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第二章 新たなメンバーは黄

第51話 律の活躍

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 これまでとは逆に、千紘がおとりになる形でキメラの注意を引きつける。

 千紘の攻撃はほとんどがかわされているが、ここでの目的はあくまでもキメラの気を引くことである。いくら攻撃を空振りしようと、目的さえ達成できていれば問題ない。

 千紘とキメラが対峙たいじしている隙に、律は千紘の背後に回っていた。そして、そのまま後退して先ほど下りてきた階段まで戻る。

 秋斗はそんな律の様子をうかがいながら、いつでもフォローに回れるようにと、邪魔にならない程度の距離を保って待機していた。

 階段まで戻ってきた律は、自身の身長の低さをカバーするために階段を数段上ってダガーを構え、まだ戦っている千紘の方へと目を凝らす。
 そのまま、じっと攻撃のタイミングを見計らっていた。

 しばらくして、

「――千紘さん、けて!」

 律の声がフロアに響く。

「――っ!」

 その声を背後から受けた千紘は、振り返ることなく、咄嗟とっさの判断で横に飛びのいた。
 これまで千紘の顔があった場所を、一本のダガーがまっすぐに突き抜けていく。

 ダガーが向かった先は、もちろんキメラの額だ。行き先を間違えることのなかったダガーは、額にある赤い宝石のような核にしっかり突き刺さる。
 次の瞬間、何かの割れる高い音がした。

 その音に、体勢を立て直そうとしていた千紘がはっと顔を上げ、キメラを見やる。ちょうどキメラが奇声を上げながら、床に落下してくるところだった。

 核を失ったキメラは、床に落ちるとすぐに姿が消え、後にはやはり赤い鉱物が一つ残された。

「倒せてよかったです!」

 きちんとキメラの姿が消えるのを見届けた律が、明るい声で笑いながら、階段を下りてくる。
 そんな律を、同じ笑顔で迎えたのは秋斗だ。

「りっちゃん、よくやったな!」
「はい!」

 秋斗にわしゃわしゃと頭を撫でられる律だが、今は嬉しさの方がまさっているのか、反抗する気配はない。

「やっぱりあれが核だったのか」

 床に片膝をついた千紘が、小さく呟くと、

「ほらー、だから言ったろ」

 それをしっかり聞いていた秋斗は、両手を腰に当ててふんぞり返った。

「確かに核を見つけた秋斗もすごいだろうけど、今回一番すごかったのは律だろ」

 千紘はわざとらしく呆れたように言うが、その心中では、今回の秋斗の読みと、律の迷いのない攻撃に感心していた。

「さすがのチームワークだな!」

 嬉しそうに言いながら、秋斗が小走りで千紘の方へとやってきて、ちょうど立ち上がろうとしていた千紘に手を差し伸べる。
 千紘はその手を取って立ち上がると、ズボンについた汚れを軽く払い、秋斗の後ろからついてきていた律へと笑顔を向けた。

「当たり前だろ。な、律」

 その言葉に、律は少し照れ臭そうにしながらも「はい!」と、素直に頷いたのだった。


  ※※※


 千紘と秋斗に褒められた律はひとしきり照れた後、今度は一転してしゅんとしてしまう。

「でもさっきはすみませんでした。僕のせいで千紘さんが危険な目に……」

 うっかり小石を蹴ってしまったことを懸命に謝る律に、

「そんなの気にするなって」

 千紘は、そう言って目を細めた。

(そういえば、今回この世界に来たのも律がつまづいたのが原因だったか。まあ、その前は俺が階段を踏み外したんだけどな……)

 ふとそんなことを思い出した千紘は、何だかおかしくなってしまう。悪い意味ではなく、微笑ましいとでも言ったらいいのか。もちろん、自分のことは棚に上げておく。

 律に結構ドジなところがあるのは前々からわかっていた。おそらく秋斗とも意見が一致するはずだ。

 律本人は気づいていないみたいだから、それを言うと「子供扱いしないでください!」などと、いつものように膨れるのは目に見えている。
 だから、千紘は口にするのをやめておいた。

 律はまだ申し訳なさそうにしている。真面目なのはいいことだが、あまり気にしすぎる必要もないだろう。

「ほら、結果的にはみんな無事だったんだし、さっきの律の攻撃で貸し借りなしだ。何も問題ないだろ?」

 千紘が言いながら、律の背中を大きく叩くと、

「ありがとうございます!」

 明るい表情になった律は、自身の背中をさすりながらも素直に礼を述べ、頭を下げた。

「よし。じゃあ、さっさとキメラが落とした石拾って、ここから出よう」
「ああ。やっと塔から出れるのか」
「はい!」

 秋斗の促す声に、千紘と律が揃って頷く。

 秋斗は床に落ちていた赤い鉱物をひょいと手早く拾い上げると、それを大事そうにリュックのポケットにしまい込んだ。

 ようやく三人は、眩しい日の光が差し込む出口へと向かったのである。

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