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犯人はレイの姉? その三
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「・・・・・・そ、そうそう。
なんだか悪趣味だし」
俺の目配せに、エレナも慌てて調子を合わせ――
「おーっほっほっ!
まあ、仮にも魔術長官だった女が、こんなお下劣下着は作らないでしょうね」
「っ・・・・・・・・・・・・」
目配せする前に、素で罵倒するライザに、姉さんの頬がピクピク引きつる。
よしっ。もう一息っ!
俺は、肩をすくめて、
「よく考えてみれば。
こんなセンスの欠片もない、ださださアイテム、姉さんの作品のわけ・・・・・・」
「・・・・・・黙りなさい、レイ」
俺の言葉を、姉さんの低い声が遮った。
いつもの楽しげな声からは、想像も出来ない冷たい響き。
俺のことも、呼び捨てになってるし。
ファリル姉さんはめったに怒らないが、自作の魔法道具を馬鹿にされると、めちゃめちゃキレるのだ。
この反応を見ると、やはり姉さんの作品に違いない!
「黙って聞いてれば、ぺらぺらと・・・・・・っ!
私の芸術品をよくも馬鹿にしてくれたわねぇ、弟のくせにっ」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
悪の大魔道士みたいに囁かれ、俺の心臓がすくみ上がる。
普段はおちゃらけた明るい人だが、プッツンすると無茶苦茶怖い。
数年前の戦争では、容赦ない戦いぶりから、『ジェノサイド・ファリル』の異名をとり、怖れられたとか。
「ご、ごめんファリル姉さん。
作品を馬鹿にしたのは謝るよ。
でも、呪いの下着を誰に売ったか教えて欲しくて・・・・・・」
「ああーん?
そんなことのために、可愛い傑作に暴言はいたって言うの?
いい度胸してるじゃないの、レイっ!」
「ひぃっ!?
ご、ごめんなさいごめんなさい!」
慌ててペコペコ謝ってると、
「なっさけない男ねー。姉に頭が上がらないなんて」
呆れた声で言いながら、ライザが、ずいっ、と歩み出る。剣の切っ先を姉さんに向けて、
「さあ、さっさとエロ下着購入者を言いなさい。
さもなくば、床に這いつくばらせても吐かせるわよ!」
「今、弟シメてるんで、バカは引っ込んでてくださいねー」
鼻先に突きつけられた刃を、つまらなさそうに見ていた姉さんが、短く呪文を唱えた途端。
「おおぉっ!?」
ライザの剣が、一瞬、光ったかと思うと、一本の縄に姿をかえる。
魔法の縄は、生き物のように蠢くと、ライザの全身に素早く絡みつき、拘束してしまう。
しかも、なんだか胸が強調された、エッチな縛り方だった。
「ひぎっ!?」
たまらず、びたんっ、と倒れこみ、床に這いつくばるライザ。
「フフン、どうですか。
一人SM用に開発した『タートル・ロープ』の縛り具合は?」
「くっ、騎士の魂である剣を、よくも珍妙なエロアイテムにっ!」
金髪ツインテールを見下ろし、からかったあと、姉さんは、やおらライザの胸をムニムニと揉みしだく。
「きゃ、な、なにすんのよ! この痴女魔道士っ!」
「・・・・・・ちぇ。
無駄に背が高いだけの貧乳ちゃんでしたかー。
とことん使えないツインテールですねー」
不満げに唇を尖らせる姉さん。
大人の魔法アイテムショップを経営してるだけあって、巨乳が大好きなのだ。
「ぐぐ・・・・・こ、この、ほどきなさいっ!
セクハラ罪で手討ちにしてやるわっ!」
芋虫みたいにウニウニもがきつつ、怒りの声を上げるライザ。
そちらにはもう目もくれず。ファリル姉さんは、ゆらりっ、とこちらに振り向くと、
「さぁて・・・・・・それじゃ、生意気な弟のお仕置きタイムといきますか」
小悪魔のような口調で宣言すると、ぺろっ、と下唇を舐める。
ま、まずい。
ファリル姉さんがバーサク状態になってしまった!
