、彼は手の甲を俺の喉に押し付ける。
「可哀想だとは思うけど、大人しくして」
声の圧に恐ろしくなった訳ではないのに、俺の身体はぴたりと動きを止めた。目の前にいるアルファが絶対で、その王者に逆らうことを身体が知らないようですらあった。
目の前の男は満足げに喉を鳴らすと、開いたままの脚の間に指を伸ばす。アルファと繋がる時に使うであろう腔に、溝を伝った指が辿り着いた。
「────っ!」
衝撃に喉がひくんと反応し、脚がびくりと揺れた。指先は襞を掻き分けるように動きながら、細径を辿っていく。身体の中に他人の指が侵りこむ感覚は、僅かな快楽と共に恐怖を染みわたらせていった。
そうされて尚、俺は抵抗する動きを取れなくなっている。あの声にアルファ特有の何かが込められていたのだろうが、分からずに混乱したまま身体を拓かれた。
「……ぁあっ!」
指先が、その場所を見つけ出した。
ゆったりと撫でられる度に、未知の快楽が与えられる。いっそう裏返った声は、その場所を弄られることを強請るような響きを纏っていた。
フェロモンは逃がさぬようあたりに檻のように広がっており、息を吸う度に体温を上げていく。酒酔いのように頭はぐらぐらと痺れ、気持ちよさだけを追うことしか出来なくなっていった。
「……ひ、ぁう。ン、っあ……ぁあ」
くち、と秘処から濡れた音が立つ。目の前のアルファと繋がるために拡げられていると理解しても、躰は快楽ばかりを拾いたがる。オルキスの腕が支えずとも脚を広げ、腰は浮かんばかりに揺れていた。
目の前のアルファは愉しそうだ。
少し伸びた黒髪は首筋に張り付き、自らも荒い息を漏らしながら俺を翻弄する。美麗な顔立ちと目が合えば、どくりと胸は慣れない跳ね方をした。
「僕の番。……君の髪は柔らかくて気持ちがいい、肌は艶やかでずっと触っていたい。すこし吊り目がちなのかな、蕩けているのがよく分かる」
「……初めましての相手、にする、ことかよ。…………うア、……んっ、ぁく……ぁ」
「だって……、はは。仲を深めたくとも、治まらないんだもの」
ここが、と脚に擦り付けられた彼の半身は、もう膨れて勃ちあがっていた。下着を身に付けていないのか、かたい感触が近く、布の表面に染みを作っていた。
擦り付けられる表面は、やや冷たく濡れそぼっている。
「もう、ね。……扱くだけだから粘膜が痛くて。こんな柔らかいとこ突っ込めるなんて夢みたいだ……」
「……いっ、……ぁ、だから、……ぁあ、っ。突っ込む、の、ゆるして……な、ァ」
ふぅん、と呟いた彼の指先が、径の奥でくっと曲がる。その度に腹の奥からにぶくて重い快楽が届き、触れられていないはずの前はとろとろと雫を零し始めていた。
太く感じていたはずの指も体内を踏みしめられているうちに慣れ、また新しい快楽を求めるように食い締める。
目の前にある銀朱色の瞳が細められた。少し暗い部屋の中では、濡れて照明を反射するその色が炎の揺らめきにも思える。
「許しは得ているよ。発情期だと知って……いて、君がここに来た。今の言葉は……、褥の中での駆け引きだ」
怯えてずりあがった躰を、脚を引いて元の位置に戻される。近くにある瞳の奥、揺れる炎の中心は、ぎらぎらと巻き込まんばかりに熱をもっていた。
彼の手が脚から離れ、自身の下の服にかかる。引き下ろした服の先から、ぼろりと勃ちあがって湯気を立てんばかりの熱棒がこぼれ落ちた。
太く赤黒いそれが表面を濡らし、突き入る隙を窺っている。別の生き物のようにさえ思える雄が、自身の身体に入ってくることに怯えた。
脚が逃れたのをいいことに躰を反転させ、逃げようとシーツの波を掻く。けれど、いちど圧を与えられた身体の動きは鈍く、あっさりと足首を掴んで引き戻された。
「あ…………」
「大丈夫、……ッ、ちゃんと呑み込める。きっと気持ちがいいよ」
