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第二章 新たなメンバーは黄
第39話 旅立つ三人と、待つ塔
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「じゃあ、頑張ってねー」
今回もリリアにのんびり見送られながら出発することになった千紘たち。
しばらく歩いて、リリアの姿が見えなくなったことを確認すると、千紘はようやくといった様子でがっくり肩を落とし、しゃがみ込んだ。
「毎回子供のお使い感覚で言われても困るんだよなぁ。あいつ絶対危機感ないだろ……」
「まあまあ、きっとリリアにも危機感あるって。おれたちに心配かけないようにって、あえて顔や態度に出さないようにしてるだけだよ!」
「のんびり見送れるくらい、僕たちを信頼してくれてるってことにしましょうよ!」
ブツブツと愚痴を口にする千紘に、秋斗と律が苦笑しながらもどうにか元気づけようと、様々な言葉を掛けてくる。
「もうちょっとだけでも危機感のある見送り方すれば、まだ『頑張るか』って思わなくもないけど、あいつはいつもいつも……っ!」
リリア本人の前で言うと間違いなく大変なことになるのが目に見えているので、今になって文句をつけることしかできないのは不甲斐ないとしか言いようがないが、これは仕方ないだろう。
さらに千紘が不満を募らせていると、
「ほら、千紘。さっさと終わらせて地球に帰ろうな!」
「そうですよ! 三人で頑張ればすぐ帰れますって!」
秋斗と律が同じようにしゃがみ込んで、懸命に励ましてきた。
「……はぁ」
そんな二人に、千紘は大きな溜息を一つ落とすと、「わかったよ」とゆるゆる立ち上がることしかできなかったのである。
※※※
それからしばらくして。
「これがバルエルの塔かぁ!」
秋斗が目の上に手をかざし、背中を大きく反らせながら塔を見上げた。
だが、その視線の先には澄んだ青空が広がっているだけである。どれだけ見ても、何度見ても、それは変わらない。
今実際に目の前にあるのは、大雑把に削られた石材を積み重ねてできた、ただの平屋だ。
大きな物置と呼んでも差し支えのなさそうなそれに、上の階層があるはずもない。
少々わざとらしくもある秋斗の行動に、千紘と律は後ろで苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「塔って言われても、ここから下りるんだから上なんてないし、正直微妙だよな……」
「でも下まで行って、そこから見上げればちゃんと五階建ての塔に見えるはずですし!」
呆れた口調の千紘に対して、律は一生懸命になって秋斗をフォローしようとする。
二人の言葉に、秋斗はこれまで上げていた顔を戻すと、残念そうに小さく息を吐いた。
「そうなんだよなぁ。ここにロープウェイでもあれば、すぐにでも下まで行って見上げるんだけどさ」
「いや、ロープウェイをこの世界に求めちゃダメだろ」
「ですよね」
秋斗の突拍子もない発言を、すかさず千紘と律が否定する。
「じゃあエレベーターにしよう!」
「ますますダメだろ……。それに、もしどっちかでもこの世界にあったら俺たち多分ここまで来てないしな。とっくに地球に帰ってる、てかそもそも呼ばれもしてないはずだ」
「ですよね……」
さらに突拍子もなくなった秋斗の台詞に、千紘と律はとうとうお手上げといった様子だ。
「……それにしても、これはどこぞのロールプレイングゲームかよ」
改めて塔に視線を投げた千紘が、これまでの行程を思い返しながら、溜息をついた。
タフリ村から南西に少し下ったところにある、バルエルの塔。今、千紘たちが目にしているものである。
鬱蒼とした森を抜けたところにあるこの塔は、ゴロゴロと転がる多数の岩や砂地に囲まれていて、これまでの森の中とは雰囲気が一変している。
塔がタフリ村とナロイカ村を隔てる崖のところに作られたとの話だから、ここは崖のすぐ傍ということになるが、さすがにそこまでは確認していない。わざわざ確認する必要もないだろう。
ここに辿り着くまでには何の問題もなかった。むしろ順調すぎたくらいだ。
ちょっとした遠足気分を味わえる距離だったせいか、秋斗と律がやけに楽しそうだった。
そのことに、千紘は「遊びじゃないんだぞ」と少し釘を刺しておきたいところではあったが、それは別にいい。
千紘が言いたいのはこれまでの流れのことである。
「ここまで来るのにだいたい一時間半くらいだな。言われてみれば、村で情報収集して塔に向かうってのはゲームみたいだよな」
秋斗がマントの内側から取り出した懐中時計を見て、朗らかに言う。これもリリアから預かってきたものだ。
三人とも腕時計をしていたが、地球のものだからかこの世界ではまったく動いていない。
ちょうどタフリ村を出る前にそのことに気づいた秋斗が機転を利かせて、リリアからこの世界の懐中時計を借りてきたのである。
「しかも今回は徒歩ですから、まだまだゲームの序盤ですよね」
苦笑した律の言った通り、三人は徒歩でここまでやって来た。
時間も距離も大したことはなかったし、三人とも疲れはほとんどない。きっと普段の撮影で培われた体力と若さのおかげだろう。
「まあ魔物がいなかっただけいいけど。でもこの先、塔にはいるかもしれないんだよな……」
すでにげんなりした様子で千紘が眉を寄せ、塔の入り口をまた見やる。
三人が今いるここは、バルエルの塔の五階にあたる場所の前だ。ここから一階まで下りていくことになる。
凝った装飾など一切ない、ただ石材を積み重ねて造られただけのとても簡素な建物は、地球で言うところの、レンガや石造りの平屋のようなものと大して変わらない。
建物の奥行は入ってみないとわからないが、高さはだいたい三メートルくらい、横幅は十メートルくらいだろうか。
その真ん中辺りに入り口があるが、当然そこに扉などというものがついているはずもなく、ぽっかりと開いた中にはただ薄闇があるだけだ。
「でもこの塔の名前は何かかっこいいよな!」
両手を腰に当てて入り口を眺めている秋斗が言うと、
「バルエルの塔、か。確かに名前だけならゲームにでも出てきそうな大層なもんなんだけどなぁ」
千紘は唸りながら腕を組み、溜息をついた。
「さっきも思ったけど、千紘がゲームやるのって意外だな! おれは結構やるけどさ」
「秋斗がゲーム好きなのは知ってる。いつも現場に携帯ゲーム機持ち込んでるだろ。俺だって有名なゲームくらいは人並みにやるよ。律だってそうだろ?」
「そうですね。僕もゲームはしますよ。現場に持ち込むほどじゃないですけど」
千紘に振られ、律も素直に肯定する。
そんな律を見た千紘は組んでいた腕をほどき、一つ大きく伸びをしてから促すように言った。
「まあそんなことは置いといて、そろそろ行くか」
「ここでいつまでも喋ってるわけにはいかないですもんね」
「ああ、そうだな!」
全員でしっかりと頷き合う。
そうして、三人はようやく塔に踏み込むことにしたのである。
今回もリリアにのんびり見送られながら出発することになった千紘たち。
しばらく歩いて、リリアの姿が見えなくなったことを確認すると、千紘はようやくといった様子でがっくり肩を落とし、しゃがみ込んだ。
「毎回子供のお使い感覚で言われても困るんだよなぁ。あいつ絶対危機感ないだろ……」
「まあまあ、きっとリリアにも危機感あるって。おれたちに心配かけないようにって、あえて顔や態度に出さないようにしてるだけだよ!」
「のんびり見送れるくらい、僕たちを信頼してくれてるってことにしましょうよ!」
ブツブツと愚痴を口にする千紘に、秋斗と律が苦笑しながらもどうにか元気づけようと、様々な言葉を掛けてくる。
「もうちょっとだけでも危機感のある見送り方すれば、まだ『頑張るか』って思わなくもないけど、あいつはいつもいつも……っ!」
リリア本人の前で言うと間違いなく大変なことになるのが目に見えているので、今になって文句をつけることしかできないのは不甲斐ないとしか言いようがないが、これは仕方ないだろう。
さらに千紘が不満を募らせていると、
「ほら、千紘。さっさと終わらせて地球に帰ろうな!」
「そうですよ! 三人で頑張ればすぐ帰れますって!」
秋斗と律が同じようにしゃがみ込んで、懸命に励ましてきた。
「……はぁ」
そんな二人に、千紘は大きな溜息を一つ落とすと、「わかったよ」とゆるゆる立ち上がることしかできなかったのである。
※※※
それからしばらくして。
「これがバルエルの塔かぁ!」
秋斗が目の上に手をかざし、背中を大きく反らせながら塔を見上げた。
だが、その視線の先には澄んだ青空が広がっているだけである。どれだけ見ても、何度見ても、それは変わらない。
今実際に目の前にあるのは、大雑把に削られた石材を積み重ねてできた、ただの平屋だ。
大きな物置と呼んでも差し支えのなさそうなそれに、上の階層があるはずもない。
少々わざとらしくもある秋斗の行動に、千紘と律は後ろで苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「塔って言われても、ここから下りるんだから上なんてないし、正直微妙だよな……」
