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第三章 消えた卵の行方を追え
第18話 息を吞む光景と薬草
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弘祈を背負ってどうにか村の宿屋まで帰ってきた蒼真の姿に、当然というべきか、宿屋の主人はとても驚いた表情をみせる。
蒼真はそんな主人に弘祈の怪我や高熱などの簡単な事情を話し、弘祈を二人が泊まっている部屋へと運び込んだ。
ベッドに横になった弘祈の胸元まで毛布を掛けてやると、蒼真はパンツのポケットから布に包まれたオリジンの卵を取り出す。
丁寧に布を剥がすが、卵はまだ赤く染まったままだ。
それを手に持ってじっくり観察すると、殻にはやはり傷がついていた。以前よりも少し大きなものである。きっと弘祈が怪我をしたせいだろう。
「これは俺が持ってた方がいいよな」
呟くように言った蒼真は、卵を布で包み直すとポケットに戻した。
また誰かが盗みに来る可能性だってないとは言い切れない。そうなった時に、今の弘祈の状態では卵を守ることはまず不可能だろう。
親と離されるオリジンの卵には申し訳ないが、今は自分が持って行くのが最善のはずだ。
「じゃあ行ってくるから」
苦しそうにきつく目を閉じたままの弘祈に声を掛ける。もちろん返事はない。
そのまま背中を向けた蒼真は、静かに部屋を後にした。
※※※
しばらくして。
蒼真は息を切らせながら山道を進んでいた。
「……なかなかしんどいな」
魔物と戦っただけでなく、弘祈を背負い村まで戻ったりもしていた蒼真は、すでに疲労困憊の状態である。
それでも懸命に前へと足を動かしつつ、宿屋の主人から聞いた話を思い返す。弘祈を部屋に運ぶ時に聞いたものだ。
『どんな病気や怪我にも効くっていう薬草があるんです』
宿屋の主人はそう言って、薬草の生えている場所を教えてくれた。
高熱が出た原因は、タイミングから見てもやはり怪我のせいだろう。
もし違ったとしても、怪我の治療はしなくてはならない。あのまま放っておくといつ治るかもわからないのだ。
だから、蒼真はその薬草を採りに行くことに決めた。どんな病気や怪我にも効くのならば、あるに越したことはない。
話では、薬草はかなり貴重なものらしい。また、夜にしか採れないので実際に採るのは難しいとのことだった。
夜の山が危険なことはもちろん、今は魔物が出る可能性もあるからだそうだ。
「嫌いなやつのために、俺は一体何をやってんだろうな……?」
蒼真はひたすら山道を進みつつ、ふと独り言ちる。
それから立ち止まり、手にした剣に目を落とした。
「ホントは嫌いじゃないのか……?」
誰に見せるでもなく首を傾げ、自問自答する。もちろん、視線の先にある剣は何も答えてくれない。
「いや、でもなぁ……」
次には唸るような声を漏らしながら、その場にしゃがみ込んだ。
少しの間考えていた蒼真だが、突然弾かれたように顔を上げる。
「そうだ! ただ俺を庇って怪我したからほんのちょっとだけ申し訳ないな、って思ってるんだよな! うん、そうだ。別にほんの少しだけだし! こういう時はちゃんとお礼しとかないと!」
結局そう結論付けた蒼真は、これまでの考えを振り払うように勢いよく立ち上がり、また山道を歩き出したのだった。
※※※
すっかり夜も更けた頃。
蒼真はようやく薬草の生えている場所まで辿り着いた。
「やっと見つけた……!」
思わず安堵の溜息を漏らす。
ここまでの道のりでは、運よく魔物には出会わなかった。それはとても幸運なことだったのだろう。
ちょうど開けた場所に生えた薬草は、月明かりの下で光を浴びてキラキラと綺麗に輝いている。まるでたくさんの星を地面に撒いたようだ。
聞いた話によれば、この薬草は不思議なことに昼間はずっと地中深くに隠れていて、夜にならないと出てこないらしい。
そしてまた夜が明けると、土の中に帰ってしまうのだそうだ。
何とも変わった生態だが、そういうものもこの世界にはあるのだろう。
すでに『ここは異世界だから何でもあり』と動じなくなっていた蒼真は、話を聞いてもそれほど疑わなかった。
空に浮かぶ丸い月と、地上で瞬く星たち。
目の前に広がる幻想的な光景を、蒼真は息を吞みながらも瞳にしっかりと焼き付ける。
それから注意深く辺りを見渡すが、どうやらこの近くにも魔物の気配はなさそうだ。
「よし、今のうちに採って帰るか」
地面に膝をつき、その足元に生えている薬草に手を伸ばす。しかし、そこで不意に蒼真の手が止まった。
改めて、自分の周囲をぐるりと見回す。
「……この風景見たら、弘祈は何て言うんだろうな。ちょっと見せたかったな」
スマホがないから写真も撮れないし、と蒼真は残念そうにぽつりと呟いた。
「いやいや、今はそんな場合じゃねーな。俺は何を言ってるんだ」
