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第二章 新たなメンバーは黄
第64話 ダイオウイカの攻略法・1
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突然耳に届いた声に、千紘と律が驚いた表情で、揃って振り返る。
そこには、いつの間にか変身した秋斗の姿があった。
「早く!」
青色のスーツ姿の秋斗が、仁王立ちしながら急かしてくる。
「律、離れるぞ!」
「はい!」
言われた通りに、千紘と律がダイオウイカから離れ、距離をとった。とほぼ同時に、秋斗は両腕を肩の高さまで持ち上げ、静かに瞼を閉じる。
「――聖なる水よ、今ここに氷塊となりて顕現し、我が眼前の敵を打ち滅ぼさん――」
その唇から紡がれたのは、魔法の詠唱だった。
律は子供のように瞳を輝かせながら、黙って様子を眺めている。
(ここで魔法か。でも水魔法でどうするつもりだ?)
しかし、千紘は秋斗を見守りながらも、一人で首を傾げていた。
秋斗の魔法は、水を扱うことができるという『水魔法』のはず。
今回の相手は海の魔物である。水の中で自由に活動できる魔物に、水魔法は相性が悪そうに思える。
秋斗が一体何をしようとしているのか、千紘にはまだわからなかった。
『何か考えてること、あるんだろ?』
千紘はふと、先ほど秋斗に言った言葉を思い返す。
秋斗はその言葉に、しっかりと頷いたのだ。
つまり、今のタイミングで秋斗が自分たちに声を掛けたということは、何かしらの勝算があってのことだろう。
(とりあえずは秋斗に任せるか)
千紘は、黙って見ていることしかできない自分をもどかしく思いながらも、今は秋斗を信じることにした。
ややあって、秋斗がようやく瞳を開く。
「――フリーズ・フラッド!」
凛とした声が辺りに響いた。
いつもよりずっと澄んだその声と、ダイオウイカへと向けた秋斗の手のひらが青白く光っていることに、千紘と律が瞠目する。
(今回は詠唱も魔法も少し違うのか……)
腕を組んだ千紘は、前回の出来事を振り返りながら、そんなことを漠然と考えた。
前回は手も光っていなかったし、詠唱が異なるということは、きっと魔法も異なっているのだろう。どう違うのかはまだわからないが、どうせすぐにわかることだ。
そう思って、今度はダイオウイカの方に顔を向ける。
実際、変化はすぐに起こった。
ダイオウイカの周り――海の一部が、秋斗の魔法で徐々に凍りついていく。同時に、氷で囲まれたダイオウイカの動きも制限され、みるみるうちに鈍くなっていった。
(これは前よりすごいな……)
千紘は感心しながら、その様子を見つめる。
前回の秋斗の魔法は、バスケットボールサイズの水の塊を操るだけだった。
それだけでも千紘はすごいと思ったのに、今はダイオウイカの周りの海を広範囲にわたって凍らせているのだ。
そんなことを考えているうちに、周りをすべて凍らされたダイオウイカは、とうとう完全に動かなくなった。
すかさず秋斗から声が掛かる。
「千紘、今のうちに頼んだ! あまり持ちそうにない……っ」
思わず千紘が振り向くと、そこには少し辛そうな表情の秋斗がいた。
両手は肩の高さに上げたままで氷を制御しているようだが、その額には玉の汗が浮かんでいる。
千紘は瞬時に状況を悟った。
前回よりも明らかにすごい魔法である。おそらくだが、魔法の効果が切れるとダイオウイカが動き出す可能性が高いのだろう。
しかも、制御している秋斗に刻々と限界が近づいているのだ。
「わかった!」
ならば魔法が切れる前にやらないと、と千紘がすぐさま地面を蹴った。
走る勢いを殺すことなく、一息に砂浜から氷へと飛び移る。そのまま氷を軽々と飛び越えるようにして上り、ダイオウイカのうつ伏せになった胴体に乗った。
(まずは核を探さないと……)
千紘はきょろきょろと周りを見回す。しかし辺り一面、半透明の胴体が続いているだけだ。
ダイオウイカの身体は動いていないが、何しろ目に見える身体の面積が広いので、どこから探せばいいのかわからない。
とにかく目視でざっと探してみようと思った時、千紘はふと異変に気づいた。
ダイオウイカが少し動いたような気配を感じたのである。
(まさか、秋斗の魔法が切れる……!?)
