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第一章 バルンバッセ編

第2話 スライム初討伐

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 街の外に出たトウマが分裂させてしまったスライム群を探していると、衛兵二人が槍を使ってスライムを次々に討伐しているのを見つけた。

 あ~、遅かった。
 早く抗魔玉の力試してみたかったのに。

 トウマは木に隠れてその様子を窺った。
 衛兵の声はなんとか聞こえる距離だ。

「何匹倒した?」
「5匹くらいかな?」
「俺は10いったかも」
「数はいても大したこと無いからな」

 当然だが衛兵たちが使っている槍は薄白く輝いている。

「この数だからな。魔石回収すればいい小遣いになると思うんだが」
「いいね。拾っていくか」
「それがさ、さっきから探してるんだが全然見つからないんだ。
 分裂した複製体のスライムだったのかも?」
「マジか」
「まぁ、衛兵としての仕事と割り切るしかないな。複製体でも擬態したら厄介だし」
「そうだな。あっ、もう時間切れになりそうだ。そろそろバルンに戻るぞ」

 衛兵たちはスライムが周囲に見当たらないことを確認し、引き上げて行った。

◇◇


 トウマは衛兵たちがスライム討伐していた付近にやって来た。トウマは何となくまだスライム本体が近くにいる気がしていた。

「さてと。まだいるよな?」

 事実スライム本体は複製体が倒されたのに危機を感じたのか草陰に隠れていたようだ。3匹のスライムが草陰からトウマに向けてジリジリとはい出て来た。トウマはこの中にスライム本体がいると感じた。

 こいつら俺が倒せず逃げて行ったヤツだと認識してるな?
 でも、今の俺は違うぞ!

 まだ剣は抜かない。このスライムたちはまだ俺を舐めているはずだ。
 おそらく最後に襲ってくるやつが本体だ。ギリギリまで引き付けよう。

 スライムは体の大半を後ろ側に寄せ、瞬時に前方へ体を投げ出すことで飛びつき襲ってくる。2匹ほぼ同時にトウマの頭めがけて飛びついて来た!
 トウマは片膝をついてスライムの攻撃をかわした。

 あぶねっ。

 次の瞬間、片膝をついたトウマの顔めがけて3匹目が飛びついて来た!

”ズバッ!”

 トウマは下から上へ向けて抜刀した。

“ぐじゅるる・・・”

 真っ二つに切り裂かれたスライムが何とも言い難い音を出した後、ゆっくりと霧散していく・・・。

 やれた? 分裂はしてない。

「おっしゃー! ついにスライムを倒したぞ!」

 トウマは両腕を高々と上げ歓喜した。その時だった。

”べちゃ!べちゃ!”

「うわっ?!」

 喜びも束の間、トウマの後ろから何かが連続でぶつかって来た。前のめりに倒れたトウマは背中に貼りついた経験した事のある感覚で察した。さっきかわしたスライム2匹が襲って来たのだと。

”ジュワ…ジュワ…”

 トウマの肩上から背中にかけて、服の破けている箇所の皮膚が溶け始めた。

「痛っ、ヤバい」

 少し混乱気味なトウマは貼りついたスライムを急いで振り払った。
 振り払ったスライムはまたトウマに飛びかかろうとしている。
 トウマは慌てて剣を探した。スライムを振り払うときに落としたのだ。

「どきなさい!」

 突如、2本の短剣を両手で逆手に構えたフードを被った人物が飛び込んで来た!

 トウマが振り払ったスライムに向けて上からの振り下ろしで一斬り!
 一回転してもう片方に持った短剣でスライムごと地面へ突き刺す、二連撃!
 すぐさまもう一匹のスライムも同様に刺殺。あっという間の出来事だった。
 2匹のスライムは霧散していった・・・。

