上 下
3 / 27
第一章 始まりの音色

第3話 騎士と帰還の魔法陣

しおりを挟む
 どうやら、ティアナはかなりマイペースで天然らしい。

 そんな少女から説明された内容を要約して、蒼真と弘祈は揃って嘆息した。

「つまり、俺たちがそこのオリジンの卵ってやつにそれぞれ親や騎士として選ばれたってことなんだろ。んで、ここは異世界ってとこまではわかった」
「それで、選ばれた僕たちがオリジンの卵をここから南にあるリエンル神殿ってところまで運べばいいってことだよね」

 二人が続けて確認すると、ティアナは笑顔で満足そうに大きく頷く。

「さすが、お二人とも飲み込みが早いです」
「これくらいのことは嫌でもわかるってーか、何でこいつと一緒なんだよ……」
「それはこっちの台詞だよ」

 蒼真と弘祈はまたも一緒に溜息を漏らしながら、がっくりとうなだれた。

 とりあえず、自分たちはティアナの持っているオリジンの卵に選ばれた存在として、この異世界に呼ばれたらしい。

 そして、オリジンの卵とやらを別の神殿まで持って行けばいい、というところまでは把握できた。

「でもさ、何で俺らなわけ?」
「ソウマ様は騎士になるのはお嫌ですか?」

 気を取り直した蒼真が正直に思ったことを口にすると、ティアナは卵を持ったまま、その顔を見上げる。

「い、いや、騎士ってのはかっこいいけどさぁ……」

 潤んだ瞳で見つめられ、どうしていいかわからなくなった蒼真はそれだけを答えると、さっと顔を背けた。

 確かに『騎士』という響きはかっこいいと思うし、漫画やゲームの世界のようでもちろん惹かれるものはある。
 現代日本ではまずそのような称号などを得ることはないから、なおさらだ。

「では、どうしてそのようなことを仰るんですか?」

 ティアナは蒼真の正面に回って、さらにそう訊いてくる。

「騎士がかっこいいのは認めるけど! でも騎士って剣とか使えないとなれませんよね!?」

 蒼真が勢いに任せて一息に言い切ると、弘祈はただ黙って首を左右に振り、呆れたようにもう何度目かもわからない溜息をついた。

 そんな弘祈とは対照的に、ティアナはほんの一瞬きょとんとした表情をみせたが、それはすぐににこやかな微笑みに変わる。

「そのことでしたら大丈夫です」
「え、マジで?」
「蒼真……」

 思わず頬が緩む蒼真だが、すぐさま弘祈の肘鉄ひじてつを食らい、脇腹を押さえながら膝から崩れ落ちた。

 今は『騎士』という響きに浮かれて、流されかけている場合ではない。弘祈はそう言いたいのだろう。

(そんなこと俺だってわかってるし、何も思い切り肘鉄食らわせなくてもいいじゃねーか……っ!)

 蒼真は大きなダメージを受けた脇腹を押さえたまま、床からティアナを見上げる。

「俺たち、今すぐ地球に帰りたいんだけど……!」

 痛みで涙目になった瞳で必死に訴えると、

「ですが、お二人には使命がありますし、どちらにせよ帰還の魔法陣まで行かないと帰れませんよ?」

 ティアナは満面の笑みで蒼真をまっすぐに見つめながらも、非情な言葉の刃を突きつけた。

 口調は穏やかだが、その言葉の中には有無を言わせない雰囲気が潜んでいる。

「……っ」

 途端に背筋に冷たいものが走るのを感じた蒼真は、脇腹の痛みも忘れて、瞠目どうもくした。

「帰還の魔法陣?」

 今度は弘祈がいぶかしげに眉をひそめながら、ティアナに問う。蒼真も同じところに引っかかっていた。

「はい。ここ、ネスーリ神殿にあるのは始まりの魔法陣だけです。始まりの魔法陣は異世界の人間を呼ぶことしかできません。一方通行になっていますので、帰るには帰還の魔法陣まで行かないといけません。それぞれ違った役割があるのです」
「つまり、帰るためには嫌でも帰還の魔法陣ってところまで行く必要があるってこと?」
「そうです」

 確認する弘祈に、ティアナは真剣な表情でしっかりと頷いてみせた。

「じゃあ、その帰還の魔法陣があるのってどこよ」

 ようやく立ち上がった蒼真が、今度は小柄なティアナを真剣な表情で見下ろす。

 すると、ティアナは蒼真の瞳をまたもしっかりと見据え、こともなげにはっきりと言ってのけた。

「先ほどお話した、南のリエンル神殿です」
「てことは、あれ、ちょっと待って。オリジンの卵ってやつの届け先ってその神殿だよな? で、帰還の魔法陣があるのもその神殿だろ。もしかしなくてもオリジンの卵と俺たちの行き先は同じ?」
「そういうことになります」

 蒼真がまとめると、笑顔になったティアナはまたも首を縦に振る。

「どうあっても、僕たちを使って卵をリエンル神殿まで運ばせたいみたいだね」

 帰還の魔法陣がリエンル神殿にあるってことはそういうことでしょ、弘祈はうんざりしたようにそう言って、両手を腰に当てた。

「確かに、俺たちが向かわなきゃいけない場所と卵を届ける場所は同じだもんな」
「帰還の魔法陣以外に、僕たちがすぐ地球に帰れる方法はないの?」

 弘祈がさらにティアナに向けて問い掛けると、ティアナは少しだけ考える素振りをみせてから、困ったように今度は首を横に振る。

「もうずっと昔からそういう仕組みになっていますし……」

 そんなティアナに、蒼真と弘祈は揃って大きな溜息をついた。

 さすがに『そういう仕組み』と言われてしまっては、二人にはどうにもできない。ティアナ自身もこれまで考えたことはなかったのだろう。

「こうなったら行くしかねーかぁ……」
「……そうだね」

 先ほどの有無を言わせないティアナの台詞を思い返し、蒼真はやはりこれ以上何を言っても無駄なのだと理解する。

 珍しく同意した弘祈も同じことを考えたらしい。

 こうして二人は渋々ではあるが、オリジンの卵を持ってリエンル神殿まで向かうことに決めたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。 特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。 その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった! 吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか? ※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...