やはり作品を馬鹿にするのは危険すぎたか。
ゆっくりと歩み寄る姉さんに、俺は、じりじりと後ずさり――
「ファリルさん、
捜査のためとはいえ、作品を悪く言ったのは謝ります」
俺と姉さんの間に、すっ、と立ちはだかったのはエレナだった。
「ですけど、呪いの下着を外すため、購入者の名前は、なんとしても教えてもらいますっ!」
凛とした声で言い放つと、鞘に入ったままの剣を構える。
ファリル姉さんは、妖艶な笑みを浮かべつつ、銀髪をかきあげて、
「フフフ・・・・・・。
それじゃ、私に一撃でも与えたら、教えてあげてもいいわ」
「・・・・・・本当ですね」
「姉に二言なし、よ」
「だったら・・・・・・」
エレナは、ぐっ、と柄を握る手に力をこめると、
「リズ様のために・・・・・・失礼しますっ!」
言い放つなり、勢いよく地を蹴った。
「クスクスクス・・・・・・」
しかし、ファリル姉さんは余裕の笑みを浮かべたまま、呪文すら唱えない。
ポニーテールをなびかせ、ふところに飛び込んだエレナが、
「ファリルさん、覚悟っ!」
剣を振り下ろそうとした、まさにその時!
突如、姉さんの銀髪が、触手のように広がったかと思うと、いっせいにエレナに向って襲いかかる!
「――なっ!?
こ、これは・・・・・・」
エレナが戸惑ううちにも、無数の触手は、彼女の手首に足首に、次々と巻きついていき、
「――し、しまっ・・・・・・くっ」
気づいた時には、大の字の姿勢で、宙吊りになっていた。
その手から落ちた剣が、カラン、と床に転がる。
ファリル姉さんは、自慢げに顎に手をあて、
「ふふーん。どう?
女剣士をゲットするため開発した、新作マジックアイテムは。
また戦になった時に備えて、作っておいたのよねー」
・・・・・・いくらなんでも。戦場でレズの相手漁りは最低です。
「これには苦労したわ。
古代魔法技術の粋を集めた自信作なんだから」
こんなエロアイテムに使われたら、古代魔法使いは草葉の陰で号泣してます。
怖いので、心の中で呟いておく。
「さて、と。それじゃ約束通り。
勝ったご褒美に、おっぱい揉ませてもらうわねっ♪」
「ええぇぇっ!?
や、約束してません、そんなのっ!」
素っ頓狂な声をあげるエレナ。
「またまたぁ。
敗者は勝者のオモチャになるのが、世界の常識じゃない」
「そんな破廉恥な常識・・・・・・」
抗議には耳も貸さず、姉さんが、パチンっ、と指を鳴らすと、
びりびりびりっ!!
「ちょ、ちょっと何するんですかっ!」
触手の先端が、器用にフードを裂き破り、ビキニ鎧があらわになる。
「くふふ。
ビキニ鎧を着たエレナちゃんの美乳・・・・・・前から狙ってたのよねー」
やおら姉さんの手が、瑞々しくふくらむ乳房を、むにゅっ、と揉み、
「きゃあぁああああああぁぁぁっ!?」
エレナの口から、甲高い悲鳴が上がる。
今まで聞いたこともない、女っぽい声だった。
「ど、どど、どこ揉んでんですかぁ!」
「どこって、エレナちゃんのおっぱいだけど?」
勝気な美貌を真っ赤に染めるエレナに、姉さんは、全く悪びれずに答える。
その間も遠慮なく。ビキニに包まれた胸を、いやらしい手つきで揉みしだき、
「・・・・・・うーむ。
巨乳すぎて下品にならず、さりとて、貧乳すぎてショボくもない。
ちょうど手の平からはみ出すくらいの、まさにほどよい大きさ。
しかも、指を押し返すほどピチピチしてるのに、マシュマロのように柔らかい・・・・・・
これは、想像以上ね」
「じ、じっくり解説しないでくださいっ!」
エレナはジタバタ暴れるものの、絡みついた触手はビクともしない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいってばっ・・・・・・アンッ!?