「危なかったわね。スライム1匹倒したくらいで油断してちゃダメでしょ」

 トウマを助けたのは街で抗魔玉の事を教えてくれた少女だった。彼女はトウマが落とした剣を見た。

「そろそろ時間切れよ」
「時間切れ?」

 トウマは落とした剣を拾うと、刀身を覆っていた薄白い輝きが弱くなっているのに気づいた。

「あれ? なんか輝きが薄れてるような」

「あんた私の話聞いてた? 抗魔玉の力には制限時間があるの。ずっと効力を発揮できる訳じゃないのよ」

 聞いてなかったー。

「なにボーとしてんの。早く剣を鞘に納めなさいよ」

 トウマは彼女に言われるがまま剣を鞘に納めた。

「もう切れかけてたし、しばらくは使えないわね。
 フルで10分くらいしか持たないんだから時間管理は重要なのよ」

 彼女は辺りを見渡し、被っていたフードを取って顔を出した。髪は黒に近い深い赤紫色。至極色しごくいろのショートヘアで、やや釣り目の可愛らしい少女だった。

「周囲にモンスターの気配は無いわ。あんたもバルンに戻るわよ」

 気が抜けたのかトウマは上向きになって寝転び、空を見上げた。

 助かったぁ~。
 とは言え、モンスター初討伐成功だ! スライム1匹だけどね。

 トウマが感慨にふけっていると、助けてくれた少女に小突かれた。

「さっさと行くわよ」

 トウマが気だるい上半身を起こすと彼女は瓶に入った液体をトウマの肩に振りかけた。さきほどスライムに溶かされたトウマの皮膚がみるみる修復されていく・・・。

「おお、すごい。痛みも引いていってる。これ治癒の薬ですか?」

 彼女は悪い顔でニタリと笑った。

「そ、でもタダじゃないわよ。これ高いやつだから。
 あとで代金貰うからね」
「えっ?」

「あとこれ、あそこに落ちていたわ」

 トウマが彼女から受け取った物は、透明感のあるおはじきのような物だった。

「軽い。これは?」
「魔石よ。あんたが倒したスライムが本体だったようね」
「おおー、これが」

 初めて見た。これがモンスターを倒した時に落とす魔石か。
 確か魔石は換金できるって話だったな。
 つーか、スライム本体倒しても複製体とやらは消滅しないのかよ。

 トウマはこの魔石を初討伐記念で大事にとっておくことにした。

「私は『ロッカ』よ。あんたの名前は?」
「俺?」

 そういえば名乗っていなかったな。

「俺は『トウマ』。歳は16になったばかりです。
 助けてくれて本当に有難うございました!」

 トウマは立ち上がり、眼下に見える小さな少女に深々と頭を下げて礼を言った。
 トウマは彼女が小さいので子供かもしれないと思っていた。

「私のほうが年上ね」

◇◇

 トウマたちは近くの街道に出て話しながら街に向かった。

 どうやらロッカは中央大陸からある人物の護衛でこの街にやって来ているらしい。少なくとも護衛出来るくらいお強いお方って事だ。
 トウマは護衛対象ほったらかしで自分の面倒なんか見てていいのだろうか?と思ったがもう一人護衛がいるらしく、その人に任せているそうだ。

「中央大陸かぁ。俺も行ってみたいな~。です」
「無理に言葉遣い変えなくていいから。
 今のあんたじゃ命がいくつあっても足りないわ。
 知識も全然足りて無いようだしアホ丸出し。まずはそこからでしょ?」

「ぐっ…」

 何も言い返せない。

 中央大陸には強いモンスターがいて数も多いらしい。元凶の火山があるからだろう。現状、火山の噴煙は弱まっているらしいが周辺区域はモンスターの巣窟になっているようだ。許可が下りた討伐者以外は立ち入り禁止だとか。

 でも、討伐者になると決めて村を出て来たんだ。
 いつか中央大陸に渡りたいってもんだよな!

◇◇

 二人は街に辿り着き、一旦、宿に戻ってからまた落ち合う事になった。ロッカに治癒の薬の代金を持って来いと言われたのだ。

 服もボロボロだし、さすがに着替えないとな。

 トウマの今までコツコツ貯めてきた資金は約10万エーペル。薪割り、荷物運び、草刈り、畑仕事、畑の柵作り。いろんな手伝いをして稼いだお金だ。村で10万エーペルも稼ぐのは相当大変だったようだ。

 世界で流通している通貨は
 百エーペル・・・銅貨
 千エーペル・・・銀貨
 万エーペル・・・大銀貨
 十万エーペル・・・金貨
 百万エーペル・・・大金貨
 が主流といった感じだ。

 ちなみに10エーペルは銅を丸く潰して10の穴が空いているだけの粒銭である。1エーペルに至っては製造コストのほうが高くて買える物すらないので当の昔に流通する通貨としては廃止されている。

 トウマは2週間くらいは資金はもつだろうと思っていた。だが、この街に来てまだ3日目なのに所持金がすでに6万エーペルまで減っていた。

 生活用品買ったとはいえ、想定していたよりお金の減りが早いんだよな~。
 早く稼げるようにならないとマズいぞ。

 そういえば、ロッカに治癒の薬の代金いくらか聞くのを忘れてた。

 手持ちの資金で足りるよね?
 足りてもヤバいことには変わらないな。どうなるんだ俺・・・。
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