戦隊ヒーローレッドは異世界でも戦うのがめんどくさい~でも召喚されたものは仕方ないのでしぶしぶ戦うことにしました~

市瀬瑛理

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第一章 赤と青

第13話 逃げ出した後

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「一体、どうなってるんだ……!?」

 千紘が大きく肩で息をしながら、苦しそうに唸る。

 どれだけ走ったかわからないが、とりあえず戦闘員たちは上手くけたらしく、もう追って来ていないようだった。

 草原の真ん中で、「これ以上は無理だ」とばかりに二人揃ってへたり込んだ。

「あれ、人間じゃなかったよな……?」

 千紘に問う秋斗の肩も、大きく上下している。

「ああ、確かにあれは人間じゃなかった」

 呼吸を整えながら、千紘は先ほどの黒い霧を思い返した。

 まだはっきりと覚えている。長剣が戦闘員の肩を掠めた時の感触と、その後に黒い霧となって消えていく戦闘員の姿。

 肩を掠めた時は人間だと思っていた。でも、実際にはまったく違っていた。

 あれはどう見ても、誰が見ても、人間ではなかった。

「それに、あの霧……多分暗黒霧あんこくむだ」
「暗黒霧!?」

 秋斗が弾かれたように目を見開く。

 まさか、と思っただろうことは千紘にもすぐにわかった。それもそうだ。秋斗と同じく、自分も中身は人間だと思っていたのだから。

「あー、だからかな」

 青い空を仰ぎながら、思い出したように秋斗がぽつりと呟いた。

「何が?」
「いや、一人気絶させたんだけどさ、その時の感触が人間とはちょっと違う気がしたんだよな」
「あの時か」

 これはやばい、と咄嗟に大声で秋斗を呼んだ時のことを振り返る。

「ちゃんと気絶はしたみたいだったけど、何かこう、中身がやけに柔らかかったというか」
「きっと、中身が人間じゃなくて暗黒霧そのものだからじゃないか?」
「そっか、それなら柔らかかったってのも納得だな」

 秋斗は両手を繰り返し握ったり開いたりしながら、当時の記憶を辿っているようだ。それから神妙に頷くと、さらに続けた。

「じゃあ中の人間はこっちの世界には来てないってことになるのか?」
「そうだといいけど、こればっかはわかんないな」

 リリアに聞かないと、と千紘は答える。
 そして、二人はリリアという名前で思い出した。

『何となくだけど、感じるの。この世界のものじゃない、だけどあんたたちでもない気配を』

 見送ってくれた時のリリアの不安そうな表情。

「俺たちじゃない気配が多分暗黒霧のことだってのはわかったけど、何だか厄介なことになりそうだな……」
「これからどうする?」
「さっさとターパイト採って帰るのが一番いいんじゃないか? こんな状況でのんびり冒険なんてしていられないしな」

 千紘が溜息交じりに言うと、秋斗もまた心配そうな表情を浮かべる。

「また戦うことになるかな?」

 いくら中身が人間ではないとはいえ、やはり人の形をしたものと戦うのは気が引けるものだ。それは秋斗だけでなく、千紘も例外ではない。

「どっかで会えばそうなるかもだけど、あいつらと戦うとかマジでめんどくせーな」

 あまり気分のいいもんじゃないしな、と千紘は眉をひそめ、舌打ちした。

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