私達、女同士ですよっ!」
「だーいじょーぶ。
私、女の子の方が好きだし」
「私はノーマルですっ!」
「あん、冷たい。
女同士なんだから、固いこと言わないでよぅ。
固くするのはここだけで、ね」
悪戯っぽく微笑むと、二本の指が、ビキニの布越しに、乳首をクリクリと摘み上げる。
「あっ! そ、そこは本当にダメですってばっ!」
・・・・・・ううむ。
我が姉ながら、なんという変態・・・・・・。
俺が思わず、じーっ、と凝視していると、不意にファリル姉さんがこちらを振り向き、
「ほらほら、レイちゃん。うらやましいでしょー」
満面の笑顔で自慢してくる。
・・・・・・ほっ。
どうやら機嫌は直ったみたいだな。
呼び方が、『レイちゃん』に戻っているのに気づき、安堵の息をつく。
ファリル姉さんは、女の子にエッチな悪戯すると機嫌が直るのだ。
と、その時。
「い、いい加減にして・・・・・・あっ!?」
ハッ、と目を見開いたエレナと、思いっきり目が合う。
みるみるその顔に、怒りと羞恥の入り混じった表情が浮かんだかと思うと、くわっ! と柳眉を逆立てて、
「な、なに黙って見てるのよ! 早く姉の暴走止めなさいっ!」
キバを剥き出し怒鳴る。
しかし俺の目は、揉まれる胸に見入ったまま、
「ああ」
「さっさとせんかっ!」
「そうだね」
生返事するだけだった。
「こ・・・・・・こぉんのアホスケベ魔道士がぁぁぁぁぁぁっ!」
握った拳をプルプル震わせ、エレナは、ぎぬろっ! と俺を睨みつけると、
「ごぉぉらぁぁぁぁっ!
いい加減にしないと、ほんっきで殺すわよっ!」
怒りの絶叫を上げる。
「お、落ち着けって。
しかしなあ・・・・・・」
俺は、悔しげに奥歯をかみ締め、
「呪文を使うのは、エレナに禁止されてるし。
やはり俺にできるのは、そっと見守ることだけだな・・・・・・」
「こ、こんな時だけ命令を守るんじゃないっ・・・・・あんっ、くっ・・・・・・!」
エレナの罵声に、甘い響きが混じり始める。
「あんっ、い、いいから!
さっさと魔法で、このスケベアイテム、粗大ゴミにしなさいっ!」
切羽詰った声で叫ぶ。
「そ、それにっ。
どうせもうこの姿なんだから、あんたのエッチ呪いは関係ないでしょっ!
」
「――あ。そっか」
確かに、俺が魔法を使うまでもなく、すでにビキニ鎧姿なのだ。
「ふぅ・・・・・・
それじゃ、しょうがない」
俺はしぶしぶ、呪文を唱え――
「風斬っ!」
杖の先からほとばしった風の刃は、エレナに巻きつく触手を、ザシュザシュと切り裂いていく。
ようやく縛めから開放されたエレナは、スタッ、と華麗に着地を決めて、
「おっそいのよ、バカっ!
・・・・・・でもま、ありがと」
罵倒と感謝の混じった言葉を言った、次の瞬間。
ビュゴオオオオオオオッ!!
呪いの副作用で、魔力の烈風が吹きつける!
「あわわっ」
慌てて遠くに退避する王女。
しかし、エレナは慌てることなく、堂々と腰に右手を当てて、
「さーて。
それじゃ、今度こそファリルさんに・・・・・・」
呟き終わるより早く、
ぽろんっ。
「・・・・・・え?」
右胸の布地が上にずれ、真っ白な乳房がこぼれ出る!
みずみずしく張りつめた、豊かなふくらみ。その頂上には、ピンク色の突起が息づいている。
「・・・・・・レェイィィィィィィ・・・・・・ッ!」
地の底から響くような声あげて、エレナは、ゆっくりと振り返る。
ゴゴゴゴゴォ・・・・・・、と効果音が聞こえそうな、憤怒の表情だった。
俺は慌てて手を振ると、
「ちょ、ちょっと待てっ!
俺は無実だ!
