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第三章 緑と黒――そして集まる五人
第75話 二度あることは三度ある
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階段から落ちて目が覚めると、そこはやはり異世界だった。
大きな木々に囲まれた中、草の上にあぐらをかいた相馬千紘は、アンシュタートと呼ばれる異世界に自分たちを召喚した犯人の少女――リリア・クレメントを厳しい眼差しで見上げる。
「いきなり何なんだよ? これで三度目だぞ」
目の前で仁王立ちしているリリアに向けて、不機嫌を隠すことはしない。
その両隣には、同じように座り込んでいる深見秋斗と成海律の姿もあった。
二人とも突然の出来事に思考が追いついていないのか、木漏れ日の下で呆然とした表情を浮かべている。
しかし、リリアはそんな千紘たちに構うことなく、平然と言ってのけた。
「大変なことになってるかもしれないの」
「はぁ? その前にまず謝れよ。俺らまたお前のせいで勝手に階段から落とされてんだけど、一体どういうことだよ」
端的に告げられた深刻そうな台詞とは対照的に、リリアの不遜な態度と表情からはまったく深刻さを感じない。
そのことに、千紘は苛立たしげにさらに顔をしかめ、続けて文句の言葉を紡ごうとするが、残念ながらそれはすぐに飲み込むことになった。
少し離れた木の陰から、リリアとは別の人物がひょっこり顔を覗かせたのである。
「やっほー、千紘ちゃん! 秋斗ちゃんと律ちゃんも久しぶりね!」
これまでの不穏な空気を一撃で壊すような、場違いに明るい声が森に響き、千紘たち三人は揃って驚愕した。
驚くのも無理はない。目の前に躍り出てきたのは、よく見知っているが、まさかここにいるとは思いもしない人物だったのだ。
名前は雪村香介。『星空戦隊スターレンジャー』のスターブラックを演じている。同い年の秋斗よりもやや小柄で、少し長めの赤みがかった茶髪が印象的な青年である。
「何でここに香介……」
千紘は目を見開いたまま、思わずそう口にしてから、「しまった」とばかりに慌てて両手で口を塞ぐ。だがもう遅かった。
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!」
香介の低く唸るような声が辺りに轟く。
命の危機すら感じさせるその声に、千紘は一瞬びくりと身体を跳ねさせるが、すぐに姿勢を正した。当然、秋斗と律も同様である。
「す、すみません……」
千紘が小さくなって謝罪の言葉を述べると、香介ははっとした表情を浮かべ、次には上品な仕草で口に手を当てる。
「あらやだ、あたしとしたことが。ふふ、今のは忘れてちょうだい。『香ちゃん』でしょ? ね、千紘ちゃん」
口調は戻ったが、香介の笑っていないその目は、有無を言わせない雰囲気を纏っていた。
千紘はさらに萎縮して、うつむきがちに小声で答える。
「……はい」
「それでいいわ」
香介が満足したように数回頷くと、ようやく千紘は安心して大きな息を吐いた。それから、気を取り直して一つ咳払いをし、正直に思ったことを口にする。
「えーっと、何で香がここにいるんだよ。それに久しぶりもなにも、俺らさっき撮影終わって別れたばかりなんだけど」
「みんなを驚かそうと思って隠れてたのよぉ」
「いや、そこじゃなくて」
一体どうしてこの世界にいるのか、それを聞きたい千紘ではあるが、香介はそんな様子を気に留めることなく、嬉しそうに続けた。
「思った通り、みんなすごく驚いてくれてよかったわぁ。わざわざ隠れた甲斐があるってものよね」
「だからそうじゃなくて……」
「もうわかったわよ。千紘ちゃんはせっかちなんだから。じゃあリリアちゃん、詳しい説明お願いできる?」
「ええ、もちろん」
香介が隣にいるリリアに顔を向けると、リリアは素直に頷きながら組んでいた腕をほどき、その場に座り込む。続いて香介も腰を下ろした。
「さっき『大変なこと』って言ってたよな?」
「言ってましたね。どういうことなんでしょう?」
やっと声が戻った秋斗と律も、這うように傍に寄ってきて座り直す。
リリアは不思議そうに顔を見合わせる二人に視線を投げ、吐息を漏らした。
「これからちゃんと話すわよ」
どうやらきちんと説明する気はあるらしい。そのことに千紘たちは安堵しつつ、リリアの言葉の続きを待つ。
すでに謝罪がどうの、とかいう話はすっかり忘れ去られていた。
大きな木々に囲まれた中、草の上にあぐらをかいた相馬千紘は、アンシュタートと呼ばれる異世界に自分たちを召喚した犯人の少女――リリア・クレメントを厳しい眼差しで見上げる。
「いきなり何なんだよ? これで三度目だぞ」
目の前で仁王立ちしているリリアに向けて、不機嫌を隠すことはしない。
その両隣には、同じように座り込んでいる深見秋斗と成海律の姿もあった。
二人とも突然の出来事に思考が追いついていないのか、木漏れ日の下で呆然とした表情を浮かべている。
しかし、リリアはそんな千紘たちに構うことなく、平然と言ってのけた。
「大変なことになってるかもしれないの」
「はぁ? その前にまず謝れよ。俺らまたお前のせいで勝手に階段から落とされてんだけど、一体どういうことだよ」
端的に告げられた深刻そうな台詞とは対照的に、リリアの不遜な態度と表情からはまったく深刻さを感じない。
そのことに、千紘は苛立たしげにさらに顔をしかめ、続けて文句の言葉を紡ごうとするが、残念ながらそれはすぐに飲み込むことになった。
少し離れた木の陰から、リリアとは別の人物がひょっこり顔を覗かせたのである。
「やっほー、千紘ちゃん! 秋斗ちゃんと律ちゃんも久しぶりね!」
これまでの不穏な空気を一撃で壊すような、場違いに明るい声が森に響き、千紘たち三人は揃って驚愕した。
驚くのも無理はない。目の前に躍り出てきたのは、よく見知っているが、まさかここにいるとは思いもしない人物だったのだ。
名前は雪村香介。『星空戦隊スターレンジャー』のスターブラックを演じている。同い年の秋斗よりもやや小柄で、少し長めの赤みがかった茶髪が印象的な青年である。
「何でここに香介……」
千紘は目を見開いたまま、思わずそう口にしてから、「しまった」とばかりに慌てて両手で口を塞ぐ。だがもう遅かった。
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!」
香介の低く唸るような声が辺りに轟く。
命の危機すら感じさせるその声に、千紘は一瞬びくりと身体を跳ねさせるが、すぐに姿勢を正した。当然、秋斗と律も同様である。
「す、すみません……」
千紘が小さくなって謝罪の言葉を述べると、香介ははっとした表情を浮かべ、次には上品な仕草で口に手を当てる。
「あらやだ、あたしとしたことが。ふふ、今のは忘れてちょうだい。『香ちゃん』でしょ? ね、千紘ちゃん」
口調は戻ったが、香介の笑っていないその目は、有無を言わせない雰囲気を纏っていた。
千紘はさらに萎縮して、うつむきがちに小声で答える。
「……はい」
「それでいいわ」
香介が満足したように数回頷くと、ようやく千紘は安心して大きな息を吐いた。それから、気を取り直して一つ咳払いをし、正直に思ったことを口にする。
「えーっと、何で香がここにいるんだよ。それに久しぶりもなにも、俺らさっき撮影終わって別れたばかりなんだけど」
「みんなを驚かそうと思って隠れてたのよぉ」
「いや、そこじゃなくて」
一体どうしてこの世界にいるのか、それを聞きたい千紘ではあるが、香介はそんな様子を気に留めることなく、嬉しそうに続けた。
「思った通り、みんなすごく驚いてくれてよかったわぁ。わざわざ隠れた甲斐があるってものよね」
「だからそうじゃなくて……」
「もうわかったわよ。千紘ちゃんはせっかちなんだから。じゃあリリアちゃん、詳しい説明お願いできる?」
「ええ、もちろん」
香介が隣にいるリリアに顔を向けると、リリアは素直に頷きながら組んでいた腕をほどき、その場に座り込む。続いて香介も腰を下ろした。
「さっき『大変なこと』って言ってたよな?」
「言ってましたね。どういうことなんでしょう?」
やっと声が戻った秋斗と律も、這うように傍に寄ってきて座り直す。
リリアは不思議そうに顔を見合わせる二人に視線を投げ、吐息を漏らした。
「これからちゃんと話すわよ」
どうやらきちんと説明する気はあるらしい。そのことに千紘たちは安堵しつつ、リリアの言葉の続きを待つ。
すでに謝罪がどうの、とかいう話はすっかり忘れ去られていた。
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