尻たぶに膨らんだものが押し当てられ、ぬるついた表面で皮膚を辿られる。直ぐに窪みは探り当てられ、肉縁に先端が引っ掛かった。
腰に手が掛かり、強く背後に引かれる。ぬぷ、と引っ掛かっていた先端が輪を潜った。
「────……ァ、ぁあああっ!」
耳の横で、ごくんと喉が動いた。
みちみちと縁を拡げ、巨大なそれが身体を割り拓いていく。見知らぬ質量を味わわされる内壁がうねり、みしりと重い楔に纏わり付いた。
力の加減が分からずに、食い縛っては身を捩る。
「……い、ッあ。……うそ、はいっ、て……や」
爪の先をシーツに埋め込んでも、滑らかな表面に滑るばかりだ。ずりずりと這ったとしても、がしりと掴まれた腰は相手との距離を縮める方向にしか動かない。
寝台の上での抵抗を窘めるように、背にオルキスの額が押し付けられた。皮膚にぼたぼたと彼の汗が垂れる。
「まだ……っ、入るよ。受け入れてね」
「こ……ンの。……ぁ、っひ。……あっく、ふ、ぁ」
ぐりり、と指で教えられた弱点を捏ねられる。上方から体重を使って押し付けられるそれは、指先よりも更に重い刺激を与えてきた。腹の底からずぐずぐと這い上がるような知らない感覚に、戸惑った脳を麻痺させる。
動きによる水音が強くなった。もう身体の中では彼の半身がだらだらと涎を零し、薄い子種は流れ込んでしまっているだろう。
魔術で鍵を掛けていなければ、番になる前に子を宿してしまうところだった。
「…………あれ? なん、か。遮られてる……?」
こつん、と剛直の先端が魔術による壁を捉えた。こつ、こつ、と叩くそれの感触を味わい、あぁ、とオルキスは声を漏らした。
「子種が胎に届かなくする、魔術か」
「あんま、……っ、触るな。俺との間に子どもができた、ら。あんただって困る────ッ!」
引いた腰が、その壁に叩き付けられる。
魔術による壁がそれを押し返すのだが、軌道がぶれた肉棒は周囲の弱い場所を巻き込んで苛む。背後では隠しもしない舌打ちが漏れた。
広がった掌が腰に押し当てられる。
「これ、外して? 精を染み込ませない、と……番になれない」
「だから……! 外したら……。ぁ、っあ……────え?」
胎の外に仕込んでいた魔術が、何かの魔力干渉を受けてびくんと動く。腰に当てられた指先が熱い。そこから魔力を流し込まれていることを、教えられずとも察した。
魔術の素養はないはずの彼が、完成した魔術を解こうと魔力を動かしている。素人がやること、と一笑に付すことはできなかった。
魔力の相性の良さを使って、俺の魔力を動かして魔術を解除させようとしてくる。
「おい……。っァ、う、っそだろ……」
防ごうと繋がった魔力を手繰っている刹那、相手の魔力の齟齬が分かった。たったの一箇所、彼の魔力波の繰り返しの中で決定的に狂っている部分がある。体内から魔力を過剰に生成させ、暴走状態になっていることが見て取れた。
夢中になって魔力を追ってしまった、のがいけなかった。かちり、と歯車を正せたと思った瞬間、同時に胎への魔術が解かれたのが分かる。
「────あ、はは……。外れた」
嬉しそうな声が上がった瞬間、ずりり、と男根が許していなかった場所へと滑り込む。腰がぴたりとくっつき、尻の表面を茂りが柔らかく掻いた。
「あ────。う、あ、……ひ。とどい、ちゃ……!」
腹に手を回し、抱き込んで奥だけで揺らされた。重たい刺激が神経に直接触れるように、鋭い快楽を断続的に与えられる。
長いものは抜かれず、漏れている液を染み込ませるように奥に居座ったままだ。
「ぁ、発情期、明け……ッ、て、こま、るのは……っく、ぁ、お前だぞ──!」
「ふ、っく……。僕は、困らない──よ!」
無防備に晒された首筋に、オルキスの牙が当たった。ぞくぞくと恐怖心は湧いているのだろうが、跳ねる心臓は好奇心と混ざって変に昂ぶってしまっている。
学舎を出て、田舎で暮らしている間は、好奇心を満たす手段は魔術だけだった。人との付き合いが、刺激になることなんてあるはずもなかった。
それなのに俺は、さっき出会った相手と繋がって、男の胤を宿すのを許そうとしている。大きすぎる賭けに違いないのに、もう賭け金は置いた後だ。
「……ン、ぁ、噛んだ、──ァら、責任、とれ……ぁ、あぁ、く」
「うん。そうしよう、ね。────僕の番」
開いた口が首筋を舐め、整った歯が皮膚に食い込んだ。首筋を捉えて、大振りに引いた腰が奥深くまで一気に突き入れられる。
「────ひっ、ぁあぁ、……ぁあああああぁあ!」
どくり、と膨れたものが細い筒を押し拡げて暴発する。く、と唇を噛んで、流れ込んでくる子種を胎で受け止めた。いちばん濃い魔力の流れが、びりびりと神経を焼き切っていく。
熱いのか、心地いいのか、感覚をすべて押し流すように熱を含まされた。尿道に残った残滓まで押し出すように腰を押し付けて、息をしている間、無言で抱き合っていた。
「……ふしぎ。まだ、発情期は終わってない……のに、頭が晴れてきた」
「そりゃ……よかった……、な。……っァ!?」
びくり、と腹の中の雄がまた硬さを持ち始め、謝るように頬にキスが落ちる。他のオメガなら絆されたのだろうが、俺は肘を振り上げて男の腹に当てた。
ぐっと呻くも、強く絡んだ腕は解けることはない。
「はなれ……ろ、こンの……! ぁあ、ん……ァあ、あ」
身体で押さえつけるよりも快楽に引き摺り込んだほうが早い、と判断したらしいアルファは腰を動かし始めた。悪夢の方がまだましだ、悪態をつきながら寝台に押さえ込まれる。
結局、寝台を出たのが何日後だったのか、俺には知る由もない。
「……ちょっと待て! もう少し話を……!」
「悪い。頭が働かない」
出来ているじゃないか、と暴れて男の背を叩くのだが、オルキスはしれっと声を無視した挙げ句、俺を寝台に放り投げる。
衝撃が過ぎた後で身を起こそうとするが、その時には太腿の上に大きな身体がのし掛かっていた。口を開こうと息を吸って、フェロモンの所為で脳が揺さぶられる。
先程よりも格段に濃いそれは、目の前の男が意図して操っているのだろうと容易に予想できた。
「はぁ……。疲れてるんだから、あんま動かさないで」
「おい。フェロモン、使った、な……」
むずむずと半身が痺れ、刺激を求めた身体が疼く。
「当然……、でしょ」
男は俺の服に手を掛けると、釦を千切らんばかりに雑に剥ぎ取ろうとする。彼の意識が服に向かっている間に、俺は光を放つ魔術を指先で綴ってこっそりと発動した。
オルキスは光には気づいたようだったが、それが何の効果も齎さないことに気づいたらしく、釦の外れた服を開く。高い鼻筋がそっと首筋に埋まった。
「あぁ……! やはり、いい匂いだ」
「ひっ……」
べろり、とオルキスの舌が首筋を舐めた。すり、と鼻先を擦り付けては、首筋にキスを落として自身のにおいを擦り付けていく。
大きな掌が腹に触れ、皮膚を伝って胸へと向かった。
「おい。ほんと、やめ……んう」
「やめてよ大声。しんど……」
声を上げていると、男の唇に塞がれた。喋り掛けていた口は開いており、易々と舌の侵入を許す。
「ん……ふ、ぁく……んっ、う…………」
ぬるりと忍び込んだ厚い舌が、唇の裏を舐める。歯を伝い、舌を絡め取られた。呼吸で精一杯の俺を翻弄するように、ぴちゃぴちゃと舐めては唇を重ねる。
指先は胸元を撫で、尖りを摘まみ上げた。捏ねては押し潰す動きを批難するように声を上げようとも、覆った唇に押し殺される。
「や、あふ、……ッぁ」
混ざった唾液すら飲み込まれ、唇が離れた隙にはくはくと呼吸をする。胸を離れた手は腹を伝って、下の服に手を掛けた。
「待て……!」
オルキスも犬ではない。力いっぱい服が引き下ろされ、下着ごと剥ぎ取られた。足の先に絡んだ服を好都合とばかりに放置し、脚を持ち上げる。
