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4章 港湾都市アイラ編

160話 急変

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「ド○ミちゃ~~~~ん!!」
「ひゃあああああああああ!!!!」

 神域に来た俺は○ラミちゃん、もといティアに向かって諸手刈りのような高速タックルを決めてその場に転がすと、そのまま胴に両腕を回して膝枕……にはならんな、母親に甘える童が如くそのお腹に顔を埋める。うん、詩的じゃないか。

「控えめに見ても性犯罪者にしか見えないよ、シン?」

 うるさいドラ○もん! お前のやった悪魔のごとき所業、忘れちゃいねえからな!(前章末参照)

「し、シン……お願いですから離れてください」
「イヤだ! とりあえず俺の壊れそうなメンタルが落ち着くまでもう少しだけこのままでいさせて下さいお願いします!!」

 いやホント、今回ばかりは心が折れそうになった……なんだよ、アレ!?
 俺頑張ってるじゃん! なんであんな仕打ち受けなきゃいけないの!?

「シン……?」
「あらら、今回ばかりはシンも堪えてるねえ……少し意外、かな?」

 エルダー、俺はこれでも繊細な心の持ち主ですのよ?
 いいじゃないか、こうやって誰はばかる事無く甘えたい時が男にはあるんだよ。

「いえ、その、少しははばかってくれないと私が困ります!」
「そこは慈母のごとき包容力で受け止めて!!」
「ええええええええ!?」

 まるで子供に帰ったかのような俺の駄々に困惑する2柱(一応神様だしね)を尻目に、ティアのお腹に頬ずりしながら至福の時を過ごす。

「シン殿、一応私も人妻ですので流石にこれ以上の事は困ります」

 …………過ごす?
 目を開け顔を上げると、

「いつか約束の日に、シン殿とダーリンが私を懸けて争う姿など見たくは……見たくは……イイですね」

 なぜかティアと同じく中が透けそうな薄衣に身を包み、俺に押し倒されながら頬を染めている天敵ジュリエッタの姿……

「てめえ! いつの間に入れ替わったあああ!?」
「はい、かなり初期の段階で」

 くそおおおおおおお!!
 その場から飛び退き、崩れ落ちて涙する俺の姿に流石にティアとエルダーも気の毒に思っている(?)ようで、

「ジュリエッタ、あんまりボクのオモ……友を虐めないであげてよ」

 オイコラ、そこ!

「シン……ジュリエッタ、私も少しくらいなら膝枕とかしてあげても、大丈夫よ?」

 ありがとう、ティアさんホント女神様!!
 それからいつもはジュリエッタが着てる衣装、似合ってますね!

「お二方、騙されてはなりません。シン殿がメンタルがどうこう言っているのはアイラの件ではありません」
「「え?」」
神域こちらに上がる際に利用した神殿、そこに先日某所で身体を重ねた女性の一人の姿があったからです」
「「…………は?」」

 …………チッ!

 だって仕方ないじゃんか!
 あのコ、秘密だって言ったのに、それを逆手にとって、露骨に何もしてこないけど思わせぶりに顔を赤らめて手を振ってきたりするんだもん!
 その上、同僚に

「使徒様と何かあったの!?」

 って聞かれて

「ゴメンなさい、私達・・だけの秘密だよって言われてるから話せないの」

 とか言ってのけるから秘密にもなってねえんだよ!!

「シン………………」
「いや、そっち? 街の一件じゃ無いの?」

 あん、アイラの街? あんなんで一々腹を立ててたらやってらんねえよ。どうせ後で大変な事になるのが分かってんだから、そん時に笑いに行ってやりゃいいんだよ。

「良かった、いつものシンだったよ」

 ……いや、神様エルダー、変な安心の仕方しないで下さい。

「本当にシンはシンのままですね……」

 ティアさん………………?

「誤解も解けたことですし、もう一度押し倒しますか?」

 ウンお前等、控え目に言っても酷えわ……。


──────────────
──────────────


「で、シンはこれからどうするの? あの街に何かやらかすの?」
やらかす・・・・ってなんだよ……別に何もしねえよ、どうせ落ちるのは目に見えてるし。それより気になる事があるんでそっちを少し調べるさ」
「気になる事?」
「ああ──」

 気になる事──そう、どう考えてもおかしい、あの露骨なまでに不自然な政策はわざととしか思えない。
 今回のフカヒレと歯の卵にしても、今ここで! ってタイミングでやらかしやがった、あれが偶々だって言うならよほど不幸の星の元に生まれてるとしか思えない。
 生憎そんな不幸な人生を歩むヤツが俺以外にいるとも思えない。
 ………………………………
 ………………………………
 ………………チクショウ。

 ──ええい、もとい!
 だとするならこれまでのデフレスパイラルも意図的に引き起こしたって事か?
 何のために?

「そいつが知りたいんでね、裏の意図があるって言うならそれをぶっ潰して、改めてアイツ等の前で高笑いしてやるよ」
「流石だよ! それでこそシン!」
「言いがかりもはなはだしいわっ!」

 俺をなんだと思ってんだ!?

