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回想 二人がクビになったその理由

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 ――あれは、今から二ヶ月ほど前。
 エレナにビキニ鎧を渡した、ちょうど次の日のこと。
 俺はネッドと一緒に、あるイベントに初参加していた。

「しっかし、すごい行列だなコレ・・・・・・。
 何十、いや、何百メートルあるんだ」

 手をかざして前方を眺めつつ、俺は、感心したのとあきれたのが混ざった口調で呟いた。

 ずらりと続く長蛇の列。そこには、商人や貴族など、いろんな職種の男達が並んでいる。
 看板には、でかでかと『リズ王女様、握手会会場!』の文字。

「フフン。初心者が驚くのも無理はない。
 なんせ、リズ様ファンクラブ会員は、今や一万人以上いるからな」

 なぜか自慢げに言うネッド。

「しかも噂じゃあ、リズ様の処女を守るため結成されし、エリート部隊もいるらしい」

「・・・・・・ただのストーカー集団だろ、それ」

「とにかく、熱狂的なファンが多いってことさ」

 ――それからさらに、一時間ほど並んだあと。

「お、そろそろだぜ」

 ネッドの言葉に前を見れば、あれほど長かった行列も、ようやく十メートルほどになっていた。
 リズ様は、一人一人と握手を交わすだけでなく、二言三言、声をかけては、笑顔を浮かべている。

 ううむ。小さな身体なのに、偉いなリズ様は・・・・・・って、おおっ!?

 ふと、突き刺さるような視線を感じ、目を向ければ――
 こっちを物凄い目でにらんでいる、エレナの姿!
 今日は珍しく、ゆったりしたフードを身に着けている。

 ・・・・・・げっ。近衛隊長のエレナが警備に来てるのかっ!?
 むぅ、まずいな。 
 折れた宝剣のかわりに、ビキニ鎧を渡したことを、まだ怒ってるっぽい。
 視線だけで、俺を焼き殺そうとしているかのような目つきだった。

 俺はその場で回れ右すると、

「すまんネッド。
 ちょっと、用事思い出したから帰るわ」

 言って歩き出そうとする俺の手を、ネッドはつかみ、

「どーしたんだよ、急に?
 もうリズ様の間近だぜ。ここで列離れたら、失礼だろ」

「いや、しかし・・・・・・」

 俺が言いかけたその時、

「きゃあああああああああっ!?」

 突如、響き渡ったのはリズ様の悲鳴だった。

「――っ!?」

 慌てて振り向く俺の目に飛び込んできたのは、王女に向かって振り下ろされた刃を、剣で受け止めるエレナの姿!

「リ、リズ様っ、早くお逃げをっ!」

 刺客の胴を蹴り飛ばしながら、エレナは叫ぶと、王女を追おうとする数人と新たに切り結ぶ。

 逃げまどうファンたち。入り乱れる怒号と悲鳴。
 会場は大混乱に陥った。

 ――と、その時。

「ぐわっ!?」

 王女の手を引き逃げていた護衛が、悲鳴をあげて倒れふす。

「ケーヒル!?」

 護衛の名を叫ぶリズ王女の前に、すっ、と立ちふさがったのは、フードを目深にかぶった一人の女。

 ――暗殺者かっ!? 

 その手に、魔力のいかづちが生まれ出る。
 邪悪な光が、王女に向かって放たれるその寸前、俺の呪文が完成した。

「烈風波っ!」

 驚愕の表情を浮かべる女魔道士を、魔力の風が吹き飛ばす!

「うぐっ!?」

 身体を壁に強打した女暗殺者は、がくりと倒れふした。

「ま、間に合った・・・・・・」

 俺は、ふうっ、と安堵のため息ついてから、

「そうだ、エレナの方は――」

 視線を向ければ、エレナがちょうど、最後の刺客を倒したところだった。

「・・・・・・大丈夫そうだな」

 つぶやき、杖をおろす俺。と、不意に、

「あ、あのぉ・・・・・・」

 声をかけてきたのは、リズ様だった。恐怖のためか、頬がわずかに紅潮している。

「どうもありがとうございました、魔道士さん」

 言ってにっこり微笑む。高貴さと親しみの溶け合った、魅力的な笑顔。

「い、いえいえっ。とんでもないです」

 俺は、真っ赤になって両手を振りつつ、

「これぐらいっ。騎士道精神を持つ魔道士である、僕としては当然の・・・・・・」

 上ずった声でそこまで言った時――突然。

 ビュゴオオォォォォォッッ!

 魔力の嵐が俺の周囲に吹き荒れる!

『きゃああぁぁぁああぁぁぁあぁぁっ!?』

 しかも、風の刃は、女兵士の服を切り裂き、女性ファンのスカートをまくりあげるっ!

 ――な、なんだこれっ!? 
 呪文の効力はもう終わったはずなのにっ。

 混乱する俺の脳裏に浮かんだのは、昨日の女魔人の言葉。

 ――『あなたが呪文を使うたび、嬉しいハプニングが起こるから、ね』

 う、嬉しいハプニングって。もしかしてこれのこと・・・・?

 そう思ううちにも、女性たちの悲鳴が重なり響き――そこに、

「レェイィィィッ! あんたねぇぇぇっ!」

 ひときわ大きく響いたのは、エレナの怒声だった。

 振り向いた俺の目が、大きく見開く。

「――あっ、あのビキニ鎧っ!?
 ・・・・・・まさか、本当に着るとは・・・・・・」

「『着るとは』、じゃなああぁぁぁぁいっ!」

 どばきぃっ!

「おぶっ!?」

 唖然とつぶやく俺の頬を、エレナのグーパンチがまともにとらえた。

「この鎧、ぜんっぜん脱げないんだけど!
 助けた恩を、呪いのエロ鎧で返すなんて。あんたにはオーク並みの道徳心もないんかっ!」

「いててて・・・・・・?
 ぬ、脱げない? まさかそんな・・・・・・」

 俺が身を起こそうとしたところに、

「だ、大丈夫ですかっ? 魔道士さんっ」

 パタパタと駆け寄ってくる王女。

「――あっ! リ、リズ様、まだ俺に近づいちゃダメですっ!」

 慌てて声をあげるものの――すでに遅し。

『あっ。』

 俺とエレナと、その場にいた全員の声がハモった。

 王女のフレア・スカートが、ふわりとまくれ上がり、純白の下着が丸見えになってしまったのだ。

 ・・・・・・その後のことは、正直、思い出したくもない。

 半裸の女性達に、俺がタコ殴りにされてるところに。
 通報を受けた大将軍が駆けつけてきて、俺とエレナはこっぴどく叱られ――その結果。

 王女の護衛中、ビキニ鎧なんか着ていたエレナは、近衛隊長を即刻解雇。
 俺も王女を救ったとはいえ、王族のスカートめくり、という大不敬罪のせいで、宮廷魔道士をクビになったのだった。
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