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第三章 緑と黒――そして集まる五人
第98話 傷つく仲間
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謁見の間に、目も眩むほどの真っ白な光が広がる。
少しして光が消えた後に現れたのは、スターレンジャーに変身した千紘たち五人の姿だった。
赤、青、黄、緑、黒、それぞれの色を纏った五人は改めてギウスデスと対峙する。
しかし、ギウスデスは腕を組んだまま、微動だにしていなかった。
「変身したところで優位に立てるとでも思っているのかな?」
まだ余裕綽々といった様子で五人を眺めていたギウスデスが、嘲笑のようなものを浮かべる。
「そんなのやってみないとわかんねーだろ」
千紘はそんなギウスデスに厳しい眼差しを向けると、長剣を両手で構えた。
「ならやってみるといい」
ギウスデスは静かな、けれど威圧感のある声音でそう言うと、玉座に立てかけてあった大剣を手にする。そのまま鞘から一気に抜き放たれたそれは、ほんの一瞬ではあるが不吉な漆黒に輝いたように見えた。
(へえ、接近戦か)
思わず千紘の口角が上がる。
どうやらギウスデスは魔法攻撃をやめて、接近戦にしてくれるらしい。それでも勝てるという自信があるのだろう。
だが、剣を使う千紘にとっては接近戦の方がありがたいのだから、これを使わない手はない。今が攻めるチャンスだ。
「ああ、そうさせてもらう!」
言い終わるとほぼ同時に、千紘が勢いよく床を蹴る。
毎回のことだが、やはり変身前よりもずっと身体が軽く、楽に動けると感じた。これまでギウスデスの魔法を避け続けて、疲れが蓄積していたのがまるで嘘のようだ。
「あたしのことも忘れてもらっちゃ困るわ!」
千紘の後に刀を手にした香介が続く。
「永遠なる炎よ、今ここに炎塊となりて顕現し――」
後ろの方から小さくではあるが、ノアの声が聞こえてきた。千紘はそれが魔法の詠唱だとすぐに気づく。
ノアは炎魔法で遠距離から攻撃するつもりらしい。
(ミロワールの欠片だとやっぱり詠唱が必要になるのか)
詠唱を聞きながら、千紘は「なるほど」と納得する。
先ほど壊れたブレスレットとは違い、ミロワールの欠片は無詠唱にするためにできてはいない。ただリリアの魔力を込めて、魔法を使えるようにしているだけである。
「――我が眼前の敵を燃やし尽くせ! ブレイジング・スフィア!」
ギウスデス目がけて、千紘の背後からノアの魔法が放たれる。
(よし、ノアはちゃんと魔法が使えるようになったな。俺も頑張らないと)
一瞬で自分を追い越していった炎の塊を横目で見ながら、千紘は笑みを浮かべた。
ノアの炎がギウスデスに迫る。
炎の大きさはブレスレットを着けていた時よりも一回りくらい小さくなっているが、それでも千紘にはそれなりに大きく見えた。
「こんなもの効かないよ」
しかし、ギウスデスは大剣を上から一振りして、それをあっさりと真っ二つにする。綺麗に分かれた炎はそれぞれ左右の壁へと激突して、真っ黒な煙を上げた。
「なら、これはどうだ!」
炎を追うようにして駆けてきた千紘が、ギウスデスに接近する。その勢いを殺すことなく長剣を振りかぶると、大きな金属音が辺りに響き渡った。
「残念だけど、これも効かないね」
大剣で軽々と攻撃を受け止めたギウスデスが、千紘の長剣を振り払うようにして弾き返す。
千紘は勢いよく真横の方へと飛ばされ、背中から壁へと叩きつけられた。
「――っ!」
変身していたおかげか意識までは失わなかったが、強い衝撃に千紘の息がほんの一瞬止まる。
「千紘!」
「千紘さん!」
「千紘、大丈夫か!?」
呼吸が戻ってきた頃、離れたところから秋斗たちの声が聞こえてきた。
千紘は座って咳き込みながらも、「大丈夫だ」と返事をするように片手を軽く上げてみせる。
秋斗たちはその姿に少しは安心したのか、またギウスデスの方へと顔を向けた。
「次はあたしの番よ!」
千紘に続いて、今度は香介が刀を薙ぐ。鋭い軌跡が真一文字に走り、ギウスデスを襲う。
「まったく、無駄なことを」
だが、ギウスデスは呆れたように首を左右に振ると、片手で持った大剣で香介の攻撃を容易く受け止め、そのままはね返した。
「くっ」
香介が後ろによろけそうになりながらも、懸命に歯を食いしばり、どうにかその場に留まる。
その時だ。
変わらず片手だけで大剣を振りかざしたギウスデスは、冷徹な表情で何の迷いもなく香介を上から斬りつけた。
「きゃあっ!」
香介の悲鳴が上がる。
咄嗟に後ろに退いて致命傷は避けたようだが、ギウスデスの攻撃を受けた右肩からは大量の血が流れ、床へと滴り落ちていた。
「香っ!」
ようやく立ち上がった千紘が大声で香介の名を呼び、またギウスデスの方へと走っていく。
香介はそんな千紘の様子をちらりと見やると、右肩を庇いながら、少しずつではあるが後退し始めた。
「りっちゃん、すぐに魔法の準備を! ノア、おれたちは急いで香ちゃんを回収するぞ!」
すぐさま秋斗が大声で、律とノアに指示を出す。
「わかった!」
「はい!」
指示を受けたノアは秋斗と一緒に、香介の元へと駆け出した。
