57 / 105
第二章 新たなメンバーは黄
第57話 姿を現したもの
しおりを挟む
翌日、千紘たちが一階の食堂でのんびり朝食をとっていた時のことである。
丸い木製のテーブルを三人で囲みながら、朝食を終えたら海まで様子を見に行ってみよう、などと話をしていた。
そこに雑貨屋の店主――ナロイカ村の村長が、血相を変えて飛び込んできたのだ。
「皆さん、魔物のボスが出ました!」
村長の慌てた声に、場の雰囲気が一瞬で壊される。これまでのゆったりしていた食堂の空気は、途端に張り詰めたものになった。
千紘たちだけでなく、そこにいた全員が一斉に緊張した面持ちになる。顔面蒼白になっている者もいた。
「本当ですか!?」
すぐに食事の手を止めた三人が勢いよく立ち上がり、息を切らせている村長の顔を見る。すると、村長は左胸に手を当てながら、「ああ」と大きく首を縦に振った。
「思ったより早く来たな」
「そうですね」
千紘が厳しい目つきで、横に立てかけておいた長剣の柄に手を伸ばす。
律も神妙な顔つきで同意しながら、腰に装備していた二本のダガーを改めて確認した。
いつボスが出るかもわからない状況で武器を部屋に置いておく理由もないし、万が一の場合でもすぐに行けるようにと、それぞれが武器を持ち歩いていたのである。
海まで探しに行く手間と、引きずり出す手間が省けたことはありがたいが、正直こんなに早く出てくるとは誰も思っていなかった。
「村人をすぐに避難させて、危険だから海には絶対に近づかせないようにしてください!」
すぐさま千紘が村長に指示を出す。
「わかりました!」
村長は再度頷いて踵を返すと、息を整える間もなくバタバタと食堂から出て行った。
「じゃ、おれたちも行くか!」
「ああ!」
「はい!」
秋斗の気合いを入れた声に、千紘と律が真剣な表情でしっかり頷く。
そして食べかけの食事もそのままに、三人は揃って食堂を飛び出した。
※※※
砂浜に駆けつけた千紘たちが目にしたのは、大型の魔物だった。
「これって、イカ……かなぁ?」
秋斗が瞼の上に手をかざしながら、少し離れた場所にいる魔物を見上げ、ぽつりと零す。
「ああ、大きなイカに見えるな」
「ダイオウイカってやつですかね?」
同じように手をかざした千紘と律が一緒になって、秋斗の零した言葉に頷いた。
確かに、見た目は地球で見るイカのようだった。
だが、大きさが普通のイカとはかなり違っていたのである。
「それにしたって、さすがにちょっと大きすぎないか……?」
「ですよね……」
千紘が唸るように漏らせば、律もまたダイオウイカを見上げながら、どこかぼんやりとした口調で同意する。
「バルエルの塔の高さに比べれば小さいけど……」
「いやいや、塔と比べちゃダメだろ」
秋斗のどこか間抜けな言葉に、千紘はすぐさまツッコミを入れた。
しかし、さすがに塔の高さまでとはいかないが、それに近い大きさはある。
はっきりと断言はできないが、おそらく二十メートルくらいはありそうに見えた。
ダイオウイカはまだギリギリ浜辺には上がってきていないが、上がってくるのも時間の問題だろう。
やはり小物の魔物はボスが怖いのか、幸いなことに、周りに他の魔物の姿は見当たらなかった。
今なら三対一で戦える状況だ。
「秋斗、どうする?」
千紘が秋斗の方に顔を向けると、
「これまでのことを考えると、こいつもどっかに核があるんじゃないかと思うんだけど……」
秋斗は顎に手を当て、考え込む仕草をみせる。
気づけば、律だけでなく千紘も秋斗に判断を委ねることが多くなっていて、いつの間にか秋斗が参謀役のようになっていた。
実際、秋斗の方がこういったことに向いている、と千紘も認めているので、そこに異論はない。
その時である。
ようやく三人の姿を認めたらしいダイオウイカが、叩き潰そうとするかのように、一番長い二本の腕――触腕を高く持ち上げ、交互に叩きつけてきた。
「うわっ!」
突然の攻撃ではあったが、三人はどうにか避けることはできた。しかし、今の攻撃で砂浜が地震のように大きく揺れ、思わずよろけてしまう。
間髪入れず、次の攻撃が来た。
「とにかく、今はみんなバラバラになって逃げるぞ!」
秋斗の声に従って、全員が散開しながら逃げる。
どうやら、とりあえずはダイオウイカの注意をあちこちに逸らせようと、秋斗は考えたらしい。
まだどう攻撃していいものか考えあぐねていた三人は、ダイオウイカの攻撃を紙一重でかわしながら、ひたすら逃げ回ることしかできない。
だが、三人がバラバラに逃げても、ダイオウイカは他の腕も自在に操るようにして攻撃してくる。
(まったく器用なやつだな……!)