思いっきりやれって言ったのはエレナ・・・・・・ぐべっ!?」
言い訳をみなまで聞かず。エレナのハイ・キックが、俺の顔にまともにヒットする。
きりもみ回転して、壁にぶち当たる俺の方には見向きもせず、
「・・・・・・ふんっ!」
エレナは、ずれたビキニ鎧を、ぐいっ、と引き下げる。
「クスクスクス。
助けるふりしてセクハラとは、さすが私の弟。
それにしても、私でも解けないビキニ鎧の呪いを、一部分でも弱めるとは、魔力を上げたわね、レイちゃん」
まるっきり他人事の口調で言ったのは、いつのまにか、隣の屋根まで退避していたファリル姉さんだった。
「そこっ! 感心しないでください!」
エレナは紅潮したまま、びしっ! と姉を指差すと、
「てか、逃げないでください! 痴女罪で捕まえます!」
「やぁね、痴女なんて。
女同士のちょっとしたスキンシップじゃない♪」
「スキンシップで済めば、痴漢はいませんっ!」
「あん、怖い。
それじゃ、私はこれで失礼しようっと」
おどけた仕草で言うと、ファリル姉さんは杖を掲げて呪文を唱える。
あれは・・・・・・空間転送の呪文っ!?
文字通り、術者を一キロほど離れた場所まで瞬時に移動させる術で、かなり高位の魔道士にしか使えない。
「ま、待ってファリル姉さん!
せめてリズ様のボンデージ下着は外していってよ」
俺の必死の叫びに、姉さんは詠唱を中断すると、
「うーん・・・・・・
残念だけど、私では無理なのよ」
「え? だって姉さんの作品でしょ」
「それはそうなんだけど・・・・・・
他の魔道士が、あとから強力な呪いの付与魔法をかけたみたい。
それも、最高導師クラスの実力ね」
「そ、そんな・・・・・・」
呆然と呟く俺に、ファリル姉さんは、唇尖らせ、
「そもそも。
ウチで売ってる『呪いのアイテム』は、ちゃんと、簡単に外れるようになってるし。
雰囲気を出すための、オモチャみたいなものですから。
宮廷魔道士にも外せないようなモノ、売るはずないでしょ」
言って、にっこり微笑み、
「なんたって。
『明るく楽しく元気にエッチ』が、私の店のモットーですからね」
・・・・・・なかなか最低なモットーだが、それだけに、なんだか妙に説得力。
「それじゃ、そゆことで。ばいばーい」
気楽に手を振り、詠唱を再開した姉さんの姿が、みるみる空間に滲んでいき、
「あっ、こら! まだ誰に売ったか聞いてないわよ!
ていうか、お願いこれほどいて~っ!」
芋虫みたいに這ってきたライザの絶叫が、夕焼け空に響いたのだった。
なんだか悪趣味だし」
俺の目配せに、エレナも慌てて調子を合わせ――
「おーっほっほっ!
まあ、仮にも魔術長官だった女が、こんなお下劣下着は作らないでしょうね」
「っ・・・・・・・・・・・・」
目配せする前に、素で罵倒するライザに、姉さんの頬がピクピク引きつる。
よしっ。もう一息っ!
俺は、肩をすくめて、
「よく考えてみれば。
こんなセンスの欠片もない、ださださアイテム、姉さんの作品のわけ・・・・・・」
「・・・・・・黙りなさい、レイ」
俺の言葉を、姉さんの低い声が遮った。
いつもの楽しげな声からは、想像も出来ない冷たい響き。
俺のことも、呼び捨てになってるし。
ファリル姉さんはめったに怒らないが、自作の魔法道具を馬鹿にされると、めちゃめちゃキレるのだ。
この反応を見ると、やはり姉さんの作品に違いない!
「黙って聞いてれば、ぺらぺらと・・・・・・っ!
私の芸術品をよくも馬鹿にしてくれたわねぇ、弟のくせにっ」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
悪の大魔道士みたいに囁かれ、俺の心臓がすくみ上がる。
普段はおちゃらけた明るい人だが、プッツンすると無茶苦茶怖い。
数年前の戦争では、容赦ない戦いぶりから、『ジェノサイド・ファリル』の異名をとり、怖れられたとか。
「ご、ごめんファリル姉さん。
作品を馬鹿にしたのは謝るよ。
でも、呪いの下着を誰に売ったか教えて欲しくて・・・・・・」
「ああーん?
そんなことのために、可愛い傑作に暴言はいたって言うの?
いい度胸してるじゃないの、レイっ!」
「ひぃっ!?
ご、ごめんなさいごめんなさい!」
慌ててペコペコ謝ってると、
「なっさけない男ねー。姉に頭が上がらないなんて」
呆れた声で言いながら、ライザが、ずいっ、と歩み出る。剣の切っ先を姉さんに向けて、
「さあ、さっさとエロ下着購入者を言いなさい。
さもなくば、床に這いつくばらせても吐かせるわよ!」
「今、弟シメてるんで、バカは引っ込んでてくださいねー」
鼻先に突きつけられた刃を、つまらなさそうに見ていた姉さんが、短く呪文を唱えた途端。
「おおぉっ!?」
ライザの剣が、一瞬、光ったかと思うと、一本の縄に姿をかえる。
魔法の縄は、生き物のように蠢くと、ライザの全身に素早く絡みつき、拘束してしまう。
しかも、なんだか胸が強調された、エッチな縛り方だった。
「ひぎっ!?」
たまらず、びたんっ、と倒れこみ、床に這いつくばるライザ。
「フフン、どうですか。
一人SM用に開発した『タートル・ロープ』の縛り具合は?」
「くっ、騎士の魂である剣を、よくも珍妙なエロアイテムにっ!」
金髪ツインテールを見下ろし、からかったあと、姉さんは、やおらライザの胸をムニムニと揉みしだく。
「きゃ、な、なにすんのよ! この痴女魔道士っ!」
「・・・・・・ちぇ。
無駄に背が高いだけの貧乳ちゃんでしたかー。
とことん使えないツインテールですねー」
不満げに唇を尖らせる姉さん。
大人の魔法アイテムショップを経営してるだけあって、巨乳が大好きなのだ。
「ぐぐ・・・・・こ、この、ほどきなさいっ!
セクハラ罪で手討ちにしてやるわっ!」
芋虫みたいにウニウニもがきつつ、怒りの声を上げるライザ。
そちらにはもう目もくれず。ファリル姉さんは、ゆらりっ、とこちらに振り向くと、
「さぁて・・・・・・それじゃ、生意気な弟のお仕置きタイムといきますか」
小悪魔のような口調で宣言すると、ぺろっ、と下唇を舐める。
ま、まずい。
ファリル姉さんがバーサク状態になってしまった!
やはり作品を馬鹿にするのは危険すぎたか。
ゆっくりと歩み寄る姉さんに、俺は、じりじりと後ずさり――
「ファリルさん、
捜査のためとはいえ、作品を悪く言ったのは謝ります」
俺と姉さんの間に、すっ、と立ちはだかったのはエレナだった。
「ですけど、呪いの下着を外すため、購入者の名前は、なんとしても教えてもらいますっ!」
凛とした声で言い放つと、鞘に入ったままの剣を構える。
ファリル姉さんは、妖艶な笑みを浮かべつつ、銀髪をかきあげて、
「フフフ・・・・・・。
それじゃ、私に一撃でも与えたら、教えてあげてもいいわ」
「・・・・・・本当ですね」
「姉に二言なし、よ」
「だったら・・・・・・」
エレナは、ぐっ、と柄を握る手に力をこめると、
「リズ様のために・・・・・・失礼しますっ!」
言い放つなり、勢いよく地を蹴った。
「クスクスクス・・・・・・」
しかし、ファリル姉さんは余裕の笑みを浮かべたまま、呪文すら唱えない。
ポニーテールをなびかせ、ふところに飛び込んだエレナが、
「ファリルさん、覚悟っ!」
剣を振り下ろそうとした、まさにその時!
突如、姉さんの銀髪が、触手のように広がったかと思うと、いっせいにエレナに向って襲いかかる!
「――なっ!?
こ、これは・・・・・・」
エレナが戸惑ううちにも、無数の触手は、彼女の手首に足首に、次々と巻きついていき、
「――し、しまっ・・・・・・くっ」
気づいた時には、大の字の姿勢で、宙吊りになっていた。
その手から落ちた剣が、カラン、と床に転がる。
ファリル姉さんは、自慢げに顎に手をあて、
「ふふーん。どう?
女剣士をゲットするため開発した、新作マジックアイテムは。
また戦になった時に備えて、作っておいたのよねー」
・・・・・・いくらなんでも。戦場でレズの相手漁りは最低です。
「これには苦労したわ。
古代魔法技術の粋を集めた自信作なんだから」
こんなエロアイテムに使われたら、古代魔法使いは草葉の陰で号泣してます。
怖いので、心の中で呟いておく。
「さて、と。それじゃ約束通り。
勝ったご褒美に、おっぱい揉ませてもらうわねっ♪」
「ええぇぇっ!?
