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第二章 新たなメンバーは黄

第62話 『信頼』

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「あれ、剣がないな」

 立ち上がった千紘がふと右手を見て、ぽつりと呟く。念のため左手も確認してみるが、やはり長剣の姿はない。

 攻撃を受けて飛ばされた時に落としたのだろうか、と辺りをぐるりと見回して、秋斗の少し後方の地面に突き刺さっているのを見つけた。

 長剣を取りに行こうと、千紘が歩き出し、同じように立ち上がっていた秋斗とすれ違う。
 すれ違いざま、秋斗はうつむきがちに、小さく言葉を絞り出した。

「……そろそろ変身して戦うべきじゃないか? 千紘は怪我してるし、りっちゃんだって辛そうだ」
「……できればしたくないんだけどな」

 困ったようにそう答えながら、千紘が足を止める。秋斗の顔は見ずに、わざとらしく苦笑してみせた。

「それはわかってるけど、今はそんなこと言ってられないだろ?」

 千紘の返事に、秋斗が声を硬くする。

 今の自分たちの戦況で、もはやわがままを言えないことは、千紘にも嫌というほどわかっていた。

 それでも何とか変身せずに、この場を切り抜けられないかと考えていたのである。
 だが、どうやらここが限界らしい。

「確かに、もうなりふり構ってられないか……」

 千紘は静かにまぶたを伏せ、自身に言い聞かせるかのようにひとちると、顔を上げ、再び歩き出す。

 まっすぐ前を見据えたまま、砂浜に刺さった長剣の元へと向かうと、斜めに傾いたそれのつかを握った。
 ただ砂に刺さっているだけの長剣だ。千紘は難なく抜くと、一振りして剣の全身から砂を落とす。

 その時、後ろの方から潮風に乗って、秋斗の声が聞こえてきた。

「本当はおれも前に出て戦えればいいんだけど……」

 あの大物には護身用のダガーじゃ何もできないしな、と零した声音は、心底残念そうだった。

 千紘も秋斗も互いに背を向け、顔は合わせない。また風が吹き抜けていき、二人の髪を揺らした。

「魔法使いはおとなしく後ろで守られてろ。……何か考えてること、あるんだろ?」

 言いながら、千紘が振り返る。次には、秋斗も振り返った。
 二人の視線がぶつかる。

「……」

 わずかに目を見張った秋斗は無言で、けれどしっかりと頷いた。

「ならいい」

 しばし秋斗を見つめた後、千紘は満足したように少しだけ口元を緩め、長剣を握り直す。
 そして、それ以上は何も言わず、ダイオウイカと戦っている律の方へと駆け出した。

 秋斗が具体的に何を考えているのかは、今の千紘にはわからない。
 ただ漠然と、何か考えがあるのではないかと思っただけだ。

 秋斗はその『何か』を実行するタイミングを見計らっている。

 なぜか、そんな確信めいたものを感じていたのである。

 これは『信頼』という言葉がふさわしいのかもしれない、などと考えながら、千紘はさらに口角を上げた。


  ※※※


「律!」

 律の元に駆けつけた千紘が、すぐさま声を掛ける。
 すると、律は一瞬だけ千紘に視線を投げ、ほっとした表情を浮かべた後、

「はい!」

 と、声を振り絞って大きく返事をした。

「遅くなって悪い」
「千紘さん、無理しないでください」

 律の心配する言葉に、千紘は左腕の痛みを我慢しながら笑顔を作り、隣に並ぶ。

「もう平気だから気にするな。で、核の場所はわかったか?」
「いえ、まだです。さすがにそこまでの余裕がなくて」

 千紘が状況を聞くと、律は息を切らせながら、申し訳なさそうにそう答えた。

 これまでずっとダイオウイカを引きつけるだけで精一杯で、核を探す余裕なんてなかったのだろう。
 そんなことは千紘にもすぐわかる。

 律の顔は、先ほどよりも疲れの色が濃く見えた。その頬には幾筋もの汗が伝っている。今まで一人で相手をしていたのだから当然だ。

 対してダイオウイカは、まだまだ元気そうに見える。律の攻撃でところどころ傷を負って薄青色うすあおいろの血は流しているものの、動きは先ほどまでとそれほど変わっていないようだった。

 それでも、ここまで頑張ってくれていた律には、感謝してもしきれない。

「秋斗にも言われたし、やっぱりこのままじゃダメだ。変身するぞ!」
「……わかりました!」

 千紘が意を決したように、表情を引き締める。律はダイオウイカに向けていた視線を千紘に戻し、素直に頷いた。
 二人は天に向かって右手を掲げると、声を揃えて変身の台詞を口にする。

『スターチェンジ!』

 次の瞬間、二人の姿はそれぞれ、赤と黄のまばゆい光の粒子に包まれたのだった。

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