「でも下まで行って、そこから見上げればちゃんと五階建ての塔に見えるはずですし!」
呆れた口調の千紘に対して、律は一生懸命になって秋斗をフォローしようとする。
二人の言葉に、秋斗はこれまで上げていた顔を戻すと、残念そうに小さく息を吐いた。
「そうなんだよなぁ。ここにロープウェイでもあれば、すぐにでも下まで行って見上げるんだけどさ」
「いや、ロープウェイをこの世界に求めちゃダメだろ」
「ですよね」
秋斗の突拍子もない発言を、すかさず千紘と律が否定する。
「じゃあエレベーターにしよう!」
「ますますダメだろ……。それに、もしどっちかでもこの世界にあったら俺たち多分ここまで来てないしな。とっくに地球に帰ってる、てかそもそも呼ばれもしてないはずだ」
「ですよね……」
さらに突拍子もなくなった秋斗の台詞に、千紘と律はとうとうお手上げといった様子だ。
「……それにしても、これはどこぞのロールプレイングゲームかよ」
改めて塔に視線を投げた千紘が、これまでの行程を思い返しながら、溜息をついた。
タフリ村から南西に少し下ったところにある、バルエルの塔。今、千紘たちが目にしているものである。
鬱蒼とした森を抜けたところにあるこの塔は、ゴロゴロと転がる多数の岩や砂地に囲まれていて、これまでの森の中とは雰囲気が一変している。
塔がタフリ村とナロイカ村を隔てる崖のところに作られたとの話だから、ここは崖のすぐ傍ということになるが、さすがにそこまでは確認していない。わざわざ確認する必要もないだろう。
ここに辿り着くまでには何の問題もなかった。むしろ順調すぎたくらいだ。
ちょっとした遠足気分を味わえる距離だったせいか、秋斗と律がやけに楽しそうだった。
そのことに、千紘は「遊びじゃないんだぞ」と少し釘を刺しておきたいところではあったが、それは別にいい。
千紘が言いたいのはこれまでの流れのことである。
「ここまで来るのにだいたい一時間半くらいだな。言われてみれば、村で情報収集して塔に向かうってのはゲームみたいだよな」
秋斗がマントの内側から取り出した懐中時計を見て、朗らかに言う。これもリリアから預かってきたものだ。
三人とも腕時計をしていたが、地球のものだからかこの世界ではまったく動いていない。
ちょうどタフリ村を出る前にそのことに気づいた秋斗が機転を利かせて、リリアからこの世界の懐中時計を借りてきたのである。
「しかも今回は徒歩ですから、まだまだゲームの序盤ですよね」
苦笑した律の言った通り、三人は徒歩でここまでやって来た。
時間も距離も大したことはなかったし、三人とも疲れはほとんどない。きっと普段の撮影で培われた体力と若さのおかげだろう。
「まあ魔物がいなかっただけいいけど。でもこの先、塔にはいるかもしれないんだよな……」
すでにげんなりした様子で千紘が眉を寄せ、塔の入り口をまた見やる。
三人が今いるここは、バルエルの塔の五階にあたる場所の前だ。ここから一階まで下りていくことになる。
凝った装飾など一切ない、ただ石材を積み重ねて造られただけのとても簡素な建物は、地球で言うところの、レンガや石造りの平屋のようなものと大して変わらない。
建物の奥行は入ってみないとわからないが、高さはだいたい三メートルくらい、横幅は十メートルくらいだろうか。
その真ん中辺りに入り口があるが、当然そこに扉などというものがついているはずもなく、ぽっかりと開いた中にはただ薄闇があるだけだ。
「でもこの塔の名前は何かかっこいいよな!」
両手を腰に当てて入り口を眺めている秋斗が言うと、
「バルエルの塔、か。確かに名前だけならゲームにでも出てきそうな大層なもんなんだけどなぁ」
千紘は唸りながら腕を組み、溜息をついた。
「さっきも思ったけど、千紘がゲームやるのって意外だな! おれは結構やるけどさ」
「秋斗がゲーム好きなのは知ってる。いつも現場に携帯ゲーム機持ち込んでるだろ。俺だって有名なゲームくらいは人並みにやるよ。律だってそうだろ?」
「そうですね。僕もゲームはしますよ。現場に持ち込むほどじゃないですけど」
千紘に振られ、律も素直に肯定する。
そんな律を見た千紘は組んでいた腕をほどき、一つ大きく伸びをしてから促すように言った。
「まあそんなことは置いといて、そろそろ行くか」
「ここでいつまでも喋ってるわけにはいかないですもんね」
「ああ、そうだな!」
全員でしっかりと頷き合う。
そうして、三人はようやく塔に踏み込むことにしたのである。
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