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第五章 狩場の山編

第82話 それぞれの思い

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 ユニコーンとの戦闘を回避できた一同は落ち着きを取り戻しつつあった。
 バンは動けないイズハの脇腹の治癒を開始している。他の負傷箇所には皆が持っていたポーションを集めて振りかけた。

「イズハさん、すぐに手持ちのポーションを脇腹に使ったのはいい判断でした。
 命拾いしましたね」

 バンはイズハの脇腹に治癒のロッドのブースト5倍でできる限りの治癒を施した。イズハの脇腹の傷が塞がっていく。

「あ、ありがとうございます。
 さっきのはいったい何だったっすか? ユニコーンって頂上にいるはずじゃ?」

「イズハさんが猿に手を出したことによってユニコーンが現れたのだと思います。
 小ギルドで使いの猿には手を出すなと言われていたのですが・・・」
「そうだったっすか、申し訳ないっす。自分把握してなかったっす」

 ロッカはユニコーンが戻って行った山頂を見ている。

「あそこまで直線距離でも500~600mはあるわよ。
 まさか、ユニコーンがあんな一瞬で8層まで降りてくるなんてね。
 あいつとまともに戦っていたら私たち全滅してたわ。
 あれで去ってくれたのは運が良かったとしか言えないわね」

「あいつ、何で引き返して行ったんですかね?
 俺たちは助かったけど」

「う~ん。ちょうどここが縄張りの境界だったのかもしれないわ」

「ホント、引き返してくれて良かった。
 ユニコーンが全身武装の馬だったなんて。
 僕の見間違えじゃなければ、あれ着込みじゃなくて体から生えてたよな?」

「俺にもそう見えました。それに剣、食べてましたよね?」

 イズハの治療を終えたバンは立ち上がった。

「ユニオン・ギルズから得た情報は正しかったようですね。
 『ユニコーンは猿を使って武器・防具を集めさせ、それを食べている』。
 聞いたときは信じられませんでしたが、あの姿を見て納得がいきました。
 ユニコーンは馬と武器・防具を同時に取り込んだ複合体のモンスターです」

 ユニコーンは体から生えた武器を飛ばす。飛ばした武器が本体に戻ったことを踏まえると、念糸で繋がっているのではないかという話だ。中宿で討伐した複合体の針蜂の周りにいた小さな針蜂たちが武器に置き換わった感じだと。

「9層にモンスターが少ないっていうのも頷けるわ。
 あんな化け物が頂上にいたら近づきたくないでしょうね」

 知るすべはないが、9層にモンスターが少ないのにはもう一つの理由がある。
 9層では猿たちが回収した武器に着いた抗魔玉を石や棒を使い粉砕していて、微量だが抗魔玉の力があちこちに散布されている状態だからである。
 猿たちは微量とはいえ抗魔玉の力が平気なのかというとそうではない。ユニコーンの命令に従順なだけである。

「しかし、納得いかないわ。
 ギルドはユニコーンが武器を食べるのを知ってて情報を隠しているのよね?」

「さしずめ狩場の山に来た討伐者はユニコーンへの供え物という事でしょうか?」

「チッ、何も知らない討伐者がいいように使われているってわけね」

「ですが討伐者がこの山に来なくなったら、餌を求めてユニコーンが麓に降りてくる恐れがあります。不本意ですが対策が打ち出されるまでは私たちもこの情報は秘匿にすべきです」

 トウマが割り込んだ。

「誰かが武器や防具を定期的に持って行くとかすればいいんじゃないですか?
 お供え物みたいな感じで」
「ギルドがそんなことするわけないわよ。
 費用かかるし、クエスト出してる側の面子もあるわ」

 これも知るすべはないが、ユニコーンは狩場の山の頂上に生えている癒し草が主食である。それが頂上にいる理由だ。頂上に生えている癒し草は高品質で上級ポーションの原料として使われているものと同等なのだ。
 ユニコーンは猿に集めさせた武器・防具をおやつ感覚で食べているのだが、おやつが食べたくなって降りてくる可能性は十分にある。

 一同はモンスター討伐を切り上げて戻ることにした。

「次、ここに来るときはあいつを倒すときよ!」
「ロッカ、それ本気で言ってる?」
「当たり前よ! まだ無理だけど、まだってだけだからね」

 ロッカはやる気満々か。
 あいつと戦うには飛んでくる武器をさばけるくらいにならないとダメだよな?
 俺ももっと強くならないと。

 イズハは思った。
 皆に迷惑をかけたっす。次は絶対貢献するっすよ。

 バンは思った。
 イズハさんは負傷してしまいましたけど、ユニコーンをここで見れたのは大きいです。知らずに挑んでいれば全滅していたのは間違いない。
 対策を考えておかなければ。

 ロッカは思った。
 あいつとやり合うには新しい武器が必要になるかもしれない。
 使いたくないけど、盾を使うことも考えないとダメか。

 セキトモは思った。
 果たしてあの攻撃を防ぎ切れるだろうか?
 いや、僕が皆を守ってみせる!

