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第二章 新たなメンバーは黄
第59話 めんどくさい相手
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懸命にダイオウイカから遠ざかろうとする千紘の頭上に、大きな影が落ちる。
千紘は咄嗟に振り向き、その正体がダイオウイカの触腕だと知った。
(逃げられない……っ!)
このまま走っていても逃げ切ることはできない。そう瞬時に判断した千紘は、意を決してこれまで動かしていた足を止める。
同時に、追ってくる触腕を振り返った。
(……だったら!)
逃げることをやめ、ダイオウイカに向き直った千紘は、手にしていた長剣を目の前で横に構える。
受け止められるかは、わからない。
だが、逃げ続けて無防備な背後から攻撃を食らうよりは、正面から迎え撃つ方が最善のはず、と考えたのだ。
ダイオウイカの長い触腕が眼前に迫る。
千紘は構えた長剣を握る両手に力を込めると、ぐっと腰を落とし、防御体勢をとった。
「――っ!!」
次の瞬間に訪れたのは、言葉で言い表せないほどの衝撃。
情け容赦のない触腕の攻撃に、千紘は長剣ごと砂浜に叩きつけられ、砂が派手に舞い上がる。
一瞬、遠くから秋斗と律の声が聞こえた気がした。しかし、それよりも受けた衝撃の方が大きく、千紘はほんのわずかな間ではあるが気を失う。
少しして、
(……生きて、る……?)
目を覚ました千紘は、自身が砂にめり込むような形で、仰向けに倒れていることに気がついた。
澄んだ空を仰ぎながら、ここが岩場だったら確実に死んでたな、などとぼんやり考える。
それから千紘はどうにか上体を起こしたが、砂埃を吸い込んでしまったらしく、苦しそうに咳き込んだ。
「千紘! 大丈夫か!?」
ダイオウイカの攻撃をかいくぐって、秋斗が慌てて駆け寄ろうとする。
「……何とか、生きてはいる」
だが、千紘はまだ咳き込みながらも、それを手で制した。
視界の端で秋斗が立ち止まったのを確認してから、かろうじて手放すことのなかった長剣を支えに、ゆっくり立ち上がる。
「まったくめんどくせー相手だな」
千紘が肩で大きく息をして、吐き捨てるように言った。
服についた砂を手で軽く払い、長剣を握り直す。
千紘の様子を遠目で心配そうに見ていた律も、倣うようにして、二本のダガーを構え直した。
その時である。
「千紘! りっちゃん! ちょっと戻ってくれ!」
秋斗の大きな声が砂浜に響いた。
その声に不思議そうな表情を浮かべながらも、千紘と律がダイオウイカの攻撃が止んだ隙を狙って、秋斗の元まで戻ってくる。
「何でわざわざ呼び戻すんだよ?」
「どうかしたんですか?」
「ごめん。いや、ちょっと思い出したことがあってさ」
千紘と律の言葉に、秋斗はすまなそうに頭を掻いたあと、二人の顔を見回した。
「思い出したこと?」
「それって何ですか?」
千紘と律が揃って首を傾げると、
「うん。イカは心臓が三つあるって、どこかのクイズ番組で見たのを思い出してさ」
秋斗は頷きながら、真顔でそう答える。
それを聞いた千紘が、考え込むように少しうつむいた。
(クイズ番組、ねぇ……)
ややあって顔を上げると、ダイオウイカを指差す。
「つまり、あれもイカっぽい魔物だから核も三つあるんじゃないか、とか言いたいのか?」
「だから二つ壊しても、まだ一つ残ってるから消えないってことですかね?」
それなら納得できますけど、と律は千紘の指した方に目を向けた。
ダイオウイカは二つの核を壊されたとはいえ、まだまだ元気そうである。弱っている様子は微塵も感じられない。
「もちろん、核が心臓と同じだとしたら、の話だけどさ」
秋斗も二人と同じようにダイオウイカに視線をやると、再度頷く。
その言葉に、千紘が腕を組んだ。
「なるほど。でもここは地球じゃないから、絶対に三つとは限らないだろ」
「二つでダメなら三つ、それでもダメなら四つめ、五つめを探して壊すしかないよ」
「それはそうなんだろうけど、アンタは相変わらず無茶言うな。攻撃するの俺らだぞ」
アンタは後衛で見てるだけだからいいだろうけど、と千紘が仰々しい仕草で溜息をつく。
「悪いな」
申し訳なさそうに秋斗が苦笑した。
千紘は咄嗟に振り向き、その正体がダイオウイカの触腕だと知った。
(逃げられない……っ!)
