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第二章 新たなメンバーは黄
第52話 塔を出てから
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「結局、塔っていってもホントにただまっすぐ進むだけで、謎解きもなかったし、入り組んだ迷宮でもなかったなー。ずっと一方通行みたいだったもんな」
「秋斗は何で残念そうなんだよ……。まあ、広い空間に階段つけただけって感じだったしな。次の階段がすぐ見える位置関係でフロアもそこまで広くなかったし、行商人や旅人が通ったりするだけなんだから、わざわざ入り組ませる必要もねーよ。俺は逆に楽で助かったけどな」
「今思えば、長いトンネルを塔にしてみたって感じですかね。確かにリリアさんたちの言った通りでしたけど」
それぞれそんなことを言いながら、バルエルの塔から出てきた千紘たち。
外はまだ日が照っていて、少し暑いくらいだった。
塔の出口からすぐの場所、半径五メートル程を除く形で、周りには木々が生い茂っていた。
もちろん、頭上がぽっかり空いているので、太陽の光はそこから差し込んでくるのである。
木々の近くに生えている草花は、タフリ側で見るものよりも背が高く、千紘たちの太もも近くまであった。
この場所からぐるりと眺める分には、小さな森のようだ。
「ここからはそんなに遠くはないみたいだな」
日陰に移動し、早速秋斗のリュックから地図と方位磁石を出してもらう。千紘がそれを広げ、方角などを確認した。
地図といっても畳んでしまえばかなり小さなものだ。うっかり失くしては困る、とリュックに入れてもらっていたのである。
千紘はいつの間にか地図を見る係になってしまっていたが、それくらいは苦にもならないし、別にいいかと思っていた。それに、秋斗に任せる方が何となく不安で仕方がないのだ。
「んー、あっちの方に何か建物っぽいのが見えるけど、あれかなぁ」
片手を目の上にかざしながら、秋斗が言う。木々の隙間からどこかを見ているらしい。
秋斗の見ている方角に顔を向けて目を凝らす千紘と律だが、二人にはぼんやりと何かがある程度にしか見えない。
「……律、建物なんて見えるか?」
「うーん、建物って言われるとそう見えなくもないですけど、はっきりとはわからないですね」
「じゃあ、やっぱり秋斗の視力が良すぎるんだな。うん、絶対秋斗がおかしい」
自分たちは普通なんだ、と千紘は納得することにして、また地図に目を落とした。
秋斗の視力が良いのは知っている。もちろん千紘と律も普段から裸眼で、視力はそこまで悪くはないはずだ。
それなのに、ここで差が出るということは、きっと秋斗の視力がおかしいのだろう。そうとしか考えられない。
「……塔から出てこの方角にまっすぐだから、確かに秋斗の言ってることは正しいんだろうな」
千紘は改めて、地図と方位磁石を照らし合わせながら、秋斗の見ている方角を指差した。
どうやら秋斗が見えているものは間違っていないらしい。
それによく見れば、その方角に向けて、草花を簡単に踏みつけてできた細い道がある。元々、行商人はここを通っていたのだろう。
ならば、これを辿ればいい。
「じゃ、行くか!」
少し傾きかけた太陽の下、秋斗が元気よく駆け出す。
「だから遠足じゃないって何度言ったら……って、おい!」
慌てて千紘が声を上げたが、すでに秋斗の耳には届いていないようだ。さっさと先に行ってしまっていた。
「秋斗さん、待ってください!」
律も秋斗の後を追いかけていて、千紘だけがぽつんとその場に取り残される。
「まったく……」
また遠足気分の子供たちに付き合わされるのか、と千紘は大きな溜息をついたのだった。
※※※
ナロイカ村に向かう途中。
「やっぱこっち側には普通に魔物がいるんだなー。でもホントに倒さなくていいのか?」
木の陰に隠れながら、秋斗が小声で言う。
少し離れたところにはピンク色のスライムが数体いた。
「倒しながらでも行けるけど、頼まれたのは塔の魔物退治だけだし、今は少しでも体力を温存しておきたいからな」
千紘も同じように隠れ、秋斗に答える。
スライムとキメラの倒し方はすでにわかっている。わざわざ隠れる必要もないのだが、千紘が言った通り、できるだけ体力を温存しておきたいのだ。
思った以上に塔で体力を消耗しているし、この先も何があるかわからない。そう考えてのことである。
五階で岩山を退けるのと、二階にいた大量のスライム退治が意外と重労働だったのだ。
それに、これからスライムやキメラよりも強い魔物が出てくる可能性だって、まったくないわけではない。
魔物を倒せば鉱物が手に入るから、秋斗はできるだけ倒していきたいようだったが、まあまあの頻度でスライムやキメラに出くわすのである。これを全部倒していたらキリがないし、いつになってもナロイカ村に辿り着くことができない。
なので、気づかれていない時は極力無視することにして、今もスライムをやり過ごそうとしているところである。
塔を出てからは二体ほどスライムを倒していたが、これはやり過ごせなかった分だ。
「もう大丈夫だと思います」
これまでピンクスライムの様子を窺っていた律の声に、千紘と秋斗が緊張を解く。
「さて、行くか」
千紘が促し、また三人はナロイカ村へ向かって歩き出した。
※※※
それからしばらく歩いて行くと、海が近くなってきたのか、徐々に潮の香りがしてきた。
「お、村が見えた! 海もあるぞ!」
秋斗が指差した方を見れば、村の姿とそれに隣接している広い海がはっきりと認識できる。
「ここから見る感じだと、平和そうに見えますけどね」
「確かにな。秋斗、どう思う?」
「うーん、実際に村に行ってみないと何ともなぁ」
「まあ、そうだよな。とりあえず行くしかないか」
