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違法キメラ製作狂のワガママ小娘捕獲ミッション その一

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「そこまでよ、密猟者ども!」 

 茂みから飛び出すなり、エレナは、びしっと剣先を、茶を飲む少女に向かって突きつける。 
 木立に、凛とした声が響いた。

「・・・・・・あら、なんだ。また新顔が来たの」

 しかし、密猟少女は、チラリと横目でエレナを見やると、悪びれた様子すら見せず、

「あなたで何十人目? あれだけコテンパンに返り討ちにしてるのに、よくこりないわねー。全く、学習能力のない愚民はこれだから・・・・・・」

 あきれた口調でつぶやくと、くいっ、と紅茶を飲みほした。

「な、なんですってーっ!」
 エレナのこめかみに、ピキッ、と青筋が立つ。

 おチビのくせに、やたら態度がデカイこの娘は、貴族の令嬢にして密猟犯、ビアンカ=ベアズリー。
 わずか十二歳で、王立の魔法学院に入学した秀才なのだが・・・・・・・。
 禁忌に外れたキメラ研究ばかりするので、そっこう破門になったらしい。
 そして今では。有名なマッド・キメラクリエイタ―となり――
 キメラの素材獲得のため、密猟や盗みを繰り返しているという。
 いわゆる『頭が良すぎて、電波娘になっちゃった』パターンらしい。

 ビアンカは、人形のように愛らしい顔に嘲笑を浮かべて、

「だいたい、この私が、こんな小国までわざわざ密猟にきてやってるんだから、むしろ光栄に思いなさいよね」
「ハァ? なんで感謝しなきゃいけないのよ。盗人猛々しいにもほどがあるでしょ」

 高慢すぎる言葉に、あっけにとられるエレナ。

「フフン、そんなこともわからないの? まあいいわ。教えてあげるから、よーく聞きなさい」

 ビアンカは、金髪巻き毛をサラリとかきあげ、

「いい? 私が魔法薬を集めてるのは、最強のキメラを作るためなのっ! その崇高な目的の前に、ミジンコ小国の法律など、何の価値もないのは当然! それどころか。偉大な研究に協力できて、感謝感激すべきでしょっ!
 ・・・・・・どう、わかったかしら?」

 陶酔しきった口調でほざくと、顎を反らす。

「・・・・・・よーくわかったわ」

 エレナは、こめかみ押さえて、

「あんたが噂通りの、社会不適格者だってことがね」

「あらあら。せっかくオーガでもわかるぐらい、丁寧に説明したのに。野卑な冒険者には、それでも高尚すぎちゃったか」

「どこが高尚よっ、私利私欲オンリーじゃないっ!」

 二人の視線が火花を散らした、まさにその時。

「あー。そういえば」

 俺はふと、あることを思い出し、ぽんっ、と手を打つと、

「その薬草には――豊胸効果もある、って噂が流れてたっけ。密猟事件がはじまる、ちょうど数日前に」

「なっ・・・・・・!?」

 急に真っ赤になったビアンカは、慌てて胸を押さえる。
 可愛くも生意気そうな顔立ちと、ちんまい体格にふさわしく。そこは背中と言われても納得しそうなほどペタンコだった。

「・・・・・・図星か」
「ふ、ふんっ。なにほざいてんの、この視姦魔道士」 
 ビアンカは、やや引きつった笑みを浮かると、腕を組み、

「私みたいな超天才にはね、身体コンプレックスなんて低レベルなこと、どーでもいいのよっ。
 胸の大きさにこだわるなんて、愚民の証だわ!」

「そうだな。ペチャパイでも気にするな」

「ペチャパイ言うなーーーーっ!」

 思いっきりこだわってた。

「ていうか。半月も密猟し続けてそれじゃ、やっぱデマだったか」

「だーかーらっ! 違うって言ってるでしょっ!
 胸を大きくするためじゃなくて、最強のキメラを作るためなのっ!」

 ビアンカは、悔しげに拳を震わせつつ、

「ぐぐぅ。場末の冒険者ごときに舐められるとは・・・・・・これで胸さえボインボインなら、真のパーフェクト・レディなのにぃ。
 そうすれば、きっとお兄様のハートも・・・・・・!」

「いや、他にも足りてないだろ。背とか常識とか」

「な、なんですって~っ!」

「全く・・・・・・お子様はズルしないで、牛乳一気飲みでもしてなさい」

 腕組み、あきれた調子でつぶやくエレナに、ビアンカは、腕をぶんぶん振り、

「し、失礼ねっ! お子様じゃないわよっ! これでも十六歳なんだからっ!」

『え。』

 俺とエレナの声がハモった。
 思わず、まじまじとビアンカの体を見つめる。

 背はかろうじて、百五十センチあるかないか。
 小柄な肢体を、ゴスロリ衣装が包んでいる様子は、まるで西洋人形のようだった。
 とても貴族の義務教育を終えてるように見えないのだが・・・・・まさか、これで十六歳とは。

「ま、まあ。十六歳から成長する人もいるみたいだし・・・・・・ごくまれに。」

「ごめんな。本当のこと言って」

 慌てて苦しいフォローをするエレナ。とりあえず謝る俺。

「う、ぅぅぅぅぅぅ・・・・・・っ!」

 うつむいたビアンカの肩が、プルプル震え――
 いけね。泣かしちゃったかな。
 ちょっと罪悪感を感じた次の瞬間、

「哀れんだ目で見るなゴミどもがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!」

 貧乳娘の絶叫が、森の空気を震わせた。
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