しかしすぐに首を左右に振って、また薬草を採る作業に戻る。
少しして適当な量の薬草を採り終えると、再度その美しい景色を見やり、踵を返したのだった。
蒼真はそんな主人に弘祈の怪我や高熱などの簡単な事情を話し、弘祈を二人が泊まっている部屋へと運び込んだ。
ベッドに横になった弘祈の胸元まで毛布を掛けてやると、蒼真はパンツのポケットから布に包まれたオリジンの卵を取り出す。
丁寧に布を剥がすが、卵はまだ赤く染まったままだ。
それを手に持ってじっくり観察すると、殻にはやはり傷がついていた。以前よりも少し大きなものである。きっと弘祈が怪我をしたせいだろう。
「これは俺が持ってた方がいいよな」
呟くように言った蒼真は、卵を布で包み直すとポケットに戻した。
また誰かが盗みに来る可能性だってないとは言い切れない。そうなった時に、今の弘祈の状態では卵を守ることはまず不可能だろう。
親と離されるオリジンの卵には申し訳ないが、今は自分が持って行くのが最善のはずだ。
「じゃあ行ってくるから」
苦しそうにきつく目を閉じたままの弘祈に声を掛ける。もちろん返事はない。
そのまま背中を向けた蒼真は、静かに部屋を後にした。
※※※
しばらくして。
蒼真は息を切らせながら山道を進んでいた。
「……なかなかしんどいな」
魔物と戦っただけでなく、弘祈を背負い村まで戻ったりもしていた蒼真は、すでに疲労困憊の状態である。
それでも懸命に前へと足を動かしつつ、宿屋の主人から聞いた話を思い返す。弘祈を部屋に運ぶ時に聞いたものだ。
『どんな病気や怪我にも効くっていう薬草があるんです』
宿屋の主人はそう言って、薬草の生えている場所を教えてくれた。
高熱が出た原因は、タイミングから見てもやはり怪我のせいだろう。
もし違ったとしても、怪我の治療はしなくてはならない。あのまま放っておくといつ治るかもわからないのだ。
だから、蒼真はその薬草を採りに行くことに決めた。どんな病気や怪我にも効くのならば、あるに越したことはない。
話では、薬草はかなり貴重なものらしい。また、夜にしか採れないので実際に採るのは難しいとのことだった。
夜の山が危険なことはもちろん、今は魔物が出る可能性もあるからだそうだ。
「嫌いなやつのために、俺は一体何をやってんだろうな……?」
蒼真はひたすら山道を進みつつ、ふと独り言ちる。
それから立ち止まり、手にした剣に目を落とした。
「ホントは嫌いじゃないのか……?」
誰に見せるでもなく首を傾げ、自問自答する。もちろん、視線の先にある剣は何も答えてくれない。
「いや、でもなぁ……」
次には唸るような声を漏らしながら、その場にしゃがみ込んだ。
少しの間考えていた蒼真だが、突然弾かれたように顔を上げる。
「そうだ! ただ俺を庇って怪我したからほんのちょっとだけ申し訳ないな、って思ってるんだよな! うん、そうだ。別にほんの少しだけだし! こういう時はちゃんとお礼しとかないと!」
結局そう結論付けた蒼真は、これまでの考えを振り払うように勢いよく立ち上がり、また山道を歩き出したのだった。
※※※
すっかり夜も更けた頃。
蒼真はようやく薬草の生えている場所まで辿り着いた。
「やっと見つけた……!」
思わず安堵の溜息を漏らす。
ここまでの道のりでは、運よく魔物には出会わなかった。それはとても幸運なことだったのだろう。
ちょうど開けた場所に生えた薬草は、月明かりの下で光を浴びてキラキラと綺麗に輝いている。まるでたくさんの星を地面に撒いたようだ。
聞いた話によれば、この薬草は不思議なことに昼間はずっと地中深くに隠れていて、夜にならないと出てこないらしい。
そしてまた夜が明けると、土の中に帰ってしまうのだそうだ。
何とも変わった生態だが、そういうものもこの世界にはあるのだろう。
すでに『ここは異世界だから何でもあり』と動じなくなっていた蒼真は、話を聞いてもそれほど疑わなかった。
空に浮かぶ丸い月と、地上で瞬く星たち。
目の前に広がる幻想的な光景を、蒼真は息を吞みながらも瞳にしっかりと焼き付ける。
それから注意深く辺りを見渡すが、どうやらこの近くにも魔物の気配はなさそうだ。
「よし、今のうちに採って帰るか」
地面に膝をつき、その足元に生えている薬草に手を伸ばす。しかし、そこで不意に蒼真の手が止まった。
改めて、自分の周囲をぐるりと見回す。
「……この風景見たら、弘祈は何て言うんだろうな。ちょっと見せたかったな」
スマホがないから写真も撮れないし、と蒼真は残念そうにぽつりと呟いた。
「いやいや、今はそんな場合じゃねーな。俺は何を言ってるんだ」
しかしすぐに首を左右に振って、また薬草を採る作業に戻る。
少しして適当な量の薬草を採り終えると、再度その美しい景色を見やり、踵を返したのだった。
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