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第三章 大学のときめき〔平成〕
09 仲良くアニメ研
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1 沢山います
「今日の講義は七時半に終わりっ。データベースの授業は楽しいなっと。ルンルン」
せっせとリュックにルーズリーフを入れた。
育種の小貝川君が近くの席にいた。
「先生に、『hepatitis』が分かる人と言われて、『肝炎』と大勢の中から夢咲さんが答えるもんだから、何を勉強しているのかとびっくりしたよ」
「あは。バイテク研究所で、先生からはゼミをやらないから、英語の自習してと言われているの」
「ゼミがないんだ……!」
「うん。仕方ないよ。じゃ、又ね」
一度振り向いて、いーって顔で、にこりとした。
「褒められ慣れないので、嬉しい。ありがとう……」
離れた所にある新築の講堂を去った。
「まあ、大抵の授業は好きだけど、絹矢先輩もこの講義を受けて欲しかったなあ。多分好きそうだと思う。アニ研では一緒だし、十分満足だけど。ありがたいですけどね。一緒に講義って、良いよねえ……」
そんな恥ずかしいのは、勿論、独り言ですよ。
アニ研のある、研究会連合棟へ向かって、さっさか歩きましたよ。
その途中、二階へ上がる階段の所で、再び、絹矢先輩の後ろ姿を見掛けて、どんっきーん。
「遅いんだねえ」
「そうですね。今日は講義が遅いので」
二人で並んで歩いて、アニ研の戸を叩いた。
「こんに……。こんばんは。遅く来ちゃった」
「こんばんは。いらっしゃい」
ひょろりとした中村大翔先輩ことイエロー先輩。
「いらっしゃい」
太めの青山健吾先輩ことブルー先輩。
「こんばんは。大体いつ来ているの?」
イエロー先輩が椅子を設けてくれた。
「週に六日は普通に。日曜日にも時々なら大学に来ていますよ」
高校の同級生は進路が違っている。
もう四大を出た友人達は、大学は遊べて良いとしか言わなくて、違うけどと言いたかった。
一部、親友だと私が思っている、朱鷺谷咲さんは、分かってくれている。
彼女とは、中学と高校が一緒で、それ以来、ぽつりぽつりと縁を紡いで来た。
動物が好きで、ぬいぐるみも好きな共通点がある。
でも、どちらからともなく、そんなに近い距離になれない。
私は、べったりが好きなので、せめて彼氏にするのなら、甘えさせてくれるアツアツの方が良い。
絹矢先輩はどうなのであろうか。
ちょっと、私ったら……!
告白前から、妄想が激しいよ……!
「来たばかりで悪いんだけど、これから、ごはんを食べに行くんだ。さーちゃんも来る?」
「はい! そうですね」
「じゃあ、皆でけえるべー」
「帰るべし」
ギャグの好きな秋元凌一先輩ことレッド先輩。
「帰ろ、帰ろ」
二年生が本当は同級生だったりする。
南城空君、望月龍太朗君、唯川陽日君の三人。
「腹減ったー」
何か、楽しいムードでいいですな。
どこに食べに行くのかな?
――のお隣に座りたいな。
だって……。
そりゃ、だってでしょう……!
2 渾名で明るく
てくてくてくてく……。
カカッシャーカカッシャー……。
歩いて行く私。
多くのアニ研の方は歩く。
望月君だけが、ケッターマシンと呼ばれる自転車を足で蹴りながらスイッチバック式に進めていた。
「今日は、三年生がいないんだよ」
レッド先輩が横に歩いていた。
名簿で、ザ・スイーズが好きと書いていた。
ザ・スイーズの音楽コント「笑って土曜!」は、視聴率を三十パーセントも取っていた、父の好きな番組である。
共通の話としてしたかったが、直ぐには難しかった。
「そうなんですか。沢山いらっしゃるのですね」
「そうだね、今日実習で鬼の羽理科大愛の農場に行っているよ。平泉航流と大洞泰士と塚由豪英の三人な。二年の農学でもあるでしょ?」
「月曜に行っています。遠いですよね」
「家から遠いの? こっちに知り合いいないの?」
後ろにいた絹矢先輩が、私の顔を覗き込んだ。
「いないですね。お友だちは埼玉ですし」
「そうか……。大変だなあ」
えええ、心配してくれるんだ。
絹矢先輩が優しい方で、涙腺がぐぐっとこみ上げてしまった。
「アニ研にさ、友達だったら女子いるよ。殆ど来ないけど」
イエロー先輩だ。
どちらかと言うと、もう渾名で呼びやすそうである。
「そうだったね……」
ブルー先輩が寡黙ながら口を開いた。
「短大からの上がりで、灰下木久さんね」
イエロー先輩はレッド先輩に振った。
「四年の乙竹角男と付き合っているから、忙しいらしいよ」
「そうなんですか」
「角男君、ラブホ男だから」
イエロー先輩は警告する様に口にしーっとやった。
「……」
ラブホって。
ラブホテル?
管弦楽でも、ラブホテラーだと息巻いていた先輩がいたけど、何なの?
「あいつ、ラブホで働いて、寝泊まりしているって噂は嘘でもないらしいからな」
言いたい放題だな、ラブホって連発して。
あ、私も心の中で連発して。
ああ、ラブホ禁止、禁止だよ!
「そう言う話は止め止めな」
絹矢先輩が手で小さいバツを作ってくれた。
ウルトラ光線が出そうだよ。
やっつけちゃえラブホ。
私には関係ないもの。
行った事ないし。
『さあさあ俺もラブホラーだよ』
絹矢先輩は、そう言わない様で、安心しました。
「そだ、二年生諸君、渾名がないな」
イエロー先輩が仕切った。
「夢咲さんは、さーちゃん。決まりね。そうだね、二年生か……。今迄、何だった?」
絹矢先輩は、ノリも良かった。
「俺? 南城だから、みなみくん」
丸っこい方で眼鏡をしている。
「何かかわいくない? せめて、ミナミな」
付け足すレッド先輩。
「はは、良いじゃん。それ採用」
へーい。
ハイタッチ。
「唯川は?」
「根拠不明のジャガーっす。駄目だよね?」
ジーパンじゃなくてパンツスタイルだな。
絹矢先輩と同じ銀縁眼鏡だ。
「ケチつけるつもりはないよ。何かな」
絹矢先輩が悩む。
可愛い。
「まんまでいいじゃん」
「そうだね……。いや、じゃがりんがいいな」
かっ可愛い!
小動物系……。
「あ、あざっす」
「望月は、ケッターでいいか?」
「良いっすよ」
「はは、あだ名って、明るくなって良いよな」
絹矢先輩が大きな笑顔できらきらしていた。
「寄ってく?」
イエロー先輩が曲がり角で、切り返した。
ん?
どこに寄って行くの?
ごはんの話はどこに行った?
お腹が空いて鳴らないかなあ……。
あー、恥ずかしいや。
「今日の講義は七時半に終わりっ。データベースの授業は楽しいなっと。ルンルン」
せっせとリュックにルーズリーフを入れた。
育種の小貝川君が近くの席にいた。
「先生に、『hepatitis』が分かる人と言われて、『肝炎』と大勢の中から夢咲さんが答えるもんだから、何を勉強しているのかとびっくりしたよ」
「あは。バイテク研究所で、先生からはゼミをやらないから、英語の自習してと言われているの」
「ゼミがないんだ……!」
「うん。仕方ないよ。じゃ、又ね」
一度振り向いて、いーって顔で、にこりとした。
「褒められ慣れないので、嬉しい。ありがとう……」
離れた所にある新築の講堂を去った。
「まあ、大抵の授業は好きだけど、絹矢先輩もこの講義を受けて欲しかったなあ。多分好きそうだと思う。アニ研では一緒だし、十分満足だけど。ありがたいですけどね。一緒に講義って、良いよねえ……」
そんな恥ずかしいのは、勿論、独り言ですよ。
アニ研のある、研究会連合棟へ向かって、さっさか歩きましたよ。
その途中、二階へ上がる階段の所で、再び、絹矢先輩の後ろ姿を見掛けて、どんっきーん。
「遅いんだねえ」
「そうですね。今日は講義が遅いので」
二人で並んで歩いて、アニ研の戸を叩いた。
「こんに……。こんばんは。遅く来ちゃった」
「こんばんは。いらっしゃい」
ひょろりとした中村大翔先輩ことイエロー先輩。
「いらっしゃい」
太めの青山健吾先輩ことブルー先輩。
「こんばんは。大体いつ来ているの?」
イエロー先輩が椅子を設けてくれた。
「週に六日は普通に。日曜日にも時々なら大学に来ていますよ」
高校の同級生は進路が違っている。
もう四大を出た友人達は、大学は遊べて良いとしか言わなくて、違うけどと言いたかった。
一部、親友だと私が思っている、朱鷺谷咲さんは、分かってくれている。
彼女とは、中学と高校が一緒で、それ以来、ぽつりぽつりと縁を紡いで来た。
動物が好きで、ぬいぐるみも好きな共通点がある。
でも、どちらからともなく、そんなに近い距離になれない。
私は、べったりが好きなので、せめて彼氏にするのなら、甘えさせてくれるアツアツの方が良い。
絹矢先輩はどうなのであろうか。
ちょっと、私ったら……!
告白前から、妄想が激しいよ……!
「来たばかりで悪いんだけど、これから、ごはんを食べに行くんだ。さーちゃんも来る?」
「はい! そうですね」
「じゃあ、皆でけえるべー」
「帰るべし」
ギャグの好きな秋元凌一先輩ことレッド先輩。
「帰ろ、帰ろ」
二年生が本当は同級生だったりする。
南城空君、望月龍太朗君、唯川陽日君の三人。
「腹減ったー」
何か、楽しいムードでいいですな。
どこに食べに行くのかな?
――のお隣に座りたいな。
だって……。
そりゃ、だってでしょう……!
2 渾名で明るく
てくてくてくてく……。
カカッシャーカカッシャー……。
歩いて行く私。
多くのアニ研の方は歩く。
望月君だけが、ケッターマシンと呼ばれる自転車を足で蹴りながらスイッチバック式に進めていた。
「今日は、三年生がいないんだよ」
レッド先輩が横に歩いていた。
名簿で、ザ・スイーズが好きと書いていた。
ザ・スイーズの音楽コント「笑って土曜!」は、視聴率を三十パーセントも取っていた、父の好きな番組である。
共通の話としてしたかったが、直ぐには難しかった。
「そうなんですか。沢山いらっしゃるのですね」
「そうだね、今日実習で鬼の羽理科大愛の農場に行っているよ。平泉航流と大洞泰士と塚由豪英の三人な。二年の農学でもあるでしょ?」
「月曜に行っています。遠いですよね」
「家から遠いの? こっちに知り合いいないの?」
後ろにいた絹矢先輩が、私の顔を覗き込んだ。
「いないですね。お友だちは埼玉ですし」
「そうか……。大変だなあ」
えええ、心配してくれるんだ。
絹矢先輩が優しい方で、涙腺がぐぐっとこみ上げてしまった。
「アニ研にさ、友達だったら女子いるよ。殆ど来ないけど」
イエロー先輩だ。
どちらかと言うと、もう渾名で呼びやすそうである。
「そうだったね……」
ブルー先輩が寡黙ながら口を開いた。
「短大からの上がりで、灰下木久さんね」
イエロー先輩はレッド先輩に振った。
「四年の乙竹角男と付き合っているから、忙しいらしいよ」
「そうなんですか」
「角男君、ラブホ男だから」
イエロー先輩は警告する様に口にしーっとやった。
「……」
ラブホって。
ラブホテル?
管弦楽でも、ラブホテラーだと息巻いていた先輩がいたけど、何なの?
「あいつ、ラブホで働いて、寝泊まりしているって噂は嘘でもないらしいからな」
言いたい放題だな、ラブホって連発して。
あ、私も心の中で連発して。
ああ、ラブホ禁止、禁止だよ!
「そう言う話は止め止めな」
絹矢先輩が手で小さいバツを作ってくれた。
ウルトラ光線が出そうだよ。
やっつけちゃえラブホ。
私には関係ないもの。
行った事ないし。
『さあさあ俺もラブホラーだよ』
絹矢先輩は、そう言わない様で、安心しました。
「そだ、二年生諸君、渾名がないな」
イエロー先輩が仕切った。
「夢咲さんは、さーちゃん。決まりね。そうだね、二年生か……。今迄、何だった?」
絹矢先輩は、ノリも良かった。
「俺? 南城だから、みなみくん」
丸っこい方で眼鏡をしている。
「何かかわいくない? せめて、ミナミな」
付け足すレッド先輩。
「はは、良いじゃん。それ採用」
へーい。
ハイタッチ。
「唯川は?」
「根拠不明のジャガーっす。駄目だよね?」
ジーパンじゃなくてパンツスタイルだな。
絹矢先輩と同じ銀縁眼鏡だ。
「ケチつけるつもりはないよ。何かな」
絹矢先輩が悩む。
可愛い。
「まんまでいいじゃん」
「そうだね……。いや、じゃがりんがいいな」
かっ可愛い!
小動物系……。
「あ、あざっす」
「望月は、ケッターでいいか?」
「良いっすよ」
「はは、あだ名って、明るくなって良いよな」
絹矢先輩が大きな笑顔できらきらしていた。
「寄ってく?」
イエロー先輩が曲がり角で、切り返した。
ん?
どこに寄って行くの?
ごはんの話はどこに行った?
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あー、恥ずかしいや。
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