上 下
24 / 27
第四章 帰還の魔法陣

第24話 辿り着いた神殿と待っていた巫女

しおりを挟む
 魔物と戦った後のオリジンの卵は、やはり真っ青になっていた。
 そんな卵にヴァイオリンを聴かせてから、蒼真と弘祈は湖に架かった橋を渡る。

 そうして、ようやくリエンル神殿の前に辿り着いた。

 湖の真ん中にある神殿は、ティアナがいたネスーリ神殿とは雰囲気ががらりと変わっている。
 ネスーリ神殿はずいぶんと厳粛げんしゅくな雰囲気だったが、こちらはそれよりもずっと明るい感じがした。日当たりのいい場所に建っているからだろうか。

 繊細な装飾が施された大きな扉を見上げ、蒼真がごくりと喉を鳴らす。

「ここまで色々あったけど、これでやっと地球に帰れるんだな。……よし、行くか」
「うん、そうだね」

 隣に立っている弘祈もしっかり頷いた。

 二人で揃って扉に手を置いて、そのまま力いっぱい押し開く。
 重々しい音を立てて扉が開いた先には、一人の少女が待っていた。

「お疲れ様でした!」

 明るい声に出迎えられ、蒼真は思わずその場に立ち尽くす。視線の先にいた少女が、よく見知った人物だったからである。

「ティアナ!? え、俺たち道間違ってネスーリ神殿に戻ってきた!?」

 蒼真が大声を上げて、今度は勢いよく弘祈の方へと顔を向けた。
 しかし、弘祈は冷静にそんな蒼真を見やると、呆れたように小さな溜息をつく。

「そんなわけないよ……。よく見て、考えてみたら? 始まりの魔法陣があるネスーリ神殿って湖の真ん中にあった?」
「いや、なかったな」

 蒼真はさほど考えることもなく、素直に首を左右に振った。

「じゃあ次。ティアナってこんな色だった?」
「『こんな色』って、お前女の子に向かってずいぶんと失礼だな」

 蒼真は顔を正面に戻し、目の前の少女に改めて視線を向ける。

 無言でニコニコと微笑んでいる少女は、ティアナと同じ――十四、五歳くらいに見えた。年齢だけでなく、身長なども同じくらいだろうか。

 あまりジロジロと見るのも失礼だが、少女は特に気に留めていないようだ。まるで「どうぞ見てください」と言わんばかりである。

 さらによく見れば、顔はティアナにそっくりだが、髪色も瞳の色もまるで違うことに気づいた。

 ネスーリ神殿にいたティアナはホワイトシルバーの髪色で、緑青ろくしょう色の瞳だった。
 だが、今目の前にいる少女は髪の長さこそティアナと同じではあるが、プラチナブロンドの髪色に、青紫色の瞳である。

 また、着ているものも違っていた。ティアナは真っ白なワンピースだったが、こちらの少女は爽やかな淡いオレンジ色のワンピースである。

「あ、別人じゃねーか!」
「……気づくのが遅いよ」

 蒼真がまたも大きな声を上げて少女を指差すと、弘祈は「人を指差すのは失礼だよ」とその手を下ろさせながら、またも溜息を零した。

 そこで、少女が薄桃色の唇を動かす。

「ここまで気づかない方もなかなか珍しいですよ。私はティアナの双子の姉で、ソフィーと申します」

 そう告げると、心底楽しそうに目を細め、それからうやうやしく頭を下げた。

 ソフィーの言葉に、蒼真がようやく納得したように手を叩く。

「あー、双子かぁ! 双子だったらそりゃ間違えるよな」
「いや、雰囲気だけでもかなり違うでしょ。まず見た目から間違えようがないし」

 弘祈は改めて蒼真に冷たい目を向け、もう何度目かもわからない溜息を落とした。

「そうか? 確かに、ティアナにしてはずいぶんと明るい声だなーとは思ったけど、見た目はそっくりじゃねーか」
「ティアナはおとなしいですからね。見た目はそっくりですが、性格は少し違うと思います」

 ソフィーには間違えられたことを気にする様子はない。それどころか、蒼真に同意するように、うんうん、と何度も頷いた。

「でもさ、双子なのに別々の場所にいるのって寂しくない?」

 ソフィーと一緒になってひとしきり頷いた蒼真が、ふとそう切り出す。

 すると、ソフィーは顎に手を当てて天井を見上げた。何かを考えている素振りである。しかし、すぐに顔を戻すとにっこり微笑む。

「そうですね……。ティアナとはいつも脳内で会話しているので、そこまで寂しいとは思わないですかね」

 あっけらかんと言ってのけるソフィーに、蒼真が驚いた声を上げた。

「脳内で会話!? 何か、電話とかテレパシーみたいだな……」
「デンワというものはよくわかりませんが、双子ですし、これは巫女の能力みたいなものです。お二人がこちらに向かっていることもティアナから聞いていました。日数を考えて、そろそろ来るかとお待ちしてたんです」
「ああ、だからすぐに出迎えてくれたのか」

 ソフィーが変わらずにこやかに頷くと、またも蒼真が「なるほど」と手を叩く。
 そこで弘祈が首を捻り、素直に疑問を口にした。

「ってことは、双子じゃないと巫女にはなれないの?」
「はい。そういうしきたりになってます」
「ふーん、そういうもんなのか」

 ソフィーの答えに蒼真が腕を組むと、続けてまたソフィーが話し出す。

「ところで、外が少し騒々しかったみたいですけど、何かありました?」
「……」

 ニコニコと微笑みながら発せられる明るい声音に、蒼真と弘祈が途端にがっくりと肩を落とした。

 あれだけの戦闘とヴァイオリンの演奏を繰り広げていたのに、ソフィーにとっては『少し』のことらしい。

 この少女もティアナと一緒で、相当マイペースで天然なようだ。双子とはここまで似ているものなのか。
 隣でうなだれている弘祈は今にも溜息をつきそうだが、蒼真も同様だ。

 ややあって、ゆるゆると顔を上げた蒼真が小声で呟く。

「あれは俺らが魔物と戦ってたからだよ……」
「えっ、魔物なんていたんですか!?」

 呆れ気味の蒼真の台詞に、ソフィーが口に両手を当てて、驚いた声を上げた。

「いや、何でこんな近くにいるのに気づかないの……?」
「ここは魔物が入れないようになってますし、私も外には出ませんからね!」

 次にはそう言って、両手を腰に当ててふんぞり返る。

(ここは威張るところじゃないだろうに……)

 無言でソフィーを見つめている弘祈も、きっと同じことを思っているはずだ。その瞳が蒼真と同じような呆れを物語っていた。

 魔物については、神殿側で最初から排除しておけ、だとか言いたいことは山ほどあるが、ソフィーがこの調子では多分言ったところで無駄だろう。

「ああ、そう……」

 蒼真はそれだけを答えながら、ただ頷くのが精一杯だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ステータスブレイク〜レベル1でも勇者と真実の旅へ〜

緑川 つきあかり
ファンタジー
この世界には周期的に魔王が誕生する。 初代勇者が存在した古から遍く人々に畏怖の象徴として君臨し続ける怪物。 それは無数の魔物が巣食う、世界の中心地に忽然と出現し、クライスター星全土に史上、最も甚大な魔力災害を齎したとされている。 そんな異世界に不可解に召喚されてから激動の数年間を終え、辺境の村に身を潜めていた青年、国枝京介ことレグルス・アイオライトは突然、謎の来訪者を迎えることとなった。 失踪した先代と当代の過去と現在が交差し、次第に虚偽と真実が明らかになるにつれて、暗雲が立ち込めていった京介たち。 遂に刃に火花を散らした末、満身創痍の双方の間に望まぬ襲来者の影が忍び寄っていた。 そして、今まで京介に纏わりついていた最高値に達していたステータスが消失し、新たなる初期化ステータスのシーフが付与される。 剣と魔法の世界に存在し得ない銃器類。それらを用いて戦意喪失した当代勇者らを圧倒。最後の一撃で塵も残さず抹消される筈が、取り乱す京介の一言によって武器の解体と共に襲来者は泡沫に霧散し、姿を消してしまう。 互いの利害が一致した水と油はステータスと襲来者の謎を求めて、夜明けと新たな仲間と出逢い、魔王城へと旅をすることとなった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...