25 / 31
第6章
第2話 深夜のコンビニには変な奴が現れる
しおりを挟む
世の中というのは往々にして、個人の思い通りには動かない。
なぜなら、自分以外の他人がこちらの想像を軽々超えて動くから。
だったら、チェスの駒のように。
誰もを自由に動かせれば、世界は思い通りになるのかと、そんな風に思うことがある。
けれど、現実的にそんなことできるはずもなく。
深夜のコンビニ。レジの中という動物園の檻にも通ずる囲いの中で思う。本当に思い通りいかないと。
頭痛がする。頭が痛い。頭痛が痛い。
誤用と理解していながらも、2度も頭の痛みを訴えてしまうほどには、現実はあまりにも非情だった。頭痛い痛い。
レジの台に両肘を付いて、見間違えだと両目を親指でぐりぐりと強く押し込む。
ぼやけた視界に映るのは、イートインスペースを占拠している制服少女。
こちらはまだいい。いや、よくはないのだが、慣れてしまったし、今更どうこういうものではない。
問題は……。
「なにやってんだよほんとさぁ」
焦点が合わさり、脳が見間違えではないと残酷にも断言してくれる。
口から嘆きが零れてしまう。できれば、脳みそには勘違いだと認識してほしかった。
けれど、他人どころか自分1人すら思い通りにできない俺は、店の外。ガラス窓の向こう側に見える変質者を直視する他なかった。
見てみぬふりをしたいが、あまりにも視線誘導してくる格好の女がこそこそ。
真冬でもないのに厚手のロングコートを羽織って、陽も出ていないのにサングラスをかけている。
ハット帽まで被って、店内を――主にイートインスペースを覗き込んでくる見るからに『私、変質者ですから』と名乗りを上げる変態がうろちょろ。
俺の目がいつも以上に死んでいくのがわかる。スーパーで並んでいるサンマぐらいの目だろう。
「……深夜のコンビニは時々変な奴が来るとはいえ、
ここまで極端な奴もいないだろうよ」
イートインスペースの制服少女に聞こえないよう、小声で呟く。
思うだけでは晴らせない鬱憤が胸の内に溜まっている。
「……はぁ」
最近、増えたため息。
回数を数えたら優に3桁は超えているんじゃないかと思うが、そんな生産性も面白みもない、ただただ己の不幸を指折り数えるような真似は鬱になりそうだからやらない。
スイングドアを蹴っ飛ばすように超える。
そのまま自動ドアを気怠げな足取りで目指すと、目聡く俺に気付いた制服少女が飼い主を見つけた犬のようにピコンと顔を上げて声をかけてきた。
「どこか行くんですか?」
「…………」
「……なんですかその顔?」
自分がどういう顔をしているかなんて、もう1人自分がいるか、鏡がなければ知るよしもない。けれど、相当複雑な表情をしているというのはわかる。
「べっつにぃ?」
「壊れそうな顔」
どんな顔だマジで。ガラス製かなにかなの?
「表の掃除してくるだけだ。
ニートくんと一緒に大人しくしてろ」
「ナイトくんです!」
似たようなもんだろう。
自動ドアが開く。外に出ようとすると、
「……?
箒も持たないで?」
なんて、至極当然の疑問を零していたが、残念ながら箒程度で掃除できるならこんなに悩みはしなかった。
自動ドアが開いて、ピコンピコンと退店メロディまで流れているというのに、変態的な格好をした変質者は俺が出てきたことに気が付かない。
むしろ、その行動は悪化していて、ガラスに額をくっつけて店内を覗き見ているところであった。
声かけたくねー。というか、関わりたくない。
もはや、視界に入れるのも嫌なのだが、このまま放置というわけにもいかない。居るだけで迷惑かけるとかマジ変質者厄介。
制服少女の言うところの壊れそうな顔をしながら、ズンズンと変質者の背後に近付く。
「はぁ……はぁ。
セイカちゃん……」
吐息がガラスを曇らせている。
警察に突き出したほうが世のためかもしれないと思いながらも、手を伸ばして首根っこを掴む。
「うひゃぁいぁなぁっ!?
な、なにっ!?
へ、変態!? 変質者っ!?」
「変態はお前だ」
自覚しろ。
片手で持ち上げて足をジタバタさせる――なんて非力な俺にはもちろんできず、適当なところで離すと変質者はコケそうになりながらも、どうにか踏み留まって振り返ってくる。
その拍子にハット帽とサングラスが地面に落ちる。
「あっ」と頭を押さえるがもう遅い。というか、外から見た時点でバレバレだったのだが、
「……なにしてんだよ、窓際美人」
「美人だけど、誰かなそれ?