秘部を晒すような格好になった俺が脚をばたつかせるも、上手いこと男に丸め込まれる。男は俺の股の間をじっくりと眺め、その唇は弧を描いた。
ぽすん、とおもむろに俺の脚を解放したオルキスに、きょとんと寝台に手を突いたまま惚ける。諦めてくれたのだろうか、と彼を見つめたまま動かない俺を尻目に、オルキスは寝台を降りると、近くに放り投げられていた鞄らしき山に手を突っ込む。
はっと我に返った俺が寝台を降りようとすると、早足で戻ってきた脚にまた太腿を踏まれる。
「……抱かせてくれる、……筈だよね?」
「承諾した覚えはないが」
ふ、とオルキスは笑って、手に持った瓶の蓋をシーツの上に落とした。瓶の中身で掌を濡らすと、素早い動作で脚を左右に開く。
閉じようと脚を動かすが、隙があったのか身体を割り入れられてしまった。伸びた指先が、尻の表面を撫でる。
「ひっ…………!」
ぬるりとした指が表面を撫でただけで怖気が走った。逃れようと脚を動かす獲物を押さえ込み、彼は手の甲を俺の喉に押し付ける。
「可哀想だとは思うけど、大人しくして」
声の圧に恐ろしくなった訳ではないのに、俺の身体はぴたりと動きを止めた。目の前にいるアルファが絶対で、その王者に逆らうことを身体が知らないようですらあった。
目の前の男は満足げに喉を鳴らすと、開いたままの脚の間に指を伸ばす。アルファと繋がる時に使うであろう腔に、溝を伝った指が辿り着いた。
「────っ!」
衝撃に喉がひくんと反応し、脚がびくりと揺れた。指先は襞を掻き分けるように動きながら、細径を辿っていく。身体の中に他人の指が侵りこむ感覚は、僅かな快楽と共に恐怖を染みわたらせていった。
そうされて尚、俺は抵抗する動きを取れなくなっている。あの声にアルファ特有の何かが込められていたのだろうが、分からずに混乱したまま身体を拓かれた。
「……ぁあっ!」
指先が、その場所を見つけ出した。
ゆったりと撫でられる度に、未知の快楽が与えられる。いっそう裏返った声は、その場所を弄られることを強請るような響きを纏っていた。
フェロモンは逃がさぬようあたりに檻のように広がっており、息を吸う度に体温を上げていく。酒酔いのように頭はぐらぐらと痺れ、気持ちよさだけを追うことしか出来なくなっていった。
「……ひ、ぁう。ン、っあ……ぁあ」
くち、と秘処から濡れた音が立つ。目の前のアルファと繋がるために拡げられていると理解しても、躰は快楽ばかりを拾いたがる。オルキスの腕が支えずとも脚を広げ、腰は浮かんばかりに揺れていた。
目の前のアルファは愉しそうだ。
少し伸びた黒髪は首筋に張り付き、自らも荒い息を漏らしながら俺を翻弄する。美麗な顔立ちと目が合えば、どくりと胸は慣れない跳ね方をした。
「僕の番。……君の髪は柔らかくて気持ちがいい、肌は艶やかでずっと触っていたい。すこし吊り目がちなのかな、蕩けているのがよく分かる」
「……初めましての相手、にする、ことかよ。…………うア、……んっ、ぁく……ぁ」
「だって……、はは。仲を深めたくとも、治まらないんだもの」
ここが、と脚に擦り付けられた彼の半身は、もう膨れて勃ちあがっていた。下着を身に付けていないのか、かたい感触が近く、布の表面に染みを作っていた。
擦り付けられる表面は、やや冷たく濡れそぼっている。
「もう、ね。……扱くだけだから粘膜が痛くて。こんな柔らかいとこ突っ込めるなんて夢みたいだ……」
「……いっ、……ぁ、だから、……ぁあ、っ。突っ込む、の、ゆるして……な、ァ」
ふぅん、と呟いた彼の指先が、径の奥でくっと曲がる。その度に腹の奥からにぶくて重い快楽が届き、触れられていないはずの前はとろとろと雫を零し始めていた。
太く感じていたはずの指も体内を踏みしめられているうちに慣れ、また新しい快楽を求めるように食い締める。
