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違法キメラ製作狂のワガママ小娘捕獲ミッション その二

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「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・この私を怒らせるなんて、どうやら早死にしたいようね」

 ビアンカは、肩で荒い息をしつつ、

「このムカツキは、お前らをギタギタにして解消してやるんだから!」

 ブチ切れた声で叫ぶと、俺たちを、びしっ! と指差し、

「猛犬と女戦士を融合せし、我がキメラの恐怖、とくと思い知れっ。
 さあっ、メルザ。あいつらを叩きのめすのよ!」

 自信満々の表情で言い放つ!
 ――だが、しかし。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「よいしょ、よいしょっ。えっさっさっ」

 犬耳の女戦士は無反応。薬草をパクるのに夢中になっている。

 すたすたすた。

 無言のまま、ビアンカは、キメラ戦士に近づくと、やおら杖の先で、その頭を、ごぃんっ、とぶっ叩き、

「あんたっ! この私を無視するとは、いい度胸してるじゃないの、ええ!」

「ぎゃんっ!? び、ビアンカ様! すいませんっ。
 三十分で籠いっぱい集めなかったら、昼ご飯抜き、と言われてましてので、ついつい・・・・・・・」

「それはもういいから。さっさとあの無礼者をフクロにして、私の偉大さを思い知らせなさいっ!」

「は、はひっ、ただちに」

 叱責されて、びくっ、と小さく震えると、慌ててメルザは立ち上がる。

「もし逃がしたら、あんたの主食は当分ドッグフードだからね」

「ええーっ!? ……い、いえいえっ。とんでもないですっ!」

 ジロリっ、と睨まれ、メルザは、自分より小さい相手に、ぺこぺこ頭を下げる。
 犬耳もふせられ、尻尾も大きく振られていた。

 ――ううむ。犬とのキメラだけに、ごつい見かけによらず、腰の低いヤツ・・・・・。

 メルザは、いそいそと大ぶりのバスター・ソードを抜き放ち、ふと、そこで。

「・・・・・・はっ!?」

 じーっ、と、俺たちに見られてたのに気づくと、こほんっ、と一つせきばらい。
 そして、バスターソードを肩にかつぐように持つと、ずいっ、と歩み出て、
「おうおうおう! ビアンカ様を怒らせるとは、ええ度胸しとんのぅ、ワレ」

 精いっぱい、ドスのきいた声で言う。

「いや、今さら凄まれても」

 俺のツッコミを聞かなかったフリをして、

「噂に聞いたことぐらいあるだろう。我こそは、ビアンカ様第一のキメラ、犬耳のメルザ!」

 高らかに名乗りあげるのに、

「ぜんぜん知らん」

「ぐっ・・・・・・いいもん、これから有名になるから」

 即答した俺に、ちょっと傷ついた様子で言う。

 しかし、小娘の命令で、薬草をせかせかパクる姿からは、大物オーラは微塵も感じない。

「――あ、そういえば」

 不意に、声を上げたのはエレナだった。

「私がまだ騎士だった時。グレイグに、かなり腕の立つ女戦士がいる、と聞いたことあるけど・・・・・・
 確か、その名前がメルザだったような・・・・・・」

「そ、そうそう。それ私」

 尻尾を振りつつ、なぜか嬉しそうに自分を指差すメルザに、エレナは、ひょいと肩をすくめて、

「でもまさか。飼い犬キメラになってるとは思わなかったわね」

「か、飼い犬じゃない! ただのパシリだっ!」

 ムキになって否定する。

 ・・・・・・あんまし変わんない気もするが。

「ううむ。落ちぶれ度では、エレナと互角、か・・・・・」

 ごぃんっ!

 エレナの剣の峰が、俺の後頭部をぶっ叩く。

「次同じこと言ったら、刃の方で叩くから」

「いてて・・・・・・。それ、普通に死んじゃうし」

 ジト目で言うエレナから、俺はじりじりと後ずさる。と、そこに。

「このメルザを飼い犬呼ばわりとは、許せぬ」

 メルザは、バスター・ソードを構え、

「さあ、フードを脱いで勝負しろ! 叩きのめしてやるっ!」

「そうだ、脱げ脱げ」

「あんたは黙ってなさいっ」

「心配してるのに」

「スケベ心が九割でしょうがっ!」

「・・・・・・うぬぬ。

 フードも脱がずに、このメルザと戦うだと?」

 俺たちのやりとりを聞くメルザの顔が、怒りにゆがむ。

「その思い上がり、すぐに後悔させてやるわっ! うおおおおおおおおおっ!」

 雄たけびあげつつ、こちらに向かって突進してくる! 猛犬を思わせるスピードで!

「とにかく。 あんたは絶対、呪文を使わないこと! いいわねっ」

 念押しすると、エレナは、振り向きざまに走り出す! メルザを向かい撃つために。

 エレナのフードが風をまき、バサバサと翻り――二人の姿が重なった、その途端。

 ぎぃんっ! きぃんっ、ぎぃんっ!

 甲高い剣戟の音が響き、火花が飛ぶ。そして、

「ふははははははっ。このメルザの恐怖、思い知らせ・・・・・・」

 どばきっ!

 打撃音を残して、二人の姿が交差する。

「・・・・・・ね。フードを脱ぐ必要、なかったでしょ?」

 エレナが肩越しに振り向き、微笑むのと同時に。

「きゃいーん。」

 ばたりっ。

 罵倒の言葉も半ばに、メルザは大地に倒れ伏した。

「・・・・・・チッ。しょせん、荷物持ちにしか使えない不良品か・・・・・・」

 いまいましげに舌打ちするビアンカ。

「ま、誰かさんにコキ使われてるせいで、稽古がおろそかになってたんでしょ」

 右手を腰に当て、涼しい顔で言うエレナ。
 その美貌には、汗一つかいてない。

 おそらくメルザには、エレナが動きにくいフードを着ている、という油断もあったのだろう。
 しかし、今のエレナは、あるマジック・アーマーによって風の魔力を付与され、素早さが大幅にアップしているのだ。
 女ながらに、若くして王国の騎士にまでなったその腕に、風魔法の防具までつけているのだから、正直、少し離れた俺の目でさえ、その動きにはなかなか追いつけない。
 ・・・・・・最も、その『マジック・アーマー』のせいで、フードを着たまま戦っているわけだが・・・・・・
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