戦隊ヒーローレッドは異世界でも戦うのがめんどくさい~でも召喚されたものは仕方ないのでしぶしぶ戦うことにしました~

市瀬瑛理

文字の大きさ
上 下
75 / 105
第三章 緑と黒――そして集まる五人

第75話 二度あることは三度ある

しおりを挟む
 階段から落ちて目が覚めると、そこはやはり異世界だった。

 大きな木々に囲まれた中、草の上にあぐらをかいた相馬そうま千紘ちひろは、アンシュタートと呼ばれる異世界に自分たちを召喚した犯人の少女――リリア・クレメントを厳しい眼差しで見上げる。

「いきなり何なんだよ? これで三度目だぞ」

 目の前で仁王立ちしているリリアに向けて、不機嫌を隠すことはしない。

 その両隣には、同じように座り込んでいる深見ふかみ秋斗あきと成海なるみりつの姿もあった。
 二人とも突然の出来事に思考が追いついていないのか、木漏れ日の下で呆然とした表情を浮かべている。

 しかし、リリアはそんな千紘たちに構うことなく、平然と言ってのけた。

「大変なことになってるかもしれないの」
「はぁ? その前にまず謝れよ。俺らまたお前のせいで勝手に階段から落とされてんだけど、一体どういうことだよ」

 端的に告げられた深刻そうな台詞とは対照的に、リリアの不遜ふそんな態度と表情からはまったく深刻さを感じない。

 そのことに、千紘は苛立たしげにさらに顔をしかめ、続けて文句の言葉を紡ごうとするが、残念ながらそれはすぐに飲み込むことになった。
 少し離れた木の陰から、リリアとは別の人物がひょっこり顔を覗かせたのである。

「やっほー、千紘ちゃん! 秋斗ちゃんと律ちゃんも久しぶりね!」

 これまでの不穏な空気を一撃で壊すような、場違いに明るい声が森に響き、千紘たち三人は揃って驚愕きょうがくした。

 驚くのも無理はない。目の前に躍り出てきたのは、よく見知っているが、まさかここにいるとは思いもしない人物だったのだ。

 名前は雪村ゆきむら香介こうすけ。『星空戦隊スターレンジャー』のスターブラックを演じている。同い年の秋斗よりもやや小柄で、少し長めの赤みがかった茶髪が印象的な青年である。

「何でここに香介……」

 千紘は目を見開いたまま、思わずそう口にしてから、「しまった」とばかりに慌てて両手で口を塞ぐ。だがもう遅かった。

「その名前で呼ぶんじゃねぇ!」

 香介の低く唸るような声が辺りにとどろく。

 命の危機すら感じさせるその声に、千紘は一瞬びくりと身体を跳ねさせるが、すぐに姿勢を正した。当然、秋斗と律も同様である。

「す、すみません……」

 千紘が小さくなって謝罪の言葉を述べると、香介ははっとした表情を浮かべ、次には上品な仕草で口に手を当てる。

「あらやだ、あたしとしたことが。ふふ、今のは忘れてちょうだい。『かおりちゃん』でしょ? ね、千紘ちゃん」

 口調は戻ったが、香介の笑っていないその目は、有無を言わせない雰囲気をまとっていた。
 千紘はさらに萎縮いしゅくして、うつむきがちに小声で答える。

「……はい」
「それでいいわ」

 香介が満足したように数回頷くと、ようやく千紘は安心して大きな息を吐いた。それから、気を取り直して一つ咳払いをし、正直に思ったことを口にする。

「えーっと、何で香がここにいるんだよ。それに久しぶりもなにも、俺らさっき撮影終わって別れたばかりなんだけど」
「みんなを驚かそうと思って隠れてたのよぉ」
「いや、そこじゃなくて」

 一体どうしてこの世界にいるのか、それを聞きたい千紘ではあるが、香介はそんな様子を気に留めることなく、嬉しそうに続けた。

「思った通り、みんなすごく驚いてくれてよかったわぁ。わざわざ隠れた甲斐があるってものよね」
「だからそうじゃなくて……」
「もうわかったわよ。千紘ちゃんはせっかちなんだから。じゃあリリアちゃん、詳しい説明お願いできる?」
「ええ、もちろん」

 香介が隣にいるリリアに顔を向けると、リリアは素直に頷きながら組んでいた腕をほどき、その場に座り込む。続いて香介も腰を下ろした。

「さっき『大変なこと』って言ってたよな?」
「言ってましたね。どういうことなんでしょう?」

 やっと声が戻った秋斗と律も、うようにそばに寄ってきて座り直す。
 リリアは不思議そうに顔を見合わせる二人に視線を投げ、吐息を漏らした。

「これからちゃんと話すわよ」

 どうやらきちんと説明する気はあるらしい。そのことに千紘たちは安堵しつつ、リリアの言葉の続きを待つ。

 すでに謝罪がどうの、とかいう話はすっかり忘れ去られていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...