目の前にある銀朱色の瞳が細められた。少し暗い部屋の中では、濡れて照明を反射するその色が炎の揺らめきにも思える。
「許しは得ているよ。発情期だと知って……いて、君がここに来た。今の言葉は……、褥の中での駆け引きだ」
怯えてずりあがった躰を、脚を引いて元の位置に戻される。近くにある瞳の奥、揺れる炎の中心は、ぎらぎらと巻き込まんばかりに熱をもっていた。
彼の手が脚から離れ、自身の下の服にかかる。引き下ろした服の先から、ぼろりと勃ちあがって湯気を立てんばかりの熱棒がこぼれ落ちた。
太く赤黒いそれが表面を濡らし、突き入る隙を窺っている。別の生き物のようにさえ思える雄が、自身の身体に入ってくることに怯えた。
脚が逃れたのをいいことに躰を反転させ、逃げようとシーツの波を掻く。けれど、いちど圧を与えられた身体の動きは鈍く、あっさりと足首を掴んで引き戻された。
「あ…………」
「大丈夫、……ッ、ちゃんと呑み込める。きっと気持ちがいいよ」
尻たぶに膨らんだものが押し当てられ、ぬるついた表面で皮膚を辿られる。直ぐに窪みは探り当てられ、肉縁に先端が引っ掛かった。
腰に手が掛かり、強く背後に引かれる。ぬぷ、と引っ掛かっていた先端が輪を潜った。
「────……ァ、ぁあああっ!」
耳の横で、ごくんと喉が動いた。
みちみちと縁を拡げ、巨大なそれが身体を割り拓いていく。見知らぬ質量を味わわされる内壁がうねり、みしりと重い楔に纏わり付いた。
力の加減が分からずに、食い縛っては身を捩る。
「……い、ッあ。……うそ、はいっ、て……や」
爪の先をシーツに埋め込んでも、滑らかな表面に滑るばかりだ。ずりずりと這ったとしても、がしりと掴まれた腰は相手との距離を縮める方向にしか動かない。
寝台の上での抵抗を窘めるように、背にオルキスの額が押し付けられた。皮膚にぼたぼたと彼の汗が垂れる。
「まだ……っ、入るよ。受け入れてね」
「こ……ンの。……ぁ、っひ。……あっく、ふ、ぁ」
ぐりり、と指で教えられた弱点を捏ねられる。上方から体重を使って押し付けられるそれは、指先よりも更に重い刺激を与えてきた。腹の底からずぐずぐと這い上がるような知らない感覚に、戸惑った脳を麻痺させる。
動きによる水音が強くなった。もう身体の中では彼の半身がだらだらと涎を零し、薄い子種は流れ込んでしまっているだろう。
魔術で鍵を掛けていなければ、番になる前に子を宿してしまうところだった。
「…………あれ? なん、か。遮られてる……?」
こつん、と剛直の先端が魔術による壁を捉えた。こつ、こつ、と叩くそれの感触を味わい、あぁ、とオルキスは声を漏らした。
「子種が胎に届かなくする、魔術か」
「あんま、……っ、触るな。俺との間に子どもができた、ら。あんただって困る────ッ!」
引いた腰が、その壁に叩き付けられる。
魔術による壁がそれを押し返すのだが、軌道がぶれた肉棒は周囲の弱い場所を巻き込んで苛む。背後では隠しもしない舌打ちが漏れた。
広がった掌が腰に押し当てられる。
「これ、外して? 精を染み込ませない、と……番になれない」
「だから……! 外したら……。ぁ、っあ……────え?」
胎の外に仕込んでいた魔術が、何かの魔力干渉を受けてびくんと動く。腰に当てられた指先が熱い。そこから魔力を流し込まれていることを、教えられずとも察した。
魔術の素養はないはずの彼が、完成した魔術を解こうと魔力を動かしている。素人がやること、と一笑に付すことはできなかった。
魔力の相性の良さを使って、俺の魔力を動かして魔術を解除させようとしてくる。
「おい……。っァ、う、っそだろ……」
防ごうと繋がった魔力を手繰っている刹那、相手の魔力の齟齬が分かった。たったの一箇所、彼の魔力波の繰り返しの中で決定的に狂っている部分がある。体内から魔力を過剰に生成させ、暴走状態になっていることが見て取れた。
