戦隊ヒーローレッドは異世界でも戦うのがめんどくさい~でも召喚されたものは仕方ないのでしぶしぶ戦うことにしました~

市瀬瑛理

文字の大きさ
上 下
101 / 105
第三章 緑と黒――そして集まる五人

第101話 秘策

しおりを挟む
 長剣のつかを右手で握り込んだ千紘の耳に、大きな声が届く。

「千紘ちゃんこれ使いなさい! あたしの代わりに、わかったわね!」

 すぐさま千紘が声のした方へと顔を向けると、声の主――香介と目が合った。
 真面目な表情で一つ頷いた香介は、さやに収まった自身の刀を手に取って、そのまま千紘に投げてよこす。

 もちろんノアの協力だけでなく、香介の刀も今回の作戦には必要なものだ。

「ああ、わかってる!」

 千紘は大きな放物線を描きながら飛んできた刀をしっかり受け取ると、即座に鞘から抜き、左手で強く握りしめる。
 それから、刀を投げることができるまでに回復した香介の姿に、ほっと胸を撫で下ろした。

 そこで、隣にいる秋斗から声が掛かる。

「これで千紘の準備はできたな」
「ああ、いつでも行ける」

 千紘が秋斗に向けて首を縦に振ると、秋斗は邪魔にならないようにと考えたのだろう、後ろに下がった。

「おれも大丈夫だし、後はノアだな」
「ノア、準備できたか?」

 顔を戻した千紘が、今度はノアを見やる。ノアはまだ千紘と秋斗から少し離れた場所――律と香介のそばにいた。

 千紘が確認すると、

「こっちも準備できてるよ!」

 ノアは笑顔で答えながら、ピースサインを見せる。

 その時だ。
 離れたところからこれまでのやり取りをのんびり眺めていたギウスデスが、呆れたように零した。

「どんな秘策があるのかは知らないけど、簡単に勝てると思わないことだね」
「随分と余裕があるんだな」
「まあね。だから君たちの茶番をおとなしく見守っていてあげたんだよ」

 千紘がまっすぐにギウスデスを見据えると、ギウスデスはわざとらしく肩を竦めた後、そう言って嘲笑あざわらうように口角を上げる。

 いつでも千紘たちを攻撃することができたはずなのにそれをしなかったのは、相当な自信があるからだろう。

(ホントにいけ好かないやつだな)

 千紘にとっては少々どころかかなり面白くないが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「茶番……ね。ま、いいけど。でもどうだろうな。やってみないとわからないこともあるだろうし、試すくらいはいいだろ?」
「そうだね。それくらいはさせてあげよう」

 不敵な笑みを浮かべる千紘に、ギウスデスは素直に頷いた。あくまでも五人を格下だと見ているようである。
 千紘たちが何かを試したところで、意味などないと思っているのだろう。

 見下されていることには腹が立つが、今に限っていえば、そのおごりがありがたい。

「それは助かるよ」

 千紘はギウスデスの余裕を逆手に取れたことに安堵しながら、心の中でさらに笑みを深める。

 これで最低でも一撃はギウスデスに叩き込むことができるはずだ。今はそれに賭けることしかできないが、何もできないよりは断然いいだろう。
 当然、その一撃が勝負の分かれ目となることはわかっている。

「ではやってみるといい。ただ、失敗した時はわかっているだろうね」
「もちろん」

 ギウスデスを見つめながら、千紘はしっかりと頷いた。

 言われるまでもなく、作戦の失敗はすなわち死を意味している。

 失敗した後の作戦までは決まっていない。この作戦を思いついただけでも上出来なのだ。
 作戦が失敗した時点で、すぐさまギウスデスは反撃してくるだろう。そうなったら、次の相談をしている暇などない。
 間違いなく瞬殺されるのは目に見えている。
 どのみち、この一撃にすべてを賭けるしかないのだ。

「じゃあ、やるぞ!」

 千紘が力強く声を上げると、秋斗とノアがそれぞれ両の手のひらを千紘に向け、真剣な表情で構える。そのまま静かに魔法の詠唱を始めた。

「聖なる水よ、今ここに氷塊ひょうかいとなりて顕現けんげんし、我が眼前の敵を打ち滅ぼさん――フリーズ・フラッド!」

 秋斗の詠唱が終わると、千紘が手にしている長剣の刀身が一瞬で氷に覆われる。

永遠とわなる炎よ、今ここに炎塊えんかいとなりて顕現し、我が眼前の敵を燃やし尽くせ――ブレイジング・スフィア!」

 今度は左手の刀が同じようにノアの炎に覆われた。

「剣に魔法をまとわせるだと?」

 いかにも余裕そうに腕を組んで様子を眺めていたギウスデスの口から、声が漏れる。

(さすがにこれは予想してなかったか)

 ギウスデスの声は平静を装ったものではあったが、その前にほんのわずかに目を見張ったのを、千紘は見逃さなかった。

 秋斗から作戦を聞いた時は、千紘だって「本当にできるのか」と疑ったのである。ギウスデスが驚くのも無理はない。

 このような反応をしたということは、これから千紘たちがしようとしていることもきっと想像できていないだろう。
 それならば、まだ勝機もあるはずだ。

(よし、ちゃんと魔法は乗ったな)

 氷の剣と炎の刀、両手を交互に見やった千紘が満足そうに目を細める。

 まずは長剣と刀に、秋斗とノアの魔法を纏わせることができた。
 これで第一段階はクリアである。

(後は秋斗とノアがどこまで魔法を制御できるかだけど、まああの二人なら大丈夫だろ。さて、そろそろ行くか!)

 千紘は挑戦的な瞳でギウスデスを睨みつけると、迷うことなく地面を蹴ったのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

処理中です...