スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

亜形

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第一章 バルンバッセ編

第28話 旅立ち

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 特急クエストを終えたトウマたち4人は馬車で森の近くの集落からバルンバッセの街に戻っている最中だ。

 セキトモはロッカに聞いた。

「ところでロッカ。
 最後、あの堅い熊を短剣で斬ってたけど、あれどうやってたんだ?」
「あ、それ! 俺も気になってました。
 普通に斬っても刃が通らなかったのに何で?」

 ロッカはもう明かしても良いだろうといった感じでバンを見て答えた。

「二人が聞きたいのは抗魔玉の力の解放のことね?
 トウマも一度だけやったことあるわよ」
「え?! 俺も?」
「蜘蛛のときよ。バンなんてロッドでしょっちゅう使ってるでしょ?」

「私たちは抗魔玉の力の解放をブーストと呼んでいます。
 どう伝えればよいか分かりませんが・・・。
 言うならば、『』。
 抗魔玉の力の出力を討伐者の意志の力で倍増させるのです。出力を上げる訳ですから威力は上がりますがその分、抗魔玉の力の消費も早くなります」

「そんな事出来るんだ。奥が深いな・・・」

「私はロッドでブースト2倍か3倍を使うことが多いですが・・・。
 そうですね、ブースト2倍だと1分で力を2分消費すると考えるとよいかと。
 ロッカが熊相手に使ったのはブースト4倍ですよね?」

「正解! バン、よく分かったわね。
 あれやると何か持っていかれるみたいで疲れるのよ。
 バンが熊に使った炎リングなんて炎の球のブースト5倍だったでしょ?
 10分しかもたない抗魔玉の力を1発で5分持っていくのよ。よく疲れないわね?」

「私は体力を削られる感じはしませんがあれが今の私の限界ですね。
 あれ以上は出せません」

「解放倍率の限界は別として、疲れないのってバンの体力が有り余ってるからなんじゃない?」

「そうなんでしょうか? ロッカが短剣2本なので倍疲れているということは?
 そもそも疲れるものなのかも」

 何か話がややこしくなったが二人とも原理は分かっていないのだ。
 実際は全身の力を程よく抜いた状態で集中力を高め、所謂ゾーンに入った状態で意志を抗魔玉に伝えると力が解放される。倍率は本人が持つ精神力の強さを元に意志を伝える想像力の強さで調整できるのだ。
 体力の消耗ではないが集中力を高め意志を伝える精神的な消耗が激しいので疲れるというロッカの表現はあながち間違いとは言えない。

「それって、僕でも出来るようになるのかな?」

「どうでしょうね? 何かきっかけがあれば出来るようになるかもしれません。
 ですが倍率調整も難しいですし、すぐに出来るものではありませんよ」

「私は最初から使えたわよ。きっと天・才ね!」

「うふふ。確かにロッカは特別でしたね。
 通常飛び越えていきなりブースト3倍出してましたから。
 通常に抑えるよう訓練するほうが大変でしたもの」
「バン、それ言うー?」

「セキトモさん、俺、1回やった事あるって。
 やり方全然覚えてないんですけど・・・」

 トウマは蜘蛛戦の時、麻痺が残っていたので意図せず程よく力が抜けていた。集中力を高めた際、ゾーンに入り、偶然、抗魔玉に意志が伝わったのだ。意図的に力を解放できた訳ではない。

「下手に解放するとあっという間に抗魔玉の力無くなるからね。
 戦闘中に切れたらあとが大変なことになるわよ。
 トウマ、時間管理できてんの?」

「俺、使えてもヤバいじゃん」

「まあ、ブーストは個人の技の一つって事よ!」

◇◇

 特急クエストに参加した討伐者たちが街に戻ると、ギルドのオッサンたちと街に残った討伐者たちが迎え入れた。何故か巨大爪熊討伐成功の報告をする前に結果を知っていたようで喜んでいた。観測者によるいち早い報告があったらしい。

「そういえば集落で時々、黒ずくめの軽装備した二人組見かけましたよね?
 すぐ居なくなってたけど」
「トウマよく気づいたわね。そいつらが観測者よ。
 顔はフードやマスクで隠してるし、物語の本に出てくる忍者みたいなやつら」
「私も見かけましたよ」
「うっそ?! 僕は全然気づかなかったな」

 観測者は熟練ともなると気配を完全に消し、探そうと思って見つけないとそこに居ることにすら全く気付かないらしい。仮に見つけて話しかけたとしても大抵は「仕事ですので、お構いなく」という返事があるだけのようだ。なので観測者から直接情報を引き出そうとしても何も話してくれないとか。