「頑張ってくださいね、シン」

 ……ティアももう突っ込んでくれないな……スルースキルなんか憶えてボク悲しい。


──────────────
──────────────


 そんなやり取りが成されたのが、シンがタレイア達と決別してから2日後の事、
 それから2ヶ月、色々・・やりながら情報収集にも時間を割き、やがて決定的な情報を手に入れる。

「──なるほど、そういう事かよ……」

 シンは今回の画を描いた者の顔を思い浮かべ、眉を顰める。

「俺の事は知ってるはずなのによくもまあ、平然とした顔で俺と会話なんぞ出来たもんだ、計画の杜撰さはともかく、その面の厚さだけは褒めてやるよ……ツラの厚さならもう一人、か」

 シンはそろそろケリをつけるべく動き出す。
 ──が、少しだけ遅かった、というかコレばかりはシンも想定外、予想以上の悪辣さだった。

「……やってくれるわ」


──────────────
──────────────


 サイモンとナッシュの親子は、若い漁師たちを揃えて久々の遠海漁に出ていた。
 いくら蓄えがあろうとも何年も遊んで暮らせる額でなし、歯の卵の製法を開示してサメ漁に見切りをつけたとはいえ、日々の漁まで辞める理由はどこにも無く、今日も今日とて漁師の本分に精を出す。
 ちなみに漁に使う船は最初にアイラの街から貸与された大型船で、グレートオーシャンクラブによって破壊された船体の修理費を、漁村側が負担すると言う条件で捨て値で買い取ったものである。
 船足も早く積載量も充分な船は実に重宝し、漁村全体が慎ましく生活するだけならばたまに遠海に出るだけでも問題は無いが、やはり家族に楽はさせてやりたいし、今の上はどうにも信用できない、いざとなったら他の都市群に逃げるのもアリだと思っている彼等は私財を蓄えるためにも間をおかずに漁に出ていた。
 そんなある日

「アニキぃ、なんか臭くないっスか?」
「臭いだ? なんの匂いだ?」
「イヤ、なんつーか、泥臭いような何かが腐ったような……とにかくそんな感じっス」
「泥? 海の上でかよ」

 いぶかしむナッシュだが、それを聞いていたサイモンは表情を固くし、

「オイ、今言った事は本当か!? 泥が腐った様な臭いがするんだな!?」
「ハ、ハイッ、そうです!!」
「オヤジ、どうした?」

 若い衆の言葉を聞いたサイモンはブツブツと「いやしかし」とか「どこにも予兆は」など独り言を続けている。
 そして、

「おいナッシュ、確かおめえ、ロッカの村がお祭り騒ぎだとか言ってなかったか?」
「その事か? なんでも竜の棲み家から財宝をくすねて来たとか言ってたな、これで遊んで暮らせるとかクソみてぇな事ほざいてたぜ」
「竜の棲み家だと!? オイお前等、急いで船を戻せ、村に戻るぞ!!」

 サイモンの剣幕にナッシュをはじめ全員が弾かれたように自分の持ち場に就き、急いで船を陸地に向ける。
 そして、いつまでも顰め面の父親サイモンにナッシュが話しかける。

「オヤジ、一体どうしたんだ?」
「アイツら、海竜を怒らせちまったようだ。津波だ!」
「津波──!?」

 ザパアッ────!!

「──!?」
「アニキ、あれはっ!!」

 男が指を指す方向には、軽く見積もっても10メートル以上はあろうかという頭部を海面からのぞかせた巨大なイカが、長い触腕をのたくらせながら海面をバチンバチンと叩き上げる!

「ダイオウイカだと!?」
「見ろ! グレートオーシャンクラブもいる!!」

 暴れるダイオウイカに覆い被さるように、鋏脚の巨大な雄のグレートオーシャンクラブが海面から飛沫を上げて飛び出してくる。
 さながら南海の怪獣決戦のようでもあるが、そんなモノに至近で遭遇する方は堪ったものではない。

「村長──!?」
「いいから無視しろ、アイツ等もワシ等の事なんか見えちゃいねえ! おおかた津波のせいで、海底が攪拌かくはんされたついでに海上まで放り出されただけだろうさ」

 サイモンの言葉通り、2つの巨大生物は船には目もくれずに海面で暴れている。
 その隙にさっさと逃げ出したサイモンたち一行だが、村長の口にした「津波」がますます現実味を帯びて彼等の心に圧し掛かってくる。

「オヤジ、津波が本当に起きるとして、俺達に何か出来るのか?」
「……残念ながらコイツぁ自然のモンじゃねえ。普通の津波ならこの臭いをさせる前に潮の流れも波の高さも変わってるはずだからな……つまりコイツは怒った海竜サマが起こした・・・・もんだ」
「……起こした?」

 サイモンの言葉にひっかかるナッシュ。

「ああそうだ……津波はもう……起きた後だ」
「おい、オヤジ!!」
「だから急ぐんだよ!! 口を開く暇があったら手を動かしやがれ!!」

 その後、彼等は昼夜を問わず船を走らせ1日半、翌日の夜には漁村に帰り着く。
 そこで彼等が見たものは、海沿いにあった家屋を全て流され壊滅状態の村と──
 それでも転々とついた灯かりの下で夜を過ごす、生き延びた漁民達の姿だった。
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