千紘の心に、わずかばかりの焦りが生まれる。
それを裏付けるかのように、
「……急げ、千紘……っ!」
遠くから、秋斗の呻くような声が聞こえてきた。
そこには、いつの間にか変身した秋斗の姿があった。
「早く!」
青色のスーツ姿の秋斗が、仁王立ちしながら急かしてくる。
「律、離れるぞ!」
「はい!」
言われた通りに、千紘と律がダイオウイカから離れ、距離をとった。とほぼ同時に、秋斗は両腕を肩の高さまで持ち上げ、静かに瞼を閉じる。
「――聖なる水よ、今ここに氷塊となりて顕現し、我が眼前の敵を打ち滅ぼさん――」
その唇から紡がれたのは、魔法の詠唱だった。
律は子供のように瞳を輝かせながら、黙って様子を眺めている。
(ここで魔法か。でも水魔法でどうするつもりだ?)
しかし、千紘は秋斗を見守りながらも、一人で首を傾げていた。
秋斗の魔法は、水を扱うことができるという『水魔法』のはず。
今回の相手は海の魔物である。水の中で自由に活動できる魔物に、水魔法は相性が悪そうに思える。
秋斗が一体何をしようとしているのか、千紘にはまだわからなかった。
『何か考えてること、あるんだろ?』
千紘はふと、先ほど秋斗に言った言葉を思い返す。
秋斗はその言葉に、しっかりと頷いたのだ。
つまり、今のタイミングで秋斗が自分たちに声を掛けたということは、何かしらの勝算があってのことだろう。
(とりあえずは秋斗に任せるか)
千紘は、黙って見ていることしかできない自分をもどかしく思いながらも、今は秋斗を信じることにした。
ややあって、秋斗がようやく瞳を開く。
「――フリーズ・フラッド!」
凛とした声が辺りに響いた。
いつもよりずっと澄んだその声と、ダイオウイカへと向けた秋斗の手のひらが青白く光っていることに、千紘と律が瞠目する。
(今回は詠唱も魔法も少し違うのか……)
腕を組んだ千紘は、前回の出来事を振り返りながら、そんなことを漠然と考えた。
前回は手も光っていなかったし、詠唱が異なるということは、きっと魔法も異なっているのだろう。どう違うのかはまだわからないが、どうせすぐにわかることだ。
そう思って、今度はダイオウイカの方に顔を向ける。
実際、変化はすぐに起こった。
ダイオウイカの周り――海の一部が、秋斗の魔法で徐々に凍りついていく。同時に、氷で囲まれたダイオウイカの動きも制限され、みるみるうちに鈍くなっていった。
(これは前よりすごいな……)
千紘は感心しながら、その様子を見つめる。
前回の秋斗の魔法は、バスケットボールサイズの水の塊を操るだけだった。
それだけでも千紘はすごいと思ったのに、今はダイオウイカの周りの海を広範囲にわたって凍らせているのだ。
そんなことを考えているうちに、周りをすべて凍らされたダイオウイカは、とうとう完全に動かなくなった。
すかさず秋斗から声が掛かる。
「千紘、今のうちに頼んだ! あまり持ちそうにない……っ」
思わず千紘が振り向くと、そこには少し辛そうな表情の秋斗がいた。
両手は肩の高さに上げたままで氷を制御しているようだが、その額には玉の汗が浮かんでいる。
千紘は瞬時に状況を悟った。
前回よりも明らかにすごい魔法である。おそらくだが、魔法の効果が切れるとダイオウイカが動き出す可能性が高いのだろう。
しかも、制御している秋斗に刻々と限界が近づいているのだ。
「わかった!」
ならば魔法が切れる前にやらないと、と千紘がすぐさま地面を蹴った。
走る勢いを殺すことなく、一息に砂浜から氷へと飛び移る。そのまま氷を軽々と飛び越えるようにして上り、ダイオウイカのうつ伏せになった胴体に乗った。
(まずは核を探さないと……)
千紘はきょろきょろと周りを見回す。しかし辺り一面、半透明の胴体が続いているだけだ。
ダイオウイカの身体は動いていないが、何しろ目に見える身体の面積が広いので、どこから探せばいいのかわからない。
とにかく目視でざっと探してみようと思った時、千紘はふと異変に気づいた。
ダイオウイカが少し動いたような気配を感じたのである。
(まさか、秋斗の魔法が切れる……!?)
千紘の心に、わずかばかりの焦りが生まれる。
それを裏付けるかのように、
「……急げ、千紘……っ!」
遠くから、秋斗の呻くような声が聞こえてきた。
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