や、約束してません、そんなのっ!」
素っ頓狂な声をあげるエレナ。
「またまたぁ。
敗者は勝者のオモチャになるのが、世界の常識じゃない」
「そんな破廉恥な常識・・・・・・」
抗議には耳も貸さず、姉さんが、パチンっ、と指を鳴らすと、
びりびりびりっ!!
「ちょ、ちょっと何するんですかっ!」
触手の先端が、器用にフードを裂き破り、ビキニ鎧があらわになる。
「くふふ。
ビキニ鎧を着たエレナちゃんの美乳・・・・・・前から狙ってたのよねー」
やおら姉さんの手が、瑞々しくふくらむ乳房を、むにゅっ、と揉み、
「きゃあぁああああああぁぁぁっ!?」
エレナの口から、甲高い悲鳴が上がる。
今まで聞いたこともない、女っぽい声だった。
「ど、どど、どこ揉んでんですかぁ!」
「どこって、エレナちゃんのおっぱいだけど?」
勝気な美貌を真っ赤に染めるエレナに、姉さんは、全く悪びれずに答える。
その間も遠慮なく。ビキニに包まれた胸を、いやらしい手つきで揉みしだき、
「・・・・・・うーむ。
巨乳すぎて下品にならず、さりとて、貧乳すぎてショボくもない。
ちょうど手の平からはみ出すくらいの、まさにほどよい大きさ。
しかも、指を押し返すほどピチピチしてるのに、マシュマロのように柔らかい・・・・・・
これは、想像以上ね」
「じ、じっくり解説しないでくださいっ!」
エレナはジタバタ暴れるものの、絡みついた触手はビクともしない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいってばっ・・・・・・アンッ!?
私達、女同士ですよっ!」
「だーいじょーぶ。
私、女の子の方が好きだし」
「私はノーマルですっ!」
「あん、冷たい。
女同士なんだから、固いこと言わないでよぅ。
固くするのはここだけで、ね」
悪戯っぽく微笑むと、二本の指が、ビキニの布越しに、乳首をクリクリと摘み上げる。
「あっ! そ、そこは本当にダメですってばっ!」
・・・・・・ううむ。
我が姉ながら、なんという変態・・・・・・。
俺が思わず、じーっ、と凝視していると、不意にファリル姉さんがこちらを振り向き、
「ほらほら、レイちゃん。うらやましいでしょー」
満面の笑顔で自慢してくる。
・・・・・・ほっ。
どうやら機嫌は直ったみたいだな。
呼び方が、『レイちゃん』に戻っているのに気づき、安堵の息をつく。
ファリル姉さんは、女の子にエッチな悪戯すると機嫌が直るのだ。
と、その時。
「い、いい加減にして・・・・・・あっ!?」
ハッ、と目を見開いたエレナと、思いっきり目が合う。
みるみるその顔に、怒りと羞恥の入り混じった表情が浮かんだかと思うと、くわっ! と柳眉を逆立てて、
「な、なに黙って見てるのよ! 早く姉の暴走止めなさいっ!」
キバを剥き出し怒鳴る。
しかし俺の目は、揉まれる胸に見入ったまま、
「ああ」
「さっさとせんかっ!」
「そうだね」
生返事するだけだった。
「こ・・・・・・こぉんのアホスケベ魔道士がぁぁぁぁぁぁっ!」
握った拳をプルプル震わせ、エレナは、ぎぬろっ! と俺を睨みつけると、
「ごぉぉらぁぁぁぁっ!
いい加減にしないと、ほんっきで殺すわよっ!」
怒りの絶叫を上げる。
「お、落ち着けって。
しかしなあ・・・・・・」
俺は、悔しげに奥歯をかみ締め、
「呪文を使うのは、エレナに禁止されてるし。
やはり俺にできるのは、そっと見守ることだけだな・・・・・・」
「こ、こんな時だけ命令を守るんじゃないっ・・・・・あんっ、くっ・・・・・・!」
エレナの罵声に、甘い響きが混じり始める。
「あんっ、い、いいから!
さっさと魔法で、このスケベアイテム、粗大ゴミにしなさいっ!」
切羽詰った声で叫ぶ。
「そ、それにっ。
どうせもうこの姿なんだから、あんたのエッチ呪いは関係ないでしょっ!