ソウカわかんな~い」
両拳を軽く握って、口元に添えて古めかしいぶりっ子ポーズをして誤魔化そうとする窓際美人に、ため息を吐く以外できることなんてなかった。はぁ。
なぜなら、自分以外の他人がこちらの想像を軽々超えて動くから。
だったら、チェスの駒のように。
誰もを自由に動かせれば、世界は思い通りになるのかと、そんな風に思うことがある。
けれど、現実的にそんなことできるはずもなく。
深夜のコンビニ。レジの中という動物園の檻にも通ずる囲いの中で思う。本当に思い通りいかないと。
頭痛がする。頭が痛い。頭痛が痛い。
誤用と理解していながらも、2度も頭の痛みを訴えてしまうほどには、現実はあまりにも非情だった。頭痛い痛い。
レジの台に両肘を付いて、見間違えだと両目を親指でぐりぐりと強く押し込む。
ぼやけた視界に映るのは、イートインスペースを占拠している制服少女。
こちらはまだいい。いや、よくはないのだが、慣れてしまったし、今更どうこういうものではない。
問題は……。
「なにやってんだよほんとさぁ」
焦点が合わさり、脳が見間違えではないと残酷にも断言してくれる。
口から嘆きが零れてしまう。できれば、脳みそには勘違いだと認識してほしかった。
けれど、他人どころか自分1人すら思い通りにできない俺は、店の外。ガラス窓の向こう側に見える変質者を直視する他なかった。
見てみぬふりをしたいが、あまりにも視線誘導してくる格好の女がこそこそ。
真冬でもないのに厚手のロングコートを羽織って、陽も出ていないのにサングラスをかけている。
ハット帽まで被って、店内を――主にイートインスペースを覗き込んでくる見るからに『私、変質者ですから』と名乗りを上げる変態がうろちょろ。
俺の目がいつも以上に死んでいくのがわかる。スーパーで並んでいるサンマぐらいの目だろう。
「……深夜のコンビニは時々変な奴が来るとはいえ、
ここまで極端な奴もいないだろうよ」
イートインスペースの制服少女に聞こえないよう、小声で呟く。
思うだけでは晴らせない鬱憤が胸の内に溜まっている。
「……はぁ」
最近、増えたため息。
回数を数えたら優に3桁は超えているんじゃないかと思うが、そんな生産性も面白みもない、ただただ己の不幸を指折り数えるような真似は鬱になりそうだからやらない。
スイングドアを蹴っ飛ばすように超える。
そのまま自動ドアを気怠げな足取りで目指すと、目聡く俺に気付いた制服少女が飼い主を見つけた犬のようにピコンと顔を上げて声をかけてきた。
「どこか行くんですか?」
「…………」
「……なんですかその顔?」
自分がどういう顔をしているかなんて、もう1人自分がいるか、鏡がなければ知るよしもない。けれど、相当複雑な表情をしているというのはわかる。
「べっつにぃ?」
「壊れそうな顔」
どんな顔だマジで。ガラス製かなにかなの?
「表の掃除してくるだけだ。
ニートくんと一緒に大人しくしてろ」
「ナイトくんです!」
似たようなもんだろう。
自動ドアが開く。外に出ようとすると、
「……?
箒も持たないで?」
なんて、至極当然の疑問を零していたが、残念ながら箒程度で掃除できるならこんなに悩みはしなかった。
自動ドアが開いて、ピコンピコンと退店メロディまで流れているというのに、変態的な格好をした変質者は俺が出てきたことに気が付かない。
むしろ、その行動は悪化していて、ガラスに額をくっつけて店内を覗き見ているところであった。
声かけたくねー。というか、関わりたくない。
もはや、視界に入れるのも嫌なのだが、このまま放置というわけにもいかない。居るだけで迷惑かけるとかマジ変質者厄介。
制服少女の言うところの壊れそうな顔をしながら、ズンズンと変質者の背後に近付く。
「はぁ……はぁ。
セイカちゃん……」
吐息がガラスを曇らせている。
警察に突き出したほうが世のためかもしれないと思いながらも、手を伸ばして首根っこを掴む。
「うひゃぁいぁなぁっ!?
な、なにっ!?
へ、変態!? 変質者っ!?」
「変態はお前だ」
自覚しろ。
片手で持ち上げて足をジタバタさせる――なんて非力な俺にはもちろんできず、適当なところで離すと変質者はコケそうになりながらも、どうにか踏み留まって振り返ってくる。
その拍子にハット帽とサングラスが地面に落ちる。
「あっ」と頭を押さえるがもう遅い。というか、外から見た時点でバレバレだったのだが、
「……なにしてんだよ、窓際美人」
「美人だけど、誰かなそれ?
ソウカわかんな~い」
両拳を軽く握って、口元に添えて古めかしいぶりっ子ポーズをして誤魔化そうとする窓際美人に、ため息を吐く以外できることなんてなかった。はぁ。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる