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エピローグ

E44 私、家族になります

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 七月十六日の月曜日、よく晴れた海の日、黒樹家はドライブをし、九十九里浜くじゅうくりはまへ来ていた。

 最南端の岬町みさきまち太東海水浴場たいとうかいすいよくじょうだ。
 後ろを美しい山の緑に囲まれて、海の青や砂浜とのコントラストが素晴らしい。
 ここから、ずっと左へ左へと九十九里浜が続いており、入道雲が見下ろすのは絶景だ。
 遠く浅い海。
 波は凪いでいる。

 蓮花は真っ黒なホルターネックで首とバストの裏をひもで結ぶ絶対ワンピース、和は青の地に貝殻模様の海パン、劉樹は猫のコミカルなイラスト入りの海パン、虹花が虹色ストライプのフリルつきビキニで、澄花はレモン色に小花が散らばるバストにフリルのあるワンピースだ。
 おっさんのだが、黒樹は、ご多分にもれず黒い海パンだ。
 ひなぎくの着替えを待っている。

「ジャジャーンだわ。初挑戦なの」

 すらっとした美脚から、上に視線で追って行くと、Eカップをふるふるとして包み込む白のビキニがたまらず、黒樹は、鼻血が出た。

「あなた……。どうしたの?」

 鼻血をティッシュで拭いてやると、黒樹は、卒倒した。
 念願のひなぎくのビキニを拝めたのに。

「ど、毒だ。毒だった……。天国へ逝きそう」

「だめん」


 五人の子ども達が海に入ると、パラソルの下で、二人はくつろいだ。
 黒樹は運転手なもので、コカ・コーラでカンパーイなどとやってしのいでいる。
 どこからも、きゃーきゃーした声が聞こえるが、うちの子ども達を探すのは容易だ。
 特別な存在なのだ。

「あなたは、海に入らないの?」

「新婚旅行は、まったりしたいんだぷん」

 黒樹だって、ひなぎくを独占したい。

「そ、それもそうね。棒倒しでもします?」

 OK、OKと二十三回やって、全部黒樹が負けた。
 大笑いして、涙まで出る。
 

「よし、ラーメン食べたら、太東埼灯台たいとうさきとうだいへ登ってみるか。車で移動だ」

 家族サービスって可笑しな言葉だよな。
 俺が、サービスされている気分だ。
 サービスされ家族とかってか。
 
「灯台! これが本物なの? パーパー、ママン」

「うふふ。一つ、楽しい想い出ができますよ」

 ひなぎくは、しゃがんで虹花を優しく撫でた。

「うおー! 凄いっすねー」

 和は、開放的になり、劉樹は海のペンギンを見つけた。

「ねえ、お父さん。波の向こうにいるのは、サーファーなの? 遠くから見るとペンギンちゃんみたい」

「可愛いねー」

 劉樹も澄花もペンギンが好きだ。

「パンダもペンギンも白黒だから、可愛いよねー」

 劉樹も虹花も澄花も大好きなようだ。

「だから、自宅のお風呂場でも、仕事先のロッカーにもパンダもどきか」

 黒樹は笑いながら不満を言える器用な人だとひなぎくは思った。

「そうね。くすくす。暗くならない内に、帰りましょうか」

 今日は、外出をするのでひなぎくの病状も心配だったが、思ったよりも落ち着いているようだ。
 黒樹がノアの中で自然体でいるひなぎくに安堵した。



「ふう、自宅はやはりいいものだ。自室だと尚な」

 ひなぎくは、白咲家から結婚祝いにいただいた津軽塗つがるぬりし文机まで来て、黒樹の一番使いやすい所に黒のマグカップを置く。
 湯上りで、黒樹とひなぎくは新調した揃いの黒地に白い縦縞たてしましじらの浴衣を着ている。

「そうですね。はい、カフェオレマックスお砂糖ですよ」

 黒樹の部屋から広縁への引き戸を開けると、ひたすら山の呼吸がしみ入る。
 夏の息は、生命力を感じる。

「寝る前の薬は飲んだか?」

「う、うん。もうちょっとしたら」

「忘れる前に飲みなさいな」

 二人の再婚は、子ども達に恵まれていた。
 ひなぎくが病気だけれども、蓮花はひなぎくが無理な時にアトリエデイジーでお留守番をしてくれ、和はアルバイトをしてくれており、その上、劉樹は家事の殆どの手伝いをしてくれて、虹花と澄花はできることをしてくれている。
 
「うちの子ども達、皆いい子ね……」

「俺達の子だからな」


 昨日のお出掛けが新婚旅行だったと知った子ども達それぞれから、手作りのカードが贈られた。

『七月十七日午後七時。パーティーに来てください』

 皆、洋間に集まった。
 蓮花は、白い百合のカサブランカをアレンジして贈った。
 和は、皆のいつもの飲み物をそれぞれに用意した。
 劉樹は、ジュースで作ったパンケーキにジャムとイチゴで飾ってプチケーキをお茶菓子に出した。
 澄花のピアノで虹花がバレエのくるみ割り人形をお話ししながら独演してくれた。


 澄花にダンスに似合う曲をお願いした。
 黒樹が、ひなぎくの手を取る。

 スロースロークイッククイック……。
 スロースロークイッククイック……。


 

 あなた……。


 子宝……。
 私が自分で産むことはないのかも知れない。
 でもこの子達がいる。
 だから……。






 ――私、家族になります!












Fin.
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