夢中になって魔力を追ってしまった、のがいけなかった。かちり、と歯車を正せたと思った瞬間、同時に胎への魔術が解かれたのが分かる。
「────あ、はは……。外れた」
嬉しそうな声が上がった瞬間、ずりり、と男根が許していなかった場所へと滑り込む。腰がぴたりとくっつき、尻の表面を茂りが柔らかく掻いた。
「あ────。う、あ、……ひ。とどい、ちゃ……!」
腹に手を回し、抱き込んで奥だけで揺らされた。重たい刺激が神経に直接触れるように、鋭い快楽を断続的に与えられる。
長いものは抜かれず、漏れている液を染み込ませるように奥に居座ったままだ。
「ぁ、発情期、明け……ッ、て、こま、るのは……っく、ぁ、お前だぞ──!」
「ふ、っく……。僕は、困らない──よ!」
無防備に晒された首筋に、オルキスの牙が当たった。ぞくぞくと恐怖心は湧いているのだろうが、跳ねる心臓は好奇心と混ざって変に昂ぶってしまっている。
学舎を出て、田舎で暮らしている間は、好奇心を満たす手段は魔術だけだった。人との付き合いが、刺激になることなんてあるはずもなかった。
それなのに俺は、さっき出会った相手と繋がって、男の胤を宿すのを許そうとしている。大きすぎる賭けに違いないのに、もう賭け金は置いた後だ。
「……ン、ぁ、噛んだ、──ァら、責任、とれ……ぁ、あぁ、く」
「うん。そうしよう、ね。────僕の番」
開いた口が首筋を舐め、整った歯が皮膚に食い込んだ。首筋を捉えて、大振りに引いた腰が奥深くまで一気に突き入れられる。
「────ひっ、ぁあぁ、……ぁあああああぁあ!」
どくり、と膨れたものが細い筒を押し拡げて暴発する。く、と唇を噛んで、流れ込んでくる子種を胎で受け止めた。いちばん濃い魔力の流れが、びりびりと神経を焼き切っていく。
熱いのか、心地いいのか、感覚をすべて押し流すように熱を含まされた。尿道に残った残滓まで押し出すように腰を押し付けて、息をしている間、無言で抱き合っていた。
「……ふしぎ。まだ、発情期は終わってない……のに、頭が晴れてきた」
「そりゃ……よかった……、な。……っァ!?」
びくり、と腹の中の雄がまた硬さを持ち始め、謝るように頬にキスが落ちる。他のオメガなら絆されたのだろうが、俺は肘を振り上げて男の腹に当てた。
ぐっと呻くも、強く絡んだ腕は解けることはない。
「はなれ……ろ、こンの……! ぁあ、ん……ァあ、あ」
身体で押さえつけるよりも快楽に引き摺り込んだほうが早い、と判断したらしいアルファは腰を動かし始めた。悪夢の方がまだましだ、悪態をつきながら寝台に押さえ込まれる。
結局、寝台を出たのが何日後だったのか、俺には知る由もない。
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五十嵐新は、幼い頃にある一人のアルファが一人のオメガを探して旅に出る小説を読んだ。
この世にはアルファと運命で繋がっているオメガが必ず存在するらしい。日本にいるかもしれないし、地球の裏側にいるかもしれない。世界のどこかに存在している運命のオメガと生きている間に出会えることは奇跡らしく、ほとんどが運命の番と巡り合うことなく生涯を終える。
小説の主人公であるアルファは何年も世界中を探し回った。雨の日も雪の日も日光が照りつける暑い日も1日も休まず探し続けた。世界各地に散らばるヒントを手がかりに運命のオメガと巡り会えたという物語である。
新は幼いながらこの物語を読み思った。
運命のオメガと巡り合いたい、と。
数年の月日をかけて探し、やっと巡り会えた運命のオメガの第一印象は最悪だった。
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