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第二章 新たなメンバーは黄
第68話 律の治癒魔法
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青天の下、砂浜であぐらをかいた千紘が、律に向けている左腕の袖をまくる。
露わになったのは、大きく広がった青紫色が痛々しい患部だ。
「うわぁ、これは酷いな」
それを見た秋斗が、思い切り顔をしかめる。
千紘も今になって初めて確認したが、あまりにも酷すぎて、思わずめまいを起こしそうになった。この状態でよくダイオウイカの核を壊せたものだと、自分を褒めてやりたくなったくらいである。
正確には、壊す時に無理をしたせいで、さらに悪化してこうなっているのだが、きっとその前から似たような状態になっていたはずだ、と千紘はこれまでを振り返った。
「ホントにこれは酷いですね」
律の反応も二人と同様だった。さすがにこの状態を見て、平然としていられる人間はなかなかいないだろう。
しかし、律はすぐに真剣な表情に戻ると、千紘の左腕に両手をかざす。
「ちょっと集中してみますね」
「ああ、頼んだ」
千紘が頷くと、律は大きく深呼吸をして、瞼を伏せた。
千紘と秋斗は揃って、患部にかざされた律の手に視線を落とす。
律はちゃんと魔法を使えるだろうか、また使えなくて落ち込んだりはしないだろうか、と千紘は少々心配したが、それは杞憂に終わった。
ややあって、律の唇から自然と術の詠唱が紡がれたのである。
「――我が身に宿るは静穏導く白き光、今こそ傷つきし者に柔らかなる癒しを与える時――」
千紘の腕にかざした律の手のひらから、徐々に眩い光が溢れてくる。
「ヒール……!」
発せられたその一言の後、大きく膨らんだ光は千紘の患部をすっぽりと覆うように、優しく包み込んだ。
黙って様子を見守っていた秋斗が、ぽつりと零す。
「前にタフリの術師に治してもらった時と同じだな」
「ああ」
千紘も秋斗に同意して頷いた。
秋斗が言った通り、以前タフリ村にいる術師に怪我を治してもらったことがあるが、その時の光景とそっくりだったのである。
どちらも怪我を治す治癒魔法だから、きっと同じものか、とても似たものなのだろう。
そんなことを考えながら、千紘は秋斗と一緒に、何とも言えない不思議な気持ちで、目の前の光景を食い入るように見つめた。
(前もそうだったけど、ずっと見ていたくなるんだよな。何でだろ)
それは、地球では見ることのできないものだからかもしれない。あるいは、何か神秘的なものを感じるのか。
どちらにせよ、目が離せなくなるのは確かだった。おそらく秋斗も同じだろう。
患部が柔らかな綿で包まれるような感触の後、千紘はその場所がほんのり温かくなっていくのを感じる。
次には、ゆっくり痛みが引いていくのがわかった。
それと呼応するかのように、光はだんだんと弱くなる。そしてすっかり消え去る頃には、痛みも感じなくなっていた。
「……ふう。千紘さん、どうですか?」
律が両手を静かに下ろし、息を吐く。笑みを浮かべ、千紘の顔を見上げるその姿には、明らかに疲れのようなものが見て取れた。
律に聞かれ、千紘は確認のために左腕を触ってみるが、やはり痛みは感じない。青紫色になっていた患部も綺麗な肌色に戻っていた。
「うん、もう痛くない。それより、律の方こそ大丈夫か?」
「そうだよ。りっちゃん、疲れた顔してる」
「確かにちょっと疲れた感じもしますけど、全然平気です」
千紘と秋斗が心配そうに律の顔を覗き込むと、律はまたにっこりと明るく微笑む。
「それならいいんだけど、あまり無理するんじゃないぞ?」
「そうだぞ。無理するとさっきの秋斗みたいになるからな? でもありがとな、律」
秋斗はまだ心配だと言わんばかりの表情を浮かべていた。
千紘も同じく心配ではあるが、律が平気だと言うのだから、今は見守ってやることくらいしかできないだろう。
「はい、ありがとうございます!」
「お礼を言うのはこっちの方だろ」
「そうだよ、頑張ったのはりっちゃんなんだからさ!」
律がはにかんだ笑顔を見せると、千紘と秋斗もつられるように笑みを零す。
「でも、ちゃんと魔法が使えてよかったです」
そう言って、律の表情がさらに綻んだ。
どうやら、魔法を使って役に立てたことが嬉しいらしい。それは怪我を治してもらった千紘だけでなく、秋斗にとってもだろう。
しばし、三人の間に笑顔の溢れた穏やかな空気が流れる。
少ししてそれが落ち着いてきた頃、千紘はふとあることを思い出した。
「あ、そういえば」
口をついて出た言葉に、当然のことながら秋斗と律は揃って首を傾げたのである。
露わになったのは、大きく広がった青紫色が痛々しい患部だ。
「うわぁ、これは酷いな」
それを見た秋斗が、思い切り顔をしかめる。
千紘も今になって初めて確認したが、あまりにも酷すぎて、思わずめまいを起こしそうになった。この状態でよくダイオウイカの核を壊せたものだと、自分を褒めてやりたくなったくらいである。
正確には、壊す時に無理をしたせいで、さらに悪化してこうなっているのだが、きっとその前から似たような状態になっていたはずだ、と千紘はこれまでを振り返った。
「ホントにこれは酷いですね」
律の反応も二人と同様だった。さすがにこの状態を見て、平然としていられる人間はなかなかいないだろう。
しかし、律はすぐに真剣な表情に戻ると、千紘の左腕に両手をかざす。
「ちょっと集中してみますね」
「ああ、頼んだ」
千紘が頷くと、律は大きく深呼吸をして、瞼を伏せた。
千紘と秋斗は揃って、患部にかざされた律の手に視線を落とす。
律はちゃんと魔法を使えるだろうか、また使えなくて落ち込んだりはしないだろうか、と千紘は少々心配したが、それは杞憂に終わった。
ややあって、律の唇から自然と術の詠唱が紡がれたのである。
「――我が身に宿るは静穏導く白き光、今こそ傷つきし者に柔らかなる癒しを与える時――」
千紘の腕にかざした律の手のひらから、徐々に眩い光が溢れてくる。
「ヒール……!」
発せられたその一言の後、大きく膨らんだ光は千紘の患部をすっぽりと覆うように、優しく包み込んだ。
黙って様子を見守っていた秋斗が、ぽつりと零す。
「前にタフリの術師に治してもらった時と同じだな」
「ああ」
千紘も秋斗に同意して頷いた。
秋斗が言った通り、以前タフリ村にいる術師に怪我を治してもらったことがあるが、その時の光景とそっくりだったのである。
どちらも怪我を治す治癒魔法だから、きっと同じものか、とても似たものなのだろう。
そんなことを考えながら、千紘は秋斗と一緒に、何とも言えない不思議な気持ちで、目の前の光景を食い入るように見つめた。
(前もそうだったけど、ずっと見ていたくなるんだよな。何でだろ)
それは、地球では見ることのできないものだからかもしれない。あるいは、何か神秘的なものを感じるのか。
どちらにせよ、目が離せなくなるのは確かだった。おそらく秋斗も同じだろう。
患部が柔らかな綿で包まれるような感触の後、千紘はその場所がほんのり温かくなっていくのを感じる。
次には、ゆっくり痛みが引いていくのがわかった。
それと呼応するかのように、光はだんだんと弱くなる。そしてすっかり消え去る頃には、痛みも感じなくなっていた。
「……ふう。千紘さん、どうですか?」
律が両手を静かに下ろし、息を吐く。笑みを浮かべ、千紘の顔を見上げるその姿には、明らかに疲れのようなものが見て取れた。
律に聞かれ、千紘は確認のために左腕を触ってみるが、やはり痛みは感じない。青紫色になっていた患部も綺麗な肌色に戻っていた。
「うん、もう痛くない。それより、律の方こそ大丈夫か?」
「そうだよ。りっちゃん、疲れた顔してる」
「確かにちょっと疲れた感じもしますけど、全然平気です」
千紘と秋斗が心配そうに律の顔を覗き込むと、律はまたにっこりと明るく微笑む。
「それならいいんだけど、あまり無理するんじゃないぞ?」
「そうだぞ。無理するとさっきの秋斗みたいになるからな? でもありがとな、律」
秋斗はまだ心配だと言わんばかりの表情を浮かべていた。
千紘も同じく心配ではあるが、律が平気だと言うのだから、今は見守ってやることくらいしかできないだろう。
「はい、ありがとうございます!」
「お礼を言うのはこっちの方だろ」
「そうだよ、頑張ったのはりっちゃんなんだからさ!」
律がはにかんだ笑顔を見せると、千紘と秋斗もつられるように笑みを零す。
「でも、ちゃんと魔法が使えてよかったです」
そう言って、律の表情がさらに綻んだ。
どうやら、魔法を使って役に立てたことが嬉しいらしい。それは怪我を治してもらった千紘だけでなく、秋斗にとってもだろう。
しばし、三人の間に笑顔の溢れた穏やかな空気が流れる。
少ししてそれが落ち着いてきた頃、千紘はふとあることを思い出した。
「あ、そういえば」
口をついて出た言葉に、当然のことながら秋斗と律は揃って首を傾げたのである。
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