53 / 105
第二章 新たなメンバーは黄
第53話 ナロイカ村の様子
しおりを挟む
ナロイカ村は海のすぐ傍にある、漁業の盛んな村である。農業がメインのタフリ村とは村の中の雰囲気も少し違うと、リリアたちから聞いていた。
だが、今はあまり良くない意味で、ナロイカ村の様子は違うように見えた。
普段はおそらくもっと活気のある村なのだろうが、現在はその活気がどこにも見受けられないのである。
「タフリ村とは随分違う雰囲気だなぁ」
「ああ、物々しいというか何というか……」
「どことなく暗い感じがしますよね」
砂の地面に立った秋斗が辺りを眺めながらぽつりと零すと、千紘と律も揃って頷いた。
夕方になってようやくナロイカ村に着いた三人だったが、まだ暗くもないし買い物くらいはできるだろうと、まずは塩を売っている店を探そうとした。
もちろんそれを最初に提案したのは、さっさと用事を済ませて地球に帰りたい千紘である。
どこに売っているのかは、その辺にいる村人を捕まえて聞けば簡単にわかるだろうと思っていたのだが、その考えが甘かった。
村に入ってみたところで、まず村人が見当たらないのである。
「漁村ってもっと活気があって、賑やかなもんだと思ってたけどな」
ただ潮風が吹いているだけの、しんと静まり返った村の入り口で、千紘は秋斗と同じように辺りを見回した。
頬を撫でる潮風は気持ちがいいが、村の雰囲気はいただけない。
「やっぱり魔物のせいでしょうか?」
「多分そうなんだろうなぁ」
律が心配そうに問えば、秋斗は即答で返事をしながら腕を組む。
「とりあえず、村人を探さないといけないな」
千紘がそう言って、歩き出した時だ。
「あ、誰か出てきました!」
律が大きな声を上げる。
咄嗟に千紘と秋斗が視線を巡らせると、少し離れた建物の陰から、ちょうど女性が出てきたのが見えた。その胸には大きな荷物が両腕で抱えられている。洗濯物か何かだろうか。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「よし、行くぞ!」
女性の姿を捉えた三人は、この機を逃してはならないとばかりに勢いよく駆け出す。
「すみません! ちょっといいですか!?」
秋斗が急いで声を掛けると、女性は三人の方に振り向いた。その顔は目を見開き、心底驚いている様子である。
「あ、はい……。何でしょうか……?」
しかし、小声で答えた女性からは、明るさや元気のようなものが感じられなかった。まるでどんよりと曇った空気を背負っているようだ、と千紘は思う。
「おれたち塩を買いに来たんですけど、どこに行けば買えますか?」
「塩……ですか。それでしたら、ここをまっすぐ行ったところにある雑貨屋に行けば買えますよ」
秋斗の丁寧な物言いに、女性は村の奥の方を指差しながら素直に教えてくれたが、
「あ、でも……」
すぐに何かを思い出したように言い淀んでしまう。
「何ですか?」
「多分、今は売ってもらえないんじゃないかしら」
言いながら、女性は困ったような表情を浮かべ、頬に手を当てた。
「でも、塩を置いてはいるんですよね?」
今度は千紘が、女性に向けて優しく声を掛ける。
「数日前に見た時はまだ少しありましたけど、今もあるかどうかは……」
女性は小さく頷きながら、そう答えた。
「だったら、実際に行って見てきます。ありがとうございました!」
深々と頭を下げた千紘に倣い、秋斗と律も一緒になって頭を下げる。
「塩、買えるといいですね」
女性は静かに笑みを浮かべた。それは、まだそれほど元気そうではないが、先ほどよりは少しマシに見えるものだった。
そんな女性を後にして、三人は雑貨屋を目指すことにしたのである。
だが、今はあまり良くない意味で、ナロイカ村の様子は違うように見えた。
普段はおそらくもっと活気のある村なのだろうが、現在はその活気がどこにも見受けられないのである。
「タフリ村とは随分違う雰囲気だなぁ」
「ああ、物々しいというか何というか……」
「どことなく暗い感じがしますよね」
砂の地面に立った秋斗が辺りを眺めながらぽつりと零すと、千紘と律も揃って頷いた。
夕方になってようやくナロイカ村に着いた三人だったが、まだ暗くもないし買い物くらいはできるだろうと、まずは塩を売っている店を探そうとした。
もちろんそれを最初に提案したのは、さっさと用事を済ませて地球に帰りたい千紘である。
どこに売っているのかは、その辺にいる村人を捕まえて聞けば簡単にわかるだろうと思っていたのだが、その考えが甘かった。
村に入ってみたところで、まず村人が見当たらないのである。
「漁村ってもっと活気があって、賑やかなもんだと思ってたけどな」
ただ潮風が吹いているだけの、しんと静まり返った村の入り口で、千紘は秋斗と同じように辺りを見回した。
頬を撫でる潮風は気持ちがいいが、村の雰囲気はいただけない。
「やっぱり魔物のせいでしょうか?」
「多分そうなんだろうなぁ」
律が心配そうに問えば、秋斗は即答で返事をしながら腕を組む。
「とりあえず、村人を探さないといけないな」
千紘がそう言って、歩き出した時だ。
「あ、誰か出てきました!」
律が大きな声を上げる。
咄嗟に千紘と秋斗が視線を巡らせると、少し離れた建物の陰から、ちょうど女性が出てきたのが見えた。その胸には大きな荷物が両腕で抱えられている。洗濯物か何かだろうか。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「よし、行くぞ!」
女性の姿を捉えた三人は、この機を逃してはならないとばかりに勢いよく駆け出す。
「すみません! ちょっといいですか!?」
秋斗が急いで声を掛けると、女性は三人の方に振り向いた。その顔は目を見開き、心底驚いている様子である。
「あ、はい……。何でしょうか……?」
しかし、小声で答えた女性からは、明るさや元気のようなものが感じられなかった。まるでどんよりと曇った空気を背負っているようだ、と千紘は思う。
「おれたち塩を買いに来たんですけど、どこに行けば買えますか?」
「塩……ですか。それでしたら、ここをまっすぐ行ったところにある雑貨屋に行けば買えますよ」
秋斗の丁寧な物言いに、女性は村の奥の方を指差しながら素直に教えてくれたが、
「あ、でも……」
すぐに何かを思い出したように言い淀んでしまう。
「何ですか?」
「多分、今は売ってもらえないんじゃないかしら」
言いながら、女性は困ったような表情を浮かべ、頬に手を当てた。
「でも、塩を置いてはいるんですよね?」
今度は千紘が、女性に向けて優しく声を掛ける。
「数日前に見た時はまだ少しありましたけど、今もあるかどうかは……」
女性は小さく頷きながら、そう答えた。
「だったら、実際に行って見てきます。ありがとうございました!」
深々と頭を下げた千紘に倣い、秋斗と律も一緒になって頭を下げる。
「塩、買えるといいですね」
女性は静かに笑みを浮かべた。それは、まだそれほど元気そうではないが、先ほどよりは少しマシに見えるものだった。
そんな女性を後にして、三人は雑貨屋を目指すことにしたのである。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる