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第二章 新たなメンバーは黄

第65話 ダイオウイカの攻略法・2

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(早く核を探さないと……!)

 千紘の頬を冷たい汗が伝っていく。

 秋斗の限界が近い。その事実に、千紘は急いでダイオウイカの核を探す。
 先ほど秋斗が言っていた、胴体の真ん中辺りを念入りに見回した。

 魔法で凍らせた海が解けて、ダイオウイカが動き出してしまったら大変なことになる。まず、自分が無事では済まないだろう。
 そうならないためにも、一刻も早く核を見つけ出し、壊さなければならない。

 もしかしたら、まだ他にも存在しているのかもしれないが、今は胴体にあるかもしれない核を探すのが最優先だ。
 それでダメだったら次の手を考えるしかない。秋斗が言った通り、『四つめ、五つめを探すしかない』のである。

 少しして、

「……これか」

 千紘がようやく、胴体の中にある核を見つけた。

 半透明の体内にあったそれは、触腕しょくわんの付け根にあったものと同じく、青い球体だった。大きさも触腕のものと同じくらいである。

「この大きさじゃ、遠目ではなかなか見つからないはずだ」

 手間かけさせやがって、と千紘が盛大な溜息を漏らす。握っていた長剣を逆手に持ち替え、両手でしっかりとそのつかを握りしめた。

 そのまま核の中心に向けて、全力で長剣を突き立てる。

 長剣の切先きっさきが核に届き、刺さる感触。
 それが千紘に伝わってきた瞬間、

「――っ!」

 左腕に強い痛みが走る。思わずきつく目を閉じた。
 しかし千紘はそのまま大きく深呼吸をすると、痛みを堪えながらゆっくりまぶたを上げる。
 そして自分の真下にある、まだ長剣が突き刺さっている核の状態を確認した。

「……まだ壊れないのかよ……っ!」

 千紘が悔しそうに、奥歯を噛み締める。

 核はまだ完全には壊れていなかった。
 壊れなかった原因はすぐに思い当たる。きっと無意識に左腕を庇っていて、力を込めきれていなかったせいだ。

「……っ」

 また左腕が痛み、千紘は顔を歪めた。

 変身しているから今はずっとマシだろうが、それでも痛いことには変わりない。これで変身を解いたらどうなるのかとつい考えてしまい、背筋が凍った。

 正直、かなり辛い。息が切れ、額からは嫌な汗が噴き出している。
 それでも、今ここで核を壊しておかなければならない。

 自分がやらなければ、一体誰がやるのか。

 痛みを懸命に堪えながら、核に刺さっている長剣の柄を両手で改めてしっかり握り込む。そして、両腕にさらに渾身の力を込めた。

「――スター・バーニング・クラーッシュ!」

 反射的に必殺技の名前が出てきたことには、千紘は気づかない。もはや職業病のようになっていて、無意識で口にしているのだ。

 先ほどまでより深く、長剣が突き刺さっていく。
 ようやく核が割れる感触が、千紘の全身に伝わってきた。

 そこでようやくほっとして、両腕から少し力を抜くと、ダイオウイカの身体が徐々に透き通り始める。

(やっぱりこれが最後の核だったのか)

 よかった、と千紘が大きく息を吐き、手の甲で額の汗を拭った。
 そのまま長剣を抜いて、思わずその場に膝をつきそうになった時である。

「氷が解けてきてる……!?」

 千紘は目を見開いて、辺りを見回した。

 ダイオウイカの身体が消え始めるのと同時に、氷も解け出していたのだ。
 ちょうど秋斗の限界が来たのだろう。

 秋斗の魔法に関係なく、ダイオウイカが消えてなくなる前に地上に戻る必要はあった。でないと、ダイオウイカが消えた時に自分が海に落ちてしまう。
 けれど、その場で一息つく余裕くらいはあると思っていたのだ。

「急がないと!」

 膝を折る暇もなく、千紘は慌てて砂浜に戻ろうと、長剣を手にきびすを返す。

 今は左腕の痛みも忘れ、消えかけているダイオウイカの胴体の上を必死に走った。
 そして魔法が切れるギリギリのところで、どうにか砂浜に着地する。

「ダイオウイカは……?」

 千紘が大きく肩を上下させながら海を振り返ると、そこにはもう氷もなければ、ダイオウイカの姿もない。
 まばゆい太陽に照らされた、静かな海があるだけだった。

「そうだ、秋斗!」

 千紘がはっとして顔を上げる。

 あれだけの魔法を使った後だ。もしかしたらどこかで倒れているかもしれない。
 急いで秋斗の姿を探すと、少し離れた砂浜に両膝をついた状態でいるのが見つかる。すでに変身は解けていた。

 かたわらには一足先に駆けつけた律が寄り添っている。
 千紘もすぐさま秋斗の元へと駆け寄って、その目の前にしゃがみ込んだ。

「秋斗、大丈夫か!?」

 千紘が顔を覗き込むようにしながら声を掛けると、秋斗がゆるゆると視線だけを上げる。
 律が支えているおかげで地面には倒れていなかったが、顔色だけを見ればとっくに気を失っていてもおかしくないような有様ありさまだった。

「……ちょっと、頑張りすぎたかな。でも疲れただけだから……」

 わずかに顔を上げた秋斗が、青ざめた表情で弱々しく笑う。

「だったら、少し休んどけ」

 千紘が心配そうに、秋斗の背にそっと手を置いた。
 こういう時はさすがに、秋斗のことをめんどくさいとは思わない。千紘だって人並みに心配をするのだ。

「ああ、そうする……」

 そう呟くように答えた秋斗は瞼を閉じると、ゆっくり千紘の方へと倒れ込む。

「秋斗!?」

 千紘が突然のことに驚きながらも、秋斗を抱きとめた。腕の中に収まった秋斗は微動だにしない。

 その様に、まさか死んでしまったのではないか、と千紘の中に一抹の不安がよぎる。
 しかし、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、

「まったく紛らわしいんだよ」

 千紘はそうツッコミながらも、安堵の溜息を漏らしたのだった。

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