塩も買わないとだし、と千紘が自身に言い聞かせるように言うと、
「そうだよ! まずは行ってみないと!」
「今さら『行かない』って選択肢はないですもんね」
秋斗と律はそれに同意するように、しっかりと頷いた。
「秋斗は何で残念そうなんだよ……。まあ、広い空間に階段つけただけって感じだったしな。次の階段がすぐ見える位置関係でフロアもそこまで広くなかったし、行商人や旅人が通ったりするだけなんだから、わざわざ入り組ませる必要もねーよ。俺は逆に楽で助かったけどな」
「今思えば、長いトンネルを塔にしてみたって感じですかね。確かにリリアさんたちの言った通りでしたけど」
それぞれそんなことを言いながら、バルエルの塔から出てきた千紘たち。
外はまだ日が照っていて、少し暑いくらいだった。
塔の出口からすぐの場所、半径五メートル程を除く形で、周りには木々が生い茂っていた。
もちろん、頭上がぽっかり空いているので、太陽の光はそこから差し込んでくるのである。
木々の近くに生えている草花は、タフリ側で見るものよりも背が高く、千紘たちの太もも近くまであった。
この場所からぐるりと眺める分には、小さな森のようだ。
「ここからはそんなに遠くはないみたいだな」
日陰に移動し、早速秋斗のリュックから地図と方位磁石を出してもらう。千紘がそれを広げ、方角などを確認した。
地図といっても畳んでしまえばかなり小さなものだ。うっかり失くしては困る、とリュックに入れてもらっていたのである。
千紘はいつの間にか地図を見る係になってしまっていたが、それくらいは苦にもならないし、別にいいかと思っていた。それに、秋斗に任せる方が何となく不安で仕方がないのだ。
「んー、あっちの方に何か建物っぽいのが見えるけど、あれかなぁ」
片手を目の上にかざしながら、秋斗が言う。木々の隙間からどこかを見ているらしい。
秋斗の見ている方角に顔を向けて目を凝らす千紘と律だが、二人にはぼんやりと何かがある程度にしか見えない。
「……律、建物なんて見えるか?」
「うーん、建物って言われるとそう見えなくもないですけど、はっきりとはわからないですね」
「じゃあ、やっぱり秋斗の視力が良すぎるんだな。うん、絶対秋斗がおかしい」
自分たちは普通なんだ、と千紘は納得することにして、また地図に目を落とした。
秋斗の視力が良いのは知っている。もちろん千紘と律も普段から裸眼で、視力はそこまで悪くはないはずだ。
それなのに、ここで差が出るということは、きっと秋斗の視力がおかしいのだろう。そうとしか考えられない。
「……塔から出てこの方角にまっすぐだから、確かに秋斗の言ってることは正しいんだろうな」
千紘は改めて、地図と方位磁石を照らし合わせながら、秋斗の見ている方角を指差した。
どうやら秋斗が見えているものは間違っていないらしい。
それによく見れば、その方角に向けて、草花を簡単に踏みつけてできた細い道がある。元々、行商人はここを通っていたのだろう。
ならば、これを辿ればいい。
「じゃ、行くか!」
少し傾きかけた太陽の下、秋斗が元気よく駆け出す。
「だから遠足じゃないって何度言ったら……って、おい!」
慌てて千紘が声を上げたが、すでに秋斗の耳には届いていないようだ。さっさと先に行ってしまっていた。
「秋斗さん、待ってください!」
律も秋斗の後を追いかけていて、千紘だけがぽつんとその場に取り残される。
「まったく……」
また遠足気分の子供たちに付き合わされるのか、と千紘は大きな溜息をついたのだった。
※※※
ナロイカ村に向かう途中。
「やっぱこっち側には普通に魔物がいるんだなー。でもホントに倒さなくていいのか?」
木の陰に隠れながら、秋斗が小声で言う。
少し離れたところにはピンク色のスライムが数体いた。
「倒しながらでも行けるけど、頼まれたのは塔の魔物退治だけだし、今は少しでも体力を温存しておきたいからな」
千紘も同じように隠れ、秋斗に答える。
スライムとキメラの倒し方はすでにわかっている。わざわざ隠れる必要もないのだが、千紘が言った通り、できるだけ体力を温存しておきたいのだ。
思った以上に塔で体力を消耗しているし、この先も何があるかわからない。そう考えてのことである。
五階で岩山を退けるのと、二階にいた大量のスライム退治が意外と重労働だったのだ。
それに、これからスライムやキメラよりも強い魔物が出てくる可能性だって、まったくないわけではない。
魔物を倒せば鉱物が手に入るから、秋斗はできるだけ倒していきたいようだったが、まあまあの頻度でスライムやキメラに出くわすのである。これを全部倒していたらキリがないし、いつになってもナロイカ村に辿り着くことができない。
なので、気づかれていない時は極力無視することにして、今もスライムをやり過ごそうとしているところである。
塔を出てからは二体ほどスライムを倒していたが、これはやり過ごせなかった分だ。
「もう大丈夫だと思います」
これまでピンクスライムの様子を窺っていた律の声に、千紘と秋斗が緊張を解く。
「さて、行くか」
千紘が促し、また三人はナロイカ村へ向かって歩き出した。
※※※
それからしばらく歩いて行くと、海が近くなってきたのか、徐々に潮の香りがしてきた。
「お、村が見えた! 海もあるぞ!」
秋斗が指差した方を見れば、村の姿とそれに隣接している広い海がはっきりと認識できる。
「ここから見る感じだと、平和そうに見えますけどね」
「確かにな。秋斗、どう思う?」
「うーん、実際に村に行ってみないと何ともなぁ」
「まあ、そうだよな。とりあえず行くしかないか」
塩も買わないとだし、と千紘が自身に言い聞かせるように言うと、
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