17 / 105
第一章 赤と青
第17話 この世界においてのギウスの存在・2
しおりを挟む
シンプルではあるが耳慣れない言葉に、千紘の表情が一瞬だけ凍りつく。しかしすぐに冗談だろうと思い直し、改めてラオムに向き直った。
「は? リリアを殺すって何だよ。そんな物騒なことしないで、一緒に地球に帰してもらえばいいだけの話だろ? それにこの世界を乗っ取るとか意味わかんねーよ」
「では、少し考えてみてください。もし帰してもらったとして、貴方がたは普通の生活に戻る。ですが、わたしたちギウス側の怪人はどうなると思いますか?」
「どう、って言われても……」
千紘は顎に手をやりながら地面に視線を落とすと、しばし考え込んだ。
自分たちはいつも通りの生活に戻る。それはわかる。だが、ギウス側はどうなるのか。同じようにいつも通りの生活に戻るだけなのではないか、と思った。
「……アンタたちも普通の生活に戻るんじゃないのか?」
「残念ながらそう簡単にはいかないのですよ」
ラオムはそう言うと、困ったように首を左右に振り、小さく嘆息する。そしてさらに続けた。
「わたしたちギウスの怪人は、リリアが貴方がたを召喚した際のイレギュラーによってこの世界に生まれ落ちた存在です」
「……イレギュラー? まったく意味がわかんねーな」
「確かにわかりにくいかもしれませんね。それでは聞きましょう。『貴方がたが戦ったのは人間でしたか?』と」
「……っ!」
マスクの中からはっきりと発せられたその言葉に、千紘は目を見張り、息を呑んだ。
戦闘員の集団と初めて出会った時、そしてつい先ほど戦った時のことを思い返す。いくら剣で斬っても暗黒霧になって消えるだけで、中身は人間ではなかった。
まさかそれがリリアと関係しているのかと考え、ラオムを見ると、千紘の心中を読んでいたかのように頷く。
「そう、彼らは人間ではありません。リリアは貴方がたを召喚するだけでなく、同時に貴方がたの記憶からわたしたちを無意識に具現化してしまった。と言っても、姿だけですけどね。ああ、具現化が召喚とは違うのはおわかりですか?」
「それは、わかる……けど」
リリアは自分たちの服や長剣を具現化してくれた。それは実際に目の前で見たし、召喚とは違うというのはわかる。今持っている知識だけで簡単に言ってしまえば、召喚は異世界から人を呼び出す能力で、具現化は何もないところから物を創り出す能力だ。
ラオムが言う具現化の話は妙に納得できた。むしろようやく腑に落ちたと言った方が正しい。
自分たちの記憶から姿だけを具現化させたものだから、戦闘員は見た目だけが知っているもので中身は人間ではなかった。
そこまで考えて、千紘ははっとした。
「じゃあアンタも人間じゃ、ない……?」
先ほど、ラオムは『わたしたち』と言った。つまり戦闘員だけでなく、ラオムもまた姿だけを具現化された存在で、中身は人間ではないということだ。
「そういうことになります。ですが、あまり怖がらないで頂きたいですねぇ」
「でも、何でアンタは話せるんだよ……? って、あ、そうか……」
またも素朴な疑問だったが、実際に口にしてから理解した。
自分の中で、戦闘員は『話さないキャラクター』として認識している。同様に、ラオムについては『敬語で話すキャラクター』として認識されている。きっとその違いだろうと考えた。
ラオムは先ほどと同様に頷くと、
「その考えで合っていると思いますよ。どうしてわたしが話せるのか、納得して頂いたところで話を戻しましょう。まずはリリアを消さなければならない理由から」
そう言って、右手を顔の前まで上げる。人差し指を立てると、そのまま続けた。
「わたしたちは貴方がたの記憶からこの世界に具現化された存在です。ですから、貴方がたがこの世界から消えると、わたしたちもこの世界では存在できなくなるのです」
「だったら、俺たちと一緒に帰ればいいんじゃないのか?」
それなら問題はないのでは、と千紘が首を傾げる。
しかし、ラオムはすぐさまそれを否定した。
「残念ながら、わたしたちはリリアのいるこの世界でしか存在できません。地球という世界に行くことはできないのです。ですから、わたしたちが存在し続けるためには貴方がたを地球に帰すわけにはいかない、そういうことです」
「つまり、俺たちが地球に帰るのを止めたい、ってことか……?」
「そういうことです」
ラオムは大きく頷いた。
「まあ、そこまではわかったけど、リリアを殺したりなんかしたら逆にアンタたちの存在が消えたりするんじゃないのか?」
「そこは心配には及びません。わたしたちは具現化された時点でリリアの手を離れていますから。ただ、この世界から出られない、というだけです」
「なるほどな。リリアを消せば俺たちを帰せる人間がいなくなるから、アンタたちの存在は消えずに済む、と」
「ええ。理解が早くて助かります」
ラオムがパチパチと手を叩く。
何だか馬鹿にされたような気がしなくもないが、今はそれどころではないな、と千紘は話を続けることにした。
先ほどから途方もない話を聞かされている。それなのになぜか冷静でいられるのは、ラオムの口調が穏やかだからなのかもしれないと思った。
「は? リリアを殺すって何だよ。そんな物騒なことしないで、一緒に地球に帰してもらえばいいだけの話だろ? それにこの世界を乗っ取るとか意味わかんねーよ」
「では、少し考えてみてください。もし帰してもらったとして、貴方がたは普通の生活に戻る。ですが、わたしたちギウス側の怪人はどうなると思いますか?」
「どう、って言われても……」
千紘は顎に手をやりながら地面に視線を落とすと、しばし考え込んだ。
自分たちはいつも通りの生活に戻る。それはわかる。だが、ギウス側はどうなるのか。同じようにいつも通りの生活に戻るだけなのではないか、と思った。
「……アンタたちも普通の生活に戻るんじゃないのか?」
「残念ながらそう簡単にはいかないのですよ」
ラオムはそう言うと、困ったように首を左右に振り、小さく嘆息する。そしてさらに続けた。
「わたしたちギウスの怪人は、リリアが貴方がたを召喚した際のイレギュラーによってこの世界に生まれ落ちた存在です」
「……イレギュラー? まったく意味がわかんねーな」
「確かにわかりにくいかもしれませんね。それでは聞きましょう。『貴方がたが戦ったのは人間でしたか?』と」
「……っ!」
マスクの中からはっきりと発せられたその言葉に、千紘は目を見張り、息を呑んだ。
戦闘員の集団と初めて出会った時、そしてつい先ほど戦った時のことを思い返す。いくら剣で斬っても暗黒霧になって消えるだけで、中身は人間ではなかった。
まさかそれがリリアと関係しているのかと考え、ラオムを見ると、千紘の心中を読んでいたかのように頷く。
「そう、彼らは人間ではありません。リリアは貴方がたを召喚するだけでなく、同時に貴方がたの記憶からわたしたちを無意識に具現化してしまった。と言っても、姿だけですけどね。ああ、具現化が召喚とは違うのはおわかりですか?」
「それは、わかる……けど」
リリアは自分たちの服や長剣を具現化してくれた。それは実際に目の前で見たし、召喚とは違うというのはわかる。今持っている知識だけで簡単に言ってしまえば、召喚は異世界から人を呼び出す能力で、具現化は何もないところから物を創り出す能力だ。
ラオムが言う具現化の話は妙に納得できた。むしろようやく腑に落ちたと言った方が正しい。
自分たちの記憶から姿だけを具現化させたものだから、戦闘員は見た目だけが知っているもので中身は人間ではなかった。
そこまで考えて、千紘ははっとした。
「じゃあアンタも人間じゃ、ない……?」
先ほど、ラオムは『わたしたち』と言った。つまり戦闘員だけでなく、ラオムもまた姿だけを具現化された存在で、中身は人間ではないということだ。
「そういうことになります。ですが、あまり怖がらないで頂きたいですねぇ」
「でも、何でアンタは話せるんだよ……? って、あ、そうか……」
またも素朴な疑問だったが、実際に口にしてから理解した。
自分の中で、戦闘員は『話さないキャラクター』として認識している。同様に、ラオムについては『敬語で話すキャラクター』として認識されている。きっとその違いだろうと考えた。
ラオムは先ほどと同様に頷くと、
「その考えで合っていると思いますよ。どうしてわたしが話せるのか、納得して頂いたところで話を戻しましょう。まずはリリアを消さなければならない理由から」
そう言って、右手を顔の前まで上げる。人差し指を立てると、そのまま続けた。
「わたしたちは貴方がたの記憶からこの世界に具現化された存在です。ですから、貴方がたがこの世界から消えると、わたしたちもこの世界では存在できなくなるのです」
「だったら、俺たちと一緒に帰ればいいんじゃないのか?」
それなら問題はないのでは、と千紘が首を傾げる。
しかし、ラオムはすぐさまそれを否定した。
「残念ながら、わたしたちはリリアのいるこの世界でしか存在できません。地球という世界に行くことはできないのです。ですから、わたしたちが存在し続けるためには貴方がたを地球に帰すわけにはいかない、そういうことです」
「つまり、俺たちが地球に帰るのを止めたい、ってことか……?」
「そういうことです」
ラオムは大きく頷いた。
「まあ、そこまではわかったけど、リリアを殺したりなんかしたら逆にアンタたちの存在が消えたりするんじゃないのか?」
「そこは心配には及びません。わたしたちは具現化された時点でリリアの手を離れていますから。ただ、この世界から出られない、というだけです」
「なるほどな。リリアを消せば俺たちを帰せる人間がいなくなるから、アンタたちの存在は消えずに済む、と」
「ええ。理解が早くて助かります」
ラオムがパチパチと手を叩く。
何だか馬鹿にされたような気がしなくもないが、今はそれどころではないな、と千紘は話を続けることにした。
先ほどから途方もない話を聞かされている。それなのになぜか冷静でいられるのは、ラオムの口調が穏やかだからなのかもしれないと思った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる