34 / 105
第二章 新たなメンバーは黄
第34話 頼みごと・3
しおりを挟む
「結局は体のいいパシリじゃねーか」
千紘が呆れたように言いながら隣を見やると、まだ苦笑いを浮かべていた秋斗と目が合う。
その時だ。
これまでほとんど聞き役に徹していた律が、おずおず口を開いた。
「困ってるんだったら、助けてあげた方がいいんじゃないですか……?」
「そうだよな!」
途端に秋斗の顔がぱっと明るくなる。
秋斗はきっと最初から助けるつもりでいただろう。いつもの行動や性格を考えれば、それくらいのことは千紘にだってすぐわかる。
律もさすがに正義のヒーローといったところか、困っている人たちを放っておけないようだ。
二人ともこの辺りの性格はよく似ている。
そのことが何だかおかしくなってきてしまって、千紘が思わず笑みを零しそうになっていると、今度は秋斗が千紘の方に顔を向けた。
「千紘もいいよな?」
「私だってこんなに頼んでるんだから!」
リリアも頬を膨らませながら、すかさず言葉を重ねてくる。
リリアはとても人にものを頼むような態度ではないし、どこか既視感を覚えなくもないが、こうなったら仕方がない。乗り掛かった舟だ。
「……仕方ねーな」
千紘が渋々了承するように頷くと、狭い部屋に歓声が上がった。
(ここまで話を聞いておいて、黙って放っておくわけにもいかないよな。魔物退治もどこまでできるかわかんねーけど、やれるだけやってみるか)
千紘だって本気で見捨てるつもりはない。
ただ単にリリアの言うことを聞いて、素直に頷くのが癪だった。それだけのことである。
同時に、律を無事に地球へ帰してやらないと、とも考えていた。もちろん秋斗と自分もきちんと地球に帰らなければならない。
そのためには、どうしてもリリアの言うことを聞く必要がある。悔しいがこればかりはどうにもならないので、もう諦めるしかない。
「やったー!」
秋斗が嬉しそうに両腕を突き上げる。またこの世界で冒険ができることを心から喜んでいるようだ。
「ここってどんな世界なんですかね?」
律もどことなく楽しそうなのが、千紘から見てもよくわかる。
「まったく、お子様が二人もいるのかよ……」
そんな二人の様子に、千紘は小さく呟きながら苦笑を漏らしたのだった。
※※※
「これがナロイカ村までの地図じゃ」
そう言って村長から差し出された、あまり大きくはない地図を受け取った千紘は、さっそくそれをテーブルの上に広げた。
全員で覗き込むと、すぐさまリリアが地図のある地点を指差しながら口を開く。
「ここがタフリ村。で、タフリ村からナロイカ村まで行くには、さっき話したバルエルの塔を五階から一階まで下りないといけないの」
「塔を下りる?」
首を傾げながら秋斗が聞き返すと、村長は顎ひげを丁寧に撫でながら大きく頷いた。
「途中が崖になっておってな、その行き来のために作られた塔なのじゃ。塔を通らないとナロイカ村まで行けないようになっておる」
「そうなんですか」
律も興味津々といった様子で地図を覗き込みながら、村長の話を聞いている。瞳が子供のように輝いて見えるのはきっと気のせいではないはずだ。
「で、塔の中の地図は?」
テーブルに肘をついた千紘が、リリアと村長を交互に見やりながら問う。
前回は洞窟内の地図をもらい損ねていたのだ。その反省を生かし、今回はきちんと確認しなければならない。
しかしその問いに、今度はリリアが首を左右に振った。
「そんなものないわよ」
「は?」
思わず千紘の口から出た声を気にすることなく、リリアは続ける。
「だって、行商人や旅人が通るだけだもの。別に何かの仕掛けがあるわけでもないし、入り組んでるわけでもないわよ。広くもないし、とにかく行けばわかるわ」
きっぱりと告げられてしまい、千紘はさすがに「今すぐ塔内部の地図を描け」とまでは言えずに、呆気にとられたままになった。
どこまでもマイペースな少女に振り回されている気がしないでもないが、今さらそんなことを考えても仕方がない。
千紘はその場に突っ伏してしまいそうになるのを懸命に堪えながら、大きな溜息をつくのが精一杯だったのである。
千紘が呆れたように言いながら隣を見やると、まだ苦笑いを浮かべていた秋斗と目が合う。
その時だ。
これまでほとんど聞き役に徹していた律が、おずおず口を開いた。
「困ってるんだったら、助けてあげた方がいいんじゃないですか……?」
「そうだよな!」
途端に秋斗の顔がぱっと明るくなる。
秋斗はきっと最初から助けるつもりでいただろう。いつもの行動や性格を考えれば、それくらいのことは千紘にだってすぐわかる。
律もさすがに正義のヒーローといったところか、困っている人たちを放っておけないようだ。
二人ともこの辺りの性格はよく似ている。
そのことが何だかおかしくなってきてしまって、千紘が思わず笑みを零しそうになっていると、今度は秋斗が千紘の方に顔を向けた。
「千紘もいいよな?」
「私だってこんなに頼んでるんだから!」
リリアも頬を膨らませながら、すかさず言葉を重ねてくる。
リリアはとても人にものを頼むような態度ではないし、どこか既視感を覚えなくもないが、こうなったら仕方がない。乗り掛かった舟だ。
「……仕方ねーな」
千紘が渋々了承するように頷くと、狭い部屋に歓声が上がった。
(ここまで話を聞いておいて、黙って放っておくわけにもいかないよな。魔物退治もどこまでできるかわかんねーけど、やれるだけやってみるか)
千紘だって本気で見捨てるつもりはない。
ただ単にリリアの言うことを聞いて、素直に頷くのが癪だった。それだけのことである。
同時に、律を無事に地球へ帰してやらないと、とも考えていた。もちろん秋斗と自分もきちんと地球に帰らなければならない。
そのためには、どうしてもリリアの言うことを聞く必要がある。悔しいがこればかりはどうにもならないので、もう諦めるしかない。
「やったー!」
秋斗が嬉しそうに両腕を突き上げる。またこの世界で冒険ができることを心から喜んでいるようだ。
「ここってどんな世界なんですかね?」
律もどことなく楽しそうなのが、千紘から見てもよくわかる。
「まったく、お子様が二人もいるのかよ……」
そんな二人の様子に、千紘は小さく呟きながら苦笑を漏らしたのだった。
※※※
「これがナロイカ村までの地図じゃ」
そう言って村長から差し出された、あまり大きくはない地図を受け取った千紘は、さっそくそれをテーブルの上に広げた。
全員で覗き込むと、すぐさまリリアが地図のある地点を指差しながら口を開く。
「ここがタフリ村。で、タフリ村からナロイカ村まで行くには、さっき話したバルエルの塔を五階から一階まで下りないといけないの」
「塔を下りる?」
首を傾げながら秋斗が聞き返すと、村長は顎ひげを丁寧に撫でながら大きく頷いた。
「途中が崖になっておってな、その行き来のために作られた塔なのじゃ。塔を通らないとナロイカ村まで行けないようになっておる」
「そうなんですか」
律も興味津々といった様子で地図を覗き込みながら、村長の話を聞いている。瞳が子供のように輝いて見えるのはきっと気のせいではないはずだ。
「で、塔の中の地図は?」
テーブルに肘をついた千紘が、リリアと村長を交互に見やりながら問う。
前回は洞窟内の地図をもらい損ねていたのだ。その反省を生かし、今回はきちんと確認しなければならない。
しかしその問いに、今度はリリアが首を左右に振った。
「そんなものないわよ」
「は?」
思わず千紘の口から出た声を気にすることなく、リリアは続ける。
「だって、行商人や旅人が通るだけだもの。別に何かの仕掛けがあるわけでもないし、入り組んでるわけでもないわよ。広くもないし、とにかく行けばわかるわ」
きっぱりと告げられてしまい、千紘はさすがに「今すぐ塔内部の地図を描け」とまでは言えずに、呆気にとられたままになった。
どこまでもマイペースな少女に振り回されている気がしないでもないが、今さらそんなことを考えても仕方がない。
千紘はその場に突っ伏してしまいそうになるのを懸命に堪えながら、大きな溜息をつくのが精一杯だったのである。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。
勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
【完結】魔力・魔法が無いと家族に虐げられてきた俺は殺して殺して強くなります
ルナ
ファンタジー
「見てくれ父上!俺の立派な炎魔法!」
「お母様、私の氷魔法。綺麗でしょ?」
「僕らのも見てくださいよ〜」
「ほら、鮮やかな風と雷の調和です」
『それに比べて"キョウ・お兄さん"は…』
代々から強い魔力の血筋だと恐れられていたクライス家の五兄弟。
兄と姉、そして二人の弟は立派な魔道士になれたというのに、次男のキョウだけは魔法が一切使えなかった。
家族に蔑まれる毎日
与えられるストレスとプレッシャー
そして遂に…
「これが…俺の…能力…素晴らしい!」
悲劇を生んだあの日。
俺は力を理解した。
9/12作品名それっぽく変更
前作品名『亡骸からの餞戦士』
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる