上 下
12 / 19

第12話 二度目の遭遇

しおりを挟む
 優海の声に、柊也と継が揃ってすぐさま振り返る。

「優海さん、今の声が聞こえたの?」

 問い掛けたのは継だ。
 継の問いに、優海はやや困惑した表情を見せた。

「は、はい。でもお父さんは先月亡くなったから気のせいかも……」
「いや、それなら色々と納得がいく」

 言いながら、継は妖魔の方に顔を戻す。

「どういうことだよ」

 そんな継に、柊也が怪訝けげんそうな目を向けた。

「優海さんのお父さんが亡くなったのが先月。で、優海さんの周りで妖魔による心霊現象が起こり始めたのも先月。そして『普通の人間』であるはずの優海さんに妖魔の声が聞こえた。これがどういうことかわかるかい?」

 継の言葉を聞いて、柊也ははっとする。

「もしかしなくても、優海さんのお父さんと妖魔に何か関係があるってことか」
「そう。でも今はそんなことをゆっくり話してる場合じゃないね」

 改めて、継は妖魔を睨みつける。柊也も同じように妖魔を見据えた。

 妖魔はその場で、大きな身体をゆっくり左右に揺らしている。どうやらこちらの出方をうかがっているらしい。

 柊也は、昨日のことを振り返る。

 昨日会った時の妖魔は、一つもまともな言葉を発しなかった。それはたまたまだったのかもしれない。
 だが今目の前で話しているということは、現在においてはそれなりに知能を持った妖魔だと考えられる。

 たった一日で怪我を回復してきたうえに、今日は話ができるのだ。

(もう嫌な予感しかしねーよ……っ)

 柊也が小さく身震いした。
 その時である。

『今スグ優海カラ離レロ……!』

 また低い声が響く。

「……っ!」

 思わず後ずさりしそうになった柊也が、継の顔を見上げた。
 だが継は柊也の顔を見返すことなく、一歩前へと踏み出す。

「残念だけどそういうわけにはいかないんでね」

 よどみなく発せられた継の声は、挑戦的にも聞こえた。

 柊也からはその表情を窺うことは叶わなかったが、継のピンと伸びた背中は柊也を安心させるには十分なものだ。

(そうだ、継がいる。緋桜ひざくらだってあるんだから……)

 柊也の口元にわずかな笑みが浮かんだ。

 しかし、妖魔は特に怯むような様子を見せることはない。
 それどころか、

『タダ優海ヲ見守ッテイルダケナノニ邪魔ヲスルナ!』

 苛立たしそうな声がさらに大きくなった。

 それと共鳴するように、大気が震える。妖魔が闇の色をまとった翼を羽ばたかせると、昨日よりも激しい強風が巻き起こった。

「うわっ!」
「まずい!」

 たまらず柊也が腕で顔を覆って目を細めるのと、継が声を上げるのはほぼ同時だった。

 継の声に反応した柊也は、強風に全身をあおられながらもどうにか目を凝らす。
 狭い視界の中に映ったのは、これまでよりもずっと巨大に膨らんでいく闇の塊。

「何だよ、これ……! こんなの聞いてねーぞ……っ!」

 柊也は唸るような声を漏らしながらも、その後はただ黙って風が収まるのを待つことしかできなかった。
 おそらくそれは継も同じだっただろう。

 妖魔が段々と大きくなるにつれて、風は逆に弱くなっていく。

(まるで風を飲み込みながら大きくなってるみたいじゃねーか……っ!)

 そんな嫌な錯覚を覚えながら、柊也は舌打ちした。

 ようやく風が収まる。

 しっかりとまぶたを開いた柊也は、目の前の光景に愕然とした。

 これまではせいぜい二メートルくらいの大きさだったはずの妖魔が、何倍も大きくなっていたのだ。

「継……!」

 柊也が即座に、隣にいた継を見やる。継は険しい顔つきで、じっと妖魔を見つめていた。

 継に向けて、柊也がさらに言葉を掛けようとした時である。

「きゃあぁぁあ!」

 辺りに響いたのは優海の悲鳴だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

三日月の守護犬

月ノ宮小梅
キャラ文芸
「狛犬なのに…神社も護れないの?」 目覚めるとそこには何もなかった ひとりぼっちの小さな狛犬のおはなし

猫の私が過ごした、十四回の四季に

百門一新
キャラ文芸
「私」は、捨てられた小さな黒猫だった。愛想もない野良猫だった私は、ある日、一人の人間の男と出会った。彼は雨が降る中で、小さく震えていた私を迎えに来て――共に暮らそうと家に連れて帰った。 それから私は、その家族の一員としてと、彼と、彼の妻と、そして「小さな娘」と過ごし始めた。何気ない日々を繰り返す中で愛おしさが生まれ、愛情を知り……けれど私は猫で、「最期の時」は、十四回の四季にやってくる。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

処理中です...