上 下
92 / 119
第六章 ダンジョン編

第86話 持ってる男

しおりを挟む
 中央大陸の北西に位置する都市ヨゴオートノ。娯楽や催し物が盛んであることから興行都市とも呼ばれている。

 今は亡き元国王ヨーゴは興行好きであった。身を引いた後は災害から復興したあとの娯楽を考えた事業を興すことに注力していた。
 ヨーゴが考えたのは発掘された迷宮を利用したダンジョン計画だ。

 迷宮内の各所に財宝を設置するまでは良かった。冒険好きが集まるだろう。だが、それだけでは面白くないと考えたヨーゴは劣悪な環境に強い植物の種を迷宮の至る所にまき、植物が育ち始めると生け捕りにした動物を迷宮内に解き放った。
 水場は地底湖など元からある。あとは自然の摂理に任せるだけだ。
 冒険者が迷っても水があり、植物、動物が生息する環境ならばしばらくは生き残れるだろうという考えだった。
 やがてヨーゴはとんでもないことをしでかしたと気づいた。迷宮内でもスライムが発生し出したのだ。
 その後、迷宮からモンスターが湧き出るようになり迷宮への入り口は封鎖された。

 ヨーゴの計画は頓挫したかに思えたが抗魔玉の力を伝達する武器の登場で風向きが変わった。武器があればモンスターを容易に倒せる。モンスターが落とす魔石や素材は金になる。
 計画頓挫から十数年後、ヨーゴは迷宮をダンジョンとして解放する事にした。

 南西側にある2つの迷宮はダンジョン1、ダンジョン2
 北東側にある2つの迷宮はダンジョン3、ダンジョン4

 数字が大きいダンジョンがよりモンスターが多く危険度が高い。今ではダンジョン1、2の中間、ダンジョン3,4の中間に小さな宿場町ができていてダンジョンに挑む討伐者は大抵そこに集まっている。

 現在、ダンジョンを管理する興行主は元国王ヨーゴの意思を強く引き継いでいる子孫のレヨゴという人物だ。都市の中枢機関はレヨゴが元王家だと知っているので強く苦言できない。実際、ダンジョン興行は上手くいっていて、他の土地からも噂を聞いた討伐者がダンジョン目当てで多く集まって来ている。文句のつけようがない。

 ヨゴオートノ管轄区域には力自慢をしたい猛者が多いので都市には闘技場まであり、賭け事も盛んだ。賞金、賞品を受け取った勝者を影で狙う輩も現れている。
 そこでできたルールが『鉄の掟』。
 当初は勝者を狙った者はモンスターと同様の扱いで生死問わずのクエスト対象としてギルドに依頼するというものだった。今では勝者を討伐者に置き換え、討伐者全員で追い込むという意味に変えて世界各地のギルドにその文言が飾ってある。

◇◇

 ユニオン・ギルズ。
 ギルをリーダーとした討伐者パーティーの4人は都市内の闘技場に来ている。闘技場内に解き放たれたモンスターを倒す催しの大会にギルは単独で参加していた。

 一回戦の結果。
 一位 チーム ワイルド・レオ(3名) 魔石6個
 二位 チーム 三槍無双(3名) 魔石5個
 同位 ギル 魔石5個
 四位 チーム ルーキークラブ(3名) 魔石4個

「現在大会のトップは魔石6個獲得のワイルド・レオ!
 武器のパイオニアであるワイルド・ライツ社の回し者か~。
 次点で三槍無双の槍三人組!
 なんとそれに並んで単独で参加しているギル選手が魔石5個を獲得しております!
 ルーキークラブは序盤で負傷者が出た為、思うようにモンスターを倒せていない状況でしたー。さて、二回戦はどうなるのでしょう~」

 ワー、ワー。

◇◇

 選手控室。二回戦開始までは30分の休憩時間がある。

 汗をかいて座っているギルにタズは声をかけた。

「ギルさん、今、2位ですよ! 凄いですー」
「あの若い三人がドジっただけだ。それにワイルド・レオの大剣持ったレオってやつ。あいつ一人で爪猫倒してやがった。他の二人は防御はしても見てただけだ。槍の三人組はバッチリ連携してやがる。やっぱ一人じゃ勝ち目ないかもな~」

 チーム ワイルド・レオはそのまま三人組の討伐者パーティーである。

 レオ(リーダー)・・・20歳、身長200cm。均整の取れた体格に引き締まった筋肉。ライオンの鬣のようなボサボサ頭の男。
 クルーロ・・・21歳、身長167cm。標準的な体型だが珍しい白髪の色白な男。
 リサレーチナ・・・19歳、身長160cm。猫耳フードを被った猫好きの女。モンスターの猫は可愛くないので許さない。

 実はこの三人がメルクベルの博士の邸宅の部屋を留守にしているメンバーだ。

「ねー、レオ。ボクたちワイルド・ライツ社の回し者って言われてたにゃ?
 パーティー名にワイルドってつけたの失敗にゃ?」
「手持ちの武器はワイルド・ライツ製なんだからあながちウソとは言えんだろ?」
「確かに世話にはなってるけど、俺は回し者じゃねーし。心外だよ!」
「名前が売れればどうでもいいじゃねーか?」
「レオに任せたのは俺たちだけど、ワイルドなんてつけるから悪目立ちすんだよ。
 パーティー名そのまんまチーム名で使っちゃうし」
「ボクは名前なんてどうでもいいにゃ。
 しいて言うならレオよりキャットが良かったにゃ?」

「皆様、そろそろ三回戦のお時間です。各人闘技場へお入り下さい。
 尚、ルーキークラブが棄権を申し出た為、二回戦は残り7名で実施されます。
 相手は牙犬20体に変わりありません。
 命の危険を感じた場合は闘技場内に設置してある柵へ逃げ込んで下さい。
 ただし、試合中柵に逃げ込んだ選手は棄権とみなされます」

