深夜のコンビニバイト中に入店してきた非行少女に餌付けをしたら、俺のシフトを狙ってイートインスペースに入り浸るようになってしまった。

ななよ廻る

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第6章

第2話 深夜のコンビニには変な奴が現れる

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 世の中というのは往々にして、個人の思い通りには動かない。
 なぜなら、自分以外の他人がこちらの想像を軽々超えて動くから。

 だったら、チェスの駒のように。
 誰もを自由に動かせれば、世界は思い通りになるのかと、そんな風に思うことがある。
 けれど、現実的にそんなことできるはずもなく。
 深夜のコンビニ。レジの中という動物園の檻にも通ずる囲いの中で思う。本当に思い通りいかないと。

 頭痛がする。頭が痛い。頭痛が痛い。
 誤用と理解していながらも、2度も頭の痛みを訴えてしまうほどには、現実はあまりにも非情だった。頭痛い痛い。
 レジの台に両肘を付いて、見間違えだと両目を親指でぐりぐりと強く押し込む。

 ぼやけた視界に映るのは、イートインスペースを占拠している制服少女。
 こちらはまだいい。いや、よくはないのだが、慣れてしまったし、今更どうこういうものではない。

 問題は……。
「なにやってんだよほんとさぁ」
 焦点が合わさり、脳が見間違えではないと残酷にも断言してくれる。
 口から嘆きが零れてしまう。できれば、脳みそには勘違いだと認識してほしかった。

 けれど、他人どころか自分1人すら思い通りにできない俺は、店の外。ガラス窓の向こう側に見える変質者を直視する他なかった。
 見てみぬふりをしたいが、あまりにも視線誘導してくる格好の女がこそこそ。

 真冬でもないのに厚手のロングコートを羽織って、陽も出ていないのにサングラスをかけている。
 ハット帽まで被って、店内を――主にイートインスペースを覗き込んでくる見るからに『私、変質者ですから』と名乗りを上げる変態がうろちょろ。
 俺の目がいつも以上に死んでいくのがわかる。スーパーで並んでいるサンマぐらいの目だろう。

「……深夜のコンビニは時々変な奴が来るとはいえ、
 ここまで極端な奴もいないだろうよ」
 イートインスペースの制服少女に聞こえないよう、小声で呟く。
 思うだけでは晴らせない鬱憤が胸の内に溜まっている。

「……はぁ」
 最近、増えたため息。
 回数を数えたら優に3桁は超えているんじゃないかと思うが、そんな生産性も面白みもない、ただただ己の不幸を指折り数えるような真似は鬱になりそうだからやらない。

 スイングドアを蹴っ飛ばすように超える。
 そのまま自動ドアを気怠げな足取りで目指すと、目聡く俺に気付いた制服少女が飼い主を見つけた犬のようにピコンと顔を上げて声をかけてきた。
「どこか行くんですか?」
「…………」
「……なんですかその顔?」
 自分がどういう顔をしているかなんて、もう1人自分がいるか、鏡がなければ知るよしもない。けれど、相当複雑な表情をしているというのはわかる。
「べっつにぃ?」
「壊れそうな顔」
 どんな顔だマジで。ガラス製かなにかなの?

「表の掃除してくるだけだ。
 ニートくんと一緒に大人しくしてろ」
「ナイトくんです!」
 似たようなもんだろう。

 自動ドアが開く。外に出ようとすると、
「……?
 箒も持たないで?」
 なんて、至極当然の疑問を零していたが、残念ながら箒程度で掃除できるならこんなに悩みはしなかった。

 自動ドアが開いて、ピコンピコンと退店メロディまで流れているというのに、変態的な格好をした変質者は俺が出てきたことに気が付かない。
 むしろ、その行動は悪化していて、ガラスに額をくっつけて店内を覗き見ているところであった。
 声かけたくねー。というか、関わりたくない。

 もはや、視界に入れるのも嫌なのだが、このまま放置というわけにもいかない。居るだけで迷惑かけるとかマジ変質者厄介。
 制服少女の言うところの壊れそうな顔をしながら、ズンズンと変質者の背後に近付く。
「はぁ……はぁ。
 セイカちゃん……」
 吐息がガラスを曇らせている。
 警察に突き出したほうが世のためかもしれないと思いながらも、手を伸ばして首根っこを掴む。

「うひゃぁいぁなぁっ!?
 な、なにっ!?
 へ、変態!? 変質者っ!?」
「変態はお前だ」
 自覚しろ。

 片手で持ち上げて足をジタバタさせる――なんて非力な俺にはもちろんできず、適当なところで離すと変質者はコケそうになりながらも、どうにか踏み留まって振り返ってくる。
 その拍子にハット帽とサングラスが地面に落ちる。

「あっ」と頭を押さえるがもう遅い。というか、外から見た時点でバレバレだったのだが、
「……なにしてんだよ、窓際美人」
「美人だけど、誰かなそれ?
 ソウカわかんな~い」
 両拳を軽く握って、口元に添えて古めかしいぶりっ子ポーズをして誤魔化そうとする窓際美人に、ため息を吐く以外できることなんてなかった。はぁ。
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