律は緊張した面持ちでその姿を見送り、香介が戻ってきたと同時に治癒魔法が使えるよう、詠唱の準備を始めたのだった。
少しして光が消えた後に現れたのは、スターレンジャーに変身した千紘たち五人の姿だった。
赤、青、黄、緑、黒、それぞれの色を纏った五人は改めてギウスデスと対峙する。
しかし、ギウスデスは腕を組んだまま、微動だにしていなかった。
「変身したところで優位に立てるとでも思っているのかな?」
まだ余裕綽々といった様子で五人を眺めていたギウスデスが、嘲笑のようなものを浮かべる。
「そんなのやってみないとわかんねーだろ」
千紘はそんなギウスデスに厳しい眼差しを向けると、長剣を両手で構えた。
「ならやってみるといい」
ギウスデスは静かな、けれど威圧感のある声音でそう言うと、玉座に立てかけてあった大剣を手にする。そのまま鞘から一気に抜き放たれたそれは、ほんの一瞬ではあるが不吉な漆黒に輝いたように見えた。
(へえ、接近戦か)
思わず千紘の口角が上がる。
どうやらギウスデスは魔法攻撃をやめて、接近戦にしてくれるらしい。それでも勝てるという自信があるのだろう。
だが、剣を使う千紘にとっては接近戦の方がありがたいのだから、これを使わない手はない。今が攻めるチャンスだ。
「ああ、そうさせてもらう!」
言い終わるとほぼ同時に、千紘が勢いよく床を蹴る。
毎回のことだが、やはり変身前よりもずっと身体が軽く、楽に動けると感じた。これまでギウスデスの魔法を避け続けて、疲れが蓄積していたのがまるで嘘のようだ。
「あたしのことも忘れてもらっちゃ困るわ!」
千紘の後に刀を手にした香介が続く。
「永遠なる炎よ、今ここに炎塊となりて顕現し――」
後ろの方から小さくではあるが、ノアの声が聞こえてきた。千紘はそれが魔法の詠唱だとすぐに気づく。
ノアは炎魔法で遠距離から攻撃するつもりらしい。
(ミロワールの欠片だとやっぱり詠唱が必要になるのか)
詠唱を聞きながら、千紘は「なるほど」と納得する。
先ほど壊れたブレスレットとは違い、ミロワールの欠片は無詠唱にするためにできてはいない。ただリリアの魔力を込めて、魔法を使えるようにしているだけである。
「――我が眼前の敵を燃やし尽くせ! ブレイジング・スフィア!」
ギウスデス目がけて、千紘の背後からノアの魔法が放たれる。
(よし、ノアはちゃんと魔法が使えるようになったな。俺も頑張らないと)
一瞬で自分を追い越していった炎の塊を横目で見ながら、千紘は笑みを浮かべた。
ノアの炎がギウスデスに迫る。
炎の大きさはブレスレットを着けていた時よりも一回りくらい小さくなっているが、それでも千紘にはそれなりに大きく見えた。
「こんなもの効かないよ」
しかし、ギウスデスは大剣を上から一振りして、それをあっさりと真っ二つにする。綺麗に分かれた炎はそれぞれ左右の壁へと激突して、真っ黒な煙を上げた。
「なら、これはどうだ!」
炎を追うようにして駆けてきた千紘が、ギウスデスに接近する。その勢いを殺すことなく長剣を振りかぶると、大きな金属音が辺りに響き渡った。
「残念だけど、これも効かないね」
大剣で軽々と攻撃を受け止めたギウスデスが、千紘の長剣を振り払うようにして弾き返す。
千紘は勢いよく真横の方へと飛ばされ、背中から壁へと叩きつけられた。
「――っ!」
変身していたおかげか意識までは失わなかったが、強い衝撃に千紘の息がほんの一瞬止まる。
「千紘!」
「千紘さん!」
「千紘、大丈夫か!?」
呼吸が戻ってきた頃、離れたところから秋斗たちの声が聞こえてきた。
千紘は座って咳き込みながらも、「大丈夫だ」と返事をするように片手を軽く上げてみせる。
秋斗たちはその姿に少しは安心したのか、またギウスデスの方へと顔を向けた。
「次はあたしの番よ!」
千紘に続いて、今度は香介が刀を薙ぐ。鋭い軌跡が真一文字に走り、ギウスデスを襲う。
「まったく、無駄なことを」
だが、ギウスデスは呆れたように首を左右に振ると、片手で持った大剣で香介の攻撃を容易く受け止め、そのままはね返した。
「くっ」
香介が後ろによろけそうになりながらも、懸命に歯を食いしばり、どうにかその場に留まる。
その時だ。
変わらず片手だけで大剣を振りかざしたギウスデスは、冷徹な表情で何の迷いもなく香介を上から斬りつけた。
「きゃあっ!」
香介の悲鳴が上がる。
咄嗟に後ろに退いて致命傷は避けたようだが、ギウスデスの攻撃を受けた右肩からは大量の血が流れ、床へと滴り落ちていた。
「香っ!」
ようやく立ち上がった千紘が大声で香介の名を呼び、またギウスデスの方へと走っていく。
香介はそんな千紘の様子をちらりと見やると、右肩を庇いながら、少しずつではあるが後退し始めた。
「りっちゃん、すぐに魔法の準備を! ノア、おれたちは急いで香ちゃんを回収するぞ!」
すぐさま秋斗が大声で、律とノアに指示を出す。
「わかった!」
「はい!」
指示を受けたノアは秋斗と一緒に、香介の元へと駆け出した。
律は緊張した面持ちでその姿を見送り、香介が戻ってきたと同時に治癒魔法が使えるよう、詠唱の準備を始めたのだった。
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