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第4話 様子のおかしい依頼人

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 テーブルを挟んだ向こう側のソファー。
 そこには、どことなく居心地が悪そうに、小さくなって座る女性がいる。

 喧嘩の邪魔をしてしまったことを、きっと少なからず申し訳なく思っているのだろう。

「先ほどはお見苦しいところをお見せして、大変失礼しました……」

 そんな女性に、コーヒーと煎餅せんべいを出しながら、柊也が頭を下げた。

 喧嘩については、柊也としてはむしろ止めてくれてよかったと思っている。
 でなければ、どちらも引くことなく、今もまだ続いていたかもしれないのだから。

「い、いえ、私がタイミング悪く来てしまっただけですから」

 気にしないでください、と落ち着いた声で、女性も同じように頭を下げた。

 柊也の同級生の女子よりも少し大人っぽい雰囲気をかもしていて、柊也は大学生くらいだろうかと予想する。

 ただ、夕方で疲れているのか、顔色が悪いように見えるのが少し気になった。

「それで、今回のご依頼は?」

 先ほどまでの様子がまるで嘘だったかのように、継が真面目な顔を女性に向ける。

 継に促された女性は、ゆっくり口を開いた。

「あ、はい。私は坂井さかい優海ゆみと言います。今日は調べてもらいたいことがあって、ここに来ました」

 そう告げた優海は、目の前に置かれたボールペンを手に取る。
 そして継が差し出した書類に、自分の名前を綺麗に整った文字でつづった。

「『優しい海』……ですか。素敵なお名前ですね」

 書き終えた優海の手を、継はそっと両手で包み込むように握る。

 まっすぐに微笑みを向けられた優海は、恥ずかしそうにうつむき、どうしていいかわからないようだ。

(いきなりセクハラしてんじゃねーよ!)

 そんな継の行動をしっかり見ていた柊也は、優海を助ける意味も込めて、即座に隣から肘鉄ひじてつを食らわせた。

 しかし、継はそれを受けても笑顔を崩すことなく、話を進めようとする。

(ちっとも効いてねぇ……っ!)

 少しくらいは痛がれよ、と柊也は心の中だけで舌打ちした。

「調べて欲しいことですか? 浮気調査とか?」

 継は聞きながらノートを開き、詳しい内容をメモする準備を始める。

 そろそろ真剣に仕事を始めようとする継の様子に、柊也もきちんと話を聞くことにして姿勢を正した。

 ようやく継の視線と手から解放された優海は、まだ頬を染めながらも、静かに唇を動かす。

「いえ、そうではなくて……」
「……?」

 否定する優海の言葉にやや陰りが見えて、柊也は首を傾げた。

 たいていの人間は何かしら困っているからこそ、大なり小なり助けを求めてここにやって来る。

 だが、優海の場合はいつもの依頼人とは少し違うように見えたのだ。

 継も柊也と同じことを感じ取ったのか、声のトーンを落とすと、今度は違う言葉を口にする。

「もしかして、『裏』の依頼の方でしょうか?」

 一瞬、優海の息を呑む音が聞こえた気がした。

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