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第二章 新たなメンバーは黄

第66話 使えない魔法

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「これ、どうするかな……」

 砂浜であぐらをかいた千紘が、左腕を庇うように右手で押さえながら、仰向けで眠っている秋斗の顔を覗き込む。

「さすがに『これ』はどうかと思いますが……」

 秋斗を『これ』扱いする千紘に、律は苦笑を隠せない。

 胸の上で手を組んで、おとなしく寝息を立てている秋斗は、その姿だけなら間違いなく誰もが見惚みとれるであろうイケメンだ。
 それは千紘も認めるところだが、起きれば一転、瞬く間に残念なイケメンと化してしまうのが非常にもったいないと常々思っている。

 千紘はそんな秋斗の頬を軽く引っ張ってみるが、まだ起きる気配はなかった。

「なかなか起きないな」
「頬を引っ張るのもどうかと思いますけど」
「え? つねってないだけマシだろ?」

 困ったような笑みを浮かべている律は、膝を抱えてしゃがみ込み、秋斗の顔を覗いている。

 二人ともすでに変身は解いていた。

 千紘の左腕はといえば、ダイオウイカの核を壊す際に酷使した反動と、変身を解いたせいで、現在はさらに痛みが悪化している。
 千紘は変身を解く前に少しの間安静にしていて、わずかに痛みが治まったタイミングで「そろそろ大丈夫だろう」と判断して変身を解いたのだが、やはりダメだったのだ。

 変身していた時は身体能力が上がっていたため、痛みも多少は緩和されていたようだが、変身を解いた途端に、これまでとは比べ物にならないくらいの激痛が走ったのである。

 けれど、千紘は変身していれば痛みがまだマシなのをわかったうえで、あえて激痛に耐える方を選んだ。どうあっても、一人だけ変身したままではいたくなかったからだ。
 今も懸命に痛みをこらえながら、律の前でできる限りの平静を装っている。

「もうめんどくさいから、このまま置いて帰ってもいいか?」
「それはダメですよ!」

 あっけらかんと言ってのける千紘に、すかさず律が両手を勢いよく振り、慌てた様子を見せた。

「ちっ、ダメか」
「当たり前じゃないですか!」

 残念だと言わんばかりに、わざとらしく千紘が舌打ちすると、律は頬を膨らませる。
 もちろんこれは冗談であって、千紘も本気で言っているわけではない。

 今の千紘の怪我の状態と体力では秋斗を運べないので、とりあえず砂浜に寝かせていたのだが、当の秋斗はまだ目を覚ましていない。

 一度は律が秋斗を運ぶ役に立候補したのだが、律よりも大きい秋斗を一人で運ぶのは物理的に難しいと、千紘が言い聞かせた。
 物理的なものは当然だが、実際に律もかなり体力を消耗していたから、これ以上無理をさせたくなかったというのが本音である。

「それよりも、千紘さんの怪我治さないと! 今も痛いんでしょう?」

 おろおろと心配そうに、律が千紘の顔を見上げる。

「確かに痛くないと言えば嘘になるけどな。むしろかなり痛い。でも魔法の使い方、わかんないんだろ?」

 千紘に平然とそう返され、言葉に詰まった律は落胆の色を隠すことなくうつむいた。

 千紘が言った通り、律はまだ治癒魔法を使えていなかった。
 先ほど、千紘の左腕を治そうと試みたまではいいが、どうやって魔法を使ったらいいのかわからなかったのである。

「リリアさんは、これがあれば魔法が使えるって言ってましたよね」

 呟くように言いながら、律が胸のポケットからミロワールの欠片かけらを取り出す。太陽の光を受けて青く輝くそれは、タフリ村でリリアから渡されたものだ。

 きちんと手元にあるのだから魔法が使えないことはないはずだが、使い方までは教わっていなかったことに、二人は実際に魔法を使おうとした今になって気がついたのである。

 当然、魔法の使えない千紘にわかるはずもなく、秋斗に使い方を教えてもらおうと、こうして起きるのを待つことにして、現在に至る。

「秋斗は俺の知らないうちに使えるようになってたみたいだけど、何かコツみたいなものがあるのかもしれないな」

 千紘が前回秋斗と仲違なかたがいをして、別行動だった時を思い返す。

 仲違いをした時の秋斗はまだ魔法を使っていなかったが、後になって千紘を助けに来た時には魔法を使えるようになっていた。
 おそらく、別行動していた時に使えるようになっていたのだろう。
 ただ、どうやって使えるようになったのか、その辺りのことは聞いていないので、まったくわからない。

「最初に秋斗さんかリリアさんに教えてもらっておけばよかったですね。何でそこまで考えなかったんだろう」

 律は今にも泣き出してしまいそうに、しゅんと肩を落としてしまう。

「そんなに気にするなって。教えておかなかった『これ』が悪い」

 そう言って、千紘が秋斗を指差しながら、律を励ますように明るく笑った。

 今は寝ているのをいいことに、秋斗を悪者に仕立て上げたが、実際には誰も悪くない。律だけでなく、千紘も秋斗も気づかなかったのだから、皆同罪のようなものだ。

「でも……」
「……う、ん……」

 律はまだ何かを言いたそうに口を開こうとする。しかしその時、秋斗がわずかに動いた気がして、二人は揃って顔を覗き込んだ。

「お、やっと起きたな」

 残念なイケメンのお目覚めだった。

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