 あれほどの脅威を目にして誰も逃げ腰な考えではなかった。

 それぞれが思いを抱き狩場の山に挑む最終日を終え、オドブレイクに戻った。

【モンスター素材報酬】
 ゴム兎の耳・大 1本 1万8千エーペル
 爪狐の尻尾・大 1本 25万エーペル
 角鹿の角・大 1本 10万エーペル
 角鹿の角・中 1本 3万エーペル
 爪狸の尻尾・小 1本 7千エーペル
 牙蛇の尻尾側の皮・大 1枚 10万エーペル
 爪蜥蜴の爪・中 2本 4万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小(不純物あり) 8個 4万8千エーペル
 魔石・中(不純物あり) 6個 48万エーペル

 合計 284万3千エーペル。
 分け前は一人50万ずつにして、残りはパーティー管理費に回す。

「今回の遠征で皆、100万以上は稼げたわね!」
「狩場の山はクエストではありませんでしたし、この稼ぎなら十分な成果でしょう」

「ユニコーンにさえ出会わなければなぁ~」
「申し訳ないっす」
「トウマ、あまりイズハを責めるなよ。
 皆、無事だったんだ。それはもういいじゃないか」
「そうですね。元々、見てみたいって言ってたの俺たちなんで」
「そういう意味では二人の願いは叶ったな。わはは」
「おかげで死にかけたっすよ」
「それは自業自得でしょ。猿に手を出したイズハが悪いのよ」
「ロッカまで。もうそれを蒸し返さない!」
「あはは、バンに怒られてるし」
「トウマ、あんたが言い出したんでしょうが!」

 オドブレイク最後の夜ということで、夕食は少し豪華にして今回の遠征から皆、無事に帰れることを祝った。

◇◇

翌日-----。

 スレーム・ガングの5人はこの日のうちにメルクベルに戻る為、早朝にオドブレイクを出発した。遠征用に持ってきた食料はほぼ無くなっているので帰りのほうが荷物は軽くなっているはずだ。ここは馬次郎に頑張って貰う。なにせ一日で100km近く運んでもらうのだから。

 2時間おきに小休憩。メルクベルに到着したのは夕方遅くだった。

「先にギルドに寄って行きで達成したクエストの報酬を受け取りましょう」
「馬次郎、もう少しだけ頑張って」

 馬次郎は少しバテているように見えたが頷いた。

【爪キジ討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 5万エーペル

【角ヤギ討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 6万エーペル

 合計 11万エーペル。
 分け前は一人2万ずつにして、残りはパーティー管理費に回す。

 期間が空いていたので依頼書は補充されていた。誰かに無駄足させたかもしれないが致し方なしだ。クエストの取り下げまではされていなかったので誰も挑んでいなかったと思いたい。ちなみに各門近くにあるギルドのクエストは共通なので剥がされた依頼書の数は定期的に確認されて合わせてあるようだ。同時刻に剥がされた場合に関しては考慮されていない。結果は一つなので早い者勝ちに変わりはないからだ。

◇◇

 一同が博士の邸宅に戻ると、思ってもいなかった事態が発生していた。

 もう少し先の話だと思っていた。
 その時はあまりにも早過ぎた。

 博士が中央に戻って来ていたのだ。
 イラックと一緒に出迎えに出てきてくれた博士を見て、一同は驚いた。

「やあ! 皆、生きて戻ったようだな」
「な、なんで博士が戻ってるのよ! 数か月はかかるって言ってたのに」
「おい、おい、ロッカ君。
 せっかく急いで戻ってきたのにその反応はないだろ?」

 イズハだけが初対面だ。

「この方が皆さんが言ってた博士っすか?」

 イズハは素早く博士の元に行き、挨拶した。

「自分はイズハと申します。
 アーマグラスの街で契約して頂いた者です。宜しくお願いします」
「ほう。君がイズハ君か。
 バン君からの報告は受けている。元観測者だそうだな。これから宜しく頼む」

 ロッカの表情は険しい。
 博士が戻る前に難易度Aのモンスターを攻略するという目標はここで潰えたのだ。

「博士のバカ! 戻って来るの早過ぎるのよ!」
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