このまま走っていても逃げ切ることはできない。そう瞬時に判断した千紘は、意を決してこれまで動かしていた足を止める。
同時に、追ってくる触腕を振り返った。
(……だったら!)
逃げることをやめ、ダイオウイカに向き直った千紘は、手にしていた長剣を目の前で横に構える。
受け止められるかは、わからない。
だが、逃げ続けて無防備な背後から攻撃を食らうよりは、正面から迎え撃つ方が最善のはず、と考えたのだ。
ダイオウイカの長い触腕が眼前に迫る。
千紘は構えた長剣を握る両手に力を込めると、ぐっと腰を落とし、防御体勢をとった。
「――っ!!」
次の瞬間に訪れたのは、言葉で言い表せないほどの衝撃。
情け容赦のない触腕の攻撃に、千紘は長剣ごと砂浜に叩きつけられ、砂が派手に舞い上がる。
一瞬、遠くから秋斗と律の声が聞こえた気がした。しかし、それよりも受けた衝撃の方が大きく、千紘はほんのわずかな間ではあるが気を失う。
少しして、
(……生きて、る……?)
目を覚ました千紘は、自身が砂にめり込むような形で、仰向けに倒れていることに気がついた。
澄んだ空を仰ぎながら、ここが岩場だったら確実に死んでたな、などとぼんやり考える。
それから千紘はどうにか上体を起こしたが、砂埃を吸い込んでしまったらしく、苦しそうに咳き込んだ。
「千紘! 大丈夫か!?」
ダイオウイカの攻撃をかいくぐって、秋斗が慌てて駆け寄ろうとする。
「……何とか、生きてはいる」
だが、千紘はまだ咳き込みながらも、それを手で制した。
視界の端で秋斗が立ち止まったのを確認してから、かろうじて手放すことのなかった長剣を支えに、ゆっくり立ち上がる。
「まったくめんどくせー相手だな」
千紘が肩で大きく息をして、吐き捨てるように言った。
服についた砂を手で軽く払い、長剣を握り直す。
千紘の様子を遠目で心配そうに見ていた律も、倣うようにして、二本のダガーを構え直した。
その時である。
「千紘! りっちゃん! ちょっと戻ってくれ!」
秋斗の大きな声が砂浜に響いた。
その声に不思議そうな表情を浮かべながらも、千紘と律がダイオウイカの攻撃が止んだ隙を狙って、秋斗の元まで戻ってくる。
「何でわざわざ呼び戻すんだよ?」
「どうかしたんですか?」
「ごめん。いや、ちょっと思い出したことがあってさ」
千紘と律の言葉に、秋斗はすまなそうに頭を掻いたあと、二人の顔を見回した。
「思い出したこと?」
「それって何ですか?」
千紘と律が揃って首を傾げると、
「うん。イカは心臓が三つあるって、どこかのクイズ番組で見たのを思い出してさ」
秋斗は頷きながら、真顔でそう答える。
それを聞いた千紘が、考え込むように少しうつむいた。
(クイズ番組、ねぇ……)
ややあって顔を上げると、ダイオウイカを指差す。
「つまり、あれもイカっぽい魔物だから核も三つあるんじゃないか、とか言いたいのか?」
「だから二つ壊しても、まだ一つ残ってるから消えないってことですかね?」
それなら納得できますけど、と律は千紘の指した方に目を向けた。
ダイオウイカは二つの核を壊されたとはいえ、まだまだ元気そうである。弱っている様子は微塵も感じられない。
「もちろん、核が心臓と同じだとしたら、の話だけどさ」
秋斗も二人と同じようにダイオウイカに視線をやると、再度頷く。
その言葉に、千紘が腕を組んだ。
「なるほど。でもここは地球じゃないから、絶対に三つとは限らないだろ」
「二つでダメなら三つ、それでもダメなら四つめ、五つめを探して壊すしかないよ」
「それはそうなんだろうけど、アンタは相変わらず無茶言うな。攻撃するの俺らだぞ」
アンタは後衛で見てるだけだからいいだろうけど、と千紘が仰々しい仕草で溜息をつく。
「悪いな」
申し訳なさそうに秋斗が苦笑した。
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