上 下
12 / 105
第一章 赤と青

第12話 ギウスの戦闘員・2

しおりを挟む
(……何だ? 何かがおかしい……?)

 自分には攻撃が来ないのをいいことに秋斗を無視して、千紘は瞬時に考えを巡らせる。

 秋斗の運動神経の良さは千紘もよく知っているから、その辺は放っておいても大丈夫だろうと思ったが、戦闘員の様子が何となくいつもと違うのが妙に気になった。

 ドラマの中ではいつも「シャー」とか「キャー」などと奇声にも似たような声を発しているのだが、今はずっと無言なのだ。攻撃をしてくるにしても、普段の戦闘員はまとめてかかってくるのに、今は一人だけというのがなぜか引っかかる。

 何より、話の途中に攻撃してきた点が一番おかしかった。いきなり異世界に召喚されて混乱しているにしても、普通は話くらい最後まで聞くものではないのか。それに、これまでずっと一緒にやってきたのだから、自分たちの顔を知らないことはないはずだ。

「千紘! 何とかしてくれよ!」

 まだ攻撃をかわし続けていた秋斗が助けを求めてくる。

 気にはなったが、具体的にどこがどうおかしいのかがわからない。たまたま無言なだけかもしれないし、攻撃を仕掛けてきたのだって、ドラマではなかったから偶然一人だっただけなのかもしれない。話を聞かなかったのも何かしらの理由があったのか、と考えた。

「……はいはい」

 だから、とりあえずは秋斗から戦闘員を引きがそうとする。
 それからまたゆっくり話をすればいい。相手はたった一人だし、それくらいのことは簡単だと思われた。

 しかし秋斗のところに向かう途中で、

「うわ……っ!」

 違う戦闘員が千紘に向かってくる。今度は手にナイフを持っていた。
 これで秋斗を助けることができなくなってしまった。

(さすがに刃物は卑怯だろ……っ!)

 戦闘員は何の躊躇ちゅうちょもなく、千紘に向けてナイフを振り回す。

 幸いなことに、千紘も秋斗と同じく運動神経が良かった。運動神経の良さは戦隊ヒーローの必須スキルでもある。おそらく秋斗よりも上だろうと自負していた。この程度の攻撃ならば、身をかわすことはそれほど難しくない。
 だがずっとこのままではらちが明かないし、何より、体力が大幅に削られてしまうだけだ。

 いつまで経っても攻撃は止みそうにない。おまけに同じ人間に遠慮なく攻撃してくるような奴らである。話もまともに通じなさそうで、千紘は「これは最後の手段を使うしかないな」と考えた。

「……仕方ないか」

 攻撃をかわしながら千紘が眉を寄せ、小さく一つ息を吐く。めんどくさいのに、と心の中で呟いた。

 いよいよ戦闘員がナイフを振りかぶってくる。
 できれば使いたくなかったが、使わざるを得なかった。

「──っ!」

 大きな金属音の後、戦闘員の持っていたナイフが少し離れた地面に落下する。千紘の長剣がナイフを受け止め、弾いた音だった。

 直後、千紘ははっとする。

「悪い! 怪我は!?」

 ナイフを弾いた時に、長剣が戦闘員の左肩辺りを掠めてしまったのだ。

 いくら自分に攻撃してきたからとはいえ、相手を傷つけるつもりは毛頭なかった。千紘の顔に焦りの色が広がる。

 しかし戦闘員は痛がる素振りを見せるでもなく、かと言って何かを話すわけでもない。ただ黙って立っているだけだった。

「……おい! 何か言えって!」

 千紘が怪我の具合を診るために、戦闘員の腕を取ろうとした時である。伸ばしかけた手が途中で止まった。

「何だよ、これ……」

 思わず、うめくような声が出た。

 長剣が掠めた場所からは、人間の赤い血ではなく、黒い霧のようなものが出てきていたのだ。

 最初は少しずつしか出ていなかったそれは、内側から傷口を広げるようにして、だんだんと出る量が増えてくる。そして出てきた後は、まるで黒いアイスクリームが溶けて蒸発していくかのように、空中で跡形もなく消えていった。

「人間、じゃ……ない……?」

 千紘が目を見張る。その場で硬直したまま、動けなかった。

 その間も黒い霧は戦闘員の身体を徐々に溶かすように広がり、蒸発していく。ついにはとうとう人の形を成さなくなり、すべてが消えてしまったのだ。

「ドラマと同じ、暗黒霧あんこくむでできてる……?」

 そんなまさか、と思った。

 ドラマの中では、ギウスの戦闘員たちは暗黒霧という化学物質でできていて、スターレンジャーに倒されると暗黒霧になって消えてしまう、という設定になっている。
 だがドラマのそれはあくまでも演出で、後から映像を合成したりしているはずだった。

 それに、他の戦闘員たちは仲間が消えたというのに駆け寄ることもせず、変わらず無言のまま佇んでいるのである。

 これはどこかがおかしいだとか、そんな程度の話ではない。

「────秋斗!!」

 割れんばかりの大声で秋斗の名を呼ぶ。
 見れば、ちょうど秋斗が戦闘員を気絶させたところだった。どうやら、秋斗もこのまま攻撃をかわし続けるわけにはいかないと思ったのだろう。

「こいつらやばい! すぐに逃げるぞ!」 
「……わかった!」

 秋斗の返事を合図に、揃って駆け出す。と同時に、これまで黙っていた戦闘員たちも動き出した。

 正面から新しい戦闘員が数人襲い掛かってくるのを、なりふり構わず体当たりで突き飛ばすと、ちょうど逃げ道ができた。
 そこを、後ろから追ってくる戦闘員を振り切るようにして全速力で走り抜ける。

 そうして逃げ出した二人はあてもなく、しばらくの間必死で走り続けたのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

つぎのあなたの瞳の色は

墨尽(ぼくじん)
ファンタジー
【ブロマンス風ファンタジー】 病魔に蝕まれてなお、戦いを止めない主人公たつとら そんなたつとらを支えるために、仲間たちが運命を共にするお話 〇あらすじ 人間を本能のまま襲う〈異形〉と呼ばれる魔物が蔓延る世界 世界一の大国であるウェリンク国の軍事育成学園に一人の男が赴任してきた 桁違いに強い彼は、世界の脅威をいとも簡単に撃退していく その強さと反して、主人公が抱えている病魔は深刻だった 彼が死ぬのが先か、世界の脅威が去るのが先か 奮闘し続ける主人公の周りには、仲間たちが増えていく そして次第に明かされる、主人公の強さの理由と世界の成り立ち 果たして彼の正体は 行きつく先にあるのは希望か絶望か __________ 主人公の過去と素性が世界の成り立ちに大きく関わってくるため、主人公が謎の人物設定になっています。 最初は学園モノですが、途中から変わります。 ※ご注意ください (恋愛ものではないのですが、一読ください) 女性が男性に想いを寄せる描写もありますし、男性が男性に想いを寄せる描写もあります(BR要素) しかしこの物語は、恋愛に発展することはありません 女性同士の恋愛の描写もあります 初心者ですので、誤字・脱字等お目汚しが多々あるかと思いますがご了承ください!

処理中です...