◇◇

 ギルドの屋内では特急クエスト参加者たちへの追加報酬査定で聞き取りが始まっている。参加した討伐者同士はお互い褒め称え合い、足を引っ張り合うことはない。追加報酬を巡り、ギルドとの壮絶な戦いが始まった。

 ロッカもそれに参戦。

「はぁ? 難易度B?
 まず、そこから間違ってるのよ! どう考えても難易度Aでしょ!」

 他の討伐者たちも報酬を吊り上げるために賛同した。難易度BとAでは大違いだ。

「「「そーだ! そーだ!」」」

 カウンターのオッサンは対抗した。

「しかしだな、結局お前ら4人だけで熊倒したんだろ?
 少人数で倒せるんならそこまでじゃないんじゃねえか?」
「それは私たちが熊より強かったってだけよ!」

 ラフロが参戦。

「ロッカの言う通りだ! ありゃ、とんでもねー化け物だったぜ!」

(ラフロ、あんた熊見てないでしょ?)
(話は盛るもんだぜ!)

 たじろぐオッサン。
 ロッカはここぞとばかりに特大の魔石をカウンターの上に置いた。

「これ見てみなさいよ!
 これは魔石・大ですか~? どっからどう見ても特大でしょうが!
 しかもこれ見て。青いカビみたいな不純物まで沢山混じっているわ」

 再び乗っかるラフロ。

「オッサン、こんなでかい魔石見たことあるか? 俺は見たことねーぜ」

「う、う~む・・・」

 結果はロッカの押し切り勝ち!
 討伐難易度はAに変更された。一同拍手喝采。
 ロッカとラフロはお互いに親指を立てて合図をかわした。

 追加報酬を個人査定で出すのは面倒という理由から報酬はラフロが編成した4チームのチーム単位で出されることになった。あとは勝手にチーム内で振り分けろってことだ。討伐者が全員生き残って追悼しなくて良かったということも考慮に加わり、査定結果が出た。

 当然ながら巨大爪熊を倒したトウマチームがぶっちぎりの1位で500万エーペル。バンの負傷者治療も貢献度が高い。
 次いで2位はラフロチームで250万エーペル。ラフロが討伐指揮を取ったことが大きかった。
 あとの2チームはドングリの背比べで150万エーペルずつ。それでも一人頭、最低20万エーペルにはなったようだ。
 あとでチーム内で揉めるなよーとカウンターのオッサンが一言付け加えた。

 トウマたちは換金で52万6千エーペルも受け取った。

【素材】
 巨大爪熊の爪 20万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・特大 1個 32万エーペル
 魔石・小 2個 6千エーペル(牙蛇、牙猪)

 牙猪の分は皆で分けないで良いとのことでセキトモと二人で分けてトウマの取り分は138万1千5百エーペルだった。
 先に全員が受け取っている参加報酬10万エーペルもある。

 一気に凄い額になってしまった。

 トウマとセキトモは顔を見合わせてニヤけた。

◇◇

そして3日後-----。

 トウマ、ロッカ、バン、セキトモの四人は、博士が用意した馬車の荷台に旅の荷物を載せている。

「準備は整ったわね?」
「同じやつだけど熊に壊された胸当ても買い直したし、バッチリですよ!」
「少し名残り惜しいけど、この街とはサヨナラだ。
 旅支度が間に合ってよかった」
「俺が手伝ったおかげでしょ?」
「そうだね、助かったよ。
 そう言えば忘れてたけど、僕もパーティーに加わると玩具扱いなのかな?」
「あ、忘れてた。ロッカ! 何だあのパーティー名は!」
「あら、気づいたのね? 遅っ、あはは」

 トウマはロッカを追い掛け回したがやはりロッカは捕まらない。

 ギルドに登録した情報は数日後には世界中の提携ギルドに伝達される。つまりパーティーを解散するか、パーティー名を変えない限りどの街に行っても変わらないのだ。バンもパーティー名についてはロッカに任せていて知らなかったようでロッカは怒られた。
 この後、旅の途中パーティー名を決め直すことになるのだった。

「さみしくなるな・・・」
「博士、先に中央に戻って待っていますから」

「そうだな。私はまだここでやることが残っているし、数か月の辛抱だ。
 ・・・耐えられると思うか?」

 苦笑いするバン。

「皆、気を付けて行くんだぞ!」

 四人は中央大陸へ向けて旅立った。






*―――(あとがき)―――*

読んで下さった方、ありがとうございました!
第一章はこれにて終わりです。


では次の章へ・・・の前に閑話入れます。

※先におことわり
 この先はまだ終わりを決めてないです。好きに書いてます。

あしからず。
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