どうにか攻撃を避けた千紘が、ダイオウイカを振り返りながら、思わず舌打ちした。
悪い意味で感心してしまうが、今はそんなことを考えている場合ではない。
防戦一方ではただ無駄に体力を消耗するだけで、何の解決にもならないことはわかっている。
どこかのタイミングで攻撃を仕掛ける必要があるのだ。
何気なく、千紘が少し離れたところにいる秋斗の方を見やれば、時折チラチラとダイオウイカに顔を向けているのがわかる。
おそらく、逃げながらも核の場所を探しているのだろう。
(きっと秋斗が核を見つけるはずだ)
核の場所がわかれば、それを壊せばいい。
ただそれだけのことなのに、今はまだできないことがもどかしい。
「ああ、もう! 攻撃は最大の防御っていうし、とりあえず斬ってみるか!」
とうとうしびれを切らした千紘が、これまで逃げていた足を止める。
自分を追ってきていた触腕を振り返り、攻撃を迎え撃つことにしたのである。
丸い木製のテーブルを三人で囲みながら、朝食を終えたら海まで様子を見に行ってみよう、などと話をしていた。
そこに雑貨屋の店主――ナロイカ村の村長が、血相を変えて飛び込んできたのだ。
「皆さん、魔物のボスが出ました!」
村長の慌てた声に、場の雰囲気が一瞬で壊される。これまでのゆったりしていた食堂の空気は、途端に張り詰めたものになった。
千紘たちだけでなく、そこにいた全員が一斉に緊張した面持ちになる。顔面蒼白になっている者もいた。
「本当ですか!?」
すぐに食事の手を止めた三人が勢いよく立ち上がり、息を切らせている村長の顔を見る。すると、村長は左胸に手を当てながら、「ああ」と大きく首を縦に振った。
「思ったより早く来たな」
「そうですね」
千紘が厳しい目つきで、横に立てかけておいた長剣の柄に手を伸ばす。
律も神妙な顔つきで同意しながら、腰に装備していた二本のダガーを改めて確認した。
いつボスが出るかもわからない状況で武器を部屋に置いておく理由もないし、万が一の場合でもすぐに行けるようにと、それぞれが武器を持ち歩いていたのである。
海まで探しに行く手間と、引きずり出す手間が省けたことはありがたいが、正直こんなに早く出てくるとは誰も思っていなかった。
「村人をすぐに避難させて、危険だから海には絶対に近づかせないようにしてください!」
すぐさま千紘が村長に指示を出す。
「わかりました!」
村長は再度頷いて踵を返すと、息を整える間もなくバタバタと食堂から出て行った。
「じゃ、おれたちも行くか!」
「ああ!」
「はい!」
秋斗の気合いを入れた声に、千紘と律が真剣な表情でしっかり頷く。
そして食べかけの食事もそのままに、三人は揃って食堂を飛び出した。
※※※
砂浜に駆けつけた千紘たちが目にしたのは、大型の魔物だった。
「これって、イカ……かなぁ?」
秋斗が瞼の上に手をかざしながら、少し離れた場所にいる魔物を見上げ、ぽつりと零す。
「ああ、大きなイカに見えるな」
「ダイオウイカってやつですかね?」
同じように手をかざした千紘と律が一緒になって、秋斗の零した言葉に頷いた。
確かに、見た目は地球で見るイカのようだった。
だが、大きさが普通のイカとはかなり違っていたのである。
「それにしたって、さすがにちょっと大きすぎないか……?」
「ですよね……」
千紘が唸るように漏らせば、律もまたダイオウイカを見上げながら、どこかぼんやりとした口調で同意する。
「バルエルの塔の高さに比べれば小さいけど……」
「いやいや、塔と比べちゃダメだろ」
秋斗のどこか間抜けな言葉に、千紘はすぐさまツッコミを入れた。
しかし、さすがに塔の高さまでとはいかないが、それに近い大きさはある。
はっきりと断言はできないが、おそらく二十メートルくらいはありそうに見えた。
ダイオウイカはまだギリギリ浜辺には上がってきていないが、上がってくるのも時間の問題だろう。
やはり小物の魔物はボスが怖いのか、幸いなことに、周りに他の魔物の姿は見当たらなかった。
今なら三対一で戦える状況だ。
「秋斗、どうする?」
千紘が秋斗の方に顔を向けると、
「これまでのことを考えると、こいつもどっかに核があるんじゃないかと思うんだけど……」
秋斗は顎に手を当て、考え込む仕草をみせる。
気づけば、律だけでなく千紘も秋斗に判断を委ねることが多くなっていて、いつの間にか秋斗が参謀役のようになっていた。
実際、秋斗の方がこういったことに向いている、と千紘も認めているので、そこに異論はない。
その時である。
ようやく三人の姿を認めたらしいダイオウイカが、叩き潰そうとするかのように、一番長い二本の腕――触腕を高く持ち上げ、交互に叩きつけてきた。
「うわっ!」
突然の攻撃ではあったが、三人はどうにか避けることはできた。しかし、今の攻撃で砂浜が地震のように大きく揺れ、思わずよろけてしまう。
間髪入れず、次の攻撃が来た。
「とにかく、今はみんなバラバラになって逃げるぞ!」
秋斗の声に従って、全員が散開しながら逃げる。
どうやら、とりあえずはダイオウイカの注意をあちこちに逸らせようと、秋斗は考えたらしい。
まだどう攻撃していいものか考えあぐねていた三人は、ダイオウイカの攻撃を紙一重でかわしながら、ひたすら逃げ回ることしかできない。
だが、三人がバラバラに逃げても、ダイオウイカは他の腕も自在に操るようにして攻撃してくる。
(まったく器用なやつだな……!)
