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第三章 緑と黒――そして集まる五人
第104話 どうしてもって時は力になってやらないこともないけど
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途中で休憩がてら、香介がリリアと一緒に作ったという美味しいサンドイッチを食べ、タフリ村に帰り着いたのは夕方になってからのことだった。
村の入り口で出迎えてくれたのは、今回もリリアである。やはり前回と同じように、時々様子を見に来ていたのだろう。
五人の姿を認めたリリアは一度大きく目を見開いた後、すぐに明るい表情を浮かべて駆け寄ってきた。
「ちゃんと見つけてきたのね」
息を切らしたリリアが長身のノアを見上げる。その顔は心からほっとしているようだった。
そこで千紘たちはノアを簡単に紹介する。
「リリアさん、初めまして。庵原ノアです」
「あなたがノアね。無事でよかったわ」
ノアと朗らかに挨拶をかわしたリリアは、次に千紘の方へと顔を向けて言葉を続けた。
「今日も『すぐに帰りたい』って言うんでしょう?」
先ほどまでとは対照的に、呆れたような口調でそう言ったリリアに、
「当たり前だろ」
千紘は一も二もなく大きく頷いたのである。
※※※
「ところでさ、リリア」
秋斗が切り出したのは、いつもの召喚場所であるサナンの森に入ってからだ。
「何?」
これまで意気揚々と先頭を歩いていた秋斗が振り返ったのを見て、リリアはきょとんとした顔で首を傾げる。
「おれたちって今はミロワールの欠片を持ってないと魔法が使えないけど、いつかはなくても使えるようになったりするのかな、って思って」
「そうね、今のアキトたちはこの世界、アンシュタートの理に書き換わって魔法が使えるようになってるわけだけど、まだこの世界の人間としてしっかり馴染んではいないのよ。たとえるなら、生まれたての赤ちゃんみたいな感じかしら」
素朴な疑問に、リリアが特に間を置くことなく答えると、
「ああ、三回しかこっちに来てないもんなぁ」
秋斗は一つ、二つと指を折りながら、納得したように頷いた。
「でもだいぶ馴染んできてると思うから、そろそろちゃんと訓練すれば欠片なしで使えるようになるんじゃないかしら。元々この世界の生まれで魔力を持っている人間だって訓練しないと使いこなせないんだから、あとはその人の努力次第よ」
「そっか! じゃあ今度ここに来た時は訓練してみようかな。もちろんりっちゃんとノアも一緒にな!」
リリアの言葉に秋斗が嬉しそうな表情を浮かべ、律とノアを見回す。
「そうですね!」
「それはいいね」
二人も満面の笑みで頷いた。
そこで、秋斗たちを横目で見ていた千紘が、わざとらしく肩を竦めながら嘆息する。
「まったく、次なんてない方がいいんだよ……」
まるで次があるような言い方をする秋斗に、千紘はだんだんと頭痛がしてきたが、ただこめかみに手を当てることしかできない。
(このままだと、秋斗の『またこの世界に来たい』って願望が実現しそうだな……。それだけは勘弁して欲しいんだけど)
千紘が心底うんざりしていると、
「いいじゃない。五人揃っていれば怖いものなんてないんだから。あたしたちはスターレンジャーだもの」
これまでのやり取りを見守っていた香介は胸の前で手を組み、とても明るい声を発した。
※※※
いつもの場所までやってくると、リリアはおもむろに首から下げていたミロワールを外す。
「はい、みんな真ん中に寄って」
草の上にミロワールを置いたリリアに指示され、千紘たち五人が集合写真を撮る時のように並んだ。
「リリアちゃん、これでいいかしら?」
「ええ、大丈夫よ。じゃあ……」
「『またね』とか言うなよ」
香介の確認に、リリアが大きく首を縦に振って、さらに言葉を紡ごうとした時である。千紘はそれを遮るように先手を打った。
途中で遮られたリリアは不満そうに千紘の顔を見上げ、頬を膨らませる。
「召喚するのは私なんだからチヒロに拒否権なんてないし、私だって用事がなければ呼ばないわよ」
「つまり、こっちに呼ばれる、イコール何かしらの事件が起こってるってことだろ」
「ええ、そういうことになるわね」
こくりとリリアが素直に頷くと、千紘はまたも大きな溜息をついた。
「それをやめてくれって言ってるんだよ。毎回めんどくさいんだから」
「そんなこと知らないわよ」
「まあまあ、二人ともそれくらいにしとこうな」
いつものやり取りが始まった二人を見かねたのか、秋斗が苦笑しながら間に入ってくる。
「できるだけ呼ばないようにするわよ」
少し拗ねたような表情を浮かべるリリアを前に、千紘は顔を背けると、
「……どうしてもって時は力になってやらないこともないけどさ」
そう小さく呟いた。
「まったく素直じゃないなぁ」
秋斗たちはそんな千紘の様子を見て、一斉に笑みを零す。
「と、とにかくそれはもういいから、早く帰してくれって!」
「わかったわよ」
照れ隠しなのか、千紘が声を荒げると、リリアは腰に手を当てながら呆れたように一言だけ答え、すぐさま口元で何かを唱え始めた。
少しして、唱え終わったらしいリリアが息を吐く。すると下に置かれたミロワールから淡い光が溢れ出した。
光は徐々に強くなって千紘たちの身体を包み込んでいく。あまりの眩しさに目を開けていられなくなり、千紘は思わず瞼を閉じた。
次の瞬間、全身から一気に力が抜ける。と同時に、眠るように意識も手放したのだった。
村の入り口で出迎えてくれたのは、今回もリリアである。やはり前回と同じように、時々様子を見に来ていたのだろう。
五人の姿を認めたリリアは一度大きく目を見開いた後、すぐに明るい表情を浮かべて駆け寄ってきた。
「ちゃんと見つけてきたのね」
息を切らしたリリアが長身のノアを見上げる。その顔は心からほっとしているようだった。
そこで千紘たちはノアを簡単に紹介する。
「リリアさん、初めまして。庵原ノアです」
「あなたがノアね。無事でよかったわ」
ノアと朗らかに挨拶をかわしたリリアは、次に千紘の方へと顔を向けて言葉を続けた。
「今日も『すぐに帰りたい』って言うんでしょう?」
先ほどまでとは対照的に、呆れたような口調でそう言ったリリアに、
「当たり前だろ」
千紘は一も二もなく大きく頷いたのである。
※※※
「ところでさ、リリア」
秋斗が切り出したのは、いつもの召喚場所であるサナンの森に入ってからだ。
「何?」
これまで意気揚々と先頭を歩いていた秋斗が振り返ったのを見て、リリアはきょとんとした顔で首を傾げる。
「おれたちって今はミロワールの欠片を持ってないと魔法が使えないけど、いつかはなくても使えるようになったりするのかな、って思って」
「そうね、今のアキトたちはこの世界、アンシュタートの理に書き換わって魔法が使えるようになってるわけだけど、まだこの世界の人間としてしっかり馴染んではいないのよ。たとえるなら、生まれたての赤ちゃんみたいな感じかしら」
素朴な疑問に、リリアが特に間を置くことなく答えると、
「ああ、三回しかこっちに来てないもんなぁ」
秋斗は一つ、二つと指を折りながら、納得したように頷いた。
「でもだいぶ馴染んできてると思うから、そろそろちゃんと訓練すれば欠片なしで使えるようになるんじゃないかしら。元々この世界の生まれで魔力を持っている人間だって訓練しないと使いこなせないんだから、あとはその人の努力次第よ」
「そっか! じゃあ今度ここに来た時は訓練してみようかな。もちろんりっちゃんとノアも一緒にな!」
リリアの言葉に秋斗が嬉しそうな表情を浮かべ、律とノアを見回す。
「そうですね!」
「それはいいね」
二人も満面の笑みで頷いた。
そこで、秋斗たちを横目で見ていた千紘が、わざとらしく肩を竦めながら嘆息する。
「まったく、次なんてない方がいいんだよ……」
まるで次があるような言い方をする秋斗に、千紘はだんだんと頭痛がしてきたが、ただこめかみに手を当てることしかできない。
(このままだと、秋斗の『またこの世界に来たい』って願望が実現しそうだな……。それだけは勘弁して欲しいんだけど)
千紘が心底うんざりしていると、
「いいじゃない。五人揃っていれば怖いものなんてないんだから。あたしたちはスターレンジャーだもの」
これまでのやり取りを見守っていた香介は胸の前で手を組み、とても明るい声を発した。
※※※
いつもの場所までやってくると、リリアはおもむろに首から下げていたミロワールを外す。
「はい、みんな真ん中に寄って」
草の上にミロワールを置いたリリアに指示され、千紘たち五人が集合写真を撮る時のように並んだ。
「リリアちゃん、これでいいかしら?」
「ええ、大丈夫よ。じゃあ……」
「『またね』とか言うなよ」
香介の確認に、リリアが大きく首を縦に振って、さらに言葉を紡ごうとした時である。千紘はそれを遮るように先手を打った。
途中で遮られたリリアは不満そうに千紘の顔を見上げ、頬を膨らませる。
「召喚するのは私なんだからチヒロに拒否権なんてないし、私だって用事がなければ呼ばないわよ」
「つまり、こっちに呼ばれる、イコール何かしらの事件が起こってるってことだろ」
「ええ、そういうことになるわね」
こくりとリリアが素直に頷くと、千紘はまたも大きな溜息をついた。
「それをやめてくれって言ってるんだよ。毎回めんどくさいんだから」
「そんなこと知らないわよ」
「まあまあ、二人ともそれくらいにしとこうな」
いつものやり取りが始まった二人を見かねたのか、秋斗が苦笑しながら間に入ってくる。
「できるだけ呼ばないようにするわよ」
少し拗ねたような表情を浮かべるリリアを前に、千紘は顔を背けると、
「……どうしてもって時は力になってやらないこともないけどさ」
そう小さく呟いた。
「まったく素直じゃないなぁ」
秋斗たちはそんな千紘の様子を見て、一斉に笑みを零す。
「と、とにかくそれはもういいから、早く帰してくれって!」
「わかったわよ」
照れ隠しなのか、千紘が声を荒げると、リリアは腰に手を当てながら呆れたように一言だけ答え、すぐさま口元で何かを唱え始めた。
少しして、唱え終わったらしいリリアが息を吐く。すると下に置かれたミロワールから淡い光が溢れ出した。
光は徐々に強くなって千紘たちの身体を包み込んでいく。あまりの眩しさに目を開けていられなくなり、千紘は思わず瞼を閉じた。
次の瞬間、全身から一気に力が抜ける。と同時に、眠るように意識も手放したのだった。
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