」
「――あ。そっか」
確かに、俺が魔法を使うまでもなく、すでにビキニ鎧姿なのだ。
「ふぅ・・・・・・
それじゃ、しょうがない」
俺はしぶしぶ、呪文を唱え――
「風斬っ!」
杖の先からほとばしった風の刃は、エレナに巻きつく触手を、ザシュザシュと切り裂いていく。
ようやく縛めから開放されたエレナは、スタッ、と華麗に着地を決めて、
「おっそいのよ、バカっ!
・・・・・・でもま、ありがと」
罵倒と感謝の混じった言葉を言った、次の瞬間。
ビュゴオオオオオオオッ!!
呪いの副作用で、魔力の烈風が吹きつける!
「あわわっ」
慌てて遠くに退避する王女。
しかし、エレナは慌てることなく、堂々と腰に右手を当てて、
「さーて。
それじゃ、今度こそファリルさんに・・・・・・」
呟き終わるより早く、
ぽろんっ。
「・・・・・・え?」
右胸の布地が上にずれ、真っ白な乳房がこぼれ出る!
みずみずしく張りつめた、豊かなふくらみ。その頂上には、ピンク色の突起が息づいている。
「・・・・・・レェイィィィィィィ・・・・・・ッ!」
地の底から響くような声あげて、エレナは、ゆっくりと振り返る。
ゴゴゴゴゴォ・・・・・・、と効果音が聞こえそうな、憤怒の表情だった。
俺は慌てて手を振ると、
「ちょ、ちょっと待てっ!
俺は無実だ!
思いっきりやれって言ったのはエレナ・・・・・・ぐべっ!?」
言い訳をみなまで聞かず。エレナのハイ・キックが、俺の顔にまともにヒットする。
きりもみ回転して、壁にぶち当たる俺の方には見向きもせず、
「・・・・・・ふんっ!」
エレナは、ずれたビキニ鎧を、ぐいっ、と引き下げる。
「クスクスクス。
助けるふりしてセクハラとは、さすが私の弟。
それにしても、私でも解けないビキニ鎧の呪いを、一部分でも弱めるとは、魔力を上げたわね、レイちゃん」
まるっきり他人事の口調で言ったのは、いつのまにか、隣の屋根まで退避していたファリル姉さんだった。
「そこっ! 感心しないでください!」
エレナは紅潮したまま、びしっ! と姉を指差すと、
「てか、逃げないでください! 痴女罪で捕まえます!」
「やぁね、痴女なんて。
女同士のちょっとしたスキンシップじゃない♪」
「スキンシップで済めば、痴漢はいませんっ!」
「あん、怖い。
それじゃ、私はこれで失礼しようっと」
おどけた仕草で言うと、ファリル姉さんは杖を掲げて呪文を唱える。
あれは・・・・・・空間転送の呪文っ!?
文字通り、術者を一キロほど離れた場所まで瞬時に移動させる術で、かなり高位の魔道士にしか使えない。
「ま、待ってファリル姉さん!
せめてリズ様のボンデージ下着は外していってよ」
俺の必死の叫びに、姉さんは詠唱を中断すると、
「うーん・・・・・・
残念だけど、私では無理なのよ」
「え? だって姉さんの作品でしょ」
「それはそうなんだけど・・・・・・
他の魔道士が、あとから強力な呪いの付与魔法をかけたみたい。
それも、最高導師クラスの実力ね」
「そ、そんな・・・・・・」
呆然と呟く俺に、ファリル姉さんは、唇尖らせ、
「そもそも。
ウチで売ってる『呪いのアイテム』は、ちゃんと、簡単に外れるようになってるし。
雰囲気を出すための、オモチャみたいなものですから。
宮廷魔道士にも外せないようなモノ、売るはずないでしょ」
言って、にっこり微笑み、
「なんたって。
『明るく楽しく元気にエッチ』が、私の店のモットーですからね」
・・・・・・なかなか最低なモットーだが、それだけに、なんだか妙に説得力。
「それじゃ、そゆことで。ばいばーい」
気楽に手を振り、詠唱を再開した姉さんの姿が、みるみる空間に滲んでいき、
「あっ、こら! まだ誰に売ったか聞いてないわよ!
ていうか、お願いこれほどいて~っ!」
芋虫みたいに這ってきたライザの絶叫が、夕焼け空に響いたのだった。
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