上 下
56 / 105
第二章 新たなメンバーは黄

第56話 話し合う三人

しおりを挟む
「まさか、雑貨屋の店主が村長だったとはなぁ」

 びっくりだよ、と秋斗が靴を脱いでベッドに上がると、

「まあ、先に言っといてくれよって話だけどな」

 千紘も秋斗と同じように靴を脱いで、向かいのベッドの上であぐらをかく。何気なく窓の外に目をやると、すっかり夜のとばりが下りきっていた。

「でも、雑貨屋と村長を兼任してるとは思いませんでしたね。僕もちょっと驚きました」

 律は秋斗の隣のベッドに腰かけながら、苦笑交じりにそう答える。

 今千紘たちがいるのは、雑貨屋の店主――ナロイカ村の村長が手配してくれた宿屋の一室で、二階の奥にある四人部屋だ。

 案内された部屋に荷物を置いた三人は、早速夕食と情報収集を兼ねて一階の食堂に向かうことにした。
 そして、そこで拾った情報を持ち帰って、部屋でこれからのことをじっくり話し合うつもりだったのだが。

「で、どうする?」
「どうするも何も、ボスの大きさくらいしかわかんなかったしな。それも結構曖昧あいまいだし、どうしろってんだよ」

 秋斗の問いに、千紘が肩をすくめながら、大げさなほどの溜息で答えた。

 そう、情報収集はしていたのだが、いかんせん情報が少なすぎたのだ。そもそも、食堂に来ている人間がほとんどいなかったのだから仕方がない。
 ほんのわずかでも、情報があったことに感謝しなければならないだろう。

「確か、かなり大きいんじゃないかって話でしたよね」

 こんな感じでしょうか、と律が両腕を広げながら、かろうじて得られた情報を口にすると、

「それも実物をしっかり見た人間がいるわけじゃないからな……」

 千紘はさらに大きな溜息を漏らした。
 すかさず秋斗が「まあまあ」とフォローに入る。

「みんな逃げるのに必死だっただろうし、情報が少ないのは仕方ないよ。これまで怪我人がほとんど出てないのは不幸中の幸いだよな」
「確かにそれはよかったけど。でも『頭の部分をちょっとだけ見た』って話くらいしか聞けなかったのはどうかと思うけどな」

 千紘が呆れたように言うと、秋斗と律は一緒になって「確かに」と苦笑を漏らした。

「でも、大きい魔物なら海を泳いで隣の大陸から来ることもできそうですよね。この村と隣の大陸は近いって話でしたし」
「潮の流れがどうなってるか知らないけど、スライムは波に流されてというか海の中を漂いながら来そうだし、キメラは羽があったから体力があれば飛んで来れそうだな。それとも意外と泳げたりするのかな」

 律の言葉を受けた秋斗が、顎に手を当て、真剣な表情で考え始める。

「いやいや、そこは考えなくてもいいだろ」

 千紘は思わず、ツッコミを入れた。そしてさらに続ける。

「それにしても、何だかまためんどくさいことになってきたな。さっさと地球に帰りたいだけなのに、何でこうなるんだか……」

 ふてくされたようにそう言うと、千紘は仰向けになって勢いよくベッドに倒れ込んだ。かすかに潮の香りが含まれた、柔らかい布団の感触を背中に感じながら、思い返す。

 ここまで来たのは、塩を買うのと、少しだけこの村の状況を確認するためだったはずだ。
 それなのに、いつの間にかまた面倒なことに巻き込まれている。

 この世界に呼ばれてから、一体どれだけの溜息をついたのか、もはやそんなことも思い出せなくなっていた。

「とりあえず、今日は体力回復のためにも寝るしかないよなぁ」

 秋斗が千紘に同情でもするかのように、また苦笑いを浮かべる。

「今ここで想像だけで話しててもどうにもならないし、体力は回復しておかないとな」
「ボスはいつ出るかわからないって話でしたけど、どうしますか?」

 二人の会話を聞いていた律が、小さく首を傾げた。秋斗は天井を見上げながら答える。

「そうだなぁ。退治を引き受けたからには、出てくるまでひたすら待つか、どうにかして引きずり出すしかないな。まず、明日は海まで様子を見に行ってみるか」
「ボスとやらを倒して、ちゃんと塩を買って帰らないといけないからな。さすがにこの村を放っておくわけにもいかないし」

 リリアの顔を思い出した千紘が、げんなりした顔で秋斗の言葉に付け加えた。

 もちろん、地球に帰るためにしなければならないことはわかっている。少しどころか、かなり遠回りになっているような気がしなくもないが、やらないわけにはいかない。

 結局、話し合いという名の雑談は、疲れのせいもあって割と早い段階でお開きになり、ベッドの中に潜り込んだ三人はあっという間に夢の中へと落ちていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

【完結】魔力・魔法が無いと家族に虐げられてきた俺は殺して殺して強くなります

ルナ
ファンタジー
「見てくれ父上!俺の立派な炎魔法!」 「お母様、私の氷魔法。綺麗でしょ?」 「僕らのも見てくださいよ〜」 「ほら、鮮やかな風と雷の調和です」 『それに比べて"キョウ・お兄さん"は…』 代々から強い魔力の血筋だと恐れられていたクライス家の五兄弟。 兄と姉、そして二人の弟は立派な魔道士になれたというのに、次男のキョウだけは魔法が一切使えなかった。 家族に蔑まれる毎日 与えられるストレスとプレッシャー そして遂に… 「これが…俺の…能力…素晴らしい!」 悲劇を生んだあの日。 俺は力を理解した。 9/12作品名それっぽく変更 前作品名『亡骸からの餞戦士』

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...