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第一章 赤と青

第23話 リリアとの再会

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 秋斗の水魔法は意外と便利だった。

 ラオムを倒した後、不意に喉の渇きを思い出した二人だったが、出発した頃の秋斗が言った通り、ここで魔法が水筒替わりを果たしてくれた。新鮮な水を思う存分飲むことができたのである。

 また、傷口を洗い流すのにもとても役立った。

「思った以上に水魔法って使えるな……」

 千紘が思わず感動したように零すと、

「そうだろ、そうだろ! もっとうやまっていいんだぞ!」

 そう言って秋斗は自慢げに胸を張り、今度は逆に千紘にどつかれる羽目になった。

 変身を解いて、村人の姿に戻る。同時に緊張が解けたせいも多分にあるだろうが、途端に力が抜けたような気がした。
 改めてその場にへなへなとへたり込んだ二人は、また同じように揃って両足を投げ出す。 

 二人とも傷口からはまだ血が出ていたから、念のために止血をしておくことにした。千紘は「俺は別にいい」と一度は断ったのだが、秋斗がそれを許さなかったのだ。
 幸い長袖の上着だったので、その袖を破って使う。
 それぞれの止血が終わったところで、ようやくターパイトを採りに行くという本来の任務に戻ることにしたのである。


  ※※※


 やはりターパイトは洞窟の最奥部で採取することにした。

 すでにボロボロだった二人は、途中の道で採って帰ってもいいのではないか、と話し合った。

 しかし、適当なものを持ち帰ってリリアに「もう一回行って来なさい!」と怒鳴られ、二度手間になることを恐れた二人は、それならば最初から一番奥を目指した方がいいのではないか、という意見で一致したのだ。
 もちろん、『大きめのターパイト』は最奥部でしか採れないのではないだろうか、と予想をしたせいもある。

 漫画やゲームの世界では、洞窟の最奥部にボス敵が待ち構えていたりするのが定番だが、今回はそのようなことはなく、あっさり目的のものを手に入れることができた。

 あまりの簡単さに、少しどころかかなり拍子抜けしてしまった二人ではあるが、「これ以上面倒ごとに巻き込まれるよりはずっといい」と、そんなことを考えながらターパイトを採ったのだ。

 また、ラオムたちさえ出て来なければもっと楽に採って帰れたものを、と二人は悔しがったが、今さら言ったところで仕方がない。むしろ今生きていられることを感謝しなければならない、とそれぞれ言い聞かせることにした。

 そして、リリアの待つ森の入口までどうにか無事に帰ってきた頃には、すでに日が暮れようとしていたのである。

 リリアは二人のあまりにも酷い姿を見るなり、

「あんたたち、その格好どうしたのよ!?」

 大声を上げ驚愕した表情を見せたが、理由をかいつまんで説明すると、すぐに村まで連れて行ってくれた。


  ※※※


 タフリ村には、一人だけ治癒魔法が使える者がいた。

 リリアの話によると、元々このアンシュタートという世界では、魔法の能力を持つ者は少ないらしい。
 だから、今回タフリ村にたまたま治癒魔法の術師がいたことはとても運が良かったと言える。

「すごい! ホントに傷が治ってる!」

 術師が帰った後、「もう全然痛くない」と秋斗が腕を回しながら、子供のようにはしゃぐ。

「確かにこれはすごいな」

 千紘も感嘆の溜息を漏らした。

 二人の怪我は治癒魔法のおかげですっかり良くなっていて、痛いところを探す方が難しいくらいだ。
 千紘の方が怪我の箇所が多かったが、それもすべて治してくれた術師には感謝しかない。

「どんだけ便利なんだよ」

 この魔法があれば病院なんていらないし、スタントでどれだけ怪我しても平気だよな、などと考えながら、千紘がまだ治ったばかりの左腕をまじまじと見つめる。

 そこにリリアがやって来た。
 つかつかと迷いのない足取りで、ベッドの端に座っている千紘と秋斗のそばまで歩を進めると、近くにあった質素な木の丸椅子に腰を下ろす。

「ミロワールのことだけど」

 早速切り出されて、二人は息を呑んだ。
 リリアの口から、「これでは直せないから、また採って来なさい」とダメ出しされることを恐れたのである。

 しかし意外なことに、

「あれだけの大きさなら大丈夫ですって。明日の朝には直るって言われたわ」

 そう告げると、リリアはほんのわずかではあるが目を細めたのだ。ミロワールがきちんと直ることがよほど嬉しかったらしい。

 その様に一瞬呆気あっけにとられた二人だったが、

「よし!」
「やった!」

 すぐに顔を見合わせて喜ぶ。

「でも、今日はここに泊まっていって。明日ミロワールが直ったらあんたたちを元の世界に帰してあげるから」

 リリアのありがたい言葉に、二人は大きく頷いたのだった。

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