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第一章 赤と青

第18話 さようなら

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「えーと、リリアを殺したい理由はわかったけど、この世界を乗っ取る……だっけ、それはどういうことだよ? この世界で消えずにいられるならそれでいいんじゃないのか?」
「貴方はわたしたちのことをどのように認識していますか? ギウスという組織の存在を」
「ギウスってのは世界征服を目論もくろんでる悪の組織だろ。そういう設定だからな」

 千紘はそこまで言い切ってから、何かに気づいたように目を見開いた。

 ラオムや戦闘員は自分たちの記憶を元に具現化されていると言っていた。だから戦闘員は話せないが、ラオムは話せるのだと素直に納得できたのである。

 ただその理屈だと、自分はラオムたちギウス側の怪人は世界征服を目的としていると認識しているのだから、それも反映されていることになってしまう。

「……まさか」

 思わず唸るような声が出た。

「まあ、そういうことです。わたしたちは世界征服のために存在しているのですから、それを遂行するのが当然だと考えています」
「また面倒な設定をくっつけてきたな」

 ラオムを睨みつけながら、千紘が大げさに溜息をつく。

「リリアがいなくなれば、貴方がたも帰る場所がなくなります。ですから、このアンシュタートでの居場所を作って差し上げましょう、とわたしは言っているのです」
「随分と恩着せがましい言い方だな。要は居場所を与えてやるから、仲間になって世界征服を手伝えってことだろ?」
「その通りです。地球では敵同士ですが、ここでは敵でいる必要はない。貴方は先ほどそう言いました。そうでしたよね?」
「確かにそれは言ったけど……」

 少し困ったように頷く千紘に向けて、ラオムはさらに続けた。

「それにスターレンジャーである貴方がたの持っている能力は、色々と使い道があるのではないかと考えています。例えば、その剣を使いこなす能力とか。貴方を団長にして、騎士団なんてものを作るのも面白そうですねぇ。いかがですか?」
「言ってることが無茶苦茶だな」
「そうでしょうか? まあ、どう思われようとわたしは構いませんが」
「だったら交渉決裂だな。そもそもリリアを殺させるわけにはいかないんでね。その時点ですでに利害が一致してないんだよ。世界征服なんてもってのほかだ」

 千紘がラオムの提案を突っぱねる。

 リリアを殺されてしまっては、地球に帰れなくなるのはまず間違いないだろう。それにギウス側について世界を征服するつもりだって毛頭ない。
 とてもではないが、「はい、わかりました」と受け入れられるような内容ではなかった。

「……そうですか。それは非常に残念です」

 悲しげにそう言ってラオムはうつむく。しかし次には、腰に差してある刀に手を添えるのが見えて、千紘は即座に一歩後ずさった。

「……ではまずは貴方がたを殺してから、ゆっくりリリアを殺すことにしましょう」

 マスクの中で、ラオムの口端がみにくく吊り上がったような気がした。


  ※※※


 これまでとは一変した、ピンと張り詰めた空気が肌に突き刺さる。

「やっぱりこうなるのかよ……っ」

 ラオムが繰り出した一撃をどうにか長剣で受け止めながら、千紘が眉根を寄せた。

 できれば戦いたくなかったが、こうなっては戦わざるを得ない。

 やはりラオムの戦闘能力は戦闘員よりもずっと上だった。ドラマの設定がそうだったから、千紘の中でも『ラオムは強い』という認識なのだ。それが今、裏目に出ている。

 唯一幸いだと思ったのは、中身が人間ではなかったことである。これならば防戦一方にならずに、攻撃することができる。
 ただ、いくら攻撃を仕掛けてもラオムには届かない。掠るどころか、すべてその手にある刀で受け流されてしまうのだ。

「いい加減、諦めてはいかがですか?」

 千紘の攻撃を余裕でかわしたラオムが、愉快そうに問うと、

「……そう簡単に死ぬわけにはいかないんだよ」

 千紘は肩で大きく息をしながら、きつく睨んだ。

 口ではまだ強がることができているが、正直そろそろ立っていることすら辛いと思い始めていた。左腕が酷く痛む。そのせいなのか、額からは嫌な汗が流れていた。

 それでも今ここでやられるにはいかない、とまた長剣を構え直し、地面を蹴る。
 やけに身体が重たく感じられた。動きが鈍くなっている。
 痛む左腕も酷使しながら両腕で懸命に上から振りかぶるが、そんな千紘の攻撃はラオムに届く前にあっさり刀で弾かれた。

「う……っ!」

 弾かれた勢いで体勢を崩し、千紘は仰向けに尻もちをつくような形で倒れ込む。すぐに立たなければ、と思ったが、身体が言うことを聞かない。

 鼻先に刀の切先きっさきが突きつけられ、息を呑んだ。

 戦闘員たちとの戦いで怪我をしていなければ、体力を消耗していなければ、それ以前に秋斗と喧嘩をしていなければ。そんなことが頭の中でぐるぐると回る。

 もし今ここに秋斗がいたら、いてくれていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
 今さら言ったところで後の祭りだが、思わずにはいられなかった。

 今度はラオムが刀をかざす。刀身がぎらりと嫌な色に光ったように見えた。

「それでは、さようなら」

 無慈悲な一言と同時に、刀が振り下ろされる。
 千紘の大きく開かれた瞳には、その動作がやけにスローモーションで映っていた。

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