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第三章 緑と黒――そして集まる五人
第77話 動き出した教団と緑色・1
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草の上で車座になった五人は、今も話を続けている。
香介の口から『ノア』という名前が出た時点で、千紘は嫌な予感がしていた。
しかし外れて欲しかったそれは、やはり的中していたのである。
「どうしてこうなるんだよ……」
千紘がうなだれながら、長い長い溜息をつく。
そのまま地面に倒れ伏してしまいそうになるのを懸命に堪え、ゆっくり顔を上げると、そこには真面目な表情の秋斗がいた。
「つまり、もう一人の気配ってのがノアのことで、一緒にこの世界に来てるんじゃないかって言いたいんだよな?」
人差し指を立てた秋斗が簡潔にまとめると、香介とリリアはまるでシンクロしたかのように、揃って首を縦に振る。
「一緒に落ちたなら可能性は高いですよね」
前回は僕もそうでしたし、と律も同意して頷きながら、香介たちに視線を向けた。
「そういうことなんだけど、さっきも言った通り、まだ見つかってないのよねぇ。もし本当にノアちゃんが来てるならなおさら放ってはおけないでしょう? あたしだけ帰るわけにはいかないもの」
困ったように香介が嘆息する。その姿をちらりと見やったリリアがさらに続けた。
「だから、急遽あんたたちを呼んだのよ。それにちょっと気になる話も聞いたし」
「気になる話?」
どうにか気を取り直した千紘が、リリアをまっすぐに見る。
「最近、怪しい教団ができたらしいのよ」
「教団?」
リリアの言葉に、秋斗と律が一緒になって首を傾げた。もちろん千紘も同様である。リリアは一つ頷いて、静かに続きを紡いだ。
「そう。首都の近くにある廃城、ヴェール城ってところを拠点にしてるらしいんだけど」
「いやいや、それは俺らに関係なくないか?」
ちょっと待て、と千紘が顔の前で手を振ると、香介は表情を曇らせながら、また溜息をついた。
「それがそうとも言い切れないのよねぇ」
「どういうことだよ?」
千紘は怪訝そうな表情を浮かべ、今度は香介に向けて問う。
(何だか、どんどん雲行きが怪しくなってきてるな……)
このままだとまた面倒なことに巻き込まれるのではないかと、千紘が不安になってきていた矢先だ。
「もしかしたらなんだけど、その教団とノアちゃんが関係あるかもしれないのよ」
「はぁ!?」
香介の口から出たとんでもない台詞に、千紘が思わず大きな声を上げ、瞠目する。隣にいる秋斗と律も、同じように目を見開いていた。
「教団の信者っていうのが、全員鮮やかな緑色のマントを纏ってるんですって」
「その色が、この世界で最近の流行りだったりするのか?」
秋斗が身を乗り出してリリアに訊く。
「まさか。そんなの聞いたことないし、この辺りじゃ怪しいなんてものじゃないわよ」
リリアは即座に首を左右に振って否定した。
そこで千紘が顎に手を当て、これまでの冒険を思い返す。
確かに、この世界では鮮やかな緑色の服なんて見たことがないような気がした。これまで見てきた服はだいたいがシンプルで、控えめな色合いだったはずである。
もちろんもっと派手な色を身に着けている者もいるのだろうが、まだそれを見たことはない。
千紘はリリアの言葉に納得しながら、素直に頷いた。
「だろうな。でもそれとノアがどう関わってくるんだよ」
「どうやら、そこの教祖も緑色のマントを着てるらしいのよ」
「信者だけでなく教祖もってことは、教団の教えか何かだろ? 見た目は怪しすぎるけど、まあ適当に意味とかあったりするんじゃないのか?」
教団なのだから何かしらの意図はあるのではないか、と考える千紘だが、香介は声をひそめ、さらに続ける。
「でも、緑って気にならない?」
その言葉に、千紘は腕を組んで、しばし考え込んだ。
(緑……緑色か……)
脳裏に、今はここにいない、ある人物の顔が思い浮かぶ。そう、現在話題に上っている人物だ。
ややあって顔を上げた千紘は、眉根を寄せ、唸るように言った。
「もう嫌な予感しかしねーんだけど、まさか緑だからスターグリーンと関係あるんじゃないか、とでも言いたいのか?」
「その通りよ。どうしても無関係とは思えないのよね。マントは偶然かもしれないけど、何となく引っかかるというか、気になるのよねぇ」
これはあたしの勘なんだけど、と付け加えながら、頬に手を当てた香介はしっかり頷く。
嫌な予感が徐々に現実化してきていることに、千紘はすでに頭を抱えたくなっているが、どうやら今回も巻き込まれることは間違いないようだ。
(まったく、めんどくせーな……)
千紘ががっくり肩を落としそうになっていると、そこに追い打ちをかけるように、リリアが言い足してくる。
「教団が活動し始めたのも一週間くらい前って話だし」
「マジかよ。一週間くらい前ってことは、タイミング的には香とノアが召喚された辺りじゃねーか……」
ノアが召喚されたタイミングは、おそらくだが香介とほぼ同じだろう。であれば、絶対に教団と無関係だとは言えないのかもしれない。
千紘は心底うんざりした表情で頭を掻いた後、大きな溜息を一つ吐き出すのが精一杯だった。
香介の口から『ノア』という名前が出た時点で、千紘は嫌な予感がしていた。
しかし外れて欲しかったそれは、やはり的中していたのである。
「どうしてこうなるんだよ……」
千紘がうなだれながら、長い長い溜息をつく。
そのまま地面に倒れ伏してしまいそうになるのを懸命に堪え、ゆっくり顔を上げると、そこには真面目な表情の秋斗がいた。
「つまり、もう一人の気配ってのがノアのことで、一緒にこの世界に来てるんじゃないかって言いたいんだよな?」
人差し指を立てた秋斗が簡潔にまとめると、香介とリリアはまるでシンクロしたかのように、揃って首を縦に振る。
「一緒に落ちたなら可能性は高いですよね」
前回は僕もそうでしたし、と律も同意して頷きながら、香介たちに視線を向けた。
「そういうことなんだけど、さっきも言った通り、まだ見つかってないのよねぇ。もし本当にノアちゃんが来てるならなおさら放ってはおけないでしょう? あたしだけ帰るわけにはいかないもの」
困ったように香介が嘆息する。その姿をちらりと見やったリリアがさらに続けた。
「だから、急遽あんたたちを呼んだのよ。それにちょっと気になる話も聞いたし」
「気になる話?」
どうにか気を取り直した千紘が、リリアをまっすぐに見る。
「最近、怪しい教団ができたらしいのよ」
「教団?」
リリアの言葉に、秋斗と律が一緒になって首を傾げた。もちろん千紘も同様である。リリアは一つ頷いて、静かに続きを紡いだ。
「そう。首都の近くにある廃城、ヴェール城ってところを拠点にしてるらしいんだけど」
「いやいや、それは俺らに関係なくないか?」
ちょっと待て、と千紘が顔の前で手を振ると、香介は表情を曇らせながら、また溜息をついた。
「それがそうとも言い切れないのよねぇ」
「どういうことだよ?」
千紘は怪訝そうな表情を浮かべ、今度は香介に向けて問う。
(何だか、どんどん雲行きが怪しくなってきてるな……)
このままだとまた面倒なことに巻き込まれるのではないかと、千紘が不安になってきていた矢先だ。
「もしかしたらなんだけど、その教団とノアちゃんが関係あるかもしれないのよ」
「はぁ!?」
香介の口から出たとんでもない台詞に、千紘が思わず大きな声を上げ、瞠目する。隣にいる秋斗と律も、同じように目を見開いていた。
「教団の信者っていうのが、全員鮮やかな緑色のマントを纏ってるんですって」
「その色が、この世界で最近の流行りだったりするのか?」
秋斗が身を乗り出してリリアに訊く。
「まさか。そんなの聞いたことないし、この辺りじゃ怪しいなんてものじゃないわよ」
リリアは即座に首を左右に振って否定した。
そこで千紘が顎に手を当て、これまでの冒険を思い返す。
確かに、この世界では鮮やかな緑色の服なんて見たことがないような気がした。これまで見てきた服はだいたいがシンプルで、控えめな色合いだったはずである。
もちろんもっと派手な色を身に着けている者もいるのだろうが、まだそれを見たことはない。
千紘はリリアの言葉に納得しながら、素直に頷いた。
「だろうな。でもそれとノアがどう関わってくるんだよ」
「どうやら、そこの教祖も緑色のマントを着てるらしいのよ」
「信者だけでなく教祖もってことは、教団の教えか何かだろ? 見た目は怪しすぎるけど、まあ適当に意味とかあったりするんじゃないのか?」
教団なのだから何かしらの意図はあるのではないか、と考える千紘だが、香介は声をひそめ、さらに続ける。
「でも、緑って気にならない?」
その言葉に、千紘は腕を組んで、しばし考え込んだ。
(緑……緑色か……)
脳裏に、今はここにいない、ある人物の顔が思い浮かぶ。そう、現在話題に上っている人物だ。
ややあって顔を上げた千紘は、眉根を寄せ、唸るように言った。
「もう嫌な予感しかしねーんだけど、まさか緑だからスターグリーンと関係あるんじゃないか、とでも言いたいのか?」
「その通りよ。どうしても無関係とは思えないのよね。マントは偶然かもしれないけど、何となく引っかかるというか、気になるのよねぇ」
これはあたしの勘なんだけど、と付け加えながら、頬に手を当てた香介はしっかり頷く。
嫌な予感が徐々に現実化してきていることに、千紘はすでに頭を抱えたくなっているが、どうやら今回も巻き込まれることは間違いないようだ。
(まったく、めんどくせーな……)
千紘ががっくり肩を落としそうになっていると、そこに追い打ちをかけるように、リリアが言い足してくる。
「教団が活動し始めたのも一週間くらい前って話だし」
「マジかよ。一週間くらい前ってことは、タイミング的には香とノアが召喚された辺りじゃねーか……」
ノアが召喚されたタイミングは、おそらくだが香介とほぼ同じだろう。であれば、絶対に教団と無関係だとは言えないのかもしれない。
千紘は心底うんざりした表情で頭を掻いた後、大きな溜息を一つ吐き出すのが精一杯だった。
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