 二回戦の結果。
 一位 チーム ワイルド・レオ(3名) 魔石7個 計13個
 二位 ギル 魔石7個 計12個
 三位 チーム 三槍無双(3名) 魔石6個 計11個

「なんとなんと、ギル選手が単独で2位をキープ! 大接戦です。
 これは三回戦まで分からないですよ~。
 尚、最終結果が魔石同数の場合、オッズは分配。
 優勝賞品はくじ引きでの授与となります」

 ワー、ワー。

◇◇

 選手控室。

「ねー、レオ。ホントにボクたち見てるだけでいいのかにゃ?」
「お前ら得意じゃねー短剣と盾持ってるじゃねーか?
 そもそもやる気なんてねーんだろ?」
「うっ、ボクはクルーロが言うからにゃ」
「ははー、バレてたか。それに俺の得意とする武器はここには置いてないもんな。
 でも、見てるだけでいいって言ったのレオだぞ」
「分かってるって。勝ちが目的じゃねーし。
 これはお前らが頼んでる防具ができるまでの退屈しのぎさ」
「退屈しのぎで30万も出して俺らも参加させる意味あんの?」
「ダンジョンで稼いだから金は使ってもいいだろ?
 オレに向かってくるモンスター少ないから追うの面倒なんだよ。お前らはエサだ」
「おいっ! エサだと? 一応、俺のほうがレオより年上なんだからな。
 チナ、絶対レオに協力すんなよ!」
「もうまた。チナって言わないでって言ってるにゃ。
 ボクの名はリサレーチナにゃ」
「チナでいいだろ?
 長えしさっきは名前なんてどうでもいいって言ってたじゃねーか?」
「レオまで・・・。なんで名前の後ろ側を取るにゃ。
 短くするならせめてリサにゃ!」
「「リサって感じじゃねー」」
「にゃ~! どういう意味にゃ!」

「皆様、そろそろ三回戦のお時間です。各人闘技場へお入り下さい」

「さてと、行くか。多分、勝つのは単独で参加しているあいつだろ?」
「なんでレオじゃないんだよ?」
「オレの大剣、あと何回もつと思う?」
「あ、もう壊れんの? バカ力で叩きつけるからだよ」
「量産品だからな。手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「誰が手伝うか!」
「ボクも手伝わないにゃ!」

 三回戦の結果。
 一位 ギル 魔石5個 計17個
 二位 チーム ワイルド・レオ 魔石3個 計16個
 三位 チーム 三槍無双 魔石2個 計13個

「なんと、なんと、なんと! 大番狂わせが起きました!
 単独参加のギル選手の勝利です~!
 レオ選手の大剣が崩壊したのが痛かったですね~。
 どうしてあれが壊れるんでしょう?
 ワイルド・レオは早々に諦めて三人とも脇で座ってしまう始末。
 なのにモンスターは彼らに近づきもしませんでした。
 一方で三槍無双は同時に3体のモンスターに襲われ大苦戦。
 2体倒したところでギル選手に最後の1体を持っていかれた感じでしたね。
 素晴らしい戦いを見せてくれました! 次回の開催をお楽しみに~!」

 ワー、ワー。

 観戦席で見ていたタズたちは結果に驚いていた。

「ギルさん勝っちゃいましたね」
「持ってるわねー。ギルって時々バカみたいにツイてるときあるわよね?」
「そう言われると船のときもそうでしたね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

天使の国のシャイニー

悠月かな(ゆづきかな)
ファンタジー
天使の国で生まれたシャイニーは翼と髪が虹色に輝く、不思議な力を持った天使。 しかし、臆病で寂しがり屋の男の子です。 名付け親のハーニーと離れるのが寂しくて、泣き続けるシャイニーを元気付けた、自信家だけど優しいフレーム。 性格は正反対ですが、2人はお互いを支え合う親友となります。 天使達の学びは、楽しく不思議な学び。 自分達の部屋やパーティー会場を作ったり、かくれんぼや、教師ラフィの百科事典から様々なものが飛び出してきたり… 楽しい学びに2人は、ワクワクしながら立派な天使に成長できるよう頑張ります。 しかし、フレームに不穏な影が忍び寄ります。 時折、聞こえる不気味な声… そして、少しずつ変化する自分の心…フレームは戸惑います。 一方、シャイニーは不思議な力が開花していきます。 そして、比例するように徐々に逞しくなっていきます。 ある日、シャイニーは学びのかくれんぼの最中、不思議な扉に吸い込まれてしまいます。 扉の奥では、女の子が泣いていました。 声をかけてもシャイニーの声は聞こえません。 困り果てたシャイニーは、気付けば不思議な扉のあった通路に戻っていました。 シャイニーは、その女の子の事が頭から離れなくなりました。 そんな時、天使達が修業の旅に行く事になります。 5つの惑星から好きな惑星を選び、人間を守る修業の旅です。 シャイニーは、かくれんぼの最中に出会った女の子に会う為に地球を選びます。 シャイニーやフレームは無事に修業を終える事ができるのか… 天使長サビィや教師のラフィ、名付け親のハーニーは、特別な力を持つ2人の成長を心配しながらも温かく見守り応援しています。 シャイニーが成長するに従い、フレームと微妙に掛け違いが生じていきます。 シャイニーが、時には悩み苦しみ挫折をしながらも、立派な天使を目指す成長物語です。 シャイニーの成長を見守って頂けると嬉しいです。 小説家になろうさんとエブリスタさん、NOVEL DAYSさんでも投稿しています。

処理中です...