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第三章 緑と黒――そして集まる五人
第89話 扉の向こうに見えたもの
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教祖だったノアの部屋を後にした千紘たちの目の前には今、一つの扉があった。
部屋で相談した通り、ノアを攫う直前に幹部たちが消えた奥へと向かったのだが、その突き当りにあったのがこの扉である。
木でできた簡素な扉にはやはり鍵穴があったが、ここでも幸い鍵はかかっていなかった。
「意外と不用心だな。こんなんで大丈夫なのか?」
「千紘ちゃん、そんなこと言っちゃ教団に失礼でしょ。これでも万全な警備なのかもしれないじゃない」
やや呆れ気味の千紘を、香介が肘で小突く。
「……」
言っていることは、千紘よりも香介の方が断然失礼である。だが、それを指摘すると小突かれるだけでは済まないことがわかっているので、千紘は無言でやり過ごすことにした。
そんな二人の様子を眺めながら、秋斗は苦笑を漏らす。
「さすがに外部の人間がここまで来るとは思ってないんじゃないかなぁ」
「まあ、今の俺たちにとってはありがたいか」
千紘はそう自分に言い聞かせながら、静かに扉を開けた。
すぐさま秋斗が隙間から中を覗く。
「今度は階段かぁ」
扉を開けて視界に映ったのは、まっすぐ上へと伸びた石の階段だった。
階段の幅はそれほど広くなく、大人が二人並んで歩けるかどうかといった程度である。
「他に通路もないみたいだし、ここを上るしかないよね」
「そうですね」
きょろきょろと辺りを見回したノアの意見に、律が素直に同意する。
もちろん他の三人も同じ意見だったので、迷うことなくその階段を上って先に進むことにした。
「ここから先はどうなってるかわからないから、みんな気をつけような」
秋斗が真面目な顔で注意を促すと、全員が一斉に頷き、改めて気を引き締める。
そうして、階段に向けて一歩を踏み出したのだった。
※※※
千紘、香介、律、ノア、秋斗の順番で一列になり、ゆっくり一歩一歩を踏みしめるようにして、階段を上っていく。
途中からは所々に小さな窓があった。見える風景から察するに、今いるのは一階部分らしい。
さらに上る。
いくつか折り返しのあった長い階段の先には、また扉があった。
階層としては三階か四階辺りだと思われるが、これも外の景色からざっくりと把握したものである。
目の前に立ちはだかっているのは、先ほどよりも一回り程度大きい木製の扉で、今回は鍵がかかっていた。
五人は鍵のかかった扉の前に集まって小声で話し合う。
「鍵がかかってるとなると、いよいよ怪しいなぁ」
「もしかして、ここでさっきの鍵の出番か?」
秋斗が声を潜めながら扉を見上げていると、千紘はポケットから鍵を取り出し、扉の前に立った。
「そういえば、ノアちゃんの部屋から鍵を持ってきてたものね」
香介の声に千紘が黙って頷きながら、鍵を鍵穴にそっと差し込んでみる。今度は鍵穴にぴったりはまった。
「当たりだな」
思わず頬を緩ませた千紘は小さく呟く。そのまま音を立てないよう気をつけながら、慎重に鍵を回した。
難なく回ったことにほっとして、今度はほんの少しだけ扉を開けてみることにする。
細心の注意を払いながら開けた扉。本当にわずかな隙間から中を覗いた千紘の表情が一瞬固まった。しかし、それは即座に険しいものへと変化する。
無言で扉を閉めた千紘は、後ろの四人をゆっくり振り返った。心底うんざりした顔で首を横に振り、大きな溜息をつく。
「あー、何か見たことあるやつがいるわ……」
「それって、おれも知ってるやつ?」
秋斗が改めて扉を開き、そっと中を覗いた。
すぐに千紘と同じように扉を閉めると、今度は苦笑を漏らしながら千紘たちの方に顔を向ける。
「ああ、確かに見たことあるな。みんなも見てみるといいよ」
そう言って秋斗は、残りの三人に場所を譲った。
早速ノアが覗き、続けて香介と律も確認する。
「あいつらをまとめて相手にするのは面倒だね」
「ホント、面倒ね。早く先に進みたいのに」
秋斗と同じく苦笑したノアの言葉に、香介は同意しながら腰に手を当てた。
「どうにかならないでしょうか?」
律は対照的に、真剣な表情で四人を見回す。
「とりあえず、一旦鍵はかけ直しておこうな」
苦笑いを浮かべたままの秋斗の指示に従って、千紘はまた静かに鍵をかけた。
まだ向こうには気づかれてはいないようだが、もし気づかれても多少は時間稼ぎになるだろう。そんなことを考えながら、しっかりと施錠する。
五人は扉の前の階段に座り込み、困ったように顔を見合わせた。そのまま揃って考え込む。
ややあって、弾かれたように顔を上げたのは千紘だった。
「ちょっと待てよ」
「千紘、何かいい方法でもあったか?」
懸命に宙を睨んでいた秋斗が顔を戻し、首を傾げる。
「ああ、これなら少しは楽に行けるかもしれない」
千紘は口角を上げながら、しっかりと頷いた。
「どういうこと?」
そんな千紘の様子に、香介が不思議そうな表情で問う。律とノアも同じ表情を浮かべていた。
「それをこれから話すから」
千紘が声を落として答えると、全員が興味深そうに顔を寄せる。
そのまま、五人はその場でこそこそと話し合うことになったのである。
部屋で相談した通り、ノアを攫う直前に幹部たちが消えた奥へと向かったのだが、その突き当りにあったのがこの扉である。
木でできた簡素な扉にはやはり鍵穴があったが、ここでも幸い鍵はかかっていなかった。
「意外と不用心だな。こんなんで大丈夫なのか?」
「千紘ちゃん、そんなこと言っちゃ教団に失礼でしょ。これでも万全な警備なのかもしれないじゃない」
やや呆れ気味の千紘を、香介が肘で小突く。
「……」
言っていることは、千紘よりも香介の方が断然失礼である。だが、それを指摘すると小突かれるだけでは済まないことがわかっているので、千紘は無言でやり過ごすことにした。
そんな二人の様子を眺めながら、秋斗は苦笑を漏らす。
「さすがに外部の人間がここまで来るとは思ってないんじゃないかなぁ」
「まあ、今の俺たちにとってはありがたいか」
千紘はそう自分に言い聞かせながら、静かに扉を開けた。
すぐさま秋斗が隙間から中を覗く。
「今度は階段かぁ」
扉を開けて視界に映ったのは、まっすぐ上へと伸びた石の階段だった。
階段の幅はそれほど広くなく、大人が二人並んで歩けるかどうかといった程度である。
「他に通路もないみたいだし、ここを上るしかないよね」
「そうですね」
きょろきょろと辺りを見回したノアの意見に、律が素直に同意する。
もちろん他の三人も同じ意見だったので、迷うことなくその階段を上って先に進むことにした。
「ここから先はどうなってるかわからないから、みんな気をつけような」
秋斗が真面目な顔で注意を促すと、全員が一斉に頷き、改めて気を引き締める。
そうして、階段に向けて一歩を踏み出したのだった。
※※※
千紘、香介、律、ノア、秋斗の順番で一列になり、ゆっくり一歩一歩を踏みしめるようにして、階段を上っていく。
途中からは所々に小さな窓があった。見える風景から察するに、今いるのは一階部分らしい。
さらに上る。
いくつか折り返しのあった長い階段の先には、また扉があった。
階層としては三階か四階辺りだと思われるが、これも外の景色からざっくりと把握したものである。
目の前に立ちはだかっているのは、先ほどよりも一回り程度大きい木製の扉で、今回は鍵がかかっていた。
五人は鍵のかかった扉の前に集まって小声で話し合う。
「鍵がかかってるとなると、いよいよ怪しいなぁ」
「もしかして、ここでさっきの鍵の出番か?」
秋斗が声を潜めながら扉を見上げていると、千紘はポケットから鍵を取り出し、扉の前に立った。
「そういえば、ノアちゃんの部屋から鍵を持ってきてたものね」
香介の声に千紘が黙って頷きながら、鍵を鍵穴にそっと差し込んでみる。今度は鍵穴にぴったりはまった。
「当たりだな」
思わず頬を緩ませた千紘は小さく呟く。そのまま音を立てないよう気をつけながら、慎重に鍵を回した。
難なく回ったことにほっとして、今度はほんの少しだけ扉を開けてみることにする。
細心の注意を払いながら開けた扉。本当にわずかな隙間から中を覗いた千紘の表情が一瞬固まった。しかし、それは即座に険しいものへと変化する。
無言で扉を閉めた千紘は、後ろの四人をゆっくり振り返った。心底うんざりした顔で首を横に振り、大きな溜息をつく。
「あー、何か見たことあるやつがいるわ……」
「それって、おれも知ってるやつ?」
秋斗が改めて扉を開き、そっと中を覗いた。
すぐに千紘と同じように扉を閉めると、今度は苦笑を漏らしながら千紘たちの方に顔を向ける。
「ああ、確かに見たことあるな。みんなも見てみるといいよ」
そう言って秋斗は、残りの三人に場所を譲った。
早速ノアが覗き、続けて香介と律も確認する。
「あいつらをまとめて相手にするのは面倒だね」
「ホント、面倒ね。早く先に進みたいのに」
秋斗と同じく苦笑したノアの言葉に、香介は同意しながら腰に手を当てた。
「どうにかならないでしょうか?」
律は対照的に、真剣な表情で四人を見回す。
「とりあえず、一旦鍵はかけ直しておこうな」
苦笑いを浮かべたままの秋斗の指示に従って、千紘はまた静かに鍵をかけた。
まだ向こうには気づかれてはいないようだが、もし気づかれても多少は時間稼ぎになるだろう。そんなことを考えながら、しっかりと施錠する。
五人は扉の前の階段に座り込み、困ったように顔を見合わせた。そのまま揃って考え込む。
ややあって、弾かれたように顔を上げたのは千紘だった。
「ちょっと待てよ」
「千紘、何かいい方法でもあったか?」
懸命に宙を睨んでいた秋斗が顔を戻し、首を傾げる。
「ああ、これなら少しは楽に行けるかもしれない」
千紘は口角を上げながら、しっかりと頷いた。
「どういうこと?」
そんな千紘の様子に、香介が不思議そうな表情で問う。律とノアも同じ表情を浮かべていた。
「それをこれから話すから」
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