どうにか攻撃を避けた千紘が、ダイオウイカを振り返りながら、思わず舌打ちした。
悪い意味で感心してしまうが、今はそんなことを考えている場合ではない。
防戦一方ではただ無駄に体力を消耗するだけで、何の解決にもならないことはわかっている。
どこかのタイミングで攻撃を仕掛ける必要があるのだ。
何気なく、千紘が少し離れたところにいる秋斗の方を見やれば、時折チラチラとダイオウイカに顔を向けているのがわかる。
おそらく、逃げながらも核の場所を探しているのだろう。
(きっと秋斗が核を見つけるはずだ)
核の場所がわかれば、それを壊せばいい。
ただそれだけのことなのに、今はまだできないことがもどかしい。
「ああ、もう! 攻撃は最大の防御っていうし、とりあえず斬ってみるか!」
とうとうしびれを切らした千紘が、これまで逃げていた足を止める。
自分を追ってきていた触腕を振り返り、攻撃を迎え撃つことにしたのである。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
音楽とともに行く、異世界の旅~だけどこいつと一緒だなんて聞いてない~
市瀬瑛理
ファンタジー
いきなり異世界転移させられた小田桐蒼真(おだぎりそうま)と永瀬弘祈(ながせひろき)。
所属する市民オーケストラの指揮者である蒼真とコンサートマスターの弘祈は正反対の性格で、音楽に対する意見が合うこともほとんどない。当然、練習日には毎回のように互いの主張が対立していた。
しかし、転移先にいたオリジンの巫女ティアナはそんな二人に『オリジンの卵』と呼ばれるものを託そうとする。
『オリジンの卵』は弘祈を親と認め、また蒼真を自分と弘祈を守るための騎士として選んだのだ。
地球に帰るためには『帰還の魔法陣』のある神殿に行かなければならないが、『オリジンの卵』を届ける先も同じ場所だった。
仕方なしに『オリジンの卵』を預かった蒼真と弘祈はティアナから『指揮棒が剣になる』能力などを授かり、『帰還の魔法陣』を目指す。
たまにぶつかり合い、時には協力して『オリジンの卵』を守りながら異世界を行く二人にいつか友情は生まれるのか?
そして無事に地球に帰ることはできるのか――。
指揮者とヴァイオリン奏者の二人が織りなす、異世界ファンタジー。
※この作品は他の小説投稿サイトにも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
美少女ゲーム【ドラゴンズ・ティアラ】は、バグが多いのが玉に瑕の1000時間遊べる名作RPGだ。
そんな【ドラゴンズ・ティアラ】を正規プレイからバグ利用プレイまで全てを遊び尽くした俺は、憧れのゲーム世界に転生してしまう。
俺が転生したのは子爵家の次男ヴァレリウス。ゲーム中盤で惨たらしい破滅を迎えることになる、やられ役の悪役令息だった。
冷酷な兄との対立。父の失望からの勘当。学生ランクFへの降格。破滅の未来。
前世の記憶が蘇るなり苦難のスタートとなったが、むしろ俺はハッピーだった。
家族にハズレ扱いされたヴァレリウスの【モンスター錬成】スキルは、最強キャラクター育成の鍵だったのだから。
差し当たって目指すは最強。そして本編ごとの破滅シナリオの破壊。
元よりバランス崩壊上等のプレイヤーだった俺は、自重無しのストロングスタイルで、突っかかってくる家族を返り討ちにしつつ、ストーリー本編を乗っ取ってゆく。
(他サイトでも連載中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる