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第二章 新たなメンバーは黄
第30話 千紘の学習能力
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「は、初めまして。成海律です……」
まだ座り込んでいる律が、その目の前にしゃがんだリリアに向けて、やや怯え気味に自己紹介をする。
「今日は三人揃って階段から落ちたんだよ」
律の隣にあぐらをかいた千紘はそう付け足すと、いかにも不愉快だと言わんばかりに眉を寄せた。
しかし、リリアはそれを特に気にすることもなく、
「そうなの? じゃあ三人でいた時にたまたま巻き込んじゃったのね。なら、『巻き込み召喚』とでも言うのかしら」
なるほど、と納得したように頷く。こちらも秋斗と同じで、相変わらずマイペースである。
リリアにとっては、どうやら二人も三人も変わらないらしい。こうなる可能性があることを予見していたのか、冷静な態度は崩さない。
巻き込み召喚――新しい言葉の創造主に向けて、千紘は恨めしそうな視線を投げるが、当たり前のように創造主はそれをスルーした。
思わず舌打ちしそうになった千紘だが、それを懸命に飲み込んでから、また口を開く。
「で、今回も間違って召喚しただけで別に用事はないんだろ? ミロワールも壊してないんだから早く地球に帰してくれよ」
もういいだろ、そう言いながら千紘は視線を落とし、今度は秋斗の足元を確認した。
(よし、今日は壊れてないな)
ちょうど秋斗の前、草の上に壊れていないミロワールが置いてあって、ほっとする。
前回は秋斗が膝でミロワールを壊してしまったことが原因で、大変な目に遭ったのである。だから、千紘はまた同じことが起こるのではないかと警戒したのだ。
ちなみにミロワールとは、リリアが召喚をする際に使っている小さな鏡のような道具のことで、リリアの瞳の色と同じ、青い鉱物――ターパイトでできている。
さすがに今回は大丈夫だろう、と千紘が勝ち誇った表情で顔を上げると、それを見計らっていたかのようにリリアは薄紅色の唇を動かした。
「残念だけど、そうはいかないわよ」
「は?」
千紘の口から間の抜けた声が零れ、頭の中はあっという間に疑問符でいっぱいになる。
だがリリアは、今度もそれを気に留めることなく、さらりと言ってのけた。
「今回はちゃんと用事あるもの」
「……は?」
改めて出てきた千紘の声も、また間抜けなものでしかない。疑問符がさらに増えただけだった。
「用事あるの!?」
すぐに食いついて、身を乗り出したのはやはり秋斗である。子供のようにキラキラと瞳を輝かせて嬉しそうだ。
逆に律はといえば、いまいちまだ状況が飲み込めていないらしく、しきりに首を捻っているだけだった。
※※※
いつの間にかしっかり草の上に座っていたリリアが、自身の目の前で指を一本立てる。その首には先ほどのミロワールが下げられていた。
「今回の召喚にはちゃんと事情があるのよ」
「『ちゃんと事情がある』とか、もう嫌な予感しかしねーな」
リリアの発した言葉に、千紘はすでにうんざりしている様子で、今日何度目かもわからない溜息をつく。
前回は事情もなくただ間違って召喚されただけなのに、あれだけ散々な目に遭ったのだ。それは秋斗のせいにできないこともないが、今回はさらに嫌な予感しかしないのは当然だろう。
「せめてどんな事情か聞くふりくらいはしなさいよ!」
しかし、頬を膨らませたリリアにこれまで立てていた指を鼻先に突きつけられ、千紘は「やれやれ」と肩を竦めた。
「また無茶なことを……。アンタの事情なんて俺の知ったことじゃないし、めんどくさい」
速攻でリリアの話を突っぱね、顔を背けようとする千紘だったが、
「ならいいわ。今からアキトとリツだけを地球に帰すから」
不機嫌そうに返されたリリアの台詞を聞いた途端、顔を戻し慌て出す。
「ちょ、ちょっと待て! またかよ!」
思わず膝を立て、リリアに詰め寄ろうとするが、すんでのところでどうにか踏みとどまった。
「だったら、ちゃんと聞きなさいよ」
まったくもう、と腕を組んだリリアが呆れたように言う。
「何でだよ……」
学習能力が少しばかり足りなかったらしい千紘は小さく呟き、がっくりとうなだれた。
やはり今回もリリアの言うことを聞かないと帰してもらえないようだ。信じたくなかった事実が目の前に叩きつけられ、その場に崩れ落ちそうになる。
そんな千紘の様子を見て、さすがに哀れに思ったのか、これまでおとなしくしていた秋斗が千紘の肩にそっと手を置いた。
「まあ、話を聞くくらいはいいんじゃないか? どうせ帰してもらえないならさ」
苦笑しながらそう励まされてしまっては、千紘としても渋々頷くしかない。
「……はぁ、わかったよ」
ようやく千紘が納得したのを見て、リリアが立ち上がる。そして、ロングスカートについた汚れを手で払いながら言った。
「じゃあタフリ村の村長のところまで行きましょう。詳しい話はそこでするから」
こうして千紘と秋斗、律の三人はリリアに連れられて、タフリ村へと向かうことになったのである。
まだ座り込んでいる律が、その目の前にしゃがんだリリアに向けて、やや怯え気味に自己紹介をする。
「今日は三人揃って階段から落ちたんだよ」
律の隣にあぐらをかいた千紘はそう付け足すと、いかにも不愉快だと言わんばかりに眉を寄せた。
しかし、リリアはそれを特に気にすることもなく、
「そうなの? じゃあ三人でいた時にたまたま巻き込んじゃったのね。なら、『巻き込み召喚』とでも言うのかしら」
なるほど、と納得したように頷く。こちらも秋斗と同じで、相変わらずマイペースである。
リリアにとっては、どうやら二人も三人も変わらないらしい。こうなる可能性があることを予見していたのか、冷静な態度は崩さない。
巻き込み召喚――新しい言葉の創造主に向けて、千紘は恨めしそうな視線を投げるが、当たり前のように創造主はそれをスルーした。
思わず舌打ちしそうになった千紘だが、それを懸命に飲み込んでから、また口を開く。
「で、今回も間違って召喚しただけで別に用事はないんだろ? ミロワールも壊してないんだから早く地球に帰してくれよ」
もういいだろ、そう言いながら千紘は視線を落とし、今度は秋斗の足元を確認した。
(よし、今日は壊れてないな)
ちょうど秋斗の前、草の上に壊れていないミロワールが置いてあって、ほっとする。
前回は秋斗が膝でミロワールを壊してしまったことが原因で、大変な目に遭ったのである。だから、千紘はまた同じことが起こるのではないかと警戒したのだ。
ちなみにミロワールとは、リリアが召喚をする際に使っている小さな鏡のような道具のことで、リリアの瞳の色と同じ、青い鉱物――ターパイトでできている。
さすがに今回は大丈夫だろう、と千紘が勝ち誇った表情で顔を上げると、それを見計らっていたかのようにリリアは薄紅色の唇を動かした。
「残念だけど、そうはいかないわよ」
「は?」
千紘の口から間の抜けた声が零れ、頭の中はあっという間に疑問符でいっぱいになる。
だがリリアは、今度もそれを気に留めることなく、さらりと言ってのけた。
「今回はちゃんと用事あるもの」
「……は?」
改めて出てきた千紘の声も、また間抜けなものでしかない。疑問符がさらに増えただけだった。
「用事あるの!?」
すぐに食いついて、身を乗り出したのはやはり秋斗である。子供のようにキラキラと瞳を輝かせて嬉しそうだ。
逆に律はといえば、いまいちまだ状況が飲み込めていないらしく、しきりに首を捻っているだけだった。
※※※
いつの間にかしっかり草の上に座っていたリリアが、自身の目の前で指を一本立てる。その首には先ほどのミロワールが下げられていた。
「今回の召喚にはちゃんと事情があるのよ」
「『ちゃんと事情がある』とか、もう嫌な予感しかしねーな」
リリアの発した言葉に、千紘はすでにうんざりしている様子で、今日何度目かもわからない溜息をつく。
前回は事情もなくただ間違って召喚されただけなのに、あれだけ散々な目に遭ったのだ。それは秋斗のせいにできないこともないが、今回はさらに嫌な予感しかしないのは当然だろう。
「せめてどんな事情か聞くふりくらいはしなさいよ!」
しかし、頬を膨らませたリリアにこれまで立てていた指を鼻先に突きつけられ、千紘は「やれやれ」と肩を竦めた。
「また無茶なことを……。アンタの事情なんて俺の知ったことじゃないし、めんどくさい」
速攻でリリアの話を突っぱね、顔を背けようとする千紘だったが、
「ならいいわ。今からアキトとリツだけを地球に帰すから」
不機嫌そうに返されたリリアの台詞を聞いた途端、顔を戻し慌て出す。
「ちょ、ちょっと待て! またかよ!」
思わず膝を立て、リリアに詰め寄ろうとするが、すんでのところでどうにか踏みとどまった。
「だったら、ちゃんと聞きなさいよ」
まったくもう、と腕を組んだリリアが呆れたように言う。
「何でだよ……」
学習能力が少しばかり足りなかったらしい千紘は小さく呟き、がっくりとうなだれた。
やはり今回もリリアの言うことを聞かないと帰してもらえないようだ。信じたくなかった事実が目の前に叩きつけられ、その場に崩れ落ちそうになる。
そんな千紘の様子を見て、さすがに哀れに思ったのか、これまでおとなしくしていた秋斗が千紘の肩にそっと手を置いた。
「まあ、話を聞くくらいはいいんじゃないか? どうせ帰してもらえないならさ」
苦笑しながらそう励まされてしまっては、千紘としても渋々頷くしかない。
「……はぁ、わかったよ」
ようやく千紘が納得したのを見て、リリアが立ち上がる。そして、ロングスカートについた汚れを手で払いながら言った。
「じゃあタフリ村の村長のところまで行きましょう。詳しい話はそこでするから」
こうして千紘と秋斗、律の三人はリリアに連れられて、